報酬
「アンナ君、君これからCランクね」
「は?」
私達はマールから帰って来るなりギルマスのグラートに執務室に呼ばれたのだ。帰りは普通に走った、操縦者はクズハだが。
執務室にグラートはおらず、私達はソファに座って待つ事になって、私は先程のアリアの事をずっと思い返していた。
アリアは私の事………いや違うかあれは女子同士の挨拶みたいな物だろう、うん。
アンナは前から分かっていた事だが鈍感である。
顔が赤くなったりしながら考えていたら、グラートがやっと来たかと思うと冒頭の話になった。
「そりゃあれだけ暴れたらそうなるよね」
「私じゃ無いよ!馬だよ!」
「けどその所有者はアンナ君だよね」
「うぅ…」
「サンダーホースとスレイプニルで引いた戦車があんな速さだなんて思わなかったよ。一種の兵器だ」
はぁー、仕方ないとはいえ目立つ事になるなぁ、はぁ。
そんなアンナを見てグラートは笑う。
「ははは、目立つのが嫌だったんだね。僕的にはAランクにしても良かったんだけどね、ギルドの決まりで出来ないんだよ」
「Aランクにはしなくて良いけど、ギルドの決まり?」
「ああ、1回の成功でランクは最高Cまでしか上がらない、何故ならその人物が対象の魔物に有利な状況の場合があるからだ。アンナ君なら戦車だが、あれはダンジョン内だは使えないだろ?だから多くの仕事をやってランクを上げなければCからは上がらないんだ」
へぇ〜そうなんだ、けどあの戦車ダンジョン内でも出せるんだよな、狭すぎたら無理だけど。
「私はCランクでずっと居たいよ」
「アンナ君は戦車無しでも実力があるから、自ずと上がって行くよ」
「はぁー嫌だ……」
「心の声が出てるよ、それでアンナ君はCランクになったんだけど、君たちパーティーだよね?」
「当たり前じゃん」
「それならパーティー名を付けて、Cランクになってくると大体固定のパーティーになるからつける人が多いんだよ、だからみんなCランクになったらパーティー名を付けるんだ。君たちは離れないと思うしね」
「パーティー名…」
パーティー名か………なにが良いだろう。
すると横からクズハが顔を出してきた。
「アンナ、拙達が住んでいた家の名前はどうでしょう」
「あれか……イベントとかでもつかってたしそれにするか」
「イベント?」
「いや、なんでも無いよシルヴィア」
無闇に前の世界の言葉を使わないようにしよう。
「おっ、良いのがあるのかい?」
「「長靴を履いた猫」ですね」
「アンナ君らしい名前だ、猫なだけにね」
まぁ私が猫だからそう決めたんだけどね。
ASOでの私の家は「長靴を履いた猫亭」と言う飯屋をやっている。金も稼げるから良いのだ、ご飯は私の部下で飯屋の店主のショウヨウが作っている。
これが美味い、シルヴィアと良い勝負が出来そうなくらいに、アイテムボックスに入っているご飯系の奴は殆どショウヨウが作ったものだ。
クロワと食べて以来食べてないなぁ、今日でも食べようかな。
「で、話はそれだけだったんですか?」
「まだだよ、マールの町の奪還の支払いがまだだからね」
「それって途中から来た私にくれる権利あるんですか?」
「はっきり言って、君が今回の貢献者だよ。魔物を何体倒したのか分かっているのかい?」
「100匹ぐらいですか?」
「はぁ、500だよ」
「えぇ!?あの町にそんだけ居たんですか?」
「今の所で分かっているだけでそれだけいるんだ、もっと増えるよ」
ヤバイな、そんなに居たらゲームでも死んでるわ。てか私の戦車そんなに轢いたのか。
「分かったかい?それでこれがその報酬だよ」
グラートが机の上に差し出して来たのは、手より少し大きいの木箱である。
「これは?」
「この木箱はマジックボックスって言って、一定の条件を満たさ無いと開かない優れものだよ」
グラートが手を触れると、パカリと縦に開いた。
中には紙幣が入っていた。それをそのまま私達の方へ渡した。
「報酬の100万メルだ。受け取ってね」
「100万!?」
「当然の事だ、他の冒険者達にも払っているから、それは全部君達の物だ」
100万、地球にいる時持つことなんて無かったのに。てか2人とも冷静だね。
そこにシルヴィアが講義の声を上げる。
「少なすぎないかしら?アンナはもっと働いてたわよ」
「そうですね、アンナにははした金過ぎて驚いているんですよ」
「え、え、ちょっと2人とも!?」
待って私これでも十分すぎるから!
「いや〜僕もね思っているけど、国から出た依頼料を冒険者達で分けたらこうなるんだよ、すまないねアンナ君」
「ちょっとグラートさん!?」
グラートさんが頭を下げて来た、あなたこのギルドのトップでしょ!そう簡単に下げたらダメでしょ!
焦っていると横からシルヴィアが言ってきた。
「アンナは昔の金貨を持っているのよ、本当に100万なんかはした金だわ」
「昔の金貨………まさか千年前の金貨と?」
「当たり前じゃ無い、私も持ってるわよ」
シルヴィアはバックを取り出して、中から金貨を見せる。
「これよ」
「見せて頂いても?」
「良いわよ、取らないなら」
「この場面で取るのは不可能でしょうね」
グラートはシルヴィアから金貨を受け取りじっと見る。
「はぁ、本物ですね。どこで見つけたんですか?」
「秘密よ、けどそこにはもう何も無いけどね」
「そうですか…」
グラートはシルヴィアに金貨を返し、ソファに倒れ込む。
あの金貨ってどれだけの価値なんだろう…。
「それっていくらするの?」
「今はどうなんでしょう、前にはオークションで1億したと聞いたことがありますが」
「一億!?」
「その上にある大金貨は5億でしたかね」
5億…今私のアイテムボックスの中に何百億あるんだ?聖貨とかもっとするんじゃ………。考えるのやめよ。
だが現実は非情だ、横にいるシルヴィアか聞いてしまった。
「聖貨は?」
グラートはその言葉を聞いた瞬間、驚いた顔で反応した。
「…まさか持ってませんよね……」
「持ってたらどうなるの?」
「持っていたら世界中の貴族や王族に狙われます。現状で持っているのはこの国の王、賢王ギシュベルト以外に居ません」
え、ヤバイじゃん。私達指名手配されたりするのか!?目立つどころじゃ無いよ!
「持ってないわよ、ただこの金貨を取った時に石版に書かれてたから聞いてみただけよ」
おお〜シルヴィアさんパネェ!私ならテンパってたよ。
聖貨の事は流せたがグラートは違うところに突っ込んだ。
「…シルヴィア君は古代語が読めるんだね……」
「あら?私はエルフよ」
「今のエルフでも読めるのは居ないはずなんだけどね」
「いるじゃない目の前に」
「………」
「………」
ヤバイ、一触即発だよ。シルヴィアもグラートも睨み合ってるし……。
その空気を崩したのはクズハだった。
「そんな事はどうでも良いですね、持っている金貨はここで売れるんですか?」
一切合切断ち切っちゃったよ!
それに驚いたグラートは唖然として反応が遅れた。
「それは無理だな、こっちに買い取る資金が無い」
そりゃ一億なんて払えないよね。まず買っても使えないのにいるのかな?
「そうですか、他に話はあるんですか?」
「いや、無いよ。じゃあこれで終わりにするか」
「よし帰ろう!」
私は勢いよく立ち上がり執務室から出ようとすると、シルヴィアに止められる。
「アンナ、忘れてるわよ100万メル」
「忘れてた」
「忘れ物は無いですし行きましょう」
私達は話しながら執務室から出て行った。
静かになった執務室で1人、グラートは息を吐く。
「はぁ、シルヴィア君は普通だが、黒髪の子クズハだったかあの子はヤバイな」
グラートの持つスキルの中で相手の感情を大体だが読み取れる物がある、それをさっきの時に使っていたのだが、話し始めてから終わるまで全く読み取れなかった。
「彼女は何だ……僕よりレベルが高いのか………分からん、考えても出ないんだから仕方ないか」
グラートは考えるのをやめて執務室から出て行った。
影に何かがいるのを知らずに。
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今は夜、月は満月で青く冷たい月の光で道を光らせていた。アルーラの町の人は、夜は殆ど外出しない、居ても酒屋の近くなどが多い。町の住宅街など人気が全くない、その先にある墓地も同じだ。今はそこに私達は向かっている。
「はぁ、面倒くさいよね」
「アンナ、ちゃんとやっておかないと後々面倒くさくなるのよ」
「そうですが、主人に手間を取らせるのも腹立たしい」
「まぁ、私の事なんだし仕方ないよね、はぁ」
薄暗い墓地の真ん中まで来る、ミドアのお墓は西洋の物と同じで石版に名前が付いているものだ。
私達は墓地の少し開けた場所で立ち止まる。
「さて、ちゃっちゃと仕事しましょうか」
そう言いながら振り返る。横にいるシルヴィアとクズハもだ。
「さぁ、出て来なよ。付いて来てるのは気付いてるよ」
通って来た道に声をかける、道の奥の方に突如人が2人現れた。どちらも白い仮面を被っており顔は分からないが、片方は腰が曲がった老人のようで、もう片方は背中に大剣を背負って居た。
私達はすぐに戦闘になるよう構える。
「バレたな、隠者よ」
「ふむ、バレるとは初めは思ってなかったが、ここに行ってるので少しは勘付いたよ」
「どうする、やるのか?」
「そちらは警戒態勢か、まぁ仕方ない。男よ、やるぞ、早めに摘み取っておいた方が良さそうだ」
「了解だ、隠者は後ろからバックアップだ」
男が大剣を抜き歩いてきた。
私は指示を出す。
「私が目の前の男をやる、シルヴィアは後ろの奴を迎撃、クズハは…分かってるよね?」
「了解よ」
「分かっています、主人ご武運を」
クズハは言った瞬間、その場を蹴り瞬時に消える。そう消えたのだ、「気配遮断」、「消音」を使って「影移動」で闇に潜むそれをやったのだ。
相手は驚く、初見にやったら相手は絶対に数秒固まるのだ、私は知っているからその隙を見逃さない。「縮地」、「神速」を使い一瞬で近づき武器を発動する。
「アンナ流居合一ノ型「絶」」
鞘から抜き、ただ単に真っ直ぐに降り落とすだけの武技だ。だが真っ直ぐに降り落とすのははっきり言って、どの武技よりも1番速い、しかも相手に隙があるのだ、必勝の技である。
相手の男はすぐに大剣を構えようとするが間に合わない。そのまま私の大太刀は男の体を引き裂いた。武器は来る前に変えて「春光」にしている、この私の最強の武器に、斬らぬものなど、あんまり無い!
「ぐはっ…っおら!」
男はそれを耐え、私に大剣を振り落としてきた。それを私はすぐさま「縮地」でバックし流れる。
男はそのまま膝立ちの状態になった。
「凄いね、あれを喰らっても気絶しないなんて」
「はぁ、はぁ、こっちは痛みに耐性が有るんだよ、舐めるなよ子供が」
「おい!お主行けるか!」
「分かってるだろ!俺は大丈夫だ」
そう言うと男は起き上がり、さっき斬った所を手で払う。
私は斬った筈だ……なんでものの数秒で治ってる!あの傷はすぎに治るものじゃ無いぞ!考えられるものは…。
「スキルかそれもかなり強力な回復系の」
「痛かったぞ、子供よ。私に一泡履かせるとはなかなかだぞ」
「それはどうも、で左のはいいの?」
「ん?」
男は左に向くが無いも無い、アンナに騙されたのだ。正面にすぐに向こうとすると、アンナは目の前にいた。
「大太刀四ノ型「断」」
「なにっ!」
男の右肩から先が斬り落とされた。大剣を持っていたのが右手だったので、そのまま無防備の男に斬りかかる。が、後ろにいた老人が邪魔をする。
「ウッドロック」
アンナの下から根が伸びてアンナを捕まえようとするが、アンナの直前で燃え始める。シルヴィアが迎撃したのだ。
「ファイヤガード」
「無詠唱だと!小細工な!」
だが男はその僅かな隙を逃さずに後ろに下がっていた。しかし下がった所で見える景色が変わる。
そう落下しながら反転していたのだ。
闇に隠れていたクズハが後ろから出て来て、男の首を刎ねたのだ。
「情報は1人で十分ですから、あなたはサヨナラです」
「よし!」
男は顔が無くなり仰向けに倒れた。
残りは老人だけだ。
「シルヴィア!生きて捕らえて!」
「分かってるわ、ウッドロック」
「小癪な、ロックホール」
シルヴィアが木の根で捕まえようとすると、老人がその周辺の地面をへこませた。
「鬱陶しい!グランドダウン、ファイヤジャベリン」
「ウッドアップ、ロックブラスト」
老人が炎の槍を飛ばして、こちらの地面を下げるが、シルヴィアが岩の槍で炎を相殺し、木の根で私達は地面と一緒に下がらなくなった。
「ここまでとは…」
「相手の魔法の先読みは得意よ、あなたあまり得意じゃ無いでしょ魔法使うの」
え!魔法師ぽいのに魔法上手く無いの!?
その答えを言ってくれるようにシルヴィアが続けて言う。
「多分だけど、あなた召喚師かしら。マールを襲ったのあなたでしょ?」
「え!?あいつが?」
老人は感心したように驚いている。
「ほう、観察眼が優れておるようだな」
「私はエルフよ、魔法の事ならお任せよ」
「面倒な!仕方あるまい本気を出すか」
おお、ここからが本気での勝負か腕がなる。
私は大太刀を構えて相手に向く。
だが間違っていた、本当は私達は今挟み撃ちの状態になっているとは知らずに老人に向き合っていたのだ。
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