嫌な空間
この女がアンナと瓜二つの癖に、アンナと違い胡散臭さ過ぎて好きになれない。それにこの部屋の空気はやっぱり好かない。
アリスは唾を飲み込み、声を出しやすくしてからテーブルに近づく。
「クッキー持ってきたよ」
アリスは皿の中のクッキーが見えるように斜めにして見せる。
「ありがとう、アリス」
クズハがアリスからお皿を受け取る。その瞬間、少し空気が和らぐがすぐに重い空気に変わる。
面倒くさいのは嫌なので、アリスは渡したのですぐに戻ろうと踵を返す。
だが、そう簡単には帰らせてもらえないらしい。
「アリス、貴方も話に参加して欲しいのだけど……いいかな?」
アンナと瓜二つの女、アンネがアリスを引き止めてくる。
はぁっと溜息をつきたい所だが押し殺して振り返える。
「何ですか?私の事なら殆ど話し終えた筈ですが?」
「その話じゃないよ。お伽話の内容で聞きたいことがあってね。「三獣と剣聖の勇者」読んで事はあるだろ?」
「ええ、部屋の中にあったから読んだわ」
「三獣と剣聖の勇者」は三匹の怪獣を聖剣を手に入れた青年が全てを倒し勇者となり人気を得ると言う幼い子供向けのお伽話だ。
「それであの話の何が聞きたいの?」
「あの話で出て来た三獣の名前は知ってるかい?」
この胡散臭い女が知らない筈はないと思いながらも思い出しながら説明して行く。
「ええ、1匹目が鋼鉄のように固く、山のように大きい巨体を持つベヒモス。2匹目が巷で有名になってる海を支配する海竜リヴァイアタン。それで3匹目が………」
あれ?何だっけ……?
三匹目を思い出そうとするが、何だったかかけらさえ思い出せない。
思い出せないアリスを見てアンネは思ってた通りのようで説明を始める。
「やっぱりどんな存在なのか分からないわよね。私も図書館や知人とかに聞いて調べてみたけど、何故か三匹目の獣の名前だけは出て来てなくて、勇者が山に向かっていって殺したとしか書いてないのよ。一応これは昔話だから歳食った奴に聞けばわかると思ったんだけどね…」
「それじゃあ、当然リヴァイアタンは居るとして、もう1匹のベヒモスは存在するの?」
黙って聞いていたセッカが昔話の所で疑問に思う。
「当然居るよ。けど、最近倒されたからリヴァイアタンみたいに復活する事はないよ」
アンネが説明するのに、誰がベヒモスを倒したかは誰も追求しなかった。アンネの圧倒的な強さは出会った時に体験している。
あのセッカとクズハが総がかりで攻めても倒せない相手だ。ベヒモスくらい倒していても不思議ではない。
「居る例があるから不思議なのよね、何であと1匹の情報がないのかしらね…」
「まず何でその3匹目の事を知りたがってるの?入ってきて急にその話を話させて私は何も分からなんだけど?」
アリスは話に流され話していたが、今更冷静に考えて何でこんな事話さないといけないのか訳が分からず少しキレている。
「そんな事より早く私はアンナに会いに獣王国に行きたいんだけど?」
「ダメだ。アンナがこっちに戻ってくるのを待つんだ」
「じゃあ何でヘプタとテトラに何か命令させて、何処かに行かせてるのよ。私達はここでじっとしてるのもおかしいと思うわ。前回はちゃんとした理由をはぐらかされたけど、今回はちゃんと教えてもらわないと私は納得しないわよ」
「理由は言えないが次期にやる事がある。それまで待つんだ」
「はぁ?だから説明を…」
「アリス落ち着いて」
突っかかりに行こうとしたアリスをクズハは腕を掴んで引き止める。
このままではアリスが怒って大変な事になると思いクズハは立ち上がってアリスの腕の脇を持ち上げて外に出る。
扉をちゃんと閉めて暴れているアリスを下ろす。
「何するのよクズハ!」
「それはこちらの台詞です。アリス、あのままだとアンネに突撃して、今頃どうなってたと思ってるのよ」
「ちょっと宿が半壊するくらい…」
「それをするなって前から言ってますよっね!」
クズハは溜息をつきながらアリスの頭にかなり弱めにチョップする。
「痛っったーーー!!!」
「まだ手心を加えただけ感謝しなさい」
頭を抱えて蹲るアリスにクズハはしゃがみ込む。
「マスターについての話は聞いたでしょ。拙もセッカ達も、マスター以外の人物からの命令でも我慢してやってるのですから、アリスも今は我慢してください」
「………分かってるわよ。私が悪かったわよ」
アンナについての事は前回聞いている。だから尚更私は何も知らないアンナに早く会って伝えたいのだ。こんな所でただじっとして待っているなんて嫌なのだ。
アリスは不満そうな顔で立ち上がり、会った時とは違う姿のクズハを見つめる。アンナが居なくなった日に自身を攻め長かった髪を切ったのだ。今ではやっと肩にかかる程度まで伸びてきている。
だから、アリスよりアンナと昔から一緒に居たクズハが一番会いたい筈だ。そのクズハに我慢してくれと頼まれたら我慢せざるおえない。
「……自室に戻ってる」
そう言うとアリスはすぐ横の自室に入り、ベッドで横になり、頭を抑えながらアンナの事を考える。
あの女の事は信じられない。だから、初めて会った日に言われた事、アンナについて言われた事が今だに信じられていない。
そしてその話が私に関係して来るとは想像もしていなかった。
「あり得ない…………何でアンナが「神の器」なのよ……」
かなり遅れましたが再開します。
よければブックマークと下の評価ボタンを押してください。執筆が捗ります。不備な点があれば報告お願いします。