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救援



遡ることアンナが少女を助け出した頃、スイゲツは人型になり住人の怪我を治しまくっていた。


何故かと言うと地震の直後、丁度医務室に居たシルヴィア、アリアは兵士達に「手伝ってくれ」と言われ、王城周辺に建てられたテントに連行されて緊急医療班に入り怪我を治して居たのだ。


治しても治しても怪我人が入ってくる。

ここまで怪我人が居るとまず回復魔法を使う人の方が先に魔力のガス欠になる。

それは3人とも同じであるが、スイゲツは大気中の魔力を体に取り込み魔力のガス欠を防いでいて、シルヴィアとアリアはスイゲツのアイテムバックに入っていた魔力を回復させる薬、ポーションをがぶ飲みしてガス欠を防ぎ、それを見た他の医療系魔法士達もがぶ飲みで治しまくる。


そんな忙しい状態のスイゲツに突然、焦ったアンナの声が聞こえる。


「え、アンナ!?」


ここに居るのか!

治療中にもかかわらずスイゲツは手を動かしながら周りを見渡すがアンナの姿はない。


今のは私がアンナに会いたい思いが強すぎての幻聴?流石にこんなに魔法使ってたら疲れるのも当然か………はぁ…。


(大丈夫スイゲツ?)


ほらやっぱり私が求め過ぎてアンナの大丈夫?ボイスが幻聴でも聞けたじゃないか。さて、これを糧に頑張りますか。


(本当に大丈夫?これ念話だよ!幻聴じゃないよ!)


ふぇ?…………今の我の事は幻聴だと思ってくれ……頼む。


(………ねぇスイゲツ、今忙しい?助けて欲しいの)


アンナがさっきの事を無かったかのように話し始めてスイゲツは泣きそうになるが最後の一言で表情が変わる。


(何があった?さっきの衝撃、やはりお主だったか?助太刀が必要なら当然行くぞ)


(えーと一から説明していくよーーー)


アンナが地震の起こった後からの今現在の状況を手短に説明する。


(ーーーだから、私1人じゃこの子を助け出せないから助けが必要なの)


(分かった。お主は状況が変わったら逐一連絡してこい。あとはソイツの話に合わせておけ、すぐに向かう)


(分かった。後は頼むよ…)


さっきの説明を聞き念話越しだがアンナが冷静にキレているのが感じた。

このままの状態で更に怒りを圧迫する事があればレベラルでの再来が起こるかもしれない。何か起きる前にアンナの元に行かなければ。


「すまんがシルヴィア、ちょっと出掛ける。後で連絡するので頼むぞ」


「え?ちょ、ちょっと!?スイゲツ!?」


今目の前の怪我人の治療が終わると同時にテントを飛び出し、アンナの説明で聞いた現在地の方角を確認して走り始める。


テントの前には怪我人の行列が出来ているが、スイゲツはその列を気にする事もなく通り過ぎる。


スイゲツにとってアンナの求める救援とその他大勢の命を天秤にかける必要はなく、当然な事で絶対的にアンナの方を選んでいる。


そんな怪我人を気にせず王城から走ってくるスイゲツを進行方向に居た少し老けた男が声をかけてくる。


「嬢ちゃん、そんなに急いでどうした?」


「ん?あんたは……」


「我はラークス、名前ぐらいは聞いた事はあるだろう?」


「勿論、それに試合も見てたさ。我はスイゲツ、無衝拳の事について聞きたい事があるけど今は急ぎの用があってね。また今度話せたら話そう」


「そんなに急ぎの用があるなら手伝ってやろうか?弟子達に迷惑だから来るなと言われて暇しててな、治療とかは無理だが力仕事は出来るぞ」


ラークスの言葉を聞き急いで向かおうとしたスイゲツは足を止める。

此奴はかなり強かったよな。クロワの体は並みの攻撃じゃ通らない。我の攻撃なら水圧カッターぐらいだしな。

だが、此奴の無衝拳なら通じる……それに後の事もあるしな。


スイゲツは瞬時に考えて答えを出す。


「では協力して欲しい事がある。我の跡をつ付いて来てくれ、説明は道中で話す」


「そこまで急ぐのだな」


スイゲツが走り始めてラークスは横に着くように走りながら説明を聞き、ラークスの表情が険しくなる。


「ふむ、聞いてる限りではなかなかの屑ではないか」


「ああ、あんたにはこのクズを無衝拳を使って遠距離から奇襲して欲しい。あんたは元暗殺者、それに似た職業をしていただろう?だから、こう言うのは得意だろ?」


その発言にラークスの眉がピクリと動く。


「ほぉ、元暗殺者だが何で分かったんだ?」


「我もあんたと同じで少し変わった眼をしててね。色々と見えてしまうんだよ」


スイゲツは自身の透き通った青い目元を指す。


「宝石のような眼だ。そんな綺麗な眼で人の中身でも見れるものなんだな、我なんて茶色だぞ」


横目でラークスの目を見ると不思議そうに首を傾げる。


「そうか?我が今まで色んな眼を見てきたが皆綺麗な眼をしてたし、あんたのもトパーズに似て綺麗だと我は思うぞ」


「そうか、生まれて今までで初めて言われたかも知れんな。さては告白か?」


「あんたみたいなジジイは我の趣味にない。勝手に勘違いするな」


「……嬢ちゃんはかなり辛辣だな」


「多分他の誰に聞いても同じ答えが返ってくるぞ……って、そんな話をしてる間に目標地点に着いたな」


アンナの現在状況を聞きながら逆算し、歩いて来るルートを先回りする作戦だ。

歩いて来る方角を目視するが砂埃や煙が舞っていてアンナの姿は見えない。


「ここからは気配遮断を使ってで進むぞ。出来るだろ?」


「無論、得意だぞ。それに日々やってる事だしな」


有名人のラークスは買い物するだけでも周りを囲まれて一苦労になる。

そのため、街に出る時は毎回気配遮断を使って歩いている。だが、買う時には流石に解除しないといけないので急がないといけないのが悪い点である。


そんないつもの面倒な事を考えているラークスが先程より更に老けた顔になっていた。

その顔を見ていたスイゲツはラークスの考えとは違う職業柄での面倒事だと気の毒そうに思う。


そう考えているうちに探知に引っかかっていたアンナとの距離が短くなって来る。

この辺だな。


立ち止まり近くの瓦礫の木の棒に赤い布を巻き付ける。

アンナと念話が出来ない場合の自身の居場所を知らせる連絡手段だ。


「それは目印か?」


「ああ、これでここに居るのがアンナには分かるだろう。それよりこの後の事は頼むぞ。もしもの為に我は少女の方に防御を掛けておくが作戦通りにやってくれよ」


「元とは言えこれでも暗殺者だ、ちゃんと作戦通りにする。それに我の拳は防御不能で不可視の攻撃だ、案ずる事はないぞ」


だからあんたを選んだんだよね。

ふふっとスイゲツは笑い、息を整えて真剣な表情になり、赤い布をつけた場所から少し離れて瓦礫の裏に隠れる。


待つ事数秒、人影が見え徐々に近づいて来るのが見え、黒髪の獣人の少女アンナで目視したと同時に身震いが起きる。

体から発する圧倒的な怒気、念話越しで感じていた比ではない。


「おいおい、おっかねぇなあの嬢ちゃん……」


ラークスも感じて気の抜けた声を漏らす。

しかし、流石は元暗殺者でアンナの後ろを着いて来ている2人の女と少女を目視し、アンナが止まったと同時に雰囲気が変わり手を拳に変えて横に構える。


『無衝拳』

ラークスが若かりし頃、暗殺者として働いていた時期に編み出し、防御不能、不可視、中距離からの攻撃が可能な暗殺専門の武術だ。

その攻撃方法はシンプルで魔力の塊を飛ばす、ただそれだけである。


それだけを聞くと魔法を放つのとどう違うの?と思うだろうが、魔法とは魔力と言うエネルギーを形ある眼に見える武器にする事だ。


だが、無衝拳は魔力と言うエネルギー自体を弾丸として飛ばしている。そのため不可視であり、盾や鎧などの防具や魔法防御すらも貫通し肉体に直接攻撃する事が出来る。


そしてラークスはそれを自在に操ってワザと武器や魔法に当てて防ぐ事や拳を使わず体の何処からでも飛ばすことが出来る。


そしてラークスの構えた両手を拳からボール程の大きさの魔力の弾丸が飛ぶ。

その弾丸は目の前の瓦礫を通り抜け一直線に女2人の胸に直撃する。


胸を抑えて2人が膝を突いたと同時にスイゲツとラークスは瓦礫から飛び出し2人から少女を保護しようと飛び出した。


しかし、そこまでのサポートは要らなかったようで、前方に居たアンナがタイミングを見計らっていたかのように一瞬で2人に近づいていて空中蹴りをして2人を吹き飛ばす。


それに驚きながらスイゲツとラークスが近づくとアンナがこちらに振り向く。


「助かったよ。ありがとうスイゲツ、それと……えっと……」


「格闘家ラークスだ。マズイ状況だと聞いてな手伝いに来た」


「ラークスさん、ありがとうございます」


「お礼はいい。それより嬢ちゃんの静かだが荒れ狂ってる怒気をアイツらにぶつけて来たらどうだ?」


ラークスが感じた事をそのまま言うと呆気に取られたような顔になると、急に大声で笑い始める。


「あ、はははははははははははははははははははははははははははは」


驚いてラークスはスイゲツに近づくと小声で言う。


(おい、スイゲツの嬢ちゃん。我何か変な事言っちゃったか?誤った方がいいのか?)


(安心しろ、ただ怒りが一回転して笑ってるだけだろ。すぐ終わる)


スイゲツがそう言ってすぐに、すんっとアンナの笑い声が止まる。


「…………ぶっ殺す」


アンナに紅が体を纏い臨戦態勢になったのだった。



不備な点があれば報告お願いします。

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