封殺するは手段②
アンナ達が止まっている宿屋、海千では宿泊していた客が一階のロビーに降りて騒いでいる。そんな中、一部屋に1人の少女、アリスが窓を開けて片手にジュースを持ち、椅子に座りながら海に居る怪物と激しい光を眺めていた。
「あれが昔話で出て来た海の支配者、海竜のリヴァイアタンかしら………って、また独り言…直さないと…」
アリスは溜息を吐くとジュースを飲む。
「お姉ちゃんはリヴァイアタンと戦ってるだろうなぁ……クロワはリヴァイアタンが出て来てすぐに出て行っちゃったし、私に話し通じないのに何か伝えて来るし……暇だから久し振りに戦闘でもしてみようかな…無理だけど」
またジュースを飲むが、ある気配に気付き椅子から急に立ち上がる。
「まさか、けどこの気配は私と……」
アリスは窓に足をかけ、ジャンプして風魔法で一気に隣の屋根に飛ぶ。
「聞き出さないと、私のこと、両親のこと」
隣の屋根に着地し、気配がした方向に風を纏い、突風が如く一気に走り抜けて行った。
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〜アンナ視点〜
「さて、どうするか…」
私はこの地下からどう抜け出すか考える。アーチさんも考えてくれているようで良かった。ネガテイブになるより前向きに考えないと。
まずは出来ること、出来ないことを区別しながら考える。
頭上の岩を剣で切りながら進む……次々と岩が落ちて来る可能性があるから無理だな。
足元の海水を蒸発させて岩ごと退かしながら進む……私達の方が軽いから先に衝突するし無理だ。
アイテムボックスにある転移用アイテムを使う……何処に飛ぶか分からないし、発動するかも分からない不確定要素があるからやるなら最後の手段だな。
足元の海水が海に繋がっているかもしれないから泳いで脱出する……海に出るまでの長さが分からないから、長距離の場合アーチさんの息が保たないかもしれない。
思いつく限りでこれだけか。
私は考えているアーチさんに聞いてみる。
「アーチさんは何か思い付いた?」
「いえ…考えても私が足手まといになる事ばかりで…」
「そうか…仕方ない。これでも…」
アイテムボックスから出そうと袋に手を掛ける直前何かが聞こえる。
『ま………………き…………いま……む……』
「この声…クロワ?…」
『マス………もう………着く……』
「まさか…」
私は頭によぎった事を思い、頭上を見上げ、少しすると岩の間から粘液のようなものが湧き出て来た。
「あ、アンナさん!何か出て来ましたよ!」
「あー、あれは私の従魔だから怯えなくていいよ」
アーチさんに説得する間、アーチさんの方を向いていた私の肩に柔らかいものが落ちる。
『御機嫌よう、スライムのクロワだよ。通じないと思うけどよろしく』
クロワは腕のように体を伸ばして手を振る。
「この子はクロワ。よろしくだって」
「アーチです。よろしくお願いします」
「自己紹介はそれぐらいで、クロワはなんでここに私がいるの分かったの?」
『マスターが持っている私の分体を目標にしてここまで来たよ』
「あ、分体持ってるんだった」
胸ポケットに入っているのを思い出した。あまり使わないからすっかり忘れていた。
『もしかして忘れてた?』
「い、いや。クロワが分体を探せるのが知らなくてね」
『言ってなかったっけ?まぁ今言えたから良いよね』
「他にもあるなら言って欲しいけど」
『特にないかな。分体だから強くもないし』
「ないならいいか。それより、クロワは頭上の岩くらいの大きさなら飲み込めるよね?同時に周りの岩を固定することも出来る?」
『大きさにもよるけど、あれぐらいなら飲み込めるよ。あと同時に粘液で固定も出来るよ』
「よし、アーチさん。今から脱出するよ」
「え?どうするんですか?」
「アーチさんは私にしがみ付いてじっとしていてね。クロワは頭上の岩を飲み込みながら固定して来てくれる?」
『それなら、あそこまで飛べないので飛ばしてください』
アーチさんは頷くと私の体に両手を回す。そして私はクロワを思いっきり上に投げ、頭上の岩に着いたクロワが大きくなり、岩を飲み込み始め、クロワが上に進むと元々岩があったところが綺麗に無くなっていて穴が開いて行く。
「じゃあ、捕まっててね、飛ぶよ!」
私は膝を曲げて思いっきり水面からジャンプして壁を斜めには走り、クロワが開けた穴に手をかけよじ登る。それと同時にクロワの体のジェルが穴を塞いで足場が出来る。
「クロワありがとう」
『マスターの為なら何でもしますよ』
「嬉しいけど、自分で正しいことか考えて動いてね」
『了解です』
その後、黙々とやっていくクロワは3分もすると上の空洞に穴を繋げなた。着くとアーチさんに降ろしてくださいと言われて、手を繋ぐのを条件に下ろしてあげた。
「ここって深さどのくらいの場所ですかね」
「三層目から結構落ちたから中層、十五層目ぐらいかな」
「中層…」
「そんなに怯えなくても今は魔物の気配が無いし……って思ってたけど何かいるな。上層部に上がる坂の上だから避けれないか…クロワ、フォームアップよろしく」
すぐに私の全身にまとわり付き、黒い鎧になる。
『マスターと戦うのは久し振りだね』
「レベラルに居る間、殆どアリスちゃんのこと頼んでたしね。それじゃあ進むよ、戦闘になったらアーチさんは離れて岩陰とかに隠れていてね」
アーチさんの頷きと共に私達は坂を登り、何かか居る部屋の中に入って行く。
薄暗い部屋の真ん中には大きな人影があり、その周りは異常な空気が漂っていた。
アーチさんに離れているように手で制し、大太刀を抜きゆっくりと後ろから近づく。
「おいおい、後ろから襲おうなんてお前はそんなにも卑怯者だったのか?」
「…気付いてたんだ。男の人だけど貴方は誰?ここで何してるの?それに私のこと知ってそうだし」
気付かれているとは思っていたが、私のことを知っている人物とは思わなかった。
ガウェインより大きな体の人など知り合いで居ない筈だ、しかも話しかけた途端に周りが圧迫されるような殺意を向けて来る奴は知り合いで居ない。
「ふふふ、質問は1つずつ言えよ。それに俺を覚えてないのか?」
ゆっくりと男がこちらに振り向き、顔を見ると私は衝撃を受ける。
薄暗い金髪に顔の輪郭などは普通なのだが目が尋常ではなかった。目玉がピンポン球のようにくっきり突起していて、黒目が小さくなっているのだ。
そんな男がニタニタと笑っているのはかなり尋常じゃなく恐ろしいが…。
「……誰?」
「………テメェぶっ殺す‼︎‼︎」
デカ男が腰の剣を抜き一気に近づかれ、剣で受けるが後ろに吹き飛ばされる。
かなり速かったが、読み切れずに吹き飛ばされるとは思わなかった。それにあの剣の装飾は。
「ぐっ!まさかマーキュリー!?ってことは」
「そうだ!アンナ、テメェに負けたラディウスだ!」
剣が曲がって見えたて読み切れなかったのが納得行ったが、全くの別人じゃないか。はっきり言って化け物だ、体の大きさも倍以上違う。まさかこいつが地震の原因か?
そんな事を考える暇もなく、ラディウスが襲って来る。
昨日よりも素早くかつマーキュリーの精度も向上していて、間一髪で避けても当たるように方向変更され攻撃を食らってしまう。
だか、攻撃はクロワが全部防御している為、腕で剣を受けた瞬間に大太刀を振り上げて、ラディウスの腕を切りとばす。
「なぁ!」
「じゃあな、化け物になったラディウス」
腕を切りとばし続けに首を切り落とす。ラディウスの首は体の後ろに落ち、体も後ろに倒れ込む。
私は剣を振り地を飛ばして、刀の血を拭く。人を殺したのは初めてか……正当防衛だからか何も感じないな。前に一度殺してるが不死身だったしなぁ。
私よりアーチさんの方が心配だ、目の前で知っている人が殺されたのだ。
アーチさんに近づいて声をかける。
「アーチさん。ごめんね、目の前でこんな」
「アンナさん逃げて!!」
アーチさんの叫び声ですぐ後ろに振り向きながら、ジャンプしてその場から移動し、元いた場所に剣が振り下ろされるのを見てから着地し、今起きている事を理解しようとする。
まさか首を断ったラディウスが生きているとは。
「なんで生きてるのよ…首をぶった切った筈でしょ?」
「俺の体にテメェの攻撃は効かないのだ」
「へぇーじゃあ、こんなのはどう?大太刀五ノ型一閃」
ラディウスが手を動かす前に体を横に真っ二つにする。このまま切られた体がどうなって復活するのかを見れば対策を立てれる。
横に真っ二つにされたラディウスは切断部分が液体状になり、スライムのように切断面を接合した。
「やっぱり人外になってるか」
「言い方が悪いな。この力は人が超えられる壁の先、進化した姿の力だ!テメェには到底届かぬ力だ!」
ラディウスはマーキュリーの先端を分裂させ突き刺し、変形して鞭のようにしならせて来るのを私は避け続け、隙を突いて腕を掴み背負い投げをして投げ飛ばし、飛んで行った方に手を構える。
「物理は効かないと見たけど、魔法はどうかな?火炎楼」
ラディウスの落下地点に炎の火柱が立ち昇る。避けれる時間など無かったし確実に当たった筈だ。
「や、やった!」
「ちょ、それフラグ!」
「え?」
アーチさんのフラグ発言に私が驚いていると、炎の柱の中から人の影が出で来る。
「はぁ、はぁ、少し焦ったぞ。そうだった、テメェはカスな筈な魔法剣士だったな。すっかり忘れていた」
やはりフラグだったのかラディウスが無傷で出て来るが、焦っていると言うことは魔法は効くのか?
「それは良かった、じゃあじゃんじゃん魔法を使ったちゃおうかな?水華草、岩槍山、炎槍雨」
私の魔法から避けようとしたラディウスの真下から水の花が咲き一瞬で包み込み込み、周りの地面から岩の槍が上から火の槍が突き刺し水蒸気爆発を起こす。
その瞬間に私はアーチさんとラディウスの直線上に行き、クロワが目の前に出て盾になり爆発と飛んで来る岩を全て防ぐ。
「クロワ大丈夫?」
『……久し振りにいい衝撃を食らいました。マスター、ありがとうございます!』
「流石ドM」
『こっちの台詞ですよ。ここまでの威力を出せるマスターは凄いですよ』
「魔法は頑張って練習してきたしね。まぁ、これでも威力はみんなの中でも少ない方だと思うけどね。それよりアーチさんの所に行こうか心配だからね」
アーチさんの方に行こうと振り返ると、アーチさんがラディウスの腕らしきものに捕まって、剣を首元に当てられていた。
「アンナさん…」
「おい、アーチさんは関係ないだろ。離せよ!」
「そんな事はない、テメェを動けなくさせることが出来るだろう?」
「そこまでカス野郎だろうなんて思ってなかった。変な力を手に入れた理由は私に1対1で勝つ為だろ?」
ただリベンジしたくてこんな事をしたのだと思っていたが、徐々に体が出来ていくラディウスの顔は呆れている顔だった。
「はぁ?似ているが違う。俺はただテメェを殺ろしたいだけだ。勝つなんて物は途中、勝って苔にしてきたテメェを嬲り殺すことが重要なんだよ!こいつが殺されて欲しくなかったらまず、剣を地面に置いて右に蹴って手の届かない所まで飛ばせ。魔法を使ったらすぐに分かるぞ。それに魔法は使えないしな」
私は無言のまま剣を地面に置き、右に蹴り飛ばす。あぁ、私の春光が。後で手入れしないとな。それに魔法が使えないとはどう言う事だ?使うなって意味だと思うが。
それより、目の前のカスをどうするか。魔法は使ったらバレてアーチさんが殺されるだろうしな。けど、剣は蹴ってしまったし…………仕方ない、消すか。
私が考えている間にもラディウスに支持されて、腕を頭の後ろにして立ち、クロワは私の剣がある反対側、左の隅まで移動させられる。
そして万全を期して、近づいて来るラディウスは勝ち誇った顔でニヤニヤしている。
「やめて!アンナさん私を捨てて逃げて!」
暴れるアーチさんの両腕を片手で持ち上げて、私の首元に剣を向ける。
「私が死ねば、アーチさんは助かるんだろ?」
「まぁ、そうだな。上に連れてってやろう」
「アンナさん嘘ですよ!逃げてください!」
「黙ってろカスが!」
ラディウスの肩の部分から新しい腕が生えて、アーチさんの口を塞ぐ。
「さて、死ぬ前の最後の言葉は何がいい?」
「そうだなぁ……無いかな、外で魔物と戦ってる時に最後の言葉なんて言える時間が無いからね」
「そうか、じゃあこの小娘諸共死ね!」
「…お前だけだよ」
口を塞がれたアーチさんが何かを叫んでラディウスが剣を振り下ろす直前に、ラディウスの姿が霧のように搔き消え、掴まれていたアーチさんが地面に落ちるのを私は受け止める。
「…アンナさん!」
アーチさんは涙を流しながら私に抱き付いて私の名前を呼び続ける。さっきの光景はこの歳には衝撃すぎたのだろう。
「ごめんね、怖い思いをさせて…ごめんね…」
私も声を掛けながらアーチさんの頭に手を当てて慰めるのだった。
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その頃、レベラルの裏路地で化け物からの攻撃を逃げ切ったセッカが息切れをして壁にもたれていた。
「はぁ、はぁ、ふぅ………………もしもし、ガウェイン?」
『どうしたんですか?貴女は今さっきまでやりあってたのでは?』
「そうね、やり合ってたけどまずは知らせないといけないことがあってね」
『重要そうですね、何ですか?』
ガウェインも深刻な事だと思い、通信機器の向こう側で真剣に聞いている。
セッカは今起こったことを話し始める。
「あの化け物にさっき使ったスキルが発動しなくて使えなくなってるわ。まるで封印されてるみたいにね」
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