窮地救出
北に馬車を走らせてから1時間が経過し、やっと草原から抜けて林に入っていった。
暫くすると、前方から喧騒が聞こえてきた。
「マスター」
「ああ」
馬車の先頭にいた私とガウェインは、馬車を止めて武器を取り出す。その間に私はクズハに合図して偵察に向かわせる。
「お嬢様、私達は何をすれば良いでしょうか?」
「テトラが遠距離から狙撃、ヘプタとシルヴィアが馬車の警護、スイゲツとクロワは私に付いて」
「了解しました」
「分かりました」
「分かった」
『了解です』
クロワは私の腕の装甲に、スイゲツは胸元のところに入る間にクズハが戻ってきた。
「商人と思われるグループとオークとの先頭の模様です。数が有利なオークが今は優勢です」
「まずいね、急ぐよ」
ガウェインに指示してから、「神速」「身体強化」を使い木の間を走って行く。走ること30秒、オークらしきものを見つけ一瞬で近づく。
「大太刀五ノ型「一閃」」
抜いていた大太刀で首を切り落とす。
それと同時に、左側からガウェインが3匹のオークを横一線で切り飛ばのが見えた。
そのまま次の敵を見ようとすると、槍を持った女性数名とオークが驚きの表情のまま固まっていた。
驚くのは仕方ないかと思いながら、1番近くのオークの首を切り落とす。オークも敵と判断したのか、周りから襲って来ようとするが遅い。
私に近づいて手を振り上げたオークの頭が突如吹き飛ぶ。これはテトラの狙撃のものだろう。
他のオークも顔を次々と吹き飛ばされていく。それに負けじと、私とガウェインが狩って行くので、この場に来てからほんの30秒で
20匹いたオークを狩り尽くした。
「あーあ、私は5匹か」
「私は9匹ですよ」
「ガウェインには負けたとは思ってたけど、テトラにも負けたか……」
私達が戦果の話で盛り上がっている後ろで、何が起きているのか分からなかった女性達の後ろの馬車から1人の女性が降りてこちらに来る。髪は赤茶色、背は高く綺麗な女性だ。
こちらに来て頭を下げ、ガウェインに話しかける。
「先程はありがとうございました。ぜひ礼をしたいのですが」
「感謝や礼をする相手は私ではなくこの少女、私のマスターにしてください」
「……………え!彼女が?あなたではなく?」
「ええ、私のマスターですよ」
「まぁ、私はこんなんですしね……」
「ごめんなさい、勘違いしてしまって」
「いいですよ、実際にガウェインの方がリーダーぽいし……」
「はっははは、私では指揮は取れませんよ、特攻隊ですから」
「それより、私はアンナ、職業は見ての通り冒険者、あなたのお名前はなんですか?」
「私はメーラカッナ、メーラって呼んで。それで職業はこの子達を売る商売、まぁ奴隷商人よ」
メーラは後ろの先程まで槍を持っていた女性を含めて10人程度を指差す。
よく見ると、腕と足にに手枷が嵌めてあった。しかし、手枷同士を繋げるチェーンのようなものはないようだ。
マールでも見たことがあり、その奴隷は借金奴隷だった筈だ。
そしてあることに気づく。
「なんで奴隷だけなんですか?護衛はつけなかった?」
商人でも街から街へと移動する時は護衛を付けるのに、メーラさんは1人もつけていなさそうだ。
「それがね、逃げられたのよ。あれだけのオークの量は無理だってね」
「契約違反だね、早く冒険者ギルドに報告しないと、名前は控えます?」
「勿論よ、商人相手に契約違反を起こすなんて、どうなるか知らないのかしらね」
「けど、結構ヤバかったんじゃ……」
「それでね、頼みごと、いいえ、貴方達を私達の護衛として雇いたいの、いい値段で取り引きするわ」
「うーん、ちょっと待ってて貰っていいですか?」
「ええ、ガウェインさんと話し合ってください」
「いえ、人を迎えに行こうと思って」
話している途中で、後ろの方から音が聞こえたので振り返ってみると、私達の馬車が来ていた。メーラさんと話している間にこちらに来ていたようだ。
「ちょっと話してきます」
メーラさんから離れて馬車のシルヴィア達に話をしに行き、一通り説明する。
「いんじゃないかしら、進む方向も一緒だし、ついでにお金も稼げるし」
「それはいいと思いますが、拙達が泊まる所や食事はどのようにするつもりですか?」
「それは自己負担でいいと思うわよ、あの家は流石に無理じゃないかしら?アンナ?」
「そうだね、家のことはあまり知られたくないし、普通にキャンプするのがいいかも」
みんなから許可を取り、メーラさんのところに戻る。
「先程の話ですけど受けることにします」
「ありがとうございます。報酬ははずみます」
こうして、奴隷商人のメーラさんと奴隷12名の護衛の仕事に就いた。
自身の馬車は前、メーラさんのが後ろで、能力的に分けて後ろに乗るのは私とガウェイン、シルヴィアだ。
護衛に就いてから30分、私はまた撫でられている、奴隷の女性達に。初めは警戒されていたが、メーラさんと話している間に1人話しかけてきて、それから次々と話しかけられ、今に至る。
「へぇー、こんな子が冒険者のリーダーだなんて………」
「かわいい!店長、この子欲しいよ」
「私より身長低いよ」
「見て、髪サラサラいいなぁー」
「肌もきれい」
「私の尻尾よりサラサラしてるよ」
「ちょっ、ちょっとまっ、ってて離れろー!」
腕を振り上げて、手を振りほどきシルヴィアの後ろに隠れる。
「ほら、アンナさんが怖がってるから戻りなさい」
「そうよ、アンナがかわいい…………可哀想よ」
「「「「はぁーい」」」」
奴隷の女性達は残念そうにしながら元の椅子に戻る。
「ごめんなさいね」
「大丈夫ですけど、今更なんですがなんで手錠をしないのですか?」
今も足首と腕に枷が付いているだけで、ほとんど自由に見える。
「ああ、私の所は自由にしてもらってるわ。けど、一定距離離れたら痺れる仕組みだけど」
「メーラさんは優しいんですね」
「そうです、店長は優しいいです」
「店長は他の所の人とは格が違います」
「他の所は自由なんてありませんからね」
「店長 イズ ゴッド」
「こら!煩いわよ、メシ少なくするわよ!」
「「「えーー!」」」
メーラさんと奴隷の女性達を見てメーラさんは慕われているんだなぁと思っていると、後ろから抱きしめられる。
「シルヴィア?」
「…………なんでもないわ」
「……わかった」
シルヴィアがいきなり抱きしめたのかは分からないが、多分シルヴィアは昔のことを思い出したのかもしれない。
私はシルヴィアを慰めるように、抱きしめてきた手を上から重ねるように握った。
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