氷雪の灯火を抱いて③
クォタの実を食べ終わった後は、アンナの元に戻る為どうするか考えるが、今いる場所からアンナの居る場所まで、距離も方角も分からないときたらどうする事も出来ない。
その為、この雪山の頂上まで登り、上から見渡せば何か分かると思いクラウディアに提案したが、「頂上付近は晴れてるけど、雲で下は全く見えないわよ」と言われ、アンナの元に戻りたい事を話すと協力してくれて、2人で考えるが最悪の行動、山を降りる事しか考えつかなかった。
普通は山に降りる事が最悪だとは思わないと思う。クラウディアは雪を避けながら歩けるならなお当然だろと思うが、降りる場所が悪い。
降りる場所は2つあり、片方は数多の有害昆虫達が自身の縄張りを広げる為、そこら中で争いが絶えない「紛争樹海」でクラウディア曰く、この山の雪崩が直撃しても無傷な化け物昆虫ばかりらしい。
そしてもう片方は先程クラウディアが嫌って言っていたサルバドル帝国である。
どちらに降りても最悪であり、私はアンナに一生会えない気がして少し絶望した。
だが、この絶望したのが良かったのか、ホールでの話の5日間で元の場所に戻る事を思い出すことが出来た。
それを思い出し、嬉しみのあまり、表情を出さないスイゲツが少し舞うほどだった。
そして安心したら逆にやる事がなくなってしまい、今は2人の自身のことについて、クラウディアが持って来た酒を呑みながら話していた。
「アンナはね、主要武器が大太刀にしてるんだけど、他の槍や矛なんかも使えて魔法以外何でも出来るオールラウンダーなのよ。凄いでしょ?
けど、結構油断する癖があって、弱い敵が来たら、剣抜かずに素手で突掴もうとするのよ。けど、勝てちゃうから更に油断するんだけどね〜〜だから、かなり強い敵が出て来た時にかなり焦るんだけどね。だから、私が本番前にはルーティーンでも作って集中してみればって言ったら、目を閉じてすぐに瞑想出来たんだよ。もう1種の天才だと思うよ。それに初めてあった時はーー」
「ちょ、ちょっと休憩しない?ほら、お酒飲んで」
クラウディアは1時間前からぶっ通しで、スイゲツの主人、アンナの話を聞いていて、流石に色々とヤバイと思い始めて酒を進める。
「うん、ありがとう」
スイゲツ専用の小さなジョッキに酒を注ぐ。スイゲツは酒が注がれているのをぼーっと見ている。
「このお酒は何で作ったの?」
「え、鑑定で分かったりしないの?」
「鑑定はその物自体が分かるだけで、造り方なんかは分からないよ。製作者がクラウディアで、名前が「白昼夢」って事くらい」
「へぇー……これはさっきのクォタの実を使って作ったお酒よ。雪解け水も使ってくから、結構飲みやすいでしょ?」
そう言われてスイゲツは酒を口に含み味わう。
「うん、飲みやすい。味もスッキリしているけど、甘みがあっていいかも」
「それじゃあ、次は鼻をつまんで飲んでみて」
スイゲツは頭に?を浮かべながら飲んでみると少し驚いた表情になる。
「………あれ?甘くない」
「そうなのよ、凄いでしょ」
「な、何で?」
「ふふ……………私も分からないわ」
「分からないのかよ!知ってる素ぶりだったでしょ!」
「私が何となくで作ったお酒だから、よく分かってないのよね………多分、クォタの実のせいだと思うけど」
「ふーん………」
私も帰ったら調べてみようか。
そう思いながら、また酒を口に含み味う。
「ねぇ、妖精って果実とかの魔力を吸えば吸うほど強くなるって聞くけどどうなの?」
「まぁ、強くなるかな。別に果実じゃなくてなんでもいいんだけどね」
「へー、じゃあ、人とかも食べた事あるの?」
「いや、無いよ。食べたことある奴が言ってた話じゃ、苦くてとても食えたもんじゃ無いって話だよ。多分、その人の性格によるんじゃ無いかな、食べた相手は結構人使い悪い人だったらしいし」
「人も育て方次第で味が変わるものか」
「違いない」
2人で笑い合い、お酒を楽しみながらクラウディアと楽しく話し合っていた。
「んんぅ………ああ、いつの間に寝てたのか」
淡い光しかない部屋の中、机でうっぷして寝ていたクラウディアは目が覚め、半開きの目で顔を上げる。
ぼーっとしていると目の前の瓶でスイゲツが小さな声で寝言を言っているのに気付き、さっきまでの楽しいひと時が夢でなかった事に安心する。
久し振りに誰かと話した。いつ振りだろうか、サルバドル帝国から逃げ出してから10年、彼奴らに見つからないよう過ごして来たからずっと話してなかった。だからか、久し振り過ぎて、お酒がかなり進んだ。
それにスイゲツの話もなかなか良く、初めのスイゲツの主人、アンナについての話で思った事があった。
酒の席の自慢話で1時間同じ人の話をして、全く被らないスイゲツの主人、アンナはとても良い人なのだろうと染み染みと思う。
そしてスイゲツは自身の事よりアンナの事を親のようにかなり心配しているようだった。
だからこそ、親を殺され奴隷生活をして来たクラウディアにとってはとても羨ましく、少し妬ましい話だった。
「はぁ………水でも飲も……」
クラウディアは椅子から立ち上がり、キッチンに向かった。このおかしな気持ちを抑えは為に。
それから毎日、スイゲツと山の景色を見て歩き回り食材を取ったり、その食材で料理を作ったりして、お酒を飲みながらスイゲツから山の外の話を聞いたり、またアンナの話を聞いたりして、クラウディアにとって、自身のポカリと開いた体の穴が埋まっていくかのような、とても楽しい日々が続いた。
そしてスイゲツが元の場所に帰る5日目の直前の日、4日目の晩になり、盛大にしようと色々と準備するクラウディアは、材料を切っている間に、今まであった事を思い出す。
「あーー……楽しかったなぁ…」
こんな事を思い出しても、ただ悲しくなるだけで、スイゲツが出て行くのは変わらないのに、何をしてるんだ私は……この涙は玉ねぎのせいだ。
少し泣きかけているのを腕で拭うと、調理を再開し、出来上がるとスイゲツが待つテーブルに持って行く。
「お待たせ〜、クォタの実で全部料理したよ」
「おお、凄い量…」
テーブルにギリギリ収まる量の大量の料理が乗っている。2人で食べるのはかなり厳しい気がする。
「それじゃあ、食べようか」
「そうだね」
食事を開始するが何を話せばいいかクラウディアは考えて、少しの間2人とも静かに食事をしているとスイゲツが手を止めてフォークとナイフを置く。
「ちょっと遠いかもしれないけど、私の友達がいるここにまた来るよ」
スイゲツが少し照れながら言う。私はただその一言が聞きたかった。明日別れてもまた会える。その一言がとても嬉しく、優しい。
クラウディアは涙が出そうなのを吹くと、スイゲツは気を利かしてそのまま話し続ける。
「だから今度は食べた事ない、生のクォタの実を食べさせてね」
「あ、食べた事なかったわね。全部調理しちゃって忘れてた」
「忘れてたって……なんかクラウディアらしいや」
「もう、そんな事ないでしょ。今の話もスイゲツらしいわ」
「ふーん、そうかなんだ……」
「え、反論はないの?」
クラウディアはスイゲツなら何か言い返してくるかなと思っていたが、言った事を飲み込んだ為少し驚く。
「ん?……私は自身の事を初めに見極められたクラウディアが言う私の事ならそれが真実だと思うよ。そうだ、クラウディアの目って魔眼なの?綺麗さが分かる魔眼とか?」
「うーん………多分、この目は雪石人特有の目だと思うけど……鑑定で分からないものなの?」
「分からなかったんだよね。ちょっとショックだった……それかクラウディアの感性かな?」
「それってどうなの?いいの?それとも悪いかな?」
「いいと思うよ。個人個人、感性は違うし私がどうこう言えるか分からないけど、その価値、本質が見えるのは少し羨ましいよ。
私は薄っぺらい、表の数値的な情報しか分からないからね」
「そんな事ないわよ。鑑定は戦闘時にはとても使えるでしょ、それこそさっき言った通り個人個人よ」
「……そうだね。私も私の持ち味生かして頑張らないと」
「そうそう、頑張らないとね。そうだ、明日はまだ時間あるよね?」
「まぁ、明日の昼まではあると思うよ」
「それじゃあ、楽しみにしておいて。1番景色のいい場所に連れて行ってあげるから。ってことで乾杯!」
「明日の事楽しみにしてるよ、乾杯!」
カーンと、ジョッキを打ち合わせて完敗した。
そして次の日の朝、スイゲツは吹雪の中でも轟いて聞こえてきた銃声によって飛び起きたのだった。
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