第8試合
棄権放送を聞いて一番驚いたのは当然相棒であるアリアだ。
2試合後で対戦相手も強者なので真剣にいこうと準備している最中にその放送が流れ、説明を聞きに、ドアを思いっきり開けて控え室から飛び出してジョーを探していた。
何があったか聞き出さないといけない。昨日まで入賞はするといってたでしょ。
アリアは控え室や通路を隈なく探して行き、選手だけの通路の出口付近で係りの人と話しているのをやっと見つける。
「ジョーッッ!どういう事よ!説明しなさい!」
係りの人と話している間に入ってジョーに向くと、意外にもジョーは驚いた表情だけで嫌そうにはせず話し始める。
「丁度良かった、探そうと思ってたところだ」
「こっちが散々探したわよ!………ふぅ、起こってごめん。それで、何で棄権したのよ」
「昨日、アリアが消えてからずっと悪い予感が流れている。だから、棄権した」
冗談のような事だが、ジョーは真剣に言っている。ジョーの予知はかなりの制度で悪い意味で当たる。
前例もあり、最近ではマール奪還の依頼を見て、悪い予感が見えたから受けない方がいいと言われた事だ。
その時は後々やる事でここを通るから先に片付けておくのがいいと私が説得して依頼を受けたのだが、結果はアンナが居なければかなりやばかった。
その為、私も一応信じているが、ジョーは私以上に信じているため、今日の試合を棄権したのだろうが気になることがあった。
「けど、試合は怪我は絶対に負わないから、悪い事なんて起きる筈ないでしょ?」
この闘技場のステージ上はある程度の傷を負うと退場するシステムである。悪い予感が見えたとしても棄権する程ではない筈だ。
「初めはそう思っていたが何かあるかもと思って棄権したんだが、俺がこの試合に出なくても悪い予感が消えなかった。
だから、あと1、2日後には悪い事が起こる。だから、アリアも棄権してこの大会、闘技場から離れた場所、王都以外に移動しないか?」
「えぇ!?そこまでの事なの?」
いつも悪い予感がした時でも、ここまで言う事は一度も無かった。
「かなり酷い筈だ。マール奪還よりはかなり大ごとになる」
ジョーはかなり切迫している。
本当にただ事ではないようだが、私には大切な人の約束事がある。
「別に入賞は逃してもいいんだけど……アンナの手伝いもしないと……」
「………そうだったな…」
ジョーも悪い予感の事ですっかり忘れていたようだ。
「じゃあ、明日までにしない?今晩全力で探して見つけて取り返して、朝一みんなで王都から出る。これで良くない?」
この状態のジョーに納得して貰えるのは、ここまでが限界かと思う所で提案する。
ジョーはそれを聞き、少し考え答える。
「そうしよう。アンナには借りもあるから、返さないといけないしな。それでアリアは試合どうする?」
「うーん……試合はするよ、流石に2人も棄権して、試合がなくなったら観客の人達が悲しむだろうしね。それに負けたら負けでいいけど、勝ったら入賞金だけ貰って明日は棄権するよ」
「そうか……試合を早めてしまってすまん」
「そんな事別にいいわよ。ただ今度からは私に先に説明してからして欲しいけどね。
あ、それとも相手が女だったから嫌だったとか?」
少し揶揄って言ってみると、意外にもジョーは少し俯く。
「……まぁ、あまりな……」
「私相手の練習では手加減もしない癖に?」
「アリアは別だろ」
「酷い!」
「はいはい……試合頑張って来いよ」
アリアの頭をポンと叩き、ジョーは外に出て行いった。
アリアは少し恥ずかしくなるが、少し微笑んで控え室に戻って行った。
それから数分後、第7試合を飛ばして第8試合の準備が終わり、アリアは控え室から出てステージに向かう。
さっきの話を聞いてからの試合なので、変に警戒してしまう。
「はぁ、駄目ね。気をちゃんとしないと」
深呼吸してから出て行き、歓声の中ステージに向かって歩いて行く。
自身の方が早いと思っていたが既に相手は着いていて、アンナ程の背の低さの金髪の獣人青年、トルコが指定された場所で腕を組んで仁王立ちしていた。
早いなぁと思いながら指定された場所まで歩いて行き足を止めると、トルコが声をかける。
「案外早くに来たな」
「いつもは相手の選手は遅いんですか」
「そうだな、ちんたらちんたら何をしてるのやら。それに比べてお主は早いものだ、やる気がありそうだ」
「いえいえ、それほどでも」
「そう悲観するな。我と戦える事を楽しめ」
嫌よ!何で初戦で軍隊長と戦わなくちゃいけないのよ!やっぱり棄権した方が良かったかも…。
そんな事は言えないので苦笑するしか無かった。
あ、そうだアンナは今見てるのかな。
面倒な事から切り替えて、観客席にいる筈のアンナを探し出す。
自分が観客席で見ていた風景を思い出して、逆から見た時を考えそちらを見ると、アンナが見つかり、アンナもこちらが見ている事に気付いてこちらに笑顔で手を振って応援してくれる………可愛い。
やる気が出てきた所で実況のザックの声と共に試合のゴングが鳴り響く。
その音と同時にトルコは一気に私に迫り、拳で殴ってくるのを剣を即座に抜き刀身で受ける。
軽く後ろに後退させられる程の威力で防いで無かったらと思うとヒヤリとする。
「ほぉ、我の拳を受け止めるか」
「防いでなかったら吹き飛んでわよ」
「そのつもりだったからな!」
再度接近して来るが、2度も同じ事はさせない。私は剣を構えてカウンター狙いで受けようとしたが、トルコは急に立ち止まった。
「あら、攻撃してこないの?」
「……その剣で切られたらアウトと我の体が行っているのだが?」
私は少し驚く。流石は獣人なのかこの剣の能力を察知しているようだ。
今私が持っている漆黒の剣、四凶の1つ「混沌」だ。効果は一回につき1つの五感を不能にすることが出来る。だが、一回で一気に魔力を喰うので私は一回しか出来ない。
このまま近付かれないのも面倒なので少し挑発する。
「へぇ〜じゃあ、近付かないの?」
「いや、近付かないと殴れないからな。斬られん速さで動けばいいだけだ」
脳筋!?
馬鹿な事だと思ったが、コルトはさっきより速い速度で一気に接近して来る。
驚くがすぐに剣を構えて、迫り来る右手の拳とぶつかり合わせると、金属音が響き渡る。
何て硬さの拳なの!?
マズイと思いすぐに退がるが、トルコは拳なのでインターバルが速く。踏み込み次は左手で拳を打ち込んでくる。
こんな私でも元ASOプレイヤーだ。これぐらいならどうにか出来る。
剣の柄を両手で一気に持ち上げて、拳を弾き返し、ガラ空きになった体に斬りかかる。
だが、驚くことにトルコは右腕で剣を受け止め、ニヤリと笑うと左手で私の腹を殴り、後ろに吹き飛ばす。
「はっ、これこそが我の戦い方よ!」
トルコは自信満々で高笑いしているがある事を忘れているようで、一瞬で目の前が真っ暗になる。
トルコが突然の事で驚いている中、私は立ち上がり戸惑っている姿を見て少し笑ってしまう。
「普通は兄が王になると思ってましたけど、何でなってないか分かりましたよ」
「な、何だと!」
「トルコさん、物忘れ激しすぎません?」
「よく妹に言われるが今会ったばかりのお主に言われたくない!それに見が見えなくとも鼻、耳があるわ!」
目が見えてない筈だが、トルコは私がいる方向を正確に分かっているようで一気に距離を詰めて来るが、さっきより少し速度が落ちている。
もっと苦労すると思ったが、この人が結構馬鹿で助かった。1つでも情報が奪えるのなら、どれだけ強くても簡単になる。
私は剣先をトルコに向けて武技を放つ。
「片手剣四ノ型「凸」」
放つ寸前でトルコは何かを感じ避けようとするが遅い。剣は左手を貫くとそのまま体を切り裂き、トルコを場外に消し飛ばす。
「ふぅ、簡単に終わってよかった……」
私の溜息と同時に試合終了のゴングが鳴り響いたのだった。
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