二者択一
アリアはスイゲツからの連絡に戸惑いながらもステージ上を観察する。
一撃が強大な大剣を振り回すハァンミルと慎重に大剣をいなしていくレイア、その2人の戦い方はまったく違うが、見ていてもどちらがクロワなのか全く分からない。
「………2人はどっちか分かる?」
アーギットとフミヨもスイゲツからの連絡は聞いていてアリアは質問しようと横を向くと、2人は真剣に見分けようとしていて話を聞いていない。
そんな2人を見てアリアはこんな早くに諦めては駄目だと思い、もう一度分かってる情報だけで考え直す。
昨日と一昨日、襲って来たクロワは何を使っていたか。そう考えるとステージ上の2人の中で1番近いのはレイアのレイピアである。
だが、相手のハァンミルが無名であり、かなりの力があるのに引っかかる。
まだ真剣に見分けている2人にもう一度話しかける。
「ねぇ、ハァンミルって人怪しくない?情報がなさ過ぎる」
「そうですよね。僕もあの2人の内ならハァンミルかと……」
「確か誰にでもなれるんだよな?」
「スイゲツの憶測ではなれるらしい。どうやって真似るかは具体的には教えてくれなかったけど」
「それならハァンミルか。だが、分かったからどうするんだ?」
「見た目は真似出来ても中身は出来ない筈だがら見て対策を考えればいいと思う。まぁ、ここで負けてくれれば楽なんだろうけど……」
3人の結論でハァンミルがクロワである事だと考え、私は再度ハァンミルを観察する。
そしてステージ上で大剣を地面が割れるほどの威力で振り回しているハァンミルは、自身の攻撃を全て捌ききっているレイアに少しの関心を持っていた。
「レイア殿は流石の腕前よな!」
上からの振り下ろすが、レイアはレイピアで右に逸らしカウンターを放つがハァンミルは大剣を横に倒し受け止める。
「いえいえ、私でも突破出来ない強さを誇るハァンミルさんもなかなかの腕前ですよ」
「ふっ、軽そうに私の大剣を逸らすが普通はは無理だが」
「ふふふ、このなりですが私結構力はあるんですよ。こんな感じでね」
レイアがレイピアを持ってない左腕で思いっきり大剣ごとハァンミルを殴り飛ばす。
ハァンミルは体が浮き体制が崩れるが、すぐに大剣を地面に突き立て後ろに行くのを止める。
そしてその隙の瞬間にレイアが一気に突っ込みレイピアを突き刺すが、それをハァンミルは空いた左手で受け止め、右手で大剣を引き抜きレイアを横に吹き飛ばす。
衝撃を受けレイピアを離してしまい、吹き飛んで行きステージギリギリまで転がっていってしまう。
ハァンミルは左手に突き刺さったレイピアを引き抜く間、レイアは試合中なのにすぐに起きずに空を見上げていた。
「ほら、剣を取りな。武器を持たない相手と戦いたくはない」
レイピアを引き抜くと転がっているレイアに放り投げる。
しかし、レイアは自身の近くにレイピアが転がって来たにもかかわらず、起き上がっても取ろうともせずハァンミルに近づいて行く。
「はぁ、やってくれたわね。お返しは高くつくわよ」
レイアは鋭い目でハァンミルを睨みつける。そしてレイアの姿が一瞬で消えて、ハァンミルが見失い周りを見るが、レイアはすぐ真下に移動していて顎にアッパーを打ち込む。
ハァンミルは寸前に気づくがどうする事も出来ずに喰らい、体が宙に浮きそのまま地面に倒れ込み気絶してしまった。
「手に何も持たなくても貴方くらい倒せますよ。まぁ、今言っても無駄ですね」
落ちていたレイピアを拾い上げ腰に仕舞うと終了のゴングと歓声が上がる。
そんな歓声を受けながらステージから降りて行くと、ステージ入り口に銀髪を後ろで束ねた女性、「レディース」副リーダーのエネが壁にもたれて待っていた。
「結構やられたわね」
「以外に強かったよ。けど、本気を出すまではないね」
「いや、後半キレてたでしょ…」
「う、煩いなぁ………………ここに居るって事は何か話があるんでしょ、何よ?」
赤面しながらエネに話を促す。
「いや、特にない。席で見るよりここで見ていた方が見やすいからね」
「はぁ、席で見ときなさいよ………どうやって入って来たのよ。選手以外立ち入り禁止でしょ」
「ん?私達ならこんな所入ってくるなんて簡単に出来るでしょ?」
「そうだったわ。無駄な質問だったわ………行きましょか」
2人で通路を歩いて行き、1番外側の通路、観客なども通れる通路に出て行くのだった。
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そしてアリア達は試合が終わり、ハァンミルの確認する為、観客席から急いで、スイゲツの連絡を元に走っていた。
「スイゲツはこっちに来てるって行ってたわ」
通路を走って行くと目の前に通路横幅一杯程に人混みが出来ていた。
「うわぁ、人混みが凄い……ちょっと端っこ走って行こ」
「凄い人集りだ…」
壁際を人を掻き分けながら人混みから抜け出し走って行く。そして確認の為にまたスイゲツに連絡を聞く。
「スイゲツ、今何処に反応ある?」
『………入り口付近……いや、外に出て行ったぞ、さっきの広場だ』
「入り口って通り過ぎた!」
急いでブレーキをかけて、来た通路を急いで戻って行き、入り口から飛び出し、3人それぞれ違う方向を見渡す。
「そっちはいた?」
「居ない」
「こっちも居ない」
「スイゲツ、どこ?」
『広場から動いていない。入り口から左だ!』
フミヨが向いている方向だが、ハァンミルらしき姿はない。3人で歩きながら探すが見つからない。
「スイゲツ、今どこにいる?」
『……動かん。まだその場でずっと動いてない…………その辺の地面に水色の小さめの球体は落ちてないか?小さいから分からんと思うが……』
「まさかバレたの?」
『さっきまで動いてたのが一歩も動かなくなった………そういう事だろう……』
通信先のスイゲツは悔しそうな声で言い、アリアは何故バレたのか分からず、唯一の希望だったそれが無くなり、心の中は困惑と悲しみで溢れかえっていた。
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レイアが出て来たのに気付いた観客達は近づいて話し掛けてきたり、色紙を出してサインを欲しがったりしようとするが、その前に2人の周りに出口の近くに居た数人の女性騎手がバリケードを一瞬で作り上げる。バリケードを作っている目の前の女性騎士が顔をこちらに向ける。
「レイア様、私達が追い払いますので少しの間お待ちください」
「すまない、イリータ助かるよ。自身が危なくなったら武力行使は構わない」
「はい、分かりました………どけ、観客達!邪魔だ!」
女性騎士達が観客達を追い払っているのを見ていると、ふと目に入った右手から目の前を急いで走って行く男女3人の集団を見て、1人見たことのある人物がいた。
「あれは確か………アリアか………まさかな」
レイアは全身を確認して行き、靴の間に何か付いている事に気付く。取り出すと粘り気のある水のような物が取れ、それを気付かれないよう外に投げ捨てる。
そして確信通り、さっきの3人が外に急いで出て行くのが目に入り、レイアは口を押さえて笑い始める。
「くふふふふふふふふふふふ…………私も馬鹿だけど、あいつらも結構な馬鹿ね」
レイアが笑っているのにエネが気付き不思議そうに話しかける。
「さっき何かしたようだけどその事?」
「ええ、私ちょっとしくじって発信機付けられててね、それを投げ捨てたのそしたらアリアが走って行ったから、つい犬みたいって思ってね」
「はぁ、何やってるのよ。「私」に怒られるわよ」
「まぁ、あとで連絡しとくわ。どうせ動けないから怒られはしないでしょ。それに私の失態は「私」だし」
「まぁ、そうね……………犬ってねっふふふ」
「本当に犬だよ、ふふ」
2人は観客達が引くまでの間、口元を隠めていたので口を押さえて笑っていたのだった。
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