太陽の騎士と「太陽」
「すみませんマスター、少し遅れました」
「ガウェイン……」
黝い炎を剣で吸収したガウェインは微笑みながらこちらを向く。
それだけでアンナはガウェインにときめいてしまう。今の怯えて動けないアンナにはガウェインは窮地を助けに来たカッコいいヒーローなのだ、ときめいてしまうのは仕方ない。
そんな地面に座り込んだアンナが無事なのを確認したガウェインは目の前に開かる「太陽」を睨みつける。
「おお、怖いねぇ……」
「下郎がマスターを怯えさせるとは死に急ぎたいか」
「ほぉ、私にそんな事を言ってきた奴は初めてだよ。大概相手にしてきた奴は私に傷すら付けられないからな。そこまで言うからには私を楽しませろよ」
「戯言を!」
ガウェインが炎を纏った剣で斬りかかる。
だが、「太陽」が剣で受け止めガウェインの炎を吸収する。
「あんたは炎を吸収出来る剣があるように、残念なことに私も炎は効かないんだよ」
「そうですか、わざわざ言っていただきありがとうございます。しかし、炎が使えなくてもこの剣がありますので問題ないです、よ!」
ガウェインは一気に力を込めて剣を押し込み振り払い、「太陽」を闘技場の端に吹き飛ばす。
追撃を叩き込めるチャンスだ、これを逃す手はない。
そう思ったアンナだが、ガウェインは今の一振りで違和感を感じていた。
何が違和感の正体なのかは分からないが何か面倒な事なのは分かる。
そう思ったガウェインは剣を正面に横に構える
「マスター、少し離れていてください。少し本気になります」
その一言にアンナは驚くがそれ程の相手なのは分かっている為すぐに立ち上がり、ポケットから時計を取り出し時間を見る。
「分かった。私の事は気にせずにやって、あいつは武技「死眼」を体に受けても無傷だった。正午まであとあと30分間、一気に攻めて相手から攻撃を受けないようにすれば何とかなると思う……」
「マスター、私がそんな面倒くさい事をすると思いますか?」
「いや、これは面倒くないでしょ!」
「ははは、冗談です。早く行かないと巻き添えを食らいますよ」
「もう……それじゃあ後で合流しよ。連絡待ってるから……」
アンナが離れて行く。
マスターの言いつけ通りに戦えば勝てるだろう。だが、さっきの違和感が邪魔をして早急に倒さないといけないと考えてしまう。
何故ここまで駆り立てられるのかは分からないが、倒せば何か分かるかもしれない。
離れて行くアンナを見送ったガウェインは闘技場の端に倒れた「太陽」を睨みつける。
「いつまでそこで寝転がってる気ですか?隙を突きたいなら残念だが私は近づきませんよ」
横に倒れている「太陽」は溜息を付いて起き上がる。
「な〜んだ、気付いてるなら早くに声を掛けても良かったのに。私の目的はそんな下らない事じゃないしね」
「ほぉ?じゃあ何故ですか?」
「そりゃあの子を殺さない為だよ、巻き込まれて死なれては困るからね。それに私はお前を狙っていたから都合が良かったのよ」
「私が狙い?」
私が狙われるような事件を起こした覚えはない筈……いえ、結構ありますね。
ここに来てからの出来事を思い返すとかなり喧嘩を買って来ている。その内の誰かと考え、この敵と繋がってそうなのを考えると1人の人物に結論がつく。
「ああ、アルーラでマスターを襲って来た魔法使いの仲間ですね、やり返しに来たと言う事ですか」
「あー……まぁ、そうだな。ハズレではないな、やり返しに来た所以外はな。やり返したいならそいつ自身が来ると思うからな。私は知らんよ
けど、今日そいつは来る意味が無くなるけどね」
「ほぅ、私はその方と続きをしたいのですがね……まずは貴女を倒すとしますか」
「いいぞ、殺す気でかかって来い」
「太陽」が手招きして挑発するのを見てガウェインは剣の制限を解除する。
「ガラティーン、遮断解除」
ガウェインの周りが少し赤く揺らめき始め、周りの温度が急上昇し、真下の床はガウェインから発せられる高温に耐え切れずに溶け始める。
そしてガウェインが剣を構えると姿が搔き消え、その瞬間に「太陽」の目の前まで移動して高温の剣を振り下ろす。
それを「太陽」は見えていたのか剣を横にして受け止めたが、威力が先程とは桁違いで防ぎ切れずに地面に叩きつけられ、床が隕石が落ちたかのように陥没し周りに亀裂が走る。
マズイと思ったのか「太陽」はガウェインを蹴り上げて、浮いた瞬間にすぐにその場から離れる。
ガウェインも逃さないと動きたかったが動けなかった。
さっきのただの蹴り上げがかなりの威力があり、蹴りを受け止めた腕が痺れて少しの間動かせなかった。
腕が痺れる事なんて本気の状態のガウェインにはそうそう無い。あるとしたらセッカの隕石を弾き返した時などの強力な一撃を受けた時ぐらいだ。
しかし、1つだけ例外があり、今の同じようなただのパンチを防いだ時、知り合いの馬鹿の一撃で腕が痺れたのだ。
その知り合いの馬鹿並みの力と考えると「太陽」はかなり強い存在、マスターのアンナでは到底敵わない存在だと言う事だ。
再認識し本気で殺しに掛からないとマズイと考えたガウェインは早急に動く。
先程同様一瞬で近づき剣を振り下ろそうとする。
だが、「太陽」も同様に目にも映らぬ速さで動き、ガウェインの剣と衝突する。
速度が早ければ早いほど、威力は増して行く。
衝突した瞬間にしか映らぬ速さで剣撃のぶつかり合いは衝突で生じた衝撃波で周りを破壊して行く。
闘技場は半壊し、周りは高温で生物にとってここはまさに地獄そのものだ。
押しているのはガウェインで当たった際に吹き飛ばせるのだが、攻撃は剣で防がれて決定的な一撃を打ち込めないでいる。
焦りが生じるがチャンスは必ずあると連続で畳み掛けて行くが防がれる。
だが、そんな考えは甘かった。
押していたガウェインだが徐々に剣に伝わる反動が大きくなり、遂には防がれた際に吹き飛ばすことができなくなってしまった。
そして鍔迫り合いになった時、「太陽」が何かを察したようにニヤリと笑う。
「やっと分かった。あんた、同じタイプのスキルを持ってるのね…」
「同じタイプのスキル……?」
「あんたは太陽が出ている間、力が一定量増加するってスキルよね?」
「な、何故それが!?……まさか貴女!?」
「私も太陽が出ている時、力が上昇するのよ。まぁ、貴方と違って太陽が昇って行くと力が増加して行くのだけどね。
だから、さっきまでに倒せなかったあんたにもう勝ち目は無い」
言い終わると同時に「太陽」は剣でガウェインを弾き飛ばす。その衝撃で後ろの闘技場の壁が一瞬で粉砕し地面も大きくえぐられる。
吹き飛ばされ剣を突き刺して止まり、すぐに体制を戻そうとするが、一瞬で「太陽」が接近し、剣をバットのように持ちガウェインの腹に剣の腹で打ち込む。
白銀の鎧は砕け散り、血反吐を吐いて吹き飛ぶ。
吹き飛ばされて地面に伏せても、ガウェインは血反吐を吐き、雄叫びを上げて剣を突き刺して立ち上がる。
マスターに信じて貰ってここで戦ったのだ。私が倒れるとはマスターへの侮辱そのもの。決して倒れるわけにはいかない!
その信念を貫き通す。
剣を構え驚いた表情の「太陽」に突っ込む。
だが、剣は弾き返され、みぞおちに拳がえぐる。
白銀の鎧に赤いシミが付く。
また倒れ地に伏すが、膝を曲げて立ち上がる。
倒れるわけにはいかない。
ただ信念の為に。
だが、「太陽」は背後に立ち、立ち上がろうとしているガウェインの首の上に剣を向けている。
「あんたは凄いよ……1発目で数本折ってるだろが立ち上がり、私が叩いても更に立ち上がって来る………私のを直に受けて、ぼろぼろになってもまだ立つ奴は初めて見る。だから、もう楽になりな。すぐにお仲間がそっちに行くからな」
言い返したいが力が入らず言い返せない。
「太陽」はガウェインがまた立ち上がる前に剣が振り下ろす。
その瞬間、ふと頭の中で疑問に思っていた事が分かる。
さっきの違和感の理由、それは同じスキルを持つ同族嫌悪であり、自身より強いと言う事を体は察していたのだろうか。
それなら初めから敗北していたか………すみません、マスター。私は貴女を……。
振り下ろされた剣が首に当たり、肉が裂き切れ、辺り一面が真っ赤に染まる。
そう思われたが、当たる直前に金属音が鳴り響く。金属音と言うよりかは先程まで聞いていた剣と剣が衝突する音である。
「いやー、最強は遅れてやって来るんだよ、ガウェイン君」
聞き覚えのある声、その声の人物が想像通りなら今ここには居ないはずの人物だ。
ゆっくりと振り返りその人物を確認する。
違い黒の長い髪を後ろで束ね、青を基調としたカジュアルな服の少女。
あった時とは見た目は少し違うが見間違えない。
一度戦い敗北した相手、自身を最強と豪語する二刀流のアカネが立っていたのだった。
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