圧倒的な強さ
「あー、失敗した。アレが居るから加減したのにかなり吹き飛んだなぁ……」
獣人の女性が肩をすくめて見ている目の前一直線は闘技場の観客席を破壊して、そのまま外まで貫通し、街の建物も破壊して新しく一本道が出来上がってしまった。
そして闘技場から200m先の一本道の端にある瓦礫の山が動き、下からアンナが咳をしながら這い出てくる。
「げほっ、げほっ………何なのあの威力……ガードしたのにかなり吹っ飛ばされてる……」
息を整えながら立ち上がり周りを見て戦慄する。
「嘘でしょ……」
闘技場から今いる場所を通りかなり遠くまで幅30m程の道が続いている。
ただ剣を振っただけ、それだけでここまでの威力は普通あり得ない。それこそ至近距離で受ければ……。
戦慄しているアンナに更に嫌な事を考えてしまう。
カストリアは何処だ……?アレを至近距離で受けたのだ。今は瀕死状態かもしれない。
すぐさま「探知」を使い周りにある気配を探るが、さっきの衝撃波で一般市民も瓦礫に下敷きになっている。
カストリアをすぐに探したいが他の人を見殺しには出来ない。手当たり次第反応がある所の瓦礫を剣で切り裂き、下敷きになっている人達を引っ張り出して行く。
殆どの人が気絶か酷く足をやられていたり、瀕死の状態で動くことすら出来ない人ばかりだ。安全な所にすぐに運ばないと。
「アースゴーレム」
土魔法「アースゴーレム」を発動し、地面が盛り上がって行き土人形を4体作り上げる。
ちっ、私が出せるのはせいぜい4体か。もうちょっとでもいいからレベル上げとくんだった。
怪我人を数人運んで行くが、それ以上に怪我人が多過ぎて4体では無理だ。
「仕方ない、無理してでも作り出す!!」
無理矢理しても出来ないかもしれないが、目の前で助けられる命を助けだしたい。
必死に魔力を使って作り出そうと魔法を発動しようとするが、魔法は発動する直前に自身の名を呼ぶ声が背後から聞こえて手を止め、振り返る。そこには白い軍服を着用した金髪の獣人の女性、ユミルとその部下らしい兵隊達が走り寄っていた。
「ユミルさん!」
「私達が怪我人を運びますよ。木魔法「オートムーブ」」
ユミル達が魔法を発動すると、地面から腰くらいの高さの低い木が次々と生えていき、一本の道が出来上がり怪我人を木の上に乗せると自動的に運ばれて行く。
「うわぁ、すご!」
「これ結構魔力喰うので少しの間しか出来ないんですけどね。アンナさんは何故ここに?」
「カストリアが瀕死の状態でこの付近に下敷きになってると思うの、だから早く助けださないと」
「王がですか……!?何故なのですか!?」
アンナは今さっき起こった事を話していき、ユミルは青ざめた表情で話を聞いて考える。
今最善の行動は何か。アンナがここで怪我人を運ぶ事が一番最善な事なのか、否ここまでの力を持つ人物がここで力を無駄に使う事はおかしい。
「アンナさん……王と市民達は私達で助け出しますので闘技場で暴れている奴をどうか倒して来てくれませんか。貴女なら出来るはずです。我らが王、カストリア様を倒した貴女なら」
「……分かった、この人達を頼んだ」
アンナは笑顔で承諾し、闘技場に向かって走って行く。
自身でも倒せるか分からない相手だが、今出来る最大限のことして更に被害が出ないようにする事は出来るだろう。
「身体強化、豪腕、神速、気配遮断、縮地、雷神の息吹、アンナ流居合四ノ型「死眼」」
アンナの体に黒い雷がまとわり荒れ狂う。秘剣と合わせて習得していた奥の手の1つ、防御面以外の全てのステータスが上昇する「雷神の息吹」だ。
最大限までバフを盛り、アンナは走る一歩を踏みしめる。
その初速だけで一瞬で50mは進み、二歩、三歩で更にスピードは増して行き、ペーダソス達が本気で走る速さと同等のスピードまで上昇した状態で、あの馬鹿げた力を持った女性に突っ込む。
ちょうどこちらを向いていない。先手必勝、恨むなら初めに攻撃した貴女を恨め!
流石に近づいたのに気付いて振替えようとするがアンナの方が速い。
接触する一瞬の間に剣を抜き牙突を羽の生えた背中に放つ。
「死眼」をモロに食らった女性は吹き飛ばされ、爆風を巻き上げながら闘技場を突き破り家にぶち当たって止まる。
これの1発でどれだけダメージが稼げているか。これ以上の技を放つとしても相手が警戒する為当たらないと考えないといけない。
それにさっきのを喰らっても弱ってる気配はしないしな。「死眼」を喰らって刺さらずに吹き飛ぶのは普通あり得ない。
アンナは気配をまだしっかりと感じて、すぐに剣を構えると、闘技場に空いた穴を通って女性が戻ってくる。
「いや〜流石に選ばれるだけのことはあるな。かなり痛かったぞ」
「普通は刺さる筈なんだけどね……どんな体してるのやら……私の事は知ってるらしいけど貴女は誰なの?」
「ん〜ん………まぁ、いいか。私は「太陽」とだけ言っておこう。名はあって無いようなものだからな」
太陽?何かの称号だろうか?それとも別の何かか?………分からん。
「まぁ、そんな事は戦う際には関係ない。それより重要なのはただ単純な力だけだ………私と戦う気なら殺すつもりで掛かってきな、そうじゃないと対等に戦う事すら出来ない」
「はは、さっきからそのつもりだから問題ない!大太刀一ノ型「残夢」」
「雷神の息吹」の効果はまだ続いている状態で圧倒的な速さで牙突を放つ。
だが、「太陽」は攻撃を読み、剣で受け弾き返される。
じゃあ、これならどうだ!
弾き返された衝撃で一気に闘技場端まで後退し、闘技場を円を描くように端を走って行き、先程同様に初速から一気に速度を上げて行く。
「おお、速いな。体に纏っていた雷はただのお飾りではないようだな」
関心しているか挑発してくる「太陽」を無視して更に加速して行く。自身が剣を振れる限界の速度まで上げて……。
そしてアンナが加速していき壁を走り、自身が黒い線となった瞬間、左から右へ、遠心力を利用し力に合わせて鞘から刀を抜く。
刀から放たれるは音速を超える斬撃。
「死眼」で刺さらぬ体でも当たれば確実に一刀両断の切れ味だ。
この斬撃を避ける、受け流す事は不可能だ。
アンナは「太陽」の敗北を確信した。その斬撃が「太陽」に直撃するまでは。
「いったぁ………間一髪だった」
傷は付いた。だが、付いた傷はどう見ても擦り傷程度、さっきの斬撃が直撃して体に擦り傷だけ、あり得ない。
カストリアと同じ幻影を使っているのかと考えるが、当たった事は事実。「死眼」も斬撃も体に接触して防がれている。
「どんな体してるの…」
「結構危なかったけどな。あと少し抑制していたのを解かなかったら真っ二つだったぞ。久し振りにひやりとした、まだ舐めていたよ………殺すなとは言われてるけど、計画の為にもちょっとは痛い目を見た方がいいよね」
アンナは首を掴まれる感覚に陥る。
殺されるとは違う感覚、まるで猫が飼い主に躾けを受けるような感覚、圧倒的強者からの重圧だ。
「太陽」が一歩こちらに踏み込む。
ヤバイ、逃げないといけない。
そう思っても体が金縛りにあったように動かず、尻餅をついてしまう。
「太陽」が剣を振り上げる。
赤黒く禍々しい剣に黝い燃え盛る炎が刃に灯る。
「まぁ、軽く炙る程度だ………死ぬなよ「獄禍炎」」
動けず無防備なアンナに炙る程度で済まない黝い炎が目の前に迫る。
あ、これはマズイな…。
アンナが諦めかけたその時、目の前に人影が現れ、何と黝い炎を剣に吸収して行く。
その頼もしい背中、昔から窮地から何度も救ってくれた私の騎士。
白銀の鎧を身に纏うは私の騎士、円卓の騎士ガウェインが私の前に剣を構えて立っていた。
不備な点があれば報告お願いします。