森の主
狂気化妖精達に襲われながら森を進む事1時間が経った。未だにシルヴィア達は見つからずに森を走っていて、今は少し開けた場所の大木の下で休憩している。
アイテムボックスから椅子と机を出し、私が小さな箱に入らないような机や椅子を出した事で驚いているアリスちゃんを私の横の椅子に座らせる。スイゲツは私の向かい側、その横にクロワが居る。
私はアリスちゃんに驚いて貰うために私は少し特別な食べ物を出す。
食べ物は千年カカオとミルクタンクで作ったチョコクッキー、飲み物に世界樹の実のジュースかな。
「はい、アリスちゃん食べて良いよ」
「…………あ、ありがとうアンナお姉ちゃん」
「いいよいいよ、私も少しお腹すいたから食べたかったんだ」
私はクッキーを取り食べるが、今の口は小さいのでクッキーでも口に頬張る形になってしまった。
今更だけど美味しいな、こんなに濃厚なチョコ食べた事ないかも、ゲームの設定がミドアでは反映されているのかな、それなら高級食材で作った他の料理も食べてみよ、まだショウヨウの普通の料理しか食べてないし、それでも美味しいけど。
サクサクと食べながら美味しさに浸っていると、横に居たアリスちゃんも少しづつ食べ始めた。
なんだろ…………これはリスが少しづつ木の実を食べてるみたいな可愛さか………。
私はクッキーを食べ終わりジュースを飲む。
味の感じはミックスジュースの感じで、少しオレンジの風味のようて、酸っぱさはイチゴのようで、甘さはリンゴの蜜のような味がするジュースだ。
うん、はっきり言って美味すぎる!なんでゲームではこうしなかったんだろう…………まず再現出来ないか。
アリスちゃんも私を見てジュースを飲み目を白黒させて驚いているが、そのままジュースを飲み続ける、美味しかったのだろうな。
私がアリスちゃんを見ていると反対側でクッキーをちょびちょび食べて居たスイゲツが私にこれまでの事を話す。
「走り始めてから大体1時間経ったくらいだが一向に誰とも会わない、これではキリがない。だから此処からはもっと楽な方法で行こうと思う、」
「楽な方法?」
「簡単だぞ、けど成功確率は50%ぐらいか」
「簡単なのに半分なんだね」
「やる事は簡単だがその後が半々の確率だからな」
「その感じだと私達がしない感じかな?」
「そうだ、いきなりだが問題だ、私達が全く知らない街で散策をして居て迷ってしまう、その時私達はどうする?」
「えっと………誰かに道を聞くかな?」
スイゲツは手を叩いて拍手してくれる。
「そうだ、じゃあ此処でも同じ事をすれば良い」
「え?誰に聞くの?」
此処には私達以外は誰も居ない、居ても妖精くらいだ。
スイゲツは周りを見て言う。
「いっぱい居るだろ?妖精が」
「いや、居るけどさ狂気化して居て喋れないじゃん」
そう狂気で狂って居るため話す事はおろか意思疎通も出来ない。
スイゲツは否と言う。
「それはお主のスキルで治せば良いだろ?」
「あーそれは良い案だけど、問題は妖精が1時間以内で狂気化されたのかな?」
私のは1時間以内だ、変えることも出来るが、変えるとかなり精神力が奪われる。この後も走る事になるからあまりしたくない。
そう思って言ったがスイゲツは指を振る。
「いや、案外1時間以内でやってると思うぞ」
「なんで分かるの?」
「お主は知らんのか?人間が狂気化して自身の行動出来るのは最大2時間だぞ」
「え!初耳だよ!」
ASOで使って居る人も居たがそんな話は聞いた事はない。考えてみればそんなに長い時間狂気化してる人も居ないから分からなかったんだろうな。
私が考えているとスイゲツは続けて言う。
「人間の体で最大2時間だ、この小さな妖精の体でやったら保つのはせいぜい1時間ぐらいだろうな、だからお主のスキルで治せばいけると思うぞ」
「分かった、次出てきたらやってみようか」
「あとは………お主のスキルは何回連続で使えるのだ?」
「最大5回かな、その後も戦闘するなら3回で留めておきたいね」
「3回で考えておいた方がいいな、これでこの後の行動は決まりだな」
スイゲツが両手で叩いて終わりと言う。
そのままスイゲツはアリスちゃんを見て言う。
「お主もいつになったら自己紹介するのだ?」
アリスちゃんはそれを聞きビクッと体が震える。今更だけど名前しか聞いてないな。
私も気になったので聞いてみる。
「アリスちゃんは肌とか白いけど種族は人族?」
アリスちゃんは下を俯く。
これは私が当たるまで言わないやつかな?
私がそう思っているとスイゲツがため息をつき言う。
「其奴の種族は吸血鬼だ」
「あー吸血鬼ね………アリスちゃんが?」
アリスちゃんを見ると少し俯いて頷いて居た。
へぇー吸血鬼か、ASOでもプレイヤーがなれる種族の1つにあったな、まずあのゲームはなれる種族が多かった、ハーフも出来たし金属系の種族も出来た。誰得かと思っていたが結構なっている人は居たな。
私がASOの事を振り返っていると服の裾が引っ張られる、その方向に向くとアリスちゃんが服の裾を引っ張っていて、私に上目遣いで聞いてきた。
「……………………私が吸血鬼だから捨てる?」
「す、捨てないよ、吸血鬼なんて普通でしょ?私は何も思わないから大丈夫だよ」
私はアリスちゃんを安心させる為に言う、森にこんな小さな子を捨てるなんて以ての外だ、それを聞きアリスちゃんは私にしがみついてきた。
「………ありがとう……………アンナお姉ちゃん……」
顔を見ると少し泣いていた、ミドアでは吸血鬼は迫害されているのかもしれない、だからアリスちゃんも迫害され続けて初めて他種族の人に嫌われずに認めてもらえたのだろう。
そんなのは嫌だな………私も吸血鬼だったらシルヴィアとも分かり合えなかったかな………………いや、愚問かな。
私はアリスちゃんが泣き止むまでアリスちゃんの頭を撫でるのであった。
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少しするとアリスちゃんは泣き止み顔を上げる。服には泣いた跡がくっきり付いていた。
「……ごめんなさい、服を汚しちゃった……」
「大丈夫だよ、クリーン」
私の服に付いていた涙の跡は綺麗に消える。アリスちゃんはそれを見てまた驚いていた。子供の驚く顔はすごく可愛いな、猫がビックリして目を丸める感じと同じだ………………私猫だったな。
「ほら綺麗になったよ、まだクッキーあるから食べよっか」
「うん!」
アリスちゃんはまたクッキーを食べ始めた。
アリスちゃんの事は気になるがこの後すぐに別れるだろう、預ける所に渡して私とは離ればなれになる、だからこの子の事情に深く突っ込むのはいけないと思う。
そう考えアリスちゃんの事を見ていて、ふと私は少し顔を横に向ける、そこにいる筈が無いものを見てすぐにアリスちゃんを片手で持ち椅子から飛び上がり後ろに下がる、それを見てスイゲツとクロワも釣られてすぐに私の元に飛ぶ。
私の目の先には白緑の毛をした、普通の3倍はある大きな虎がいた。
こんなにも大きい虎がこの開けた場所に来たらすぐに分かるはずだ、しかし私は目を向けるまで全く分からなかった、それにスイゲツの探知にも引っかかってなかったと言う事はこの虎はかなり強い可能性がある。
私はこの虎とどう戦うか考えるようとするが、虎が発した一瞬の威圧で私は勝てないと確信する。
スイゲツもそれを感じたらしく私に逃げろとメッセージを送る。
この虎はこの世界に来て早々に強さを見せつけて来たあのベヒモスと同等で、今のレベルでは絶対に勝てない存在だ。
私は逃げる事を考えるが、今一歩でも動いたらこの虎に殺されると感という警告が鳴っている。
私は最悪アリスちゃんだけでも助ける事を考える、私は確実に死ぬがアリサちゃんが逃げれる時間を稼げるかもな。
ここで終わりか……………シルヴィアにはごめんとしか言いようがないな、最後はシルヴィアとかと一緒に居たいけど無理だな、私の巻き添えにするわけにもいかないし、さて玉砕してくるか。
私は決心して虎を見る、スイゲツとクロワも伝わったようで虎を見る、私に付き合ってくれるようだ。
後ろにいるアリスちゃんは私が向かった瞬間に逃げろと言おう。
そう考え私は虎に突っ込もうと地面を蹴ろうとする、が直前で止められる。
『我に戦闘するつもりはない、我が主がお呼びだ、我に付いてきてくれ』
「へぇ?」
虎が喋って私を止めたのだ。
私は情けない声を上げる、仕方ない決心して突っ込もうとして居たのだ、まさか止められるとは思ってなかったのだ。
まずこの虎の主ってどんな人だよ!?確実にヤバい人だ。
私が口を開けて固まって居ると虎は首を傾げもう一度聞く。
『ん?なんだ我の言葉が分からなかったか?』
「い、いえ付いていきます、はい!」
『それは良かった、それでは来てくれ』
逆らったらこの場で殺されそうだし、付いていくことにする、付いて行っても殺される可能性はあるがまだ生きれるからな。
スイゲツを見ると付いていけと言われた。
後ろにいるアリスちゃんに向く。
アリスちゃんは少し怖がっているようだ。そうだ、私は馬鹿か!私が怖がって居てどうする、私が不安でいたらこの子も不安になるだろう!
私は心を平常心にし声をかける。
「怖いかもしれないけど私が居るから安心して、一緒に行こっか」
「…………うん」
私はアリスちゃんの震える手を握り、クロワは私にまとわり、スイゲツは胸ポケットに入り、虎の後を付いて行った。
その間は虎とは喋らず、他のみんなとも喋らずに付いて行った。
歩く事10分、周りの木が先程よりもかなり高くなっていた、それに先程とは違う空気になった気がする。
私が警戒心を上げて歩いて居ると、人の手で作られた小さな小屋が見えてきた、虎より確実にちっちゃいよな。
虎は自身より小さな小屋に近づき言う。
『我が主よ、お呼びの者を連れてまいりました』
虎が少し下がりこうべを垂れる、私達も膝をついておいた。
少し待つが一向に出てくる気配がない、虎も顔を上げ待つがこれをかけて10分経っても出てこない。
私は急用でも出来ていないのかな?と思っていると、虎の周りが竜巻で覆われる。
なんだ!?と思い警戒するが、中から銀髪の20台ぐらいの白と黒の服、執事服を着た高身長イケメンが出て来て、私に向き声をかける。
「此処でお待ちください、今主を呼ぶので」
「あ、はい」
「では」
そう言いイケメンは小屋の中へ入って行った。
私はポカンとしているとスイゲツが声をかける。
「さっきの人は先程まで居た虎だぞ」
「え、そうなの?」
「人化だろう、確かガヴィアルも使える筈だぞ」
「そうなんだ、私ガヴィアルの人の姿見たことないよ」
ガヴィアルは私の部下のドラゴンである。
人化が使えるなんて知らなかった。
「我は何回か見たぞ、お主はたまたま見てないのだろうな」
「ガヴィアルの人の姿は少し興味があるよ」
「まぁ今度頼んで貰え」
スイゲツと話していると小屋のドアが開く、私はすぐに向きどんな人が出てくるか見る。
ドアを開けたのはさっきのイケメンで、すぐにドアの側に跪いた。
その後ろから出てきたのは口に片手を置いて気怠そうに欠伸をした少女であった。
その少女は白髪を地面に着くくらい長く伸ばし、頭に獣耳、白のふさふさした尻尾があり私と同じくらいの身長の獣人だと思った。
しかし1つ獣の獣人では無いものが付いていた、背中に天使のような3対6枚の羽があったのだ。
その少女はこちらに来る。
少女の足元を見るが靴を履いておらず裸足だ、それ故にか少し地面から浮いている。
寝起きのようで青い目が半分しか開いていない状態で私の目の先1mの所に来ると私をその目の前ジーと見る。
これって話しかけた方がいいのかな?
私がどうするか考えていると少女は見飽きたのか私から目を離しポケットにいるスイゲツを見始める。
「水妖精か、珍しいものを、見た……」
独特な喋り方だなぁ。
スイゲツはそんな事を気にせず単刀直入に聞く。
「我の事より、何故此処に我達が呼ばれたのか気になるのだが?」
「…………え?、だってあなた達を、見つけたのは、シラバスでしょ?」
「え?」
「ん?シラバス…………説明してないの?」
少女はシラバスと言われた人化した虎に向く。
「え?主が教えるのでは?我は主に「人型の、何か、居れば、此処に、呼んで」としか言われてませんよ?」
少女は上を向き顎に手を置き、思い出そうと考える。
「……………忘れた」
「…………」
シラバスは頭を掻き、ため息をつく。
「はぁ、主よ流石に覚えていてください、それじゃあ帰ってもらいます?」
やった!なんか知らないけど帰れることになったぞ、私は早くみんなを見つけたいのだ。
しかし少女は首を横に振る。
「いや、帰しちゃダメ、招待してあげて」
「分かりました」
「え!いいですよ!私達帰りますので」
「ダメ、特にあなたは」
「え?私?」
少女は私を見て顔を上下に振る、そして少女は私にとって衝撃的な発言をする。
「私は、あなたと、話したかったの、異世界人の、アンナちゃん」
少女は笑みを浮かべて私を見るのだった。
ブックマーク100件超えました!ありがとうございます。
この作品を書いていた当初は100まで行くとは思っていました。
自分も忙しくなったので更新が遅れたりすると思いますがこれからもよろしくお願いします。
よければブックマークと下の評価ボタンを押してください。執筆が捗ります。不備な点があれば感想にて優しく教えてください。よろしくお願いします。