アカネ邸②
アカネとガウェインが衝突する衝撃波は数十m離れた場所に座っている私達にも届いた。
私は胸ポケットから覗いているスイゲツに聞く。
「ガウェインはまだ本気じゃないかな」
「今は午前中だが、ここまで衝撃波が来るくらいなら本気じゃないだろう。まぁ本気ならもっと離れた方がいいな」
「そうだよねぇ」
「ねぇ、ガウェインって強いのはわかるのだけど、そんなに強いの?」
「夜でも強いけど、日中は更に強い。具体的に言えば3倍強くなる」
「それに、火炎魔法と炎剣ガラティーンの組み合わせは更に強い」
私とスイゲツは過去の記憶をしみじみと思い出す。
「サイクロプス討伐戦は凄かったな」
「そうだよね。他のプレイヤーが自分も巻き込まれるからガウェインの周りに全く集まらなかったもん、私も離れたし」
「そ、そこまでなの?けど、アンナより弱いって言ってない?」
「そんなわけないよ。前のレベルで夜ならいけるかもしれないけど、今は絶対無理だね」
「我もお断りしたいな、一瞬で体が蒸発する」
「熱量が凄いからね。本気になったらここらも熱くなってくるからその時に離れようか」
「分かったわ…」
シルヴィアは目の前の2人の素早い剣撃のぶつかり合いを見ながら、ギルマスとの模擬戦は殆ど力を使ってなかったのがしみじみと分かった。
そして戦っている2人は少し離れて止まる。
「いや〜結構やるね、想像以上かな」
「ふっ、まだ少しも力を使ってない割に弱音を吐きますか。先程のスキルを使ってもいいんですよ」
「効かない相手にはしないよ。じゃあ少しギアを上げるか…」
アカネは深呼吸をして息を吹くと同時にガウェインに斬りかかる。ガウェインも軌道は読めていて剣で防ぐが、それでも吹き飛ばされすぐに体制を立て直す。
「追撃はしないのですか?」
「倒れてる相手を痛ぶるのは好きではあるが、君はしたくないかな」
「………分かりました。私もギアを上げますか」
ガウェインは剣を横して前に構える。
「ガラティーン、遮断解除」
ガウェインの周りが少し赤く揺らめき始め、周りの温度が急上昇し、私達がいる所まで熱気が伝わって来る。
「ヤバイ、離れるよ!」
「熱い!いきなり!?」
「えぇ!何ですかこれ!?」
私達は急ぎ足で壁沿いまで走って行くが、それでも熱い。
「ガラティーンの効果の1つで、装備者を日中でも夜中にいる状態にするのを解除したのだろう。はぁ、はぁ、「水壁」これでまだマシになるだろう」
スイゲツが説明しながら水の壁を作ってくれて暑さが和らぐ。
「ここでもこの暑さならアカネちゃんの所はどうなってるのでしょう?」
「軽く50度は超えているだろうな」
「へぇー凄い暑さですね…」
「熱くないんですか?」
「私は溶炉の近くで働いているので慣れまして、一応これでもドワーフですので」
「へぇー………ドワーフ!?」
グシュタードさんを二度見する。私がこの世界で見たドワーフは想像通りの背の低く、髭がもじゃもじゃした人だったが、グシュタードさんは背が高く、女性だから当たり前だが髭はなくドワーフには全く見えない。
「女性のドワーフはみんな背が高いの?」
「いえ、男女共に背が低いですよ。私はかなり変わり者だったので…」
グシュタードさんが照れながら話をしてるい途中、さっきの場所より離れたはずなのに衝撃波が届く。
水壁から覗いて見ると、ガウェイン達がいる場所が暑過ぎる為か、ゆらゆらと姿がぼやけて見える。早いのもぼやける原因だが。
その中でもあの速さで動いている2人は剣がぶつかり合っていた。
「熱いね、君自身が太陽みたいな感じがするよ」
「私自身が太陽ですよ。ですが、この床は凄いですね、私が解除した時の地面はどろどろになっていたり、沸騰しているものなのですが」
「この床はグシュタードど知り合いの引きこもり野郎に作ってもら出たやつだから大概丈夫だよ」
「貴方も大概耐えますね。普通なら暑過ぎて倒れ込む人もいるのですが」
「当たり前だろ?こんな地獄数十回超えてきた。もっと熱くしてもいいわよ?」
「ほぅ?では、もっと熱くしましょう。「炎獄」」
2人の周りの床から炎が立ち上って広がり、広範囲が燃え盛り更に温度が上昇していく。
それでもなお、2人は先程より速い速度で斬り合い、私達の方が熱さで水をがぶ飲みしている時にアカネがガウェインから離れる。
「おや?逃げるのですか?」
「………大体覚えた」
「……何」
ガウェインはアカネが何を言っているのか分からない。
アカネは剣を下ろしてガウェインを見つめる。
「剣の軌道、足の置き方、体の筋肉の動き、目の動き、それら全ての癖を大体覚えたと言ったんだ。まぁ、スキルや魔法の方は見てないから分からないけど」
「………ありえません、そんな事が出来るわけがありませんね!」
ガウェインは一瞬で近づいて剣を振り下ろすが、アカネは体を少しずらしただけで避ける。
ガウェインは驚くが、すぐに剣の軌道を変えるがそれも避けられる。何度も剣をあらゆる方向で斬るが全て避けられ、最終的にガウェインの方がバテ始めた。
「これが結果だ。どれだけ相手が強かろうと、行動が読めれば簡単だ。今勝てる方法は新しく出すスキルか魔法しかないぞ、やってみるか?」
「はぁ、はぁ、「火炎葬」「火双龍」」
アカネの周りが火の壁で囲われて、炎の体の2匹の龍が火の壁に突っ込む。中で何が起きているかは分からないが、ガウェインは青白い炎が刃の部分が燃えているガラティーンを横に構える。
ガウェインは本気でやるつもりだ。
「ガウェイン!やめろ!」
「出るなアンナ!」
私は止めようと水の壁から出るが熱過ぎて立ちくらみ膝をついてしまい、スイゲツとシルヴィアに抱き上げられすぐに戻される。
その間にガウェインの持つガラティーンの刃の炎が伸びて元の3倍程の長さになった。
「王秘武技 焔」
横に構えていた剣を一瞬で振り抜く。
その直前にスイゲツがシルヴィア達の頭を無理やり下げる。
火の壁は横に分かれ、床に広がっていた炎は風圧で消え失せ、私達の所の水の壁も吹き飛ばされた。
「ふぅ、顔を上げてたらヤバかった…」
「スイゲツさん、ありがとう」
私も立ち上がれるくらいに治り、周りを見る。
ガラティーンは元の長さに戻り、ガウェインは剣を床に刺しもたれかかっていて、その先の白煙の中からアカネが何事もなかったかのように歩いて来ていた。
「凄かったよ。まさかここまで強いとは思っていなかったよ」
「はぁ、はぁ、無傷ですか……」
「当然さ、君の本気は並の人間よりかなり強い。が、私には到底及ばない、万人がそうなのだから仕方ないが」
「…傲慢ですね」
「そうさ、私は傲慢不遜で最強だよ。まぁ負けた事はあるから無敗ではないがね、昔のことだから今は関係ないか」
「ふふ、私もまだ特訓するべきか……」
「するべきかもね、けど私に勝つ事は不可能だよ。最後に良い事を教えてあげよう。今回私は半分くらいの力で戦ったよ、久々に半分を超えたから君は誇っていい、私に半分も引き出せたんだからね」
「あれで半分ですか……」
そう言いガウェインは倒れ込んみ、アカネはガウェインを担いでこちらに来る。
「なかなか楽しかったよ。はい、アンナ君」
私はアカネからガウェインを受け取るが、重くて倒れこみそうになり、シルヴィアに支えてもらった。
「それじゃあ戻るよ、グシュタードお願いね」
「はぁーい」
グシュタードさんの返事と共に一瞬で鍛冶場に戻ってきた。
「どうする?アンナ君達は他に話したい事はある?」
「えっと……まずはガウェインを宿屋に連れて行こうかな」
「それなら今日はお開きにしようか。出口はこっちだよ」
アカネが行った先には普通のドアノブがあるドアがあった。
「ここから出たらいいよ。けど、外に出て閉めてから開けても此処とは繋がらないから注意してね」
「分かったよ、また来るね」
「うん、アンナ君は必ずまた来るだろうからね。そうだ、入口のパスワードにアンナ君のは入れてあるからいつでも入って来てね。それじゃあ、またね〜」
私達はドアを開け外に出ると、見た事のある風景が広がっていた。さっきまで人だかりがあったが、市場などの場所的にここは冒険者ギルドの真ん前だ。
後ろのドアを見るともう閉まっていて、開いたと思ったら全く知らない冒険者が出て来た。
「冒険者ギルドと繋がってたなんて……」
「異次元魔法だろうな。あのグシュタードの家自体何処にあるかも分からんかもな」
「異次元魔法……」
私は元の世界に戻りたいとは思っているので、また聞きに行くことが増えた。アカネが言っていた通りだなと思った。
「なぁ、主よ。アカネのステータスは見たか?」
「え?見てないけど、見れたの?」
「見れた。初めは何か対策してると思っておったからしなかったが、ガウェインが負けた時に見たら何事もなく見れたが、文字化けが多くて少ししか見れなかった」
スイゲツは言いながら紙にステータスと思う数字を書いていき、書き終わると私に見せてくれた。
「上がガウェイン、下がアカネだ」
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名前:ガウェイン
種族:人間族
職業:太陽騎士
レベル:200
HP:85950【+6000】
MP:37200【+6000】
STR :49500【+7000】
VIT :10200【+6000】
AGI :43500【+6000】
DEX :3720【+6000】
INT :40500【+6000】
名前:アカネ
種族:人間族
年齢:992
HP:159300
MP:93400
STR :135400
VIT :45800
AGI :138000
DEX :107500
INT :92000
ユニークスキル
不変lv-、観察眼lv-、傲慢lv-
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「…………桁が違うんだけど……」
「そうだな、格が違うとはこの事だな。他のレベルや職業なんかは全部文字化けしてて全く分からなかった……」
「その力があるからこその慢心か…」
「主よ、アカネとまた会いにいくつもりだろう?」
「辞めといた方がいい?」
「あまり関係を持ちすぎると後々大変なことになるかもしれぬ。強き者ほど、大変なのは知っているだろう?」
スイゲツはASOでの私の事について言っているのだ。私もASOでは楽しんで遊んでいたが面倒なこともあった。周りのみんなにも迷惑かけたしなぁ。
「そうだね……まぁ会うのも1回にするよ」
私はそう言ったが、頭では何故か何度も会うような予感がしながら宿屋に向かったのだった。
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〜グシュタード邸〜
アカネは椅子に座り机の上に置いてあるクッキーを食べていて、向かい側にはグシュタードが座っていた。
「アカネちゃん、彼にやり過ぎたのじゃない?」
「そうかな?今後もっと大変な事になるのだから、あれぐらいでへこたれては困るよ」
「世界で1番強い人に言われても納得出来ないわよ」
「ふっははは、それは仕方ないよ。逆に世界1位の力を実感出来て良かったはずだよ」
「はぁ、もう世界1位さんがアンナさんのこと何とかすれば?」
「グシュタード………分かってるでしょ?アイツが何とかするからって言ってるんだから私は何もしないよ」
「……あの人も適当よね、何か理由があるのかしら?」
「さぁ?私はさっさと連中とやり合いたいけどね」
「私は嫌だけど………アンナさんも可哀想よね、こんな事に巻き込まれるなんてね」
「仕方ないと言えば仕方ないかな、アイツに選ばれたのが運の尽きだ」
「運は尽きないわよ、人生長く生きてると分かるでしょ?」
「まぁね。それより、もうお昼だからお昼ご飯食べたい」
「クッキー全部食べた後に言うことじゃないと思うわ………まぁ作るけど」
「ありがとうね、パスタがいいかな」
「はいはい、お皿だしとか手伝ってね」
2人はそのまま隣の部屋のキッチンに向かったのだった。
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