無常の風
今回で100話になりました!
ここまで続いたのは読者の皆さんのおかげです。
本当にありがとうございます。
朝起きるとアリアと裸で抱き合っていて、昨日何した!?と1人頭を抱え焦っていると、起きてきたアリアと目が合い、私の姿を見て笑い始めたので話を聞き出すと、寝ている間に私が脱ぎ出したとふざけた事を言うので頭に軽く瓦割りをして今日は起きた。
今は朝食をとり、さっきまで痛みで頭を抑えてベッドで転がっていたアリアの支度をコーヒーを飲みながら待ち、鏡に向かい真剣に化粧をしているアリアの後ろから見ている。
「ふーん、ちゃんと化粧するんだね」
「アンナみたいに化粧せずに私は出れないのよ。そうだ、アンナは今日試合ないから化粧してみる?」
「うーん………アリアがやってくれる?」
「任せなさい。立派なレディにしてあげるわ。ほら、座って座って」
アリアが座ってた椅子から立ち上がり、私の肩を持ち座らせる。
「え、やってる途中じゃないの?」
「いいのよ、先にアンナをもっと可愛く綺麗にしたいしね。じゃあ、顔をあんまり動かさないでね」
「う、うん…」
そう言われ私は顔を真っ直ぐアリアに向け、アリアは手に化粧用品を持ち嬉しそうに私の顔を変えていった。
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「……………ふふふ、出来たわ。アンナの魅力を引き出せたと思うわ。ほら、鏡見てみて」
途中から目を瞑っていたのでどうなっているか分からないので少し緊張しながらアリアから手鏡を受け取り顔を見る。
当然私の顔が写るのだが、別人の様に綺麗になっていた。目がはっきりしていて肌も綺麗で、腰まである長い髪も三つ編みにして纏めてあり、自分自身に一目惚れしそうである。
「………どう?」
「凄いよ!本当に凄いよ!見違えるレベルだよ」
「そう言って貰えて良かったわ。じゃあ私もしよっと」
アリアも椅子に座り化粧をし始め、私は手鏡で自身の顔を眺めていて、アリアが化粧を終えるまで見ていた。それで今は2人で闘技場に向かっている。今回も「気配遮断」を使って歩いているが、人が多く少し人通りが少ない道を選んで歩いて行く。
「今更だけどアンナは化粧した事なかったの?」
「まぁ……」
「高校生くらいならしてると思ってたわ。まぁ、私はやり始めたのは高校だったけどね」
「普通はそうだよねぇ……」
自分が元男だとはアリアには言ってないので少し気まずい。説明しようとは思っているが言うタイミングがないのが辛い。いや、タイミングはあるが言い出す勇気がないのか。
「はぁ……」
「どうしたの?気分でも悪い?」
「気分は悪くないけど、胸が痛い」
「え?戻って休んでる?」
「いや、行くよ。私の友達も試合に出るし………って、ここどこ?」
あまり気にせず人が少ない道を歩いていると、いつの間にか人が全く居ない道まで歩いて来てしまっていた。少し見上げると闘技場が見えるのでそこまで遠くまで行っていない事は分かるのが幸いだが少し面倒なことになりそうだ。
「あ……全然見てなかったわ。ちょっと戻りましょうか」
「いや、簡単に行けなさそう。アリアは後ろ見てて」
アリアはその言葉にすぐに反応し、私の背後を向き、剣に手をかける。
「………何人?」
「前と左右に1人、後ろに2人。合計5人」
「え?例の女性じゃないの?」
「その女性なんだけど………全員同じなんだよ」
私もアリアと同じで戸惑っている。あの女性かと思っていたがその気配が複数人いるのだ。
「え?分身でもしてるの?」
「そうかもって話してる間に来たよ」
私も剣に手を触れ、すぐにでも抜けるようにし警戒をすると、前の暗い路地から金髪の女性が不敵な笑みを浮かべながら現れ、そのまま直進してこちらに歩いてくる。アリアの方はまだ出て来てないようだが警戒は怠らない。
「止まれ、それ以上近づいたら斬る」
女性に剣を向け止まるよう促すが足を止めない。
「………斬るよ」
「ふふ、アンナは私を斬れないよ」
「ん?私は別に男女差別はしないよ。誰であろうと襲って来るなら斬る」
「………いや、アンナ。その意味じゃない」
「え?どういう事?」
女性が少し同様して、わたしは何のことか意味が分からないが背後にいたアリアが肩を叩く。
「前にアイツの拳を食らったの、それがやたらと重く硬かったのよ。だから多分物理的な意味で斬れないってことじゃない?」
「あー、そういう事ね。けど、特別装備してるようでもないけど………」
「気を付けないとかなり速いし、何処からともなく武器を出すわ」
「そうなんだ………って、まず貴女の目的は何?私に何か用があるの?あ、動かないでね」
立ち止まり静観していた女性に話しかけると、少しの笑みと共に話し始める。
「私の目的?それはアンナが欲しい。ただそれだけよ」
「………御免だけどヤンデレは難しいかな。私達何もそれぞれの事を知ってないでしょ?」
「あら?私は知ってるわよ。私のマスター」
私はそれを聞いた途端に頭に強い衝撃が走る。そのマスターという言い方がとても聞き覚えのある声だった。そして記憶の一部で靄がかかっていた思い出したくもない嫌な思い出が晴れ、同時に歓喜する。
「クロワなの?」
「そうだよマスター。私が貴女のクロワだよ」
私は走り出してクロワに抱き着く。クロワも腕を回して抱きしめる。
「クロワ………死んだかと思ってたよ……」
「まぁ元々死ぬと思ってたから、心配させてごめんね。アンナを守りたかったんだ」
「私より自分の事守ってよ……」
「ごめんって、ほら泣かないで顔上げて。化粧したんでしょ汚れちゃうわ」
顔を上げるとクロワが指で涙を拭き取って頭を撫でてくれる。
「ありがとうクロワ………クロワ?」
私がお礼を言うがクロワは妖艶な笑みを浮かべていて、クロワの手に力が入るのが分かり、それと同時に顔を寄せられ接吻をする。
クロワの行動に驚いて抵抗したがすぐに気持ち良くなってしまう。シルヴィアとは全く違うキス、口の中がかき混ぜられる感じだ。
しかも、クロワの方が背が高いので必然的に私は足が浮いてしまっていて逃れられず、一方的にやられる。それにクロワの目を見ていると頭がぼんやりして来る。
クロワの綺麗な髪が包み込んでくれる。全てを委ねたくなる。もっともっともっとクロワの事を感じたくなる。
何か喧騒が後ろで聞こえるが関係ないだろう。今はクロワと一緒に居たい、ずっとこうしていたいのだ。
こうして私はクロワと言う沼に引きずり込まれたのだった。
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〜アリア視点〜
アンナがクロワ?とか言う知り合いにキスされているのに少し驚いたが、すぐさま近寄って止めようとするが背後から来た奴らに襲われて止められる。
「貴女達邪魔よ!下がらないと斬るわよ!」
剣を向け周りに警告するが、4人いる中の黒髪の女が関係なく近づいて来る。
「それは聞き入れません。僕は「私」のしている事に少し憤慨しますが………まぁ後で参加させて頂きますよ。それより貴女は邪魔になりそうなので殺しますね」
「はぁ?貴女達何者なのよ。アンナの熱狂的なファンなの?」
4人共手を抑えて含み笑いし、茶髪の女が答える。
「私達は「私」よ。簡単に言えば「私」の分列体ってところ」
「分列って人が出来るわけ………お前ら魔物か」
「そうね魔物は合ってるけど、そこら辺の魔物と同じだと思わないでね。昨日、失敗したから今回はちゃんと殺してあげる」
4人から一斉に殺気が来る。
昨日と同じく震えそうになるが、気をしっかり持ち剣を構える。
「今回は屋外だから思いっきり行くわ!さぁ、窮奇!アイツらをやっつけなさい!」
「モオォォォォオオオ‼︎‼︎」
剣が輝き牛型の魔物が現れ、少し慌てた4人に突進していく。それに合わせて私は窮奇の上を走りアンナに向かう。
走っている間にアイテムボックスから新しくさっきと似たような2つの剣を抜いて呼ぶ。
「饕餮!檮杌!加勢してあげて!」
「ブオォォオ‼︎‼︎」
「グロォォオオオ‼︎‼︎」
剣が輝き、牙が異常に伸びた猪の魔物と虎の顔に牛の体の魔物が現れ、こちらに向かっていた2人にぶつけ、そしてまた新しくアイテムボックスから漆黒の剣を取り出し、クロワの背後に飛び込み、剣を向ける。
「さぁ、離しなさい!さもないとこの剣、「混沌」で斬るわよ」
首元に剣を向けると、クロワは素直に応じてアンナの唇から離し地面に降ろし、こちらに顔を向ける。
「素直なのはいい事だわ。まずはそこに手を上げて座りなさい」
「なぁ、貴女はアンナの何なの?」
「はぁ?私はアンナの友達よ。貴女はアンナと知り合いらしいけど、私が友達で悪かったかしら」
そう言うとクロワは手で口を押さえて笑い始める。まるで馬鹿にしているみたいだ。
「何笑ってるのよ!今の貴女の状況が分かってるのかしら?」
「いや、たかが友達風情がアンナの事分かってるのかしら?ねぇ、アンナは私とこの女、どっちに付いて行く?」
クロワはさっきから俯いているアンナに向き声をかけると顔を上げる。
私は顔を上げたアンナを見ると、アンナは
虚ろな眼差しでこちらを見てくる。
「当然アンナは私よね?…………アンナ?」
「…………アリア……私はクロワに付いていくよ」
「え………変な冗談はやめてよ…………冗談よね?」
「………残念だけど冗談じゃないよ………そうだ。冗談かどうか示してあげるよ」
アンナがニタリと顔を歪めて笑うと同時に私に衝撃が入り、自身の胸に手が突き刺さっていた。
私が口から血を吐きアンナの腕にかかり、アンナは不機嫌な顔になり手を引き抜いて綺麗にし、私は地面にうつ伏せで倒れる。
「………汚いなぁ…」
「アンナ、そのゴミはそこに置いておいて行きましょ」
「……分かってる」
アンナが歩いて行こうとするするのを、今ある限界の力で左足を掴んで止める。
「………邪魔」
アンナは感情のない目で私を見下し、地面がひび割れる程の力で右足で私の腕を踏み潰す。ボキッと私の腕の骨が折れる音が鳴るが、足をしっかり掴む。それでも離さない私にアンナはまた腕を踏み潰す。
少しすれば誰か来る筈だ。兵士でも住人でも誰でもいい、助けを呼んで。
そう思いが願う前に私から力が抜けて行き手を離してしまい、アンナはクロワと歩いて離れて行く。
地面に血が広がって行くのが見え、目も赤くなりだんだん心拍音が弱って行くのが分かるが、自分が何も出来ないのが凄く嫌だ。だけど、もう終わりだからいいか。あとはアンナに告白出来なかったは人生での後悔だなぁ………。
視界が血で赤く滲んで来て、私は目を閉じたのだった。
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「まだ死ぬには若いぞお主」
突然背後から聞こえた声にクロワとアンナは少し驚きながらも振り返ると、ブルーサファイアの様な少し透けた青い髪をした女がしゃがんで倒れたアリアに何かをしていた。
「後ろでは「窮奇」「饕餮」「檮杌」が暴れてるのはなかなかに凄いな。これじゃあすぐに兵士がくるだろうな……………よし、簡易だが失った臓器は治せた。あ、ちょっと「混沌」借りるぞ」
立ち上がると転がっていた漆黒の剣を拾い上げ、軽く振り回すとクロワに剣を向ける。
「さて、やるかクロワよ」
「………貴女誰?何で私の名前知ってるの?」
クロワにそう言われ女は少しぽかんとして高笑い始める。
「ふはははははは、そうかそうか、この状態の我と会うのはクロワは始めてか………勿論、アンナは知ってるだろう?」
「………スイゲツ」
「スイゲツ………?」
クロワの覚えている姿は瓶に入った水妖精だ。こんな姿になるとは想像もつかなかった。
クロワが少し驚いているとスイゲツの周りに紅が纏い付き、圧倒的な覇気が飛んで来る。
「お主ら2人相手は流石に本気でかかれなば。さぁ、久々の本気だ。すぐに朽ち果てるなよ」
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