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氷雪の灯火を抱いて④



突然の銃声の体が跳ね上がり、すぐに起き上がる。


何があった!?

自身の身に何も起きてない事を確認すると、クラウディアが部屋中見渡しても居ないことに気付く。

倉庫かキッチンか他の部屋に行ったと思いたいが、逆にさっきの音を聞いてどこからも出てこないクラウディアは外に居るのではないかと考えてしまう。


「いや、まずさっきのが銃声かも分からないな。私が勝手に判断しただけだし」


言い聞かせて納得させようとするが、逆にますますクラウディアの事が心配になり、周りの部屋に水のチューブで水路を作り、全部屋を見て行くが、人の気配はない。水路近くの窓に水路を作って移動して少し警戒しながら外を見る。

だが、いつも通り吹雪で雪が舞っていて、一面真っ白で何も見えない。

仕方ないと、思って諦めて戻ろうとした瞬間にまた銃声が轟き、続けて2度銃声が轟く。


先程とは違い意識して聞いていた為、聞き間違えるはずがなく銃声だと確実に分かる。

この4日間、毎日外に出るのに使ったドアまで水路を作り移動しドアを慎重に開ける。


冷気がドアの隙間から流れ入ってきて、いつもならスイゲツはすぐに凍えるのだが、そんな事を気にする暇もなく、逆に心臓が高鳴り暑苦しくなってくる。


息を飲み込み、少しずつ開いて行くと、ドアの開いた隙間に人の指が突如出て来て、ガシッとドアを掴んでドアを開いて入ってくる。

一気に警戒し臨戦態勢になったスイゲツだが、入ってきた人物を見て血の気が引く。自身が考えていた中で1番最悪の事態、クラウディアが頭と腹から血を流して、腹を抑えて部屋の中に崩れて床に血が広がる。


「おい、クラウディア!何があった!」


クラウディアを水の腕で掴み、同時にドアも鍵を閉める。苦しみながらもクラウディアは話し始める。


「………サルバドル帝国の、クズ共に………腹を撃たれたのよ……」


「見せて!ある程度の止血は出来る」


すぐに手当てしようとするが、クラウディアが手でスイゲツを止める。


「………結構な量を流しちゃってるから……もう限界なの……………」


「待て!まだ時間はある。まずは出来る事をやってから、そんな事を…考えて…」


「そんなに時間はないわ………道中で彼奴らをまいたけど、白服に赤い紋章が入ってた………改造人間集団よ………ここもすぐに見つかるわ」


「だけど、時間は稼いだんでしょ。確か裏口あったよね、そこから逃げるよ」


担いで運ぼうとするが、小さく非力なスイゲツの体ではもう動けないクラウディアを運ぶ事すら難しいが、少しずつと運んでいく。


「スイゲツ………鑑定を出来る貴女が今の私を見て分からない筈がないでしょ。

私はもう死ぬわ」


それは今私が1番聞きたくない言葉だ。スイゲツは何も答えずに引っ張って行く。


「私ね………スイゲツ、貴女だけでも助かって欲しいの………だから、私をこの場で私を殺して、その全てを食らって貴女の血肉になりたいの……」


何を言ってるんだ!?

声が出ない程驚き、クラウディアを見る。


「もう気付いてると思うけど……私はサルバドル帝国で奴隷として生きてたの


親を殺されてから一生奴隷生活だと思ってたわ………けど、50年くらい経った時にある人に助けて貰って、逃げ出す事が出来て…ここまで来れば安心して暮らせると思って………10年間誰とも会わずに1人っきりでずっと住んでた


だから、スイゲツと会ってからこの5日間、話たり、食べたり、遊んだり……とても楽しかった………それに奴隷仲間は居たけど、今まで友達はいなかったんだ。スイゲツが初めての友達、いや親友だよ……


だから、唯一出来た親友にはこんな所で死んでほしくない………それに私は彼奴らにだけは殺されたくないの……


今大好きな人の手で看取って貰うか、あのクズ共に負わされた傷で殺されるか………スイゲツ、貴女ならやってくれるわよね…」


クラウディアが言った通り、私が見た限り余命はもう数分、いや数秒だけだろう。今のクラウディアなら一撃で、痛み無く殺せる。

それにたかが5日間だけ、寝泊まりを一緒にしただけの仲だ。




だけだが、私は想像以上にクラウディアの事が、アンナと同等くらい好きになっていた。

恥じらってきた本来の私の事を初めて見破り、本来の私は綺麗だと言ってくれた。


アンナとは主従関係の仲だであり、付き合いがある妖精達とは話し合わせるだけで、私にとっても初めての真の友達だと思えたのがクラウディアだった。


だからこそ、たった1人の親友にはこう答える。


「分かった。その唯一の親友、このスイゲツが願いを叶えるよ」


「ふふ、流石スイゲツ、分かってる………あと2つだけお願い聞いてくれる」


「いいよ、1つが3つになるだけだし」


「……私を奴隷から解放してくれた人……名前は分からないけど赤と黄色の変わった髪だし、多分私の記憶も見ると思うからすぐ分かるわ………無理して探さず、偶然見つけた時にお礼を言ってくれたらいいわ……

あとは私の姿になれたら、それを使ってくれない?私の存在を証明する為だと思って……嫌ならいいんだけどね……」


「分かった。その願いも必ず叶える」


それを聞き、クラウディアは少し笑いながら目を閉じ、スイゲツは片手を鋭利に変える。

祈るように手を組みクラウディアが小さな声で呟く。






「ありがとう………」


安心して眠ってくれ。

願いは必ず叶え、そして仇はとる……。








吹雪の中、凍える様子もなく銃を片手に持って、探し物をしている5人組、ガスマスクを被り白い服に赤い刺繍が入った改造人間でありこの雪山のスペシャリストの隊「ホワイトブロード」がいた。「ホワイトブロード」サルバドル帝国で住む人は聞いたことはない程有名である。


だが、そのスペシャリストの集団が、たかが獲物1体に巻かれてしまっていたのだ。


「なぁ、こっちなのか?」


「多分こっちだが………って、俺に文句があるなら自分で探せ、元はと言えばお前が逃したからだろ」


若い青年の声で質問した隊の一員、ユグは同じ隊の先輩のサルベに呆れられていた。


「はいはい、ごめんなさいねー!初めは兎かと思ってたんだよ。まさか元奴隷だとは思わなくてよ」


「それでもだ、頭を掠らせただけとはみっともない」


「おいおい、2人ともあまり大きい声を上げるなよ。俺が腹と胸に2発当てたから、すぐにくたばると思うが逃げられたら面倒だろ」


そこにこの隊の隊長、ベッツはいつもの事だと思いながらも少し叱る。


「ベッツさんが撃ってなかったら、普通に逃げられてますよね」


「人任せはいかんぞ。俺もそろそろ引退しようか考えてるぐらいだからな」


また銃を担いだ女性ルーユと頭をかいているスブムが更に話の輪に入る。


「私達より強い人を抜かす隊はありませんよ。まだまだ頑張ってもらわないと」


「お前達はいいかもしれんが、俺はお偉いさん方と会うのは毎回辛いんだぞ」


「ベッツさん、それは言ってはダメです。減給されますよ」


「なら、変わってほしいものだな」


「「「「………」」」」


「おい、一斉に黙るなよなぁ……」


マスク越しでも聞こえたベッツの溜息で全員笑い始める。


「もう笑うのやめ!さっさと仕事を終わらせるぞ。まず仕事の内容分かってるよな?」


「分かってますよ。新しく仕入れる肉、材料の調達、あとはあとは逃げた奴隷の処分ですね」


「そうだ。まずは探すか………って思ってると案外すぐに見つかるものだな」


ベッツは隊員に目を配ると全員から頷きが帰ってくる。


「あっちから出て来てくれたようだな………それじゃあ、狩りの時間だ。魔法使い相手でいつも通りで行くぞ」


4人は頷くとルーユとユグは迂回して目標の裏に回り、スブムとサルベは真正面から牽制するため、銃を構えながらゆっくり歩いて行く。


さて、確かあの綺麗な肌と白銀の髪は雪石人だったか。あまり傷付けずに売れば、かなりの金額になるな。

連絡しないといけないか………いや、富裕層に生きたまま連れて来いとかほざいた奴が出て来るから、連絡は殺してからでいいか。


そう考えながら雪を少し掘り、その掘った雪で壁を作るとそこに横になって銃を構える。


吹雪の中だがスコープではしっかりと先が見え、目的の獲物を目視する。だが、獲物の姿の筈だが、何故か目的の獲物とは違う、何とも言えない違和感があった。

すぐに裏手に回っているルーユに無線を入れる。


(ルーユ、獲物は見えているか?)


(ええ、こちからも目視出来てますよ)


(何か違和感はないか?)


(そう言われれば………服に付いている筈だの血痕が無いです。この近くに隠れ家があると考えると、手当てをして着替えたからでしょうかね)


腹に撃ったら服には血痕が付いている筈だが、残ってないという事はそういう事だろう。


(そうかすまないな、変なことを聞いて。この後は作戦通りに行ってくれ)


(了解です)


通話が切れ、ベッツはもう一度見るが、服を着替えただけでは無い。何か異質な物が混ざっている感じがする。


そんな事を思っているうちに、銃声が鳴り始める。

今回は魔法使い相手で、前進している2人が銃で牽制して、後ろから回っている2人も加勢し、その場に止まらせてベッツが遠距離からの狙撃で撃ち殺す、途中で死んでもいいような楽な計画だ。


4人が止める事に成功しているようだな、獲物との距離は大体300mって所か。

払拭し消えない思いのまま、目標の頭に狙いを定めて、深呼吸して引き金を引く。


轟く銃声と共に打ち出された弾丸は、吹雪に負けずに一直線に飛んでいき、獲物の頭にヒットし崩れて倒れる。


簡単な仕事だった……結局何で変な事を思ったんだろうな。

ベッツが頭をかきながら立ち上がり、無線を入れるがザーッと砂嵐しか流れて来ない。


「故障か?まぁ、帰ったら新しいのに新調するか」


隊員と連絡がつかないが、獲物の場所まで行けば会えるだろうと考えて歩いて行く。


300mなんてすぐ近くだと思いながら、一直線に歩いて行くが、一向に辿り着かなし、いつまで経っても他の隊員と全く合わない。

まさかと思い、今まで歩いて来た雪についた足跡を辿っていくが、一向に穴を掘った所までつかない。


「嵌められた。ここは閉鎖空間か、閉じ込められたか……」


「気づくのが早い。それが「鏡花水月」の効果だ」


背後から急に声がして振り返り銃を向けるが誰も居ない。


「ふふふ、さて、我は何処にいるでしょう。そのお得意のレーダーで探ってもいいよ」


ちっ、ほざきやがれ!

レーダーでもう既に見つけていて、銃口だけ背後に向けて引き金を引く。

ちゃんと当たったか確認する為振り返ると、衝撃の光景が写る。

そこには茶色い髪の女性、ルーユが胸から血を流して、驚きの表情で立っていた。


「た、隊長、なんで貴方が……がはぁっ」


「ルーユ!」


血を吐き出しその場にうつ伏せになり、ベッツはすぐに近づいて抱き抱える。


「すまない、レーダーのミスで撃ち間違えたすぐに止血をする」


「隊長………」


「本当にすまない、すぐに手当てを………」


ベッツは止血道具を取り出す最中に、自身の胸につららが突き刺さり、血が流れ出てくる。

つららを突き刺された方向、真正面を見ると目の前で胸を打たれた筈のルーユがニヤリと笑いながらつららを突き刺して来ていた。


「お前は……誰だ……」


「ルーユですよ。た、い、ちょ、う!」


ルーユはそして更につららを押し込んで来て、ベッツは両手で抑えようとするが自身の方が力は強い筈なのに押し込まれて、そのまま後ろに倒される。


「ぐぅ………ルーユ、お前はいったい……」


「まぁ、お気付きでしょうから、ネタばらししますね」


ルーユがそう言うと周りの吹雪がルーユを包んで行き、数秒するとその中から目的の獲物、雪石人が立っていた。


「レーダーも騙されたと思ったでしょ?残念だけどワザとレーダーだけは使用できるようにしたんだ。油断した隙を確実に決めれるからね……」


「ルーユは……」


「ルーユ?ああ、さっきの女?あいつはどっかで雪崩にあって、雪で生き埋めになってると思うわ。近くにいたもう1人の男も同様にね。

あと、他の2人も銃が効かないとかほざいて、魔法を打って来たけど、それすら効かなくて、1人が発狂して襲って来て、もう1人はまだちゃんと何か策を立てようとしたんだろうけど………まぁ、返り討ちにしてやったわ。多分、そこらでスライスされた肉片があるから調べてみて。あ、貴方もここで死ぬから調べられないか、ゴメンね」


「この狂人が……」


血を吐きながらベッツが言うと、その女はしゃがんで顔を掴み自身の目線にまで持ち上げ、虚ろな目で見てくる。


「何言ってるの?殺しに来てる貴方達が、まさか自分が殺される覚悟が無いの?これまで何人やってきた?軽く100人はやってるでしょ?だから人の事言えないし、こんな事されても文句は言えない」


顔を掴んだまま真下の雪に顔面を叩きつけて、また持ち上げて叩きつけ、また持ち上げて叩きつけて、また持ち上げて叩きつけて、また持ち上げて叩きつけて、また持ち上げて叩きつけてを繰り返し繰り返す。


初めは顔が当たるたびに声を上げていたベッツだが、回数が増える毎に段々と声が上がらなくなり、顔面が叩きつけられた雪は真っ赤に濁り、段々と広がって来て辺り一面が真っ赤になった頃にベッツの鼓動が止まる。


全身返り血で血まみれになっているスイゲツはその場にベッツの死体を放り捨てると、上から眩しい光が入る。

見上げると吹雪が晴れて、スポットライトのようにスイゲツを照らすように日光が入ってくる。


「………やったよ、クラウディア。仇はとった……」


やり遂げたと歓喜が湧き上がると思ったが、何か虚しい気持ちになる。


これはただのやり返し、あの屑な彼奴らと同じ事をしただけではないのか。

そう思い始めて、このクラウディアの体を使い、血で汚してしまった。しかも1番触れたくもないサルバドル帝国の人間の血だ。


私は私欲の為だけにこの体を使ってしまったのか………とんだ屑で最悪な奴だな………クラウディアの頼みに反するけど、今後は一切使わないでおこうか。


この血溜まりから歩いて抜け出すと吹雪の中に入って行き、スイゲツはすぐに元の水妖精の姿に戻り、瓶に蓋を閉めて閉篭もる。


この寒さで自身を戒めようとするが、初日のように凍える事はなく、親友の力で暖かく感じるのだった。




本当にこんな自分が嫌になる。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



寝ていたはずなのに嫌な事を思い出した。これは私の姿の話をしたアンナのせいだ。

それにもう使わないと誓ったはずなのに使っちゃったな………。


そう心の中で嘆いていると瓶が叩かれて揺れる。アンナのお呼びと思い顔を出すとすでに闘技場内に入っていた。


「それじゃあ、みんなの所に案内してね」


そうだ、今は嘆いてる暇はない。

アンナ、クロワ、仲間の為にも頑張らないといけないな。これ以上、友は失いたくはない。


深呼吸をして気持ちを切り替え、スイゲツはアンナを案内するのだった。



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