協力と見えぬ人影
アンナがクロワの泊まっている宿屋から出た時間にスイゲツとアリアは途中で朝食用にパンを買い食いし、闘技場に走って向かっている。
「ね、ねぇスイゲツ。急ぐ必要ある?」
「善は急げだ、しかし急がば回れとも言うので今から情報を仕入れるのだ」
「急いで回らないといけないのね。病み上がりの体にはきついわ」
「まぁ、今日急ぐのは少しだけだと思うぞ。大体のことは闘技場で出来ると思うしな」
「話を聞くのは分かるけど、他にすることあるの?」
「ある。人員確保って所だな。お主が今朝話していた相棒と我らと同じ世界から来た人も居るんだろう?」
「あー仲間にするのね」
「まぁな。アンナと対等にやり合うにはそれ相応の力が必要だからな。我らだけじゃ前と同じ結果になる」
「けど、良いところまで行ったんじゃ?」
「相手はあのアンナだぞ。二度も通じる訳がないし、クロワも目を治したいから初めから本気でかかってくるだろうからな。前とは違い我は負けるだろう」
「そう………着いたわね」
まだ試合は始まってないが大賑わいの闘技場の入り口前に着く。人混みの間を縫っていき入り口から入ろうとした途端にアリアは腕を後ろに引かれて立ち止まる。
誰かと思い振り返ると背の高い金髪の男性、相棒のジョーが居た。
「アリア、何処行ってたんだよ」
「あ、ジョー、ごめんなさい。ちょっと野暮用で……」
「昨日も声掛けてもさっさとどっか行っちまうからビックリしたぞ」
「本当にごめんなさい」
アリアがお辞儀をした時について来ていない事に気付いたスイゲツがジョーを目視し、
「あ、お主は昨日のストーカー!」
「ストーカー!?何意味分からねえこと言ってんの!?てか誰だよ!」
「我か?我はスイゲツ、アンナの仲間だ」
「あーアンナの………アリア、本当か?初対面の人相手に失礼なこと言う奴があのアンナの仲間か?」
「それでも本当よ」
「失礼とは初対面に酷い奴だな」
「お前の方がね!?」
スイゲツとジョーの口喧嘩の最中に、また新たに人が集まってくる。
「アリア、おはよう。昨日は凄かったね」
「あ、カイリチーの2人も来てたんだ」
銀髪の男性と黒髪ロングのエルフ女、カイチとリーチが居た。
「その名前、こっちではあんまり言わないでくださいよ。変なあだ名つくかも知れませんし」
「今はアーギットとフミヨですから」
「分かったわ、酒の席の時だけにしとく」
「それもっと酷くなるやつでしょ!」
「あ、お主らがアリアが言っていた2人か。顔は見たことがあるな」
スイゲツがジョーから離れて2人の顔を見て思い出しながら言い、その2人は誰なのか分からず困惑する。
「えっと、すみません。以前に会ったことありました?」
「ああ、我のこの姿を見るのは初めてだったか。我の名はスイゲツ、アンナの仲間だ」
その発言に2人は一瞬で以前にも見た90度のお辞儀をする。
「スイゲツさん!ご、ご久し振りです!お、俺はAランク冒険者「レッドブルズ」のリーダーのアーギットっていいます。ASOではカイチって名乗ってました。顔を覚えられており光栄です」
「スイゲツさん!私も同じく「レッドブルズ」の副リーダーのフミヨと申します。ASOではリーチって名乗ってました。私も同じく光栄です」
「「よ、よろしくお願いします!」」
アリアはこの光景を見て思う、凄くデジャブ感があると。
そんなアリアのことを御構い無しにスイゲツは話し始める。
「そう硬くなるな、もっと普段通りで接してくれていいぞ」
「善処します…」
「まぁ、今出会えたのだから聞くのだが、3人に手伝って欲しいことがあるのだ。無論先に説明はするから後で協力してくれるかを言ってくれ…」
スイゲツはアーギットとフミヨ、後ろに居るジョーを見てアンナとクロワの事、それを解決する為に人手が必要な事を真剣に話し始める。
「………って事なんだ。アンナを助けだしたいんだ…………協力してくれないだろうか」
スイゲツは頭を深く下げてお願いする。
それを慌てて3人が顔を上げさせる。
「頭を下げないでください、俺達は当然協力しますよ。アンナさんとは知り合いですし」
「そうです。アンナさんが操られてるなんてそうそう考えられませんが、操られているなら全力で助けたいと思ってます」
「俺も前の助けられた恩があるから返さないといけないからな。お前にはどうとも思わんがアンナの為だ、協力する」
「………ありがとう」
またスイゲツは頭を深く下げ、笑顔で顔を上げる。初めは断られるかと思っていたが、やはりアンナの知り合いは良い人ばかりだとつくづく思う。そう感じているスイゲツにジョーが当然の質問する。
「それで俺達はどうすれば良いんだ?アンナでも探せば良いのか?」
「いや、その必要はない。それよりはアンナと対等に渡り合える人が必要だ」
「それは当然必要だけどよ、居場所が分からないとどうにも出来ないだろ?」
「意味を履き違えている。我はもうアンナの居場所は分かっていると言う意味だ」
その発言には昨日からずっといたアリアさえも全員が驚く。
「いつ?昨日出掛けてないと思うけど」
「昨日だ。「鏡花水月」を発動した時に予め通り道に発信機を仕掛けておいた。そしてアンナが抜けた時にそれを踏んで発信機が付いたから居場所が分かっていると言う事だ」
「逃げられるって分かってたの?」
「それも考えてただけだ。可能性がある限り出来る限り対処する。流石の我でも無理な事は多いからな」
みんなが感心していると、少し目を瞑っていたスイゲツは眉を潜める。
「………まずいな。前方から10時方向からこっちに来てるぞ」
「え、まさかアンナが?どうするの?」
スイゲツが頷き全員反応しそれぞれ武器に手をかけてすぐに前方を見るが、人混みで判別がつかない。
「アンナを助けだしたいのは山々だが、今戦うのは愚行だ。逃げられるか負けるのは目に見えている。ここは見守るしかない」
アリアは早く助けてあげたいが、自身も今は力が戻ってきていないのでどうしようも出来ない。そう悲観していだが、ジョーが手を挙げて提案する。
「アンナは俺達がスイゲツの味方になってる事は知らないだろ?だから、容易に近づくことは出来ると思うんだが………どうだ?」
「出来るがお主には無理だぞ。そこの2人を合わせてもな」
「しねぇよ。俺は話を聞くだけだ、ここに来たこととかも話を聞けた方がいいだろ?」
「…………一理あるが、アンナは近づいた者を見境なく反撃する可能性はあるぞ」
「それじゃ今あの広場は血の池になってるぞ。あと、警戒されないように1人で行くが問題ないだろ」
「………話を聞くだけだぞ」
「さっきも言ったが力量の差は自覚してる。じゃあな」
そう言うとジョーは1人で屋台で沢山の人が集まる中に覚悟を決めて入っていく。
周りの歩いてる人を確認しながら進んで行く。
(ソーセージ持ってる獣人違う、綿菓子持ってる人違う、焼き鳥食べてる獣人違う………こんなのばかり見てたら腹減って来るな……いや、駄目だろ、ちゃんとしろ)
息を吸い気持ちを切り替え周りを見渡すと、ふわりと横に黒いものが通り過ぎる。
アンナか!?と思いすぐに振り返るが、アンナらしき姿はない。
「見間違えか………今のは何だったんだ………」
「そこのお兄さん!ちょっと買っていかない?」
屋台の売り子だろう女性がジョーの袖を掴んで話しかける。
「いや、結構だ。俺にはやる事が…」
「焼き鳥は熱いのが美味しいよね〜熱々の火で焼いてるから危険だけどね〜私の店はあと4日やるんだけど、どう?」
「………分かった、買うよ」
女性からの提案に乗り、少し危機感を抱きながらジョーは女性の後ろをついていった。
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アリアとスイゲツは闘技場の二階に上がり、アンナを探し広場を見渡して10分が経った。
「10分経ったけどジョーはどこ行ったのかしら?」
「あやつも見当たらないな……どこ行ったんだ?まさか逃げたのか?」
「それは無いわ。2年間一緒に居たけど、ジョーは嘘を付くのは下手よ。真っ先に顔にでるからね」
「そうか……ならまだ探してるのだろうが、もう真下にアンナは居るぞ」
スイゲツの発信機は今は自身の真下、もう既に闘技場内に入ってしまっている。
「もう下にいる2人に任せるしかないか……」
「そうですね。私達が降りたら大変な事になりそうですしね」
アリアとスイゲツが少し心配しながら下の2人、アーギットとフミヨの事を思っている時、その2人は目を凝らして人混みの中にいるアンナのことを探していた。
「いないなぁ」
「うーん…………いないねぇ…」
「てか、何でアンナさんは闘技場に来たんだ?トーナメントに出るつもりなのか?」
「そうかな?僕が操るなら極力人前なんか出さないと思うから、別の目的じゃないかな?」
「別か………今更だけど今日のトーナメントは誰が出るんだ?俺達はでないけどよ」
「えーと、確か第1試合が第4グループで人をなぎ倒しまくった無名のハァンミルって言う金髪の女性と、女性しか居ない「レディース」のリーダーの美団のレイヤとの試合ね」
「あー、第4は酷かったな」
2人は全グループの試合を見ていて、その中で1番1人が乱戦していたのが、第4グループでの勝者ハァンミルである。圧倒的な力で大剣を振り回して人を薙ぎ払う姿は観客が大喜びしていた。
そんなに強い彼女だが、全くの無名であり大会の人ですらも初耳レベルの人だったらしい。
「あんな人が無名だなんて普通あり得ないよな」
「あり得ないかな?アンナさんもそんなに知られてないようだし」
「けど、結構通り名聞くぞ「赤眼の黒猫姫」」
「………思い出してみれば聞くね。最近だけどね。まぁ、それで第2試合が無剣ヘルメスと無撃のラークス。まぁどっちも名の知れた人達だから激戦になりそうだね」
両者ともグループ戦では圧倒的な強さを誇り、敵を引きつけないほどだった。
「片方は優勝経験者だからな」
「前回に戦ったことがあるらしいよ。まぁ、ラークスが勝ったらしいけど」
「へぇー、それで次の試合は?」
「第3試合が盲目の元老ハールデルトとアンナさんだね」
「第3試合か……まぁ、出てればアンナさんが勝っただろうな」
「そりゃね。私達の世界でのランキング2位だからね、最強クラスだよ」
「うーん、出てればなぁ………それまでにどうにかするか」
「難しいけどね………次の試合、第4試合は獣王カストリアとサルナって言う第4グループのもう1人の勝者の青年だね」
「あの唯一の生き残りだよな。全然意識してみてなかったけどよく生き残れたよな」
「そうだよね。ただ単純に1番最後だったのか、それとも一度攻撃でも耐えたのか。まぁ、分からないけど上がれて初戦が獣王は運が無いね」
「ほんと違いない。獣王もかなり強いしよく分からない能力もあるしな」
「攻撃が当たった筈なのに、いつの間にか後ろにいるやつだね。何のスキルかな?」
「さぁな。試合相手で来たら考えるさ」
「最後まで残りそうだけどねぇ……」
獣王とどう戦うか考えながら探していると、耳元で着信音が鳴る。先程スイゲツから貰ったピアス型の通信機からスイゲツの声が聞こえてくる。
『〜おい!今何処にいる』
「今はまだ入り口前にいますよ」
それを聞き通信機の向こう側のスイゲツが驚きの声を上げる。
『何!?アンナはとうに闘技場内に入っているぞ!』
「えぇ!?ずっと見てたけどアンナさんらしき姿はなかったですよ!?それにジョーも見てませんし……」
『反省は後だ。地図を見たところ今アンナは入り口から右の選手控え室に向かっているから追い付けるなら追い付いてくれ』
それを聞き2人は控え室に急いで向かう。グループ戦で1度使った為何処にあるかは分かっている。
しかし、急いで向かうが人が多くてうまく進めない。その間もアンナの姿を探しながら進むが見当たらない。そして探しながら進んでいる間に控え室についてしまう。
「いない………」
「もう入ったか」
アーギットが控え室の入り口に入ろうとすると、入り口横に居た係の兵士が止めに入る。
「すみません。ここは今日出場する選手以外は立ち入り禁止です」
「知り合いに会いたいんだ。あと俺も選手だ」
出場証明書を見せるが兵士は顔を横に降る。
「すみませんが、明日出場する選手でも入れない決まりです。以前に関係ない者が入って暴れた事件で立ち入り禁止になってるんです。ご了承ください」
「いや、あんた達は悪くない。すまなかった」
アーギットは謝罪しすぐにその場から離れ、フミヨも後に続く。
「まずはスイゲツさん達と合流するか」
「そうだね……」
2人は悔しさを噛み締めながらスイゲツ達の元へ向かったのだった。
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