アンナvsカストリア
闘技大会3日目、予選を駆け上がって来た強者の選手達の試合を見に多くの観客が集まる前日よりも賑わっている闘技場。
その闘技場で数ある部屋の中で最も装飾華美な控え室で自身の試合、1戦目が始まるのを待つのは大会最強と言われる無敗の獣王カストリアだ。
ただカストリアは静かだがとても気持ちが昂ぶっていた。
いつもの試合ならどうでもいい些事と捨てている王だが、今日王と試合をするのは不敬にも王に喧嘩をふっかけて来た黒猫の小娘、アンナであった。
だが、その昂りに怒りの感情はなくただ喜びだけがあった。
その感情が選手として同等の存在と戦えるからなのか自身に喧嘩をふっかけて来た実力を測れるからなのか、それを分かっているのはただ1人、カストリアだけであった。
そんな王が居る控え室にノックが響き渡る。カストリアが呼ぶとすぐに扉が開き、金髪の獣人のメイドが遠慮なくズカズカと入ってくる。
「カストリア、試合の準備が終わったらしいから呼びに来たわよ」
「なんだ、レーヒィアか……」
カストリアは彼を見て、面倒くさい奴が来たと思い少し気持ちが冷める。
「何よ、このレーヒィアちゃんが来たのよ。逆にお礼して欲しいくらいよ」
メイドとは思えない口調と共に胸に拳を当てて自信満々で言い放つ。
「ありがとありがと」
「気持ちが篭ってない!」
溜息をついたカストリアは暴れるレーヒィアの横に行くと肩に手を置き、「あとの掃除よろしく」と言いレーヒィアの横を通って部屋から出て行く。
「ちょ、ちょっと!お礼は!」
「ありがと。あと可愛いぞ」
「ふふ、そうよ、それでいいのよ。この可憐で……」
最後までレーヒィアの容姿の話を聞くと日が暮れる。それを分かっているカストリアはすぐにその場から去っていき、そのままステージまで歩いて行く。
ステージ入り口に付きふと気づく。さっきまで昂ぶっていた感情は少し落ち着いて、戦う時の一番いいコンディションになっている。
「……少し落ち着いたのか……レーヒィアが来て良かったかもな」
少し感謝してゆっくりと外に一歩を踏み出すと同時に大歓声が沸き起こり、衝撃が全身に叩きつけられる
その中をステージに向かって進んで行き、ステージに上がると対戦相手のアンナは既に待っていた。
初対面でいきなり喧嘩になったアンナにカストリアは試合の時は殺意満々で来ていると思っていたが、今目の前にいるアンナからは殺意などは一切感じない。
そう感じながらも声が届く距離までアンナに近づいて行く。
「顔を合わせるのは久し振りだな」
「私は久し振りだけど、貴方はそうではないでしょ?」
アンナの予想外の返答に少し驚く。だが、ポーカーフェイスでアンナに悟らせないようにする。
数日前にアンナの事を助けたのは事実だがアンナは知らない筈だ。これはブラフだな。
「ほぅ?それはどう言う事だ?」
「言ってるそのままだよ。私のこと助けたのカストリア王でしょ?」
「……何のことだ?身に覚えがないぞ」
「……シラを切るならいいけど……ありがとうね、助かったよ。それに私の仲間も別に捕まってるそうじゃないしね」
「な!何でその事を!?」
驚きの発言にポーカーフェイスを貫いて来たカストリアだが顔が崩れてしまう。
「医務室で合わせてくれれば姿と声、匂いとか色々変えただけじゃ分からないと思った?残念だけどシルヴィアを間違える事はないよ。
けど、この話と今からやる試合は別……ちゃんと優勝してシルヴィア達を返してもらうよ」
「ふふ、無論我が勝てば、約束を守ってもらうぞ」
「そりゃいいけど、確か貴方の言う事を聞くって事だけど何をして欲しいの?」
「それは……………後でな……」
「えぇ?今言ってよ」
アンナが催促しようとすると運悪く闘技場全体に放送が響く。
『さぁ皆さま!3日目となった今日の初戦、もう既にステージ立っているので当然お気付きだろうが現在無敗記録を伸ばし続けている我らが王、カストリア王だ!
そしてその相手は今大会初参加で圧倒的な強さを見せて来た「赤眼の黒猫姫」アンナだ!
今大会の中でも特に人気のある両者が揃い、そして今開戦のゴングが鳴る!』
ゴォーーン‼︎‼︎‼︎
ゴングの音が鳴り響き、大歓声が沸き起こる。アンナは鞘から大太刀「春光」を抜き出し両手で構え、カストリアも鏡のように美しい「アスカロン」を構える。
その姿に観客達の声が止まり、闘技場が静まり返る。今までの試合ではこんな事になる事は一度もなかった。
両者の雰囲気がまるで違い両者共本気でやるのだと伝わった来る。
暫くの間2人は相手の出方を伺い、そして静寂を断ち切り先に動いたのはアンナだ。
剣を横に構え一瞬で間合いまで接近し振り抜く。カストリアもすぐに反応し剣で受け止める。
その瞬間、衝突して軌道が変わった斬撃でステージに一直線で切れる。
観客達は驚くがステージ上にいる2人はそんな事御構い無しで剣戟が始まる。
カストリアがアンナの剣を弾き返すと同時に右斜め上からの斬り下ろす。
アンナは寸前で体を横にしてかわし縦で切り落とすが、カストリアも地面に着く前に剣を振り上げて剣を弾き返す。
だが、アンナは弾き返されそうになるのを耐え、軌道を右に変え横腹を狙う。
それを軌道を先読みしたカストリアは膝蹴りをアンナの剣の側面に当て軌道を外側に逸らし、空いた腹に剣を切り込む。
だが、それを見越したアンナは背中の鞘を左手で取り、カストリアの剣を受け流してそのままの勢いで後ろに下がり体勢を立て直し、両者共また剣を構える。
この壮絶な戦いの間はたったの5秒間と僅かな時間。
それを5分間繰り返し、両者共どちらも攻撃を当てられず無傷でまた剣を構える。
このままいけば体力があるアンナの方が勝つ事はアンナ自身分かっている。
だが、それでは試合に勝って勝負に負けた事になっているようで後々絶対後悔する事になる。それに時間経過でもアンナが勝つ確実な保証がないし、カストリアは何か特殊なスキルで剣を避けている節がある。
「まぁ、この戦いの為に鍛えたんだから使うか」
未知のスキルを使うカストリアを倒すにはこの武技しかない。1ヶ月特訓した成果を見せてやる。
アンナはある決断をすると剣を両手で持ち肘を曲げ、剣が顔の右横、剣先はカストリアに向くように後ろに引く。
初めて見る構えにカストリアは少し興味を持つ。
「ほぅ、その構えは何だ?」
カストリアは返答は期待していなかったが、アンナは不敵な笑みを浮かべる。
「この構えはカストリア王、貴方を倒す技だよ」
「ふっ…ふははははははは!!我を倒すだと?まず我に剣を当てることすら出来ない。我を倒す事は夢のまた夢だ」
実際、今までの攻撃は防がれている。だが、今アンナは外れる事はないと確信している。そしてカストリアが自身に怯えている事は分かっている。
「そうかな?じゃあ、何で私がここまで隙だらけなのに攻撃してこないの?」
「……何、少し興味を持っただけだ。我はその剣の一撃のカウンターでトドメを刺してやろう」
「じゃあ、私の最強の武技をやってあげるよ」
その言葉と共にアンナの周りに紅がまとわり、「春光」が青白く仄かな光を放つ。
先程までとは全く違う雰囲気のアンナが武技を発動する。
「秘剣「八岐大蛇」」
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