アンナvsレイア
アンナは静かにキレるタイプではない。
怒ったら顔や体に出るタイプであり、まずあまり怒りにくい性格で大概の事なら笑って許している。
だが、今回は事前にスイゲツに冷静になれ!と怒られていて、かつ、レイアのとった行動が怒りの沸点になったので、アンナはスイゲツに怒られないように自然と冷静にキレているのだ。
そんなアンナが剣を片手に持ち立つ。
ただ立っているだけだがレイアからすれば何をして来るか分からず、オッドアイの眼はこちらの動きを完全に見切っていそうでどうにも動けない。
しかし、そんな時に出来たのは分身体に命令してスイゲツに攻撃する事。
既に動いていた分身体達はスイゲツに向かっていて、アンナに向かっているのは誰1人いない。
レイアのミスではない、ワザとこうするよう命令したのだ。
多勢に無勢でかかっても今のアンナとこの謎の水中ではどうやって勝てるか分からない。
だが、スイゲツから倒し、この水を解除してアンナを捕縛すれば勝機はある。
それにアレもまだ使えるしな。
勝利への算段を考えほくそ笑む。
だが、レイアのほんの少し動いた口角をアンナは見逃さなかった。
水中に気泡が出る程の目にも留まらぬ速さでレイアに接近し刀で斬り飛ばす。
「ちっ、やっぱり簡単には斬れないか」
レイアを吹き飛ばしたアンナは「春光」に刃こぼれがないか刃を目元に合わせて見る。
「刃こぼれ………無し、それじゃあ続ける前に…」
アンナはレイアが吹き飛んだ方に行こうとする前にスイゲツの方に向き、人差し指と中指を曲げて、ある合図をする。
周りを囲まれているスイゲツだが、周りを警戒しながらもアンナの合図を見逃さずに意図を読み取り頷く。
頷いたのを確認したアンナがレイアの元に向かって行くのを見送ったスイゲツは周りを再度見て溜息をつく。
「なぁ、1つ質問なのだが、レイアの様にお前達には自我はないのか?」
スイゲツの質問に周りは誰1人反応せず武器を構えたままだ。
「お前達、それぞれ違う姿だ。その人数分だけ人格があったと言う事だが……お前達にはなさそうだな。こんな話をしても無駄か……そして核を持ってるのがレイアだと言う事も既に分かったし、ラークス達を追って外に出たと思ってる奴らもすぐに戻って来て、分身体全員を相手取れる。
我の役目はアンナが安心して一騎討ち出来る状態を作る事だ。
お前達、簡単にこの水槽から抜け出せると思うなよ」
スイゲツの周りの水が渦巻き始め、分身体達が一斉に気を引き締めたのだった。
水が変化した事にアンナは気付く。スイゲツが何かする……けど今からは関係ないか。
と一蹴し、レイアの元に向かうとスイゲツに頼んだ通りにレイアは水の外に放り出され、うつ伏せで倒れていた。
アンナも水から抜け出して地面に降り立つ。
「痛がるフリするのはやめてさっさと立ちな。あれぐらい効きやしないだろ?」
レイアの演技を見破り、油断せずに刀を向ける。
「流石はアンナですね」
レイアは何事も無かったかのように起き上がり、埃をはたく。
「あれぐらい私の仲間なら誰でも分かる」
「へぇ……それで私を外に出して良かったのかしら?」
「理由を言う必要がある?外に出した、それ自体が結果、チェックだ」
「へぇ、じゃあお言葉に甘えて逃げてもいいのかしら?」
「逃げれるものならな…」
アンナから圧がかかってくる。
流石にこのアンナからは逃げ出せないな。それにさっきのチェック発言は外に出しても問題ない程詰んでいると言う事。そんな私に残された手段はアンナとの一騎討ちをする事のみ、それならアンナの勝ちは揺るがないだろう。
と、アンナは思っているだろう。だが、私はまだ色々と手段を残してるんだよね。
地面に手をつき起き上がろうとする最中に、地面に自身の体の一部を流し込む。
だが、起き上がる動作をとった瞬間にアンナが目の前に既に移動して刀で周りの瓦礫諸共レイアを吹き飛ばす。
レイアは瞬時に両手を構えてガードして吹き飛ぶだけで済んだ。
と安堵したが、宙に浮いた体が地面に付く直前にレイアの背中を蹴り上げられる。
レイアには何もさせずに徹底的に殺す。
アンナはレイアに油断する気は毛頭ない。それ程の相手だとこれまでの事で理解している。
だから、身動きが取れないこの状態し、落下して来た瞬間にとどめを刺す。
鋼鉄以上の硬さのレイアを一撃で仕留めれる技は「八岐大蛇」しかない。
だが、「八岐大蛇」は日で1度使えば手が軽くいかれてしまう技だ。そして運悪くもう既にカストリア王に1度使ってしまっている。
1度練習の時に日に2度使ってしまって腕をやらかし、「再生」で元に戻そうとしたが戻せず一日中腕が使えなかった事がある。
しかし、ここで悩んでる暇はない。この後戦闘には参加できなくなるが一か八かするしかない。
刀を両手で持ち肘を曲げ、剣が顔の右横、剣先はカストリアに向くように後ろに引いて構える。
落ちてこい、テメェが刀の間合いに入ったが最後、一瞬で切り刻んでやる。
そんなアンナに回転しながら落ちてくるレイアがニヤリと笑ったのがふと見えた。
何をしようがもうすぐ間合いだ、私の方が早い。
武技を発動させる。
だが、発動寸前に腕に違和感を覚える。両腕が引っぱられる感じ、さっきと同じ手錠をかけられたような。
まさかと思い、すぐに腕を下ろして見る。
間違いなくさっきスイゲツが切断した手錠が粘液を伸ばして両腕を繋ぎ直し強制的に元の形に戻っている。
「残念!私の体は分裂してもちゃんと動かせるのよ、勉強不足ね!」
レイアは少し離れた場所に着地する。
何も出来ないアンナを簡単に捕まえて魔眼を使えばもう終わりだ。
勝利を確信したレイアは絶望したのか下向いて腕を見て動かないアンナに一気に近づく。
「チェックは私のセリフだったわね!」
「チェックまで行ったようだな。だが、まだ足りなかったな、チェックメイトだ」
アンナの首を掴もうと手を伸ばすとスルリとアンナが身を引いてかわす。
何をとち狂った事をと思ったレイアがアンナを目で追いかけると驚愕する。
さっきまで下を向いていたアンナが目の前で手錠を外してついさっきと同じように刀を構えていた。
何故だ!?どうやって枷を解いた!?私は何もしていないのにどうやって!?
いや、それは後でいい。それよりこの構えは今日の試合で使ったやつだが、どうせ私が喰らっても私は斬れない筈だ……筈だ、筈なんのにこの感覚わ。久し振りの感覚、まるでリヴァイアタンの一撃を喰らった感覚……。
「秘剣「八岐大蛇」」
アンナの刀がブレる。
その瞬間、目の前に8つの青白い斬撃、命を狩る八岐大蛇が円を描くように迫る。
その8つの蛇は空間を裂きながら、レイアを豆腐を切るかのごとく身体を斬撃が飲み込みながら切断する。
その斬撃が顔にくる刹那にアンナの顔を見た。
いつも可愛い顔が無表情、ルビーのような綺麗な眼はハイライトが失い黒く濁っている。
ああ、この顔だ。この顔が見たかったんだ!
アンナが殺す瞬間のこの表情、私が求めていたのはコレだ!
シルヴィアもクロワもスイゲツでも仲間の誰であろうとこの顔は見れない、コレはアンナが殺す相手しか見れない特権だ。
本当に私はこの顔を見れて良かった…。
それを感じた瞬間、レイアの顔が半分消え去る。
フワリと地面に落ちて行く景色の最中にアンナの顔をもう一度見ると無表情だった顔が暗く悲しい顔になっていた。
もうお腹いっぱいなのに最後の最後でそんな顔をしないで………
べチャリと地面と激突し、レイアの意識は枯れた空気に巻き込まれて虚空に消えて行ったのだった。
不備な点があれば報告お願いします。