勇者、美少女に迫られて初体験を済ます。
「それで、ゾーリンリンの乳覆いと言うのは?」
「さっきまで勇者様の下で燃えてた、トゲトゲで肉厚の葉っぱっぽいものです。滋養強壮の効果があって殿方の不妊治療に使われるんですよ。普通は爪の先ぐらいに切り取ったのをすり潰して100倍に薄めるんですけどね」
とても楽しげに話してくれるリオには悪いが、どこをとっても気がかりな疑問点ばかりだ。どこから解決したものか分からないが、とりあえず無難そうなところから攻めていくことにした。
「……『ちちおおい』と聞こえたんだが」
「ええ。ですから、乳覆いです」
リオは自分の胸元を両手のひらで覆い(いわゆる手ブラってやつだ)、「ぽいんぽいん」と言いいながらそれ相応の仕草をした。
「……それは動物なのか植物なのか」
「動植物です」
「いやだからどっち」
ふと、ここが異世界だということを思い出す。たぶん、そういうジャンルなのだ。動物でもなく植物でもない。動植物。ブラジャーつけてるという生態はまったの謎だが……。謎か。よし、せっかく勇者になったんだ。俺は冒険者になろう。冒険して、この世界の不思議を目にしていくのだ。体は鍛えればなんとかなる。大工や農夫よりは性に合ってんだろう。
「……いいや。で、俺を燻していたのが乳覆いだとして、つまり俺は強壮剤を与えられていた、と」
「はい。乳覆いそのものを燃やすなんて、わたし、どうなんだろうって思ったんですけど、さすがは勇者様です」
現地の人ですら疑問を感じるものすごくアバウトな処置を、俺はほどこされてしまったっぽい。
「体の動かない俺の復活の儀式的なものじゃなかったかんだな、あれ……」
「儀式はそうなんですけれど、ゾーリンリンの乳覆いはまったく関係ないですね。ふふふ」
字面だけだと「ふふふ」じゃねーよ! と言う感じだが、リオが笑うとなんとなく許せてしまう。可愛いは正義の実例を見ているかのようだ。見る方が素直になれる笑顔って言うか。リアルな女の子に縁のなかった俺でも話しやすいと言うか。
そして、なにぶん話しやすいので気が緩み、こちらもついつい素直になりすぎてしまうのだった。
「しかしさぁ……なんでそんなことすんの? 男の証明をこんなにさせるって酷だと思わないわけ?」
「え、えっと……それは……」
「いや、こっちもね? 天から落っこちてきて体も動かせなかったぐらいなんだから、体を元気にさせましょう、みたいなのはわかるよ? 風邪の時とかユン◯ルとか飲むし……あ、わかんないかユン◯ル」
「……」
リオは困っているが、困らせるつもりはないのだ。村の偉い人なり、大人たちの合議の末なりのことなんだろうから、下っぱで勇者の世話役なんかをやらされているリオに言ってもしょうがないことぐらいわかってる。
それでも言うべきことは言っておかなくてはならない。いたいけなロリ娘をいじめてる感じで心が痛むが、釘を刺しておかないと今後なにをされるか分からない。
……などといい訳してみたが、実のところは、リオはやっぱり話しやすくて、ついつい調子に乗ってしまっただけだった。
「でもなぁ〜異界からの旅人を本人の承諾もなしに発情させるってのは、ちょっとわからないなぁ〜。非常識だよなぁ〜。相手もいないのに。いや〜どうかなァ〜」
調子に乗りすぎて、なんかツイッターでよくいる社会派なアカウントの人みたいな口ぶりになってきた。
「相手……い、いるじゃないですか」
リオはうつむき加減になって、つっかえつっかえそう言った。
「は?」
聞き返してしまってから、その意味と俺のミスとに気がついた。
俺は勇者なのだ。今しがた判明したばかりで自覚を持てというのは無茶な話だが、この世界では道徳の教科書にのるような、讃えられるなり崇められるなりされる存在なのだった。そんな存在がなんで農夫や大工をしてるのかはまだ謎だが、今の流れで「相手もいないのに」などと言ったりすると、俺が勇者の立場を利用したパワハラで、俺の体で唯一勇者らく隆々としている股間の肉バットで試し打ちをするための相手を要求したようになってしまうのだった。
とは言っても、もちろんそれは、日本であればやっちゃったら合意であっても一発逮捕されるようなリオのことではな……
「い、い、今の……お誘いと言うことでよろしいんですよね? 私にお相手しろってことですね?」
……ことではなく、と考えてる最中なのに、この娘は!
「あ、いや、それって法律とか条例にひっかか……」
「そんな法律ありません!」
……なんでこの子は、こんなに目をらんらんと輝かせているのだろう。はあはあしてるし……。
「ですよね」
うん。
まぁ、なんだ。
そう、ここは異世界。日本じゃないし、地球でもない。
乳覆いしている謎の生物もいるらしいし、リオもこれで実は100歳とかそういう、いわゆるロリババアなのでセーフ的な希望も……
「あのーリオさん、おいくつですか?」
「12歳ですっ。もう初潮もきましたから孕めます。初めてのエッチで孕ませてくださいっ」
アウトー! なにからなにまでアウトー!
「いやいやいや、そりゃこちらとしてはありがたいけどもっ」
俺は大慌てで否定する。
意図したわけではないのだが、「押し切ってくれればやってもいいよ」みたいな空気は漂わせているのがいやらしい。
なお、したいかしたくないかで言えば、大変にしたい。リオは、ロリとは言っても、まごうかたなき美少女だ。小顔のせいか頭身も低すぎず、幼女の部類ではないのがいい。なんてことを考えたあとには、不自然に前かがみになったりする文章が続くのが世の常だが、ご安心を。もうすでに息子は立派にひとり立ちしている。
「ありがたいならっ、ね? ねぇぇぇっ? いいんです、いいんですよ? なんと言っても、わたし、タクロー様の妻ですからっ。妻は夫にエッチされるのが当然でしょう?」
「えっ!? そうなの!? はじめて聞いたよ⁉︎」
「はいっ」
ここであどけないニッコリスマイル。卑怯だ……これは卑怯だ。頬も赤く染まって、こんなの、俺じゃなくてもドキドキするに決まってる。
「なによりですねぇ、わたし、もうずっとカラダがおかしいんです。ムラムラすると言いますか……モンモンすると言いますか……。お風呂でお湯に浸かってさっぱりしたら消えるかなって思ったんですけど、さっぱりダメでした! へへ」
それでか! それでモジモジしっぱなしなのか!
「あなたそれ可愛らしく言うようなことでは」
考えてみれば、普通は極少量を100倍に薄めて使うような強壮剤を、密閉空間(最後に天井開けたけど)で原材料のまま焚き出したのだ。なんらかの影響があって当然だろう。
てことは、今頃、あの場にいた村の他の連中も大変なことになっているんじゃ……とも思ったが、ババ様の顔がまぶたの裏に浮かびかけたので、考えないことにした。なに、夜は長い。みなさまお幸せにサカってください。死なない程度にね。
「それに子作りこそが勇者の第一のつとめ。道徳の教科書にも書いてあります! さあ、しましょう? 子作り。大丈夫、ニーナの傘ならもってきましたよ」
「か、傘? なにそれコンドーム?」
ネットの風俗ファンの間でコンドームのことを「サック」(「ノン・サック」は生ハメのことらしい。してみたい)と言ったりもすることから連想したのだが、子作りしようって時にコンドームはつけないんじゃないかと言う気もした。
「初めてのエッチの時には、勇者に向かってそう唱えると勇者様はやる気になるって道徳の教科書に。コンドームってなんですか?」
これが異世界について俗に言われる「さすが文明が中世レベル」ってやつなのだろうか。懇切丁寧に説明してやっても良かったのだが、やめておくことにした。避妊具について解説して俺スゲーする勇者なんて嫌すぎる。
リオはもうずっと、はぁはぁしている。興奮してきたのかモジモジに品がなくなってきた。俺に体をこすりつけてきているので、その股間が前腕にぷにぷになすられて、好きな男子の机の角でなにごとかしている小学生女子みたいな絵面になって、かなりヤバい。
「ほら。未使用新品の12歳ですよ? 勇者様と子作りエッチするこの日この時のために入念に仕込まれてきた、新品未使用の12歳です。そういうお店でだって中々お目にかかれませんよ」
さすが文明が中世レベル。新品未使用でなければちょくちょくお目にかかれるらしい。日本で言ったら江戸の昔の女衒に飼われて遊郭いく少女とか、江戸時代の飯盛女とかそういう自営業の娼婦みたいのもいるんだろう。
「ほら……いいんですよ? なにをしてもいいですよ」
数年後が楽しみなふたつの爽やかな丘が二の腕にこすりつけられる。まだまだ発展途上だが男のそれとは違って確かに柔らかい。右に左にとなすられるので、貫頭衣の布地の向こうに、先端で硬くなっている小さな果実が、ぷるぷると震える様子も感じ取ることができる。
「あ……あ……ああ…………」
理性が崩壊しそうだった。しかも俺は童貞だった。それだけでなく非モテだった。要するに女性にここまで熱烈な身体接触をされたのが初めてで、理性の崩壊はオーバーヒートを意味した。
リオが俺の方に体を預けてくる。体の重さを感じると、相手が確かにこの世に存在しているのだと分かってドキドキが強まる。道理で一万五千円もする等身大オナホールや、二十万以上するラブドールを買う人がいるわけだ。
「あ……っ!」
艶やかな声をあげ、俺は縁側の板の上に倒れた。倒れた俺の顔を、俺の体にまたがったリオが真上からのぞき込んでいる。
耳にかかる髪をかきあげて、12歳の少女は優しげに笑う。
「大丈夫ですよ。わたしに任せてください。わたしも初めてだけど、なにを出されても、ぜんぶ体の中に受け止めますから。勇者様の妻の、ささやかなつとめです」
12歳の少女に押し倒されるような勇者がなんの役に立つのか。
そうは思ったが、もう考えないことにした。
……子作りには役に立つよね……きっと……。
「まずはキス……しましょうね、勇者様♡」
「うん……」
リオの顔が静かに近づいてくる。彼女の息が俺の顔をなでていく。
その整った顔をずっとみていたかったが、彼女が目を閉じたのにつられて、俺のまぶたも下がった。
彼女の体と俺の体がぴったりと合わさって、重さと同時に胸やお腹の柔らかさと、そして体熱とが俺の体にうつってくる。ひとつに合わさった体で膨らんでいく温もり。
テンテンテンテンテンテンテン♪
まぶたの上 まだらに落ちる小さな光のかげ
木漏れ日のアーチ リバーブする陽射し
Ah ぼくの向こうに見える未来 透かしてる君の隣
つながるきみの指が つれてくる新しい気持ち
ここまでのぼくのなかにいないきみの笑い声が響いて
ぷにぷにしてる。
見るだけなら薄い肉の、押しつけあうふたり分の弾力。
混ざりそうで混ざらないふたつの肉体の感触が、心地の良い音楽みたいに跳ねている。
……ああ、いい……。
女の子って……キスって……こんなにいいもんだったんだ……。
石鹸の香りが鼻をくすぐる。
もう頭も体もぜんぶトロけてしまいそうで、閉じたまぶたから涙がこぼれおちていく。
世界が真っ白になっていく。
真昼の太陽以上にあかるい光にあふれて、そして……
ドォォォォォォォォォン!
そして、俺たちのいる集会場が消し飛んだ。
「あわわわわわわ。あわわわわわ」
俺の腕の中でリオが両目を◎にしてガクガクと震えている。
なにが起こったのかは、すぐに理解した。
集会場が爆発したのだ。
今、集会場は、俺たちがキスをしていた縁側の、ほんのちょっとの部分だけを残して、完全に黒焦げの炭と化している。
オレンジの火をくすぶらせた炭の柱が、パチパチ言ってるのが聞こえた。
ガス爆発みたいななんらかの事故だろうか、という考えは、思いつく前に否定できた。
なぜなら、残った縁側の上でリオを抱きしめながら周囲を警戒している俺の前に、そいつらが歩み寄ってきたからだ。
そいつらは二人。両方ともイケメンだった。
なにかLED並に明るいヒトダマみたいのをふたつ従えているので、姿形がハッキリ分かるのだが、イケメンだった。服装な装備の描写を忘れるほどのイケメンだったが、なんかファンタジー世界によくありそうな鎧?を着てる気がするけど、そんなことどうでもいいような気がするほどイケメンだった。
しかも一人は途方もないほどのイケメンで、男の俺でも「抱いてー!」と叫びたくなるほどだ。男として言わしてもらうと、ジャパン二次元コンテンツのイケメンよりも、ハリウッドスタータイプのイケメンの方が抱かれたい男度は高い。そして、そいつはまさしくそんなタイプのイケメンだった。絵描きとして言わせてもらうなら、ディフォルメしづらくて萌え美少女と同じ画面に同居させるのに苦労するタイプだ。
イケメンはカッコのよい笑みを浮かべて、少しふざけたように、こう言った。
「ヒューっ☆ 俺、ツェーーーっ☆」