魔術学院生の付き添い④
〜アンナ視点〜
ラディウスと向かい合う少し前
私が木刀で打ち、ガダルとショルクが返す練習をしていて、昼食の時間となり一度元の場所に戻ってアーチさん達と別れて冒険者達が集まっている場所に向かう。
私達が料理を取ろうと並んでいるとサリメールさんが列から現れて私の方をちらりと見てからガウェインに話しかける。
うわぁ、あの笑顔は絶対面倒くさいやつだ…。
「ガウェインさん、この後スベーリア魔術学院の教員の人と生徒達の前で試合があるの。出てくれない?」
「いえ、私より適任がいますよ」
「え〜?誰ぇ〜?」
「それは勿論私のマスターであるアンナですよ」
やはり面倒な事だ。サリメールさんはワザと私に話しかけずにガウェインに話を振った。私はこの後の展開がある程度読めていて、無駄だと分かっているが否定する。
「嫌だよ、私は出たくない」
「えぇ〜!アンナの戦ってる姿観たいなぁ」
「拙も主が戦っているのを観てみたいです」
「お嬢様の勇姿は前回観れていないので是非観てみたいです」
「私も観てみたいですよ」
セッカがワザとらしく言いながら後ろから私を抱きしめ、クズハとテトラ、ヘプタはちゃんと心から思った事を言っている。
「私もアンナが戦っているの観たいかも。前は全然見れなかったし」
「うぅっ…」
自身で思っていてなんだがシルヴィアに言われるのが一番効果がある。しかも少しワクワクした顔で見られるのもかなりきつい。
「アンナの対人戦闘は凄いわよ。試合形式なら日中でもガウェインと対等に渡り合えるからね」
「え!そうなの?」
シルヴィアがセッカの話を聞き私とガウェインの方を向く。
「ま、まぁね…」
「そうですよ、マスターには連敗続きですからね」
「なら、アンナさん出てくれます?」
「はぁ…初めから私が出るのが目的だったんでしょ?」
「そ、そんな事ないですよ」
「まぁ、出てあげるけど条件ありね」
「え?条件って…」
「条件は終わってから教えるね。さっさと終わらせたいから行くよ」
私は悩んだ顔になったサリメールさんを無理矢理引っ張って試合会場に向かった。
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〜ラディウス視点〜
今日俺は生徒達の前で冒険者との試合をしに指定された場所に来たのだが、明らかに目の前にいる冒険者は生徒と同じくらいの歳の背の低い獣人の女だ。よく見ると生徒よりも年が低いかもしれない。間違えて入って来たのだろう。
「おい、ここは試合会場だぞ。早くどいてな」
俺は女にさっさと退くように言う。しかし、女は後ろを向いて周りを見渡す。
「ん?誰か入ってる?」
「お前だ!背の低い獣人のお前だよ!」
「えっ、私?私はラディウスさんって人と試合しなきゃいけないんだけど?」
「はぁ?」
こんな冒険者が俺の相手な筈がない、相手なら冒険者側の選んだ奴は俺相手にこんな女を出すなんてかなりの屑だな。
だが、他にロープ内に入って来そうな人はいない。本当の事を言っているのだろう。
「はぁ、まぁいい。試合は勝手に初めていいらしいが、準備は?」
「問題ないよ、私にはこれがあればいいしね」
女は背中に挿した女の背と同じ長さの剣を触る。確かあれは日本刀だったか。
「そうか……俺はカーサル家の次期当主、魔剣騎士であるカーサル・ラディウス」
「……あっ、そう言うやつか。えーっと『長靴を履いた猫』リーダー、魔法剣士のアンナ」
「魔法剣士だぁ?冗談はやめろ」
「そんな事は今関係ないでしょ、さっさとやろうよ」
「っ、後々後悔するなよ…」
俺は青銀の剣、魔剣マーキュリーを腰から抜き、女も背から刀を抜き出し、審判の開始の声と共に同時に走り出した。
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〜アーチ視点〜
目の前でラディウス先生とアンナさんの剣が激しい金属音と共にぶつかり合い、ラディウス先生の持つ剣先が鞭の様にしなり、アンナさんに向かうが当たるのを間一髪でかわし後退して避ける。
ラディウス先生もアンナさんに合わせて全身して斬りかかり、アンナさんは剣でいなそうとするが、また刃の部分が変形してアンナさんに向かい、それを寸前で避けていた。
ラディウス先生の剣、マーキュリーは刃の部分が変幻自在の魔剣である。
しかし、マーキュリーの操作はかなり難しいらしく、使い手が使いこなせていないとただの飾りの剣である。勿論私なんかが使っても普通の短剣の方がダメージを与える事が出来るだろう。
だからこそ、マーキュリーを使いこなしているカーサル家が名騎手の家系の理由である。
そしてラディウス先生は歴代の中でも初代カーサル・マリウスの次に強いと言われている。
その圧倒的な強さが知られているラディウス先生が目の前でアンナさんが反撃出来ないほど追い詰めているのは、皆一様にラディウス先生の優勢だと思っているだろうが、私は逆の思いでアンナさんがラディウス先生をワザと攻撃させている気がする。
アンナさんが寸前で避け続けているのを見ていると横にいるガダルに声をかけられる。
「なぁ、アンナさんさ、どう言えば分からないけど……手を抜いてないか?」
「そうよね、手を抜いてるんじゃないと思うけどワザと避けてる節があるわ」
「やっぱりか、さっきまで練習で殴って来てた時より気迫がないからなぁ。みんなはそんな事は考えてなさそうだけどな」
「今はね。後少しすると分かってくるわよ。ラディウス先生が攻め切れていないことが、ね」
ガダルと話をしてアンナさんが避け続けるのが3分ほどすると、予想通りみんながラディウス先生が攻め切れないのが薄々と分かって来たようで周りの人とヒソヒソと話して始めている。
ラディウス先生も攻撃が当たらないのに焦り始めたのか先程よりも剣の速度が早くなり、それに合わせて剣のしなりも激しくなる。しかし、アンナさんは自身の長い剣でいなし剣先が変わろうと、地面に刺して身軽に避けたり、受け止めたりして攻撃を全て受けずにいた。
そして激しい攻撃をしていたラディウス先生のスピードが落ちて初めて、攻め続けていたが止まって息切れをしており、それを見たアンナさんは剣を下ろす。
「あれだけ激しくその剣で攻撃しに来てたら疲れるのは当然だよね」
「はぁ、はぁ、はぁ、何が言いたい…」
ラディウス先生はアンナさんを睨み付ける。しかし、アンナさんは睨んでいるのに気づいてないかのように話し続ける。
「…その剣の技術でマーキュリーを使ってたから、すぐに勝負が貴方の勝利で決着したんだろうね。知らないのも当然か」
「だからどう言う事だ!」
「簡単ことだよ。マーキュリーみたいに変幻自在の剣をあれだけ激しく変化させながら攻撃して来てたら頭が処理しきれなくて疲れてくるに決まってる。それに剣の振る速さも疲れるのに拍車をかけてるしね。
マーキュリーで長期戦は不利、短期戦が一番だね。まぁ、短期戦が無理なら貴方なら剣の技術があるし、途中からマーキュリーを変化しないで、相手の意識がそれた時に使うべきだね」
周りにいる生徒や冒険者、教員達はアンナさんが話す説明に聞き入って静かになった。
「ふざけるな!ガキが!」
しかし、目の前にいたラディウス先生は納得出来てなかったのか剣を振り上げて一気にアンナさんに突撃し、頭に振り下ろした瞬間にラディウス先生が前に膝から崩れて倒れる。
生徒達は何が起こったのか分からない中、急いでラディウス先生を起こそうと走ってきた教員達と冒険者の間をアンナさんが歩いて行きロープの外に出て行ってしまった。
私はこうなるだろうと思っていたので、驚きはしなかったが、ラディウス先生を引っ張って行った後に次の試合が始まり、出て来たのは銀髪で眼鏡をかけたミリア先生と金髪をたなびかせたエルフのセッカさんだ。
私は出て来たミリア先生は震えているのに気が付いたが、ミリア先生はいつもおどおどしてるので怯えているのか緊張しているのか分からない。
先に入ったミリア先生が奥に行き振り返ってセッカさんに話しかける。
「あ、あの〜」
「何かしら?準備は終わってるわよ」
「そ、そうなんですか…」
「私は杖は使わないわ。貴女は使うなら構えなさい」
「い、いえ。そうじゃないんですよ…」
「あら?何かしら?」
「その……辞退したいんです」
「「「「え?」」」」
ミリア先生の発言に目の前にいるセッカさんとみんな驚く。みんな訳が分からない中、ミリア先生がセッカさんに近づいて耳元で小声で何かを話すと、セッカさんが少し不満そうな顔になる。
「……そう言うことね…」
「すみません、すみません、勝手にする気はなかったんですけど…」
「体質だから仕方ない。けど、試合はどうするのよ」
「わ、私の負けでいいですので…」
「まぁ勝ち負けどっちでもいいけどね」
セッカさんがため息をついて教員と冒険者達の所に行き、何かを説明してセッカさんとミリア先生の試合は中止となってしまい、何も知らされない生徒達はミリア先生が病気になってしまったと噂になった。
昼ご飯を食べ終わった後、またシルヴィアさんの特訓を受けて、私達の今日の予定は終わったのだった。
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レベラルの街は夜になっても、外が明るいため多くの人がうろついている。そして、そんな人達を集める為に、レベラルは夜になると多くのバーや居酒屋が多く開店している。
その1つの居酒屋のカウンターで1人の金髪の男性が呑んだくれて愚痴っていた。
「クソが………ふざけるなよ…俺が弱いみたいなことを……説教みたいなことしやがって…」
その男が愚痴ってうるさい為あまり周りには客が居なかったが、隣に1人の黒髪の女性が座った。
「お隣失礼」
「なんだ?愚痴ってる奴の隣に来るなんて変わったやつだな。あれか?誘ってるのか?」
「誘ってはないけど良いことを教えてあげるわ」
「あぁ?占いか?金は払わんぞ」
「占いじゃないわ。強いて言うなら今後の貴方がやるべき方針を教えてあげるわ。貴方は力が欲しい、そうじゃない?」
「……それはあってるが、特訓の方法でも教えてくれるのか?それならブチ殺すぞ」
「私を殺す事なんて無理だから辞めときなさい。それに特訓じゃないわ」
「簡単?ヤクか?」
「似てるけど少し違うわ、ある加護を受け取るのよ」
そう言うと女性はポケットから1枚の折り畳まれた紙を渡す。
「これに描かれた場所に行きなさい。そうすれば力が手に入るわ」
男性は紙を開いて中を見る。
「あ?レベラルのダンジョンだと?」
「中層部のある部屋に行きなさい。そうすれば海竜の加護が手に入るわ」
「海竜…確かお伽話で出てきたリヴァイアタンか」
「そうよ。貴方はこの話を聞いてどうする?」
「…確証がねぇ、証拠を見せろ。中層部は結構面倒くせぇ、行って何も無かって無駄に終わったなんてことになったら嫌だからな」
「えぇ、いいですよ。では、外に出ましょうか。証拠を見に行きに」
「…まぁ付いて行くだけな」
そして2人は酒を飲み干して店から出て行ったのだった。
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