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氷雪の灯火を抱いて②



少し暖かく感じ目が覚める。少し凍っていた部分は既に溶けて元に戻っていた。

そして今いる場所は雪の中ではなく、何処かの洞窟の中のようだが周りには金銀財宝があり、誰かがこの近くで住んでいるのは間違いないようだ。


「ここは倉庫か………まず誰に拾われたんだ?」


考えられるのは現地の人、この雪山で住んでいるかなり親切な人だろう。

助けて貰ったのはいいが、気になるのは私が何故こんな倉庫に居るかだ。まさかとは思うが私が宝石にでも見えたのだろうか。


考えれば考えるほど、謎が深まるばかりで頭を悩ませていると誰かの靴音が聞こえ、こちらに歩いて来るのに気付く。

念の為、姿をただの水のように変化させ様子を見守ることにする。


そして洞窟の角から出て来たのは、白銀の髪を後ろで編んだ空色の長袖ドレスを着た女性が鼻歌を歌って歩いて来て、一直線でスイゲツに向かって行く。


「あ、溶けてる溶けてる」


そう言い瓶を持ち、チャプチャプと瓶を横に交互に振る。

本当に私の事をただの水だと思っているのだなと思っていると、その女性が瓶を両手で持ち何処かに運んで行く。


洞窟を歩いて行くと壁や床、天井さえも普通の氷とは違い、至る所が無数に反射する氷で出来たガラスのような綺麗な通路に出てる。床には毛皮を加工した白い絨毯がひいてある。


スイゲツが感心する中、女性は進んで行き少し開けた場所に出て来て、家具は全て氷で出来ていて、獣の毛皮を敷いた氷で出来た椅子に座ると、目の前の机の上にスイゲツを置く。この机は驚く事に厚さが10cm程あるが下が透けている。

そしてじっと覗き込んでくる。


「………綺麗、どうやって出来たんだろ……」


やっぱりこの人、私の事をただの水と勘違いしてるらしい。

どうやって自身の存在を知らせれるか。そんな事態は考えた事すらなかったので全く分からない。仕方ない、どうなるか分からないが覚悟を決めて水の体をいつもの姿を作っていく。


「分かってないと思うが……我は水妖精なのだ、すまない」


女性は目の前で鑑賞していた水が突然スイゲツの姿になり、話し始めたので訳が分からず絶句している。


「………もしもし、聞こえてるか?」


固まったまま動かないので少し不安になり、顔の前で手を振るが、反応がない。


「おーい、大丈夫か?………」


「ああ、大丈夫、かなり驚いて、脳内処理が追いついてなかっただけよ」


「それなら良かった。後になって悪いが、助けてくれてありがとう、凍って死にそうだった。名前はスイゲツだ」


「私はクラウディアよ。あとお礼を言われる事はしてないわよ。ただ綺麗だから拾っただけで、助けたのは副産物よ。むしろ自身の綺麗さ、自身の価値で助かったようなものよ」


「そんなに我の事は綺麗か?」


自身の価値は自分より他人の方が分かりやすいと言う。比べる対象が居ないのもあるのだが我には自身の姿は綺麗とはあまり思わない。


「………綺麗じゃない」


先程まで綺麗と言っていたクラウディアだが、睨むような顔つきで我を覗き込む。


「え………?」


「………さっきまで宝石が散らばる小川でキラキラしてて綺麗だったのに、今は同じ小川なのに水面に油が浮いてるみたいに濁っていて汚いわ………スイゲツ、貴女偽ってるでしょ。何か分からないけど元に戻して」


我はかなり驚いている。何か分かってないようだが、口調を変えているの事に気付かれるとは思っていなかった。

シラを切って元に戻さないつもりでいたが、クラウディアが不満そうな顔でこちらを無言でじっと見つめて来る。


助けて貰った恩人に恩を仇で返す行為になりそうなので元の口調に戻そうとするが、人前で元に戻るのは初めてなので少し緊張し、深呼吸をする。


「ふぅ………クラウディア、私はこんなんだけど、この口調でいい?これが素なんだけど?」


「………うん、それよ!それ。うん、うん、綺麗になったわ。それこそスイゲツよ」


「う、うん。ありがとう…」


「ふふ、スッキリした事だし、鑑賞会は辞めにして何か食べましょうか。スイゲツは何食べる?」


「何でもいいけど…」


「それじゃあ………私のとっておきの物を持って来るわ。少し待ってて」


手伝おうかと思ったが、言う暇もなくクラウディアは嬉しそうに何かを取りに走って行った。

ポツンと1人、机の上で残った私は何もする事がないので部屋の中を見渡す。

壁や床は通路と同じく無数に反射してキラキラしている氷で出来ている。1つ窓があり、少しだけ外が見えるが、真っ白で何が何だか分からない。


居る場所はどこか分からない為、どうやってアンナと合流出来るのか、考えようと思っていたがそれすら出来ないようだ。

それにさっき顔を出した時に、ついでにクラウディアを鑑定したら色々と見えた。

レベルは100と非常に高く、スイゲツが見て来た中でレベル3桁の人は見た事がない。それに種族も初めて見るものだった。


「雪石人か。初めて見るよね……」


「ふーん、スイゲツは鑑定も出来るのね。でも、勝手に見るのはいけ好かないわよ」


突然、背後からの声に驚き、すぐに振り返ると細い目でクラウディアが見てきた居た。


「ごめんなさい。いつもの癖で……」


「まぁ、初対面の相手に警戒するのは分かるけど、相手からしたら中を見られてる感じがして嫌だから、ちゃんと目で見極めた後で使う相手を決めるべきよ」


いつも自身は説明する側なので、逆に説教させる事は初めてなので何とも言えない感じになる。

そしてモジモジしているスイゲツを見て、クラウディアは持って来た皿を見せる。


「じゃーん、クォタの実を凍らせたの持って来たんだ。食べましょ」


皿の上に乗っているのは、摘めるサイズの小さな黄色い果実で、表面には薄っすらと霜がかかっていた。

そのクォタの実をクラウディアは摘んで口に放り込んで食べ始めるが、スイゲツは初めて見る果実がどんな味なのか見当も付かずに少し躊躇していた。


「シャリシャリして甘酸っぱくて美味しいよ。ほら、食べてみて」


クラウディアが突き出したクォタの実を恐る恐る近づき齧ろうとすると、クラウディアは果実を口に押し込んできて来る。

口に入るギリギリサイズだったがちゃんと入り、噛んでみると少し凍っていてシャクリと音がなり、甘酸っぱい味が口一杯に広がる。


「美味しい……」


「そうでしょ、私のとっておきだもの美味しいのは当たり前よ」


「このクォタの実は何処で取れるの?」


市場では見たことのない実だ。あったら果実の中でもかなり売れるだろう。


「この山の頂上付近に年中雪が全く降らない所があって、そこでしかクォタの実は実ってないの」


「へぇー結構貴重なんだね」


「そうでもないわよ。少し距離あるけど、すぐに取りに行けるからあんまり貴重でもないかな」


話を聞きながらクォタの実を手でちぎっては口に放り込み、味わっているとクラウディアは嬉しそうに笑い始める。


「な、何?私、変なことした?」


「違うよ。さっきまで緊張して顔が少し強張って緊張してて、今は緊張がほぐれてるから良かったと思って」


そうか、緊張してたのか。

そしてさっきまで変に緊張していた事がおかしくなって来て笑い始める。


「ふふ、何だかありがとう」


「お客さんにはおもてなししないとね」


「そうだね……あ、そう言えばここって何処なの?雪山ぐらいしか情報がなくて」


「ここはアラバスター鉱山の中腹から頂上の間くらいの所の私の家よ」


「うん、分からん」


「スイゲツが落ちてた場所から30分程度の距離よ。まず、スイゲツは何処から来たのよ」


「うーん、ニーヤって町からワープしてここまで来たんだけど………知ってる?」


「知らないわ。一応聞くけど、サルバドル帝国じゃないわよね?」


クラウディアが神妙な顔つきで聞いてくる。


「いや、ブリテン王国の町だよ………サルバドル帝国は……その……何かされたの?」


「スイゲツはサルバドル帝国のことを知らないの?」


「あ、うん。国際情報は面倒だから調べてないんだ」


スイゲツがそう言うとクラウディアは俯きながら自身の腕を触る。


「サルバドル帝国は人間以外の種族、エルフや獣人なんかを下等種族として、奴隷にしたり、快楽の道具にしたりしてるのよ。あいつらはただのクズよ」


予想以上の事を聞いてしまった。嫌な過去を思い返してしまったかもしれない。


「ごめん、そんな事聞いちゃって…」


「いいよ。スイゲツは妖精だから、知らないならちゃんと言っとかないとね。妖精が捕まったら、かなり酷い扱いを受けるわよ」


「うん、気を付けとく…」


自身がアンナの元、仲間になれた事が良かったんだなと思いながら、クォタの実を噛み締めて味わったのだった。



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