ビンタ
第4試合が終わってちょうど昼休みに入り、アリアは先程「キャッチに捕まった」と言い訳を言って帰ってきたジョーが買ってきた肉の串焼きを食べながら、アーギットとフミヨと話していた。
「まだ戻ってこないのかな……」
「心配し過ぎじゃない?スイゲツさんはかなり強いよ」
「そうだけど、アンナがステージから退場してから、ずっと帰ってこないから……」
「出て来たアンナさんを捕まえる為に準備してるとか?」
「私達に説明もなしに?」
「あとで説明するんじゃない?」
「そうかなぁ……」
スイゲツの事を心配のしすぎなのかと思うアリアは串焼きに齧り付き、さっきの放送で自身が出る試合がもう少しなのを思い返す。
今話している4人全員が決まっていて、第5試合が第1グループの勝者鮮血のクリムゾンファンクとアーギット。
第6試合が第8グループの勝者黒煙のナギメとフミヨ。
第7試合が第4グループの勝者リリアと「赤の旅団」レッドラインのジョーとなっている。
そして第8試合が現軍隊長で国王カストリアの兄である拳獅子のトルコと私である。
トルコは身長は小さいが第3グループでは闘獅子が如く、自身より体の大きい選手を殴り飛ばし暴れまくり、軍隊長の地位を持つ程の力があった。
「あんな相手と戦いたくないなぁ…」
「次の試合のことでも考えてるの?」
「フミヨは次はまだ相性が良さそうな相手でいいじゃん。私は軍隊長とよ、接近戦で勝てる見込みがないんだけど…」
「大丈夫、アリアもそれぐらいの強さはある。元ASOプレイヤーなら勝てるよ。それともアンナさん相手の方がいいと思う?」
「無理よ、万全の状態で挑んでも勝てないわ………そう考えたら勝てる気がしてきた」
「そうそう、アリアはアンナさんと相手した事あるから、比べたら大体の人は弱く感じるよ」
「フミヨもあるでしょ」
「ASOの中で、ほぼ秒殺だよ。アーギットは私より2本の槍で頑張って健闘してたよ。その後「アンナさんは絶対にリアルで侍やってる」とか言ってて笑っちゃったよ」
「あー、その気持ちは分かるわ。けど、流石に侍わね…」
「まぁ、侍じゃないけど変わった道場には通ってたよ」
「え、そうなの………」
後ろからの声に反応して振り返り、その姿を見て驚く。黒髪に猫耳を生やした少女、アンナが立っていた。
「そんな事より……アリアを傷付けてごめんなさい………私がクロワに不用意に近付いて巻き込んでしまって……」
アンナが謝罪を言い終わる前にアリアはアンナの顔をビンタし、胸に抱き着いて思いっきり抱き締める。
「本当、心配したんだから………私より自分の心配をしなさいよ……馬鹿…」
「アリアは胸をやられ」
「煩い!私はアンナの事が心配だったのよ!」
「ご、ごめん……本当にごめん」
アンナは怒声に少し驚き少し慌てるが、抱き着いて来て初めは気づかなかったがアリアが声を抑えて泣いているのに気付き、謝罪するより抱き締めるのだった。
アリアは数分間泣き止んだ後、周りの観客達に見られているのに気がつき、アンナから離れて説明を求めるように少し叱りながら言い、スイゲツとアンナは今まであった事を説明していった。
「そして今はクロワはスイゲツの中に居て回復してるの」
「じゃあ、今はクロワの核を取ったやつを探さないといけないのか。クロワから取ったやつをの心当たりはあるの?」
「十中八九「レディース」のリーダー、レイアだろうが、わざわざ試合に出す体が持たずに他の分体が持ってるかもしれんから、彼奴が持ってるかは分からんな。我ならそうするし」
「じゃあ、次の試合で出てくるか分からないけど、もしも出て来たレイアを捕まえて尋問でもするの?」
アンナがスイゲツに質問すると首を横に降る。
「いや、捕まえても無謀に終わりそうだからやめとこう」
「え、なんで?」
「持っていない奴だったら、誰が持ってるか喋っても、その時にはもう違う奴に持ち替えてる可能性があるからな。しらみ潰しで全員捕まえるのなら別だがな」
「それは面倒だし他国に逃げられたら何も出来ないしね」
「いや、逃げないだろ」
アンナが納得して話しているとスイゲツは驚いた表情で否定する。
「え、私達が捕まえようとしてたら普通逃げない?」
「まぁ、普通の考え方ならな。だが、相手はクロワの分体だ。ただ自身の欲望の為に動いてる奴だからな、考えてる事は単純だ。アンナ、お主を自身の手中に納めたい、ただそれだけだ。他の事は二の次に考えるだろうな。
だが、核をクロワに戻されてはどうする事も出来ないから、核がまだ馴染んでない今は何もして来ないんだと思うぞ」
アンナは少し引きながら苦笑し、アリアは何故分体が核を取ったか謎だったがその説明で納得する。
「言っても後2、3時間後で馴染むとは思うから、気を付けないといけないぞ。アンナだけでなくここに居る全員がな」
アンナとアリアは前回の事があるので納得して分かっていたが、アーギット、フミヨ、ジョーは驚く。
「別に俺らは問題ないと思うけど…」
「私達に関わってる時点でアウトだ。もしお前達が分体に捕まって、アンナを寄越せと脅されたらアンナは普通に捕まりに行くぞ」
スイゲツはアンナは仲間の脅しには絶対に、キレるか自身の身を呈して助けるかなので捕まるのは見えている。
少しは考えてから動いて欲しいとアンナを見るとアンナはスイゲツから目を逸らして串焼きを食べている。
図星だな。
「だから、今後は全員気を付けくれ。3人1組で動いてくれると嬉しいが……いけるか?」
「うーん、この後の試合出るので4人、試合に出るから2人っきりになるけど」
「それは大丈夫だ。流石にこの人の中ではしないだろう、騒ぎになっても彼奴らに得な事はないからな」
「それじゃあ、しらみ潰しで探すしかないじゃない」
「それはいいが、探せる奴は誰がいる?まず第一に「鑑定」は持ってないと探せないぞ」
アンナは「賢者のモノクル」を持っている事を知っているスイゲツはアンナを除いた4人を見て質問すると、3人が自信満々で答える。
「私持ってる」
「俺も」
「同じく私も」
アリアとアーギットはアンナと同じく「賢者のモノクル」を持っていて、フミヨは「鑑定」スキルを取得しているのを確認したスイゲツは少し考え出し、少ししてから説明始める。
「今日、今晩から探してみようか。3人1組、我とアンナ、アリアで他の3人で1組で探す事にしよう。他は…」
スイゲツが説明している最中に選手の招集の放送が流れ、説明が途切れる。
「詳しくは全試合が終わってからにするか。皆んな試合頑張って来い」
「はい、行ってきます!」
「勝って次の試合で戦おうね」
「「「「それは遠慮します」」」」
4人ともハモってアンナに返し、勝ちたいけど次の試合でアンナと当たりたくないと思いながら招集場所に向かったのだった。
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