第3試合
アンナはその水面の上で目を閉じてじっと座禅を組んでいた。空は晴天ではなく所どろこに雲があり、足元には波がなく鏡のような水面が広がっている。
ここはアンナが想像した世界であり、アンナの経験上、最も効率がいい集中の仕方だ。
そしてその水面に一滴の水が落ち、波紋が広がって行きアンナの体に触れる。
時が来た。
アンナは目を開けると、そこは闘技場の控え室のベッドに足を組んで座っている。トーナメントに上がった選手は机、ベッド、椅子のある選手がリラックス出来るビップ部屋である。
椅子から降り体が固まっては戦いにならないので、椅子から立ち上がりストレッチをして身体をほぐす。ストレッチが終わり、大太刀「春光」の手入れが出来ているか抜いて確認し背負うと、アンナの考えてた通りの時間に運営の係人がドアをノックしてくる。
「アンナ様、試合の準備が終わりましたので、10分以内にはステージ入り口にお越しください」
「分かった、今行く」
アンナがドアを開けると、いつも選手はすぐに出てこないのかアンナが出てきて少し驚いている。
その横を通り過ぎてステージに向かって歩いて行き、入り口前に着く。
ふぅと一つ息を吐いて外に出る。
『え、もう来てる!?え、えっと第3試合、第4ブロックでガリア獣王国の騎士団長をなぎ倒した黒猫の少女、巷で有名になっている「赤眼の黒猫姫」のアンナだ!』
ザックの掛け声とアンナが出て来たのを視界に捉えた観客達は歓声を上げる。歓声を浴びながらステージ上に上がって行く。
『そして驚く事にアンナ選手、何と職業が魔法剣士と言う驚きの事実です』
あ、それ言うんだ……。
アンナが微妙な表情になり、観客達は職業の事を聞き、あの強さで魔法剣士な事に驚きの声を上げる。
周りの観客達の驚きようを見てスイゲツは少し疑問に思っていた事を言う。
「魔法剣士はそこまで不遇職なのか?前の世界では普通だっただろ?」
「私も不思議だと思って調べてみたの。魔法剣士の適正レベルが100なんだけど、こっちでは100まであげる人が居ないから不遇職になってるんだよ」
アリアがスイゲツに説明する事が今後絶対にないと思い嬉しく、自信満々に説明して行く。
「ふむ、納得がいった。アンナは元々の剣術が高いからなれたようなものか」
「そうね。アンナは私と格が違うしね」
「そうだな……………気配は殺してるつもりだったが見つかったか」
気配遮断をすると満席に空白が不自然に開くので、最大限気配を殺す方法をしていたがスイゲツはステージ上の薄ら笑いよアンナと目が合う。
「ふふ、やっぱり来てたか。帰りは気を付けないとね」
スイゲツが居るのを確認したアンナは正面を向くと、白い髭が特徴の杖を突いたお爺さんがステージに上がってくる。
『アンナの相手をするのは古くからガリア獣王国の剣術指南役をし、盲目だが他を圧倒する剣術を誇る、盲目の元老ハールデルトだ!』
歓声を浴びながら、杖を突いてゆっくりとした足取りで歩いて行き、アンナの10m離れた場所で足をピッタリと止める。
「おやおや、ワシの前には猛獣でも居るのやら」
「ふふ、お爺さんもなかなかに強いでしょ。私との距離がピッタリ10mの所で止まったじゃない」
「ほぅ、お嬢ちゃんもちゃんと分かっとるじゃないか」
「いや、私は目が見えてるから分かるんだけだからね。目が見えなかったら無理だよ」
「それはどうかな?やってみないと分からんものだぞ」
アンナは含み笑いするハールデルトに少し面倒くささを感じ、先手必勝、何かをされる前に一撃で終わらせる方法で考える。
同じ事を考えていたスイゲツは一瞬でアンナが勝つと結論付けた。
「相手のハールデルトは結構の強者よ。流石のアンナでもすぐには終わらないわよ」
アリアも当然アンナが勝つとは思っているが、すぐに終わるとは微塵も考えていなかった。
「お主はスキルで「消音」を取っているか?」
「いえ、「消音」あっても使い所が音で探知するモンスターの対処だけど、はっきり言って音爆弾で対処出来るからね。それにスキルレベル上げないと殆ど意味ないから使えないのよね」
「そうだろうな。職業関係で取る以外、普通は取らないだろう。だけど、アンナはかなり早めで取ってた」
「え、何で?」
「聞いてみたら、相手の情報を出来るだけ渡さない為だ。アンナは昔から対人戦闘を主に考えていただろう。だから、目が見えない相手に音も消したら………まぁ、一瞬だろうな」
スイゲツの言っている事が分かり、アリアは考え方が違うとゾクリとする。
「だかな、アンナは「鑑定」をあまりしたがらない。鑑定の対策で自身が食らうデメリットの方が大きいと考えてるらしい。だから、毎回いちいち我が鑑定しているのだ、面倒ったらありゃしない」
「デメリットって言っても相手に自身のステータスが逆に見られるとかよね?」
「あとバインドと盲目化か。一瞬だけだがアンナはかなり嫌っている」
「まぁ、隙になるからね」
「それはそうだが毎回は酷くないか?我だって疲れるんだからな……」
アリアが苦笑いをして誤魔化しているとザックの声が響く。
『両者共に揃い、今開戦のゴングが鳴る!』
ゴォーーン‼︎‼︎‼︎
試合のゴングが鳴り響き、アンナは背中から「春光」を引き抜き、ハールデルトは仕込み杖から刀を引き抜く。
そして「消音」を使ったアンナが無音で一瞬で間合いに入ると同時に「大太刀五ノ型「一閃」を使い一撃でハールデルトを消し飛ばした。
何が起こったのか分からなかった観客達だが、アンナが一瞬で勝った事に驚きながらも歓声をあげる。
アンナはいつもの癖で剣を振ってから鞘に納めて、スイゲツが居る方向を向いて、顔を少し見てからステージを降りていく。
出口の近くに人影が見え、誰かと思いながら近づくと金髪青年の獣人、サルナが立っていた。
「アンナさん、何処行ってたんですか!連絡もなしに居なくなるので心配しました」
「あ、心配させてごめんね。ちょっと今やってる事で巻き込みたくなかったんだよ」
「何をやってるんですか?出来る事なら手伝いますよ」
「気持ちだけ受け取っておくよ。サルナさんは次の試合の事を考えないと、獣王とでしょ。トーナメントに上がったんだから頑張らないと」
「は、はい………けど、俺がトーナメントに上がれたのも忖度みたいなもので……」
「忖度?」
「忖度って言い方がおかしいですが、俺と同じグループの勝者ハァンミルが俺にだけ手加減した気がするんですよ。直前までの攻撃を食らってたら俺じゃあ一撃で場外になるはずですから……」
「そんな事ない。私と一緒に練習したのを忘れたの?剣の受け方が上手くなってるだけだよ。だから自信を持って、次の試合頑張ってね」
アンナはそう言い肩を叩いてその横を通り過ぎて行く。今闘技場から出たらスイゲツ達に鉢合わせる可能性が高いので、全試合終了後に観客達に紛れて出る方が良いので、その間休もうと控え室に向かう。
控え室に着きドアノブに手をかけると中に誰か居るのを察する。この気配は知っている人物だ。部屋に入らなければいいが、その後も付いてきそうなのでこの場で話を付ける覚悟でドアを開ける。
「早いな。流石の戦闘能力だ」
「……何でここにいるの、スイゲツ」
室内ではスイゲツが机にコップを2つ置き、ポットからコーヒーを注いでいたのだった。
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