獣王カストリア
獣王国、王都ガダリーマークにある王族専用の病室にベッドの上で起き上がっている女の姿のカストリアと王の重臣たちが集まり報告を行なっていた。
カストリアは家臣達に議論などしても互いを尊重し分かり合う行動をせよと命じている。
だが、今この病室にはいつもならあり得ない程の重々しい空気が漂っていた。
この大地震、予想なんて出来るはずもないのだから誰の不手際でない。
それに今回の死亡者は分かってるだけでも、王都崩壊という大被害が出たにも関わらず18名と少なく出来た。
兵士、医療グループが頑張り、更に運良く闘技大会で集まって来ていた冒険者達に回復魔法を使える者やシルヴィア、スイゲツ達の強力な人達が居たからでもあるが、大臣達が状況を把握し指示を連絡するのも大いに役立った。
「誰も悪くない、誰も悪くないのだ………。
それなのに何故、我の大切な重臣2人が誰かの手で殺されねばならないんだ!!!」
カストリアはベッドに拳で殴る。
「太陽」の気を失う程の一撃を間近で食らって体が弱り殴ってもベッドが弛むだけだ。
しかし、周りにいる軍の兵士より強い重臣達には背筋が伸びるほどの殺気がばら撒かれていた。
「王が落ち着けないのはわかりますが、無理矢理でもどうか落ち着いてください。王が乱心なされば今不安定な住民達にも不安がでます…」
「分かっておるわ!だが!だが!何故だ!コルト、レーヒィアが何処の誰か分からない奴に何故殺されたのだ……我のたった2人の家族だぞ……」
布団を爪が食い込むほど握り、布団が怒りと共に赤く染みていく。
「王!血が…」
「ああ……冷静になる為1人にしてくれ、その間に現場で情報を集めて犯人を見つけ出せ、捕まえても決して殺すなよ」
臣下達は目を合わせると1人ずつ礼をしながら外に出ていく。
静かな1人っきりの空間。
ベッドの上で両膝を立て抱え込み、あの心が壊れていた時の事を思い返す。
多くの人に支えられたあの時のことを。
「何で兄貴達には恩返しをさせきってくれなかったのよ………何でよ……」
死体安置所に置かれていたのは今さっきまで話していた2人の青白く変わり果てた姿だ。
思い返すだけで怒りと悲しみが湧く。
涙で顔が崩れ、小さく声が溢れるが、返ってくるのは静寂のみ。
カストリアの求めている声、いつもカストリアを気遣って意地悪してきたあの2人の声は返ってこなかったが、かわりにコンコンとノックの音が鳴った。
もう見つかったか?それとも別案件か。
大臣の誰かだろうと思い返事をする。
「入ってこい…」
ドアが開くと黒髪の獣人の少女、アンナが入って来た。
「カストリア…入るよ?」
「アンナ!?」
カストリアは乙女のような悲鳴をあげて布団の中に潜り込む。
「な、何でアンナがここに!?」
「廊下でメイドさんにカストリアが目覚めたから話し相手になってくれって言われてね」
「へぇーそうなの……」
アイツらは何変に気を使ってんのよ!今の私すっぴんだし泣き顔だし最悪なんですが!?
「大丈夫?」
「うひゃっ!!!な、何!?」
布団の上から叩かれてカストリアは飛び跳ねながら布団から飛び出す。
「大丈夫かなって?」
「だ、大丈夫よ。我は傷が塞がるのは早いしな」
「本当に?」
アンナは同じベッドの脇に座りカストリアの顔をしっかりと見る。
哀れみも悲しみもない真剣な眼差し。
そんな目で見られたカストリアは観念したように話し始める。
「少し話をしていい?」
アンナは頷きを返す。
「我の両親、お父様のレイモンドとお母様のカチューリは10年前に原因不明の病気で先にお父様が、その1週間後にお母様が子供3人を残してこの世を経ったのだ。
その時9歳、まだ心が幼い子供だった我に親の死別はとてつもない衝撃を心に与えた。
毎晩自室から抜け出し親が眠っていたベッドに潜っては泣きじゃくり、食事も喉を通らず体が弱って行き、さらに死のうとしたこともあった。
だが、そのたび兄のコルトとレーフィアが一緒に布団に入り慰め、食べやすいお粥をスプーンで食べさせ、窓から飛び降りようとするのを2人で止めたりしてくれていたんだ。
今の2人を見てそんな事思わんかったろ?今は馬鹿やってたからなぁ…。
他にも多くの臣下達、国民達が我を元気付けようと必死になって、曲芸師を呼んだり、一流シェフを呼んだりしてた。
その一環で馬鹿兄貴1号レーフィアが女装をして我を大爆笑させる事があってな。
その日以来からか、我の前では女装で出るようになったな。
馬鹿兄貴2号コルトもな、両親が死ぬ以前までは大剣を使っていたんだが、舞踏際に私が爆笑して、それから格闘家になったんだ。
どんな舞踏か忘れたけどな。
そんな数日が続いていたある日、また我が親のことが恋しくなり、自室から抜け出し暗い王城の廊下を歩いていると、ある部屋のドアが半開きになり光が漏れているのに気付いたんだ。
そこは自分が向かっていた場所、親の寝室であった。
こんな時間に誰か来てるなんて今までなかった。兄達が来るのはいつももっと後だけどな。
と、思って戸惑いながらもドアの隙間から中を除くと、室内に膝を突いて手を組み涙を流してるコルトとレーフィアの姿があったんだ。
我と当然同じ家族であるコルトとレーフィアも我と同様の悲しみを心に背負って、1番年下の妹の為に元気付けようと平常心を保っていたのだと遅くも気づいたのだ。
その時だな。
我は心に誓ったんだ。
この国の王、獣王になって全てを返す!とな。
馬鹿らしいだろ?ただの子供の戯言、なれる筈がないし、しかも我よりも王位継承順位では兄レーヒィアが1番だ。
我がなれる道理がない。
だが、そんな馬鹿な我が王になる事を決めた事を兄達に報告するとな、快く受けてくれたんだ。
俺達よりよっぽどお前の方が素質はあるって言ってな。
兄達は認めてくれたが、獣王は獣人の中でのトップ、最強の座でもある。血族じゃなくても力さえあれば誰でもなれるから、多くの志願者がいたのだ。
その為、毎日兄達に弱った体を鍛え直してもらった。
前日までの優しい兄達とは変わり、鬼監督になって猛特訓をしたんだ。
どれだけ厳しくても弱音は吐かない、全ては私を支えてくれた人達への恩返しの為にって思いながら我は頑張ったな。
そして闘技大会で最強の座を手に入れ、獣王となり、夢への足掛かりを手にし支えとなった人達へ恩返しをするのだと…
そう思ってた。
そう思ってたのに……まだまだ返せてないのに……何で……」
カストリアは目に涙を溢れさせて、布団を握りしめベッドにうずくまり、声を殺して泣き始めると温かいものが背中にあたる。見なくても分かった、アンナが寄り添って抱き締めてくれたのだ。
その暖かさを感じ、カストリアは我慢せずに声を出して泣き始めたのだった。
その状態のまま数秒間泣き続けたカストリアは泣き終わるとゆっくり起き上がり、体を拭くために用意してあった濡れたタオルで顔を拭く。
「ありがとうアンナ、溜まってた物を吐き出せた気がするよ」
「それなら良かった」
アンナは微笑みを返す。
「やっぱりお母様とそっくり…」
「お母様?」
「ああ、アンナはお母様とそっくりなんだよ。確かこの部屋にも…」
カストリアはベッドの近くにある棚の上から1つの写真を取って見せる。
色の付いた5人の家族写真だ。
「中央の少女が我、左がコルト、右がレーヒィア、後ろの凄く良い笑顔の人がお父様、そして我の後ろに寄り添ってくれてるのがお母様よ」
説明を聞いて写真を見る。
お父さんはかなりの大柄の人だが笑顔のいい優しそうな人で今のカストリアとよく似ている。
そして肝心のお母さんは綺麗なブロンドの長い髪、同じ色の立った獣耳、エメラルドのように美しい眼、そしてふくよかな笑顔が特徴な凄く可愛い女性で、とてもアンナに似ていたのだった。
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