算段を立て
アリアの目にほのかな光が入り目を開け、自身が古民家のような部屋のベッドに横たわっていて居るのが分かる。
またしても生き残ったのかと少しの安堵とアンナを助けられなかった悔しさが入り混じる。
そんな時、胸から吐き気がし始める。いや、吐き気ではなく何か物体が食道をのし上がってくる感じ、為すべく時間もなく喉まで何かが登ってきて、口から少し感触のある水が溢れ出てその場に吐き出す。
「うげほっ、ごほっごほぉ………何これ……」
吐いた水が生き物のようにうねっていて、徐々に小さな人の上半身の形になった。
「すまんな、体の中にお邪魔させて頂いたぞ」
アリアはこのよく分からない生き物が喋れるのに驚くが、声に出すのは失礼だと思いまずはお礼を言う。
「い、いえ…………貴女は?」
「ああ、自己紹介がまだだったな。我の名はスイゲツ、水妖精だ。これでもアンナの仲間だから安心してくれ」
水操兵のスイゲツ、この名を乱戦イベントで聞くと皆んな嫌な顔になる。
「長靴を履いた猫」の一員で強いのは折り紙付きで、スイゲツは自身の強力な水魔法を混ぜ込んだ戦略がかなり面倒くさく強力なのが有名だ。
そんな有名なスイゲツが目の前で人と同じ身長ほどの大きさに変身したのにかなり驚く。
「え、えぇ!?人型になれるんですか!?」
「………色々と訳があってな………その発言、お主、我のことを知っているのか?」
「は、はい。ASOではよく聞きました」
「そうか、お主は我と同じで前の世界の住人だったか。だから、アンナとも仲がよかったのか、納得だ………それでお主はクロワを知っているか?」
「さっきの女性ですよね………今何時ですか?」
さっきの事を思い出していると、窓の外が暗い事に気付く。
「お主は5時間は寝てたぞ。肺を潰されていて、我の応急処置と手術がなかったら死んでたぞ」
「5時間!?って肺が潰された!?」
「忘れたか?自身の胸を見てみろ」
いつの間にか着替えさせられていたパジャマのボタンを外し胸を見ると、胸の中央に手のひらの大きさ程の傷跡が残っている。少し摩るとまだ少し痛む。
「まだ触るなよ。さっきまで体内から治していったんだからな」
「あ、だから口から出て来たのか……」
「体内からの方が治しやすいし楽だからな。新しく肺を作るのは結構疲れた」
「作った……」
「まぁそれは置いといて、クロワの事を色々と聞きたい。知っている事、出来るだけ言ってくれ」
スイゲツはアリアが寝ているベッドの脇に座りアリア真剣な表情で見る。
「そう言われても特に知らないんです。泊まってた宿から出て、アンナといる時に突然絡まれて………アンナとキスして、それからアンナが変わったとしか」
「そうか………その様子じゃ前々から尾行されてたようだな」
「あと昨日、闘技場で会いました。その時もアンナを連れ去ろうとしてました」
「ん?その時はお主が相手したのか?」
「いえ、すぐに倒されたんで私じゃない人です。けど、かなり強い人だとは思います」
それを聞きスイゲツは顎に手を当て考え始める。
「そうだな。お主の恩人に会えればもう少し知れるかもな………その恩人を知ってそうな奴はいるか?闘技場なら人は沢山いただろう?」
アリアは少し昨日のことを思い返し、1人アリアとアンナを運んだことを知ってる人を思い出す。
「1人、医務室にいる看護師、シェイルさんなら確実に知ってるはずです。私とアンナを医務室に運んで来た人を知っているはずですから」
「それはいい考えだ、明日は医務室に直行だな。あ、そうだお主大会に参加していただろう?」
「は、はい。けど、出れませんでしたけど…」
もう暗い夜に差し当たっている。アリアが出るのは8ブロックだが試合は終わっているだろ。アリアは手に力を入れるが力がちゃんと入らない。
アリアは少し残念だと思ったが、スイゲツがとんでもないことを言う。
「それで我が代わりに出てやったぞ。まぁ正確に言えば我の水分身だがな」
「え、出たんですか!?」
「すまんな。ちょいと実験したい事があってな、後のトーナメントはお主の自由だから辞退してもいいぞ。あと、四凶もちゃんと回収しておいたぞ」
スイゲツはそう言いながらテーブルの上に置いてある4本の剣を指差す。
「ありがとうございます。って、ちゃっかり勝ち進んでるじゃないですか」
「いや、水分身だが結構張り切ったようでな。勝ち進んだからか帰りは色々と人に話しかけられたわ。それにストーカーもいたしなぁ…」
少し考えそのストーカーに心当たりがあり、アリアは少し気まずくなる。
ここに来たからには当然相棒のジョーも一緒であり、試合グループは違うが明日会う約束をしていた。
だが、今日出たのはスイゲツであり私ではない。スイゲツはこの様子だとそそくさに帰ったのだから、付いて来たのは当然ジョーであろう。
「あー、多分そのストーカーは私の相棒だと思うわ。男性で金髪で槍でも持ってなかった?」
「………相方だったか。すまんな、追ってきてたから撒いたわ」
「いえ、また明日言えばいいと思うんで」
「そうか。色々とすまんな、ゆっくり休んでくれ」
「いえ、私の方が傷を治してもらったりありがとうございます。何かお礼を……」
そう言い横元に置いてあるアイテムボックスから何か取り出そうとする前にスイゲツが提案する。
「それじゃあ、明日から我のことに付き合ってくれぬか?アンナを取り返す算段をつける準備をするのだが」
「是非協力させてください。お礼関係なくやります」
「………協力感謝する。それなら尚更早く寝て完治するがいい」
「はい、お先にです」
さっきまで寝ていたアリアだが疲れが一気に込み上げてきて、眠気に襲われていたので横になるとすぐに眠ってしまった。
寝てるのを見てからスイゲツはドアを開けて外に出て、暑い日だがこの路地に通る涼しい風にあたり、夜空の無数の星を見上げる。
「さて、彼奴らはどこに居るか分かるがこのままでは二の舞だな。まずはどうにかしてアンナを元に戻さなくてはな。戻せるかも分からんが……………それに人手と力が圧倒的に足りぬ。ガウェインとかが居れば万事解決なのだがなぁ………無い物にねだっても仕方がないか…………」
溜息をつき自身の人の姿を見る。
「なぁ、クラウディア………………天国から見守っててくれ」
スイゲツは目を閉じ少しの間黙祷すると、深呼吸をして部屋に戻っていった。
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一寸先も見えないような暗黒の闇、以前にも味わった事があるこの感覚だが、今回は近くに温もりがあり、それがクロワにとって1番の癒しでもある。
「アンナ〜起き上がらせて〜」
「起きれるでしょ……仕方ないなぁ」
ベッドに横になっていたクロワの腕を引いて起き上がらせたアンナはそそくさとキッチンに戻り朝食を作り始める。
クロワはアンナにもっと触れたかったが、スイゲツにやられた影響でまだ力が殆ど戻ってない為掴むことすら出来ない。
「はぁ、スイゲツはやっぱり強いな。目を治さないといけないから、また戦うと思うけど一筋縄ではいかないかなぁ…」
次はどう戦うか考えているとアンナが料理をプレートに乗せてくる。
「ほら、朝食出来たよ。食べないと力戻らないからちゃんと食べてね」
「アンナ〜食べさせて〜」
「………分かったわよ。ほら、口開けて」
アンナはクロワの口にスープを掬ったスプーンを入れて、クロワは満足そうな笑顔で料理を堪能していく。
「ふぅ、やっぱりアンナの料理は美味しいね」
「まぁ、お母さん直伝のスープだからね。当然美味しいよ」
「アンナのお母さんは料理得意なの?」
「当然、お母さんは実家の料理長だからね。得意なのは当たり前だよ。よし、もうおしまいだよ」
「え、もう終わり?じゃあ魔力ちょうだい」
「……また口から?」
「そりゃあ受け取りやすいからね」
「………仕方ないなぁ」
アンナは食器を近くのテーブルに置きベッドの脇に座り顔を近づけ、クロワが手探りでアンナを探してキスをする。
ゆっくりと舌を舐める、とても甘い甘い味がする。クロワは魔力をある程度貰うと口を離し唇を少し舐める。
「ありがとう、アンナ。これで少しは早く治るよ」
「………じゃあ、私は昨日言った通り出掛けるね」
「………大会に出ないといけないの?私の代わりが出てあげるよ?」
「それじゃあ駄目なんだよ。私が出て優勝しないと………行ってくる」
「行ってらっしゃい」
アンナはベッドから降りてドアを開けて外に出て行った。
ドアの閉まる音が聞こえ、クロワは振っていた手を下ろし溜息をつく。
「なんでだろう。「色欲」の力で優先順位を私が1番にしている筈なのに、何故かシルヴィアが1番に来る………シルヴィアを食べたら私が1番になるかな………いや、今は「色欲」が通じてないから辞めておこうか…………それじゃさっさと寝て治そうか」
欠伸をしてまた布団を被り横になるとクロワは寝てしまったのだった。
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