第8話:魔力を感じる
閲覧及びブックマークありがとうございます。
拙い文章ですが楽しんでいただければ幸いです。
毎度の事ながら投稿が遅くなり申し訳ありません。
これからも不定期な更新になるかと思います。
遅くとも最後まで書く所存ですので何卒よろしくお願いします。
今回視点切り替えがあります。
◆が表記された後に視点が切り替えられてます。
魔力を感じる
本日から宿屋の娘さんであるミーシャちゃんに魔法を教える事になりました。
何故こんな流れになったかと言うと多少利己的な理由があってこうなった
先日見つけた魔素溜まりを定期的に監視するには何処か手頃な拠点が必要となった為だ
本当ならあの穴の近くに簡易な小屋でも建てて住もうかと思っていたのだが
比較的村から近い場所に何か建てたりすると目立つし何をしているか訝しがられる可能性がある為、泣く泣く却下
それにもし何をしているかと問われても何と言っていいか返答に困る
魔素溜まりは一般の人々に知られていない事なので無闇に人に話せばそれこそ無用な混乱を招く事になる
その為何か適当な理由を付けて村に住んだ方が得策だと考えたからだ
それに送り届けた際にサイモンさんとアンナさんにどうしてもお礼がしたいと言われ拒むに拒めなかったのもあって宿に厄介になる事にしたのだ
割と長くお世話になる所だと思い魔法などで村の中をコッソリと調べたりしながら
村の人々への挨拶回りやこれから暮らして行く宿の中をアンナさんの許可を得て便利になるような改修などをここ2日の内にしていた
しかし、昨日の昼時のお客の入り様には驚いた、ミーシャちゃんが寝込んでいた2日間とも厨房の手伝いを買って出たのだが
初日は何事もなく平和に終わったが、2日目のお客は私が想像していた数より多くて吃驚した
普段なら私が手伝った初日の人数位が平均より少し上で2日目は異常だったとアンナさんは言っていた
何が原因なのか分からないが今日のお客も多かったらアンナさんには手伝うと言っておいた
流石にあの量を捌き切る事は難しいだろうし何より手伝わないと私が心苦しい
それにこれからミーシャちゃんが魔法の勉強などでこれからも家の手伝いをする時間が少なくなってしまうのは明白だ
アンナさんにそのしわ寄せが行ってしまうのを少しでも軽減出来たらと思って言ったのだが…
「…まさか、今日もお客が大入りだとは…勉強は午後の空いた時間にやりますかねぇ…」
食材の山を目の前に一先ずやるべき事を片付ける為に料理を作っていく
「しかし何でこんなにお客が来ますかね…聞いていた普段の客入りより確実に多くなっているんですけど……まぁ良いです、気持ちを切り替えていきましょう。まずは今日の勉強内容を決めるかな…初日ですから内容は座学を中心にして…」
独り言を呟きながら今後の勉強内容を組み立てつつ忙しい昼時の時間は目まぐるしく過ぎていくのだった。
◇
時間が経ちお客が殆どが去ってからやっと一息つける時間が出来た
私とアンナさん、ミーシャちゃんは店のカウンター席に揃って座り私が淹れたお茶とあり合わせの物で作った軽食を3人で摂りながら休憩している
連日こんなに客が来ると流石の私でも疲れてくる、ましてや病み上がりのミーシャちゃんなら尚の事疲れが出るはずだ、ミーシャちゃんも家の手伝いという事で給仕や皿洗いなどを積極的にやってくれているが午後から勉強する体力は残っているのだろうか、少し不安になる。
話し掛けて調子を伺おうとしたが一心不乱に目の前のご飯を口に運んでいるのを見て邪魔しちゃ悪いなと思い声を掛けるのを止める
あれだけ忙しかったのだ食事の時くらい邪魔になるような事はしない方が良いだろう
頬いっぱいに食べ物を詰めながらモグモグと口を忙しなく動かし一生懸命に咀嚼している様はまるでリスのようで微笑ましかったのだが
「ミーシャ、美味しいのは分かるけどもう少し落ち着いて食べないと喉に詰まるわよ〜」
アンナさんにそう注意されるとミーシャちゃんはコクンと頷き今度はゆっくりと良く噛んで食べ始めた、そんな親子のやり取りを見て和みつつ、気になっていた事をアンナさんに聞いてみた
「…あ、そういえばアンナさん。改修したキッチン周りの使い心地はどうですか?どこか使い難い所や何か気になる所はありませんでしたか?」
何故こんな事を聞くかというと
一応改修する際にアンナさんも現場に立ち会わせて作業していたのだが何せ短期間で施工した為、自分的には良い出来だったが何処かに不具合が出ていないか少し気がかりだったのだ
「とっても使い易いわ〜特に食器の洗い場は助かってるわ、あの「ぽんぷ」だったかしら?アレのお陰で井戸から苦労して水を汲んで来なくても良くなったから時間に余裕が出来るし仕事が捗ってありがたい限りだわ〜」
「それは何よりです。それとコンロの方は使ってみてどうでしたでしょうか?火力に問題はありませんでしたか?」
良い評価を聞けてホッと胸を撫で下ろしながら続けて一番気になっていた場所の使い心地を聞く
「何にも問題ないわ!寧ろ竃があんなに便利になるなんて思ってもみなかったわ!コンロは一々薪をくべる必要もないし火加減の調節も楽だし何より煙たくならないのが助かってるわ〜手入れも楽だし!もうこんなに便利にしてもらってリアさんには感謝してもしたりないわ〜!」
「そ、そんなに喜んでもらえて私も嬉しいです。」
結構な勢いで捲し立ててくるアンナさんに気圧されながらも評価を聞く事ができた、改修したキッチンの使い心地はどうやら良好らしい多少大袈裟な気もするが喜んで貰えて悪い気はしない。
その後、立て板に水が流れるが如くアンナさんは喋り続け
気が付けば結構な時間が過ぎていた、もしミーシャちゃんに止められなければ夕食の仕込みをする時間まで喋り続けていたことだろう…
アンナさんの言葉の洪水から脱した
ミーシャちゃんと私は場所を移し、やっと勉強初日を迎える事が出来た。
◇
「…魔法とは、体内にある魔力で周囲の環境に干渉し影響を与えた結果である。…魔力は魔法を使う度に体内から消費されていき時間の経過とともに徐々に回復する……」
「はい良く出来ました。」
燦々と降り注ぐ暖かな日の光を浴びながら私とミーシャちゃんは宿の庭に適当な椅子と机を出してちょっとした確認作業をしていた
それは、ミーシャちゃんが今どの程度の事が出来るか知りたかったので、文字の読み書きや計算などを一通りやらせてみる事にした。
机の上に広げた数枚の紙に魔法教本の内容を書き取りさせてみたが問題無く綺麗な文字が書かれている、読みも問題無い、計算は少し止まったところもあったが自力で解いていたし概ね問題無しっと…
「読み書きは特に問題無し。計算は少し苦手みたいだけど…うん、これなら直ぐに魔法の勉強を始める事が出来るね。」
「本当ですか!嬉しいです!」
パッと花が咲いたような笑顔でミーシャちゃんはとても嬉しそうに笑っている
「うん、私もミーシャちゃんが此処まで出来て嬉しいよ。」
そう言って私も笑顔で返すが、内心かなりホッとしていた
引き受けた時は何処から教えるか考えてたんだけど
肝心のミーシャちゃんがどの程度読み書き出来るか考慮するのを忘れてたんだよね…
最初それに気づいた時は文字の読み方、書き方から教える事になるかと若干冷や汗をかいていた
まぁ自ら魔法の勉強をしたいと言っていた位だし、私の心配もただの杞憂で終わって良かった。
「…そう言えば気になっていたんだけど、読み書きは自分で覚えたの?それとも誰かに教わったのかな?」
「はい、お父さんに教えてもらいました。」
サイモンさんに教わったと聞きちょっと意外だった
サイモンさんって背は高いしガッシリとした体格で筋骨隆々とまさに山の男って感じなので見た目の印象とちょっと違うなと思ってしまった。
「ちょっと意外、てっきりアンナさんに教えてもらってたのだと思っていたよ。」
「お母さんも読み書きは教えてくれますけど、お父さんの方が教え方が上手かったんですよ。」
別にお母さんの教え方が下手なわけじゃ無いんですけどね、とミーシャちゃんは微笑みながらそう言って更に話を続ける。
「今は猟師をやってますけど、お父さん元々は王都で働いてたらしくて、その時の経験から読み書き計算は覚えておいて損は無いからって小さい頃から文字に触れ合う機会は多かったんです。」
私に話しかけながらも魔法教本をペラペラと捲るミーシャちゃん
その様子を見ていると普段から読書などをしているのか、そこそこ読む速度は早い
真面目な子だな、何か指示される前に自分から進んで教本を捲り少しでも理解しようとする姿勢は目を見張るものがある
習学意欲の有無は親に言われたからといってそう簡単に習慣付くものでは無い、寧ろこの様な村の育ちの子は家の手伝いで碌に遊ぶ事も出来ない位に忙しい、空いた時間があれば友達と遊んだりしたいはずだ
それにも関わらず目の前のこの子は黙々と本を読んでいる、何が此処までこの子をそうさせるのか?
そんな事を思いながら、本の内容で分からない所の注釈や簡単な問題などを出しながら夕方近くまで勉強会は続いていった。
◇
日も傾きだし宿のキッチンからは鼻を擽るいい匂いが漂ってくる
今日のメニューは角ウサギのスープと私が昼時に調理のついでに仕込んでおいた粗挽きハンバーグ、採れたて新鮮な野菜のサラダの筈だ、アンナさんには特製のソースも渡してあるし今から夕食が楽しみだ。
「ふぅ、そろそろ夕食の時間だね、それじゃあ最後にちょっとした訓練をして終わりにしよう」
「訓練…ですか?」
私がそう言うとミーシャちゃんは首を傾げながらそう聞き返す。
「まぁ訓練って言っても初歩の初歩みたいな物だし危ないものでも無いから安心して良いよ」
何の心配無いからと言ってもその表情は固く、少しだけ緊張している様だ。
そんなに張り切らなくてもいいんだけどなぁ…まぁやる気があるのは良い事だ。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。慣れるまでにはコツが要るけど慣れたら何て事の無いものだから」
「は、はい。それで先生、どんな訓練なんですか?」
「これからやる訓練は魔力を感じ取る訓練だよ、後にも先にもコレを習得しないと魔法を上手く扱う事が出来ないからね」
黙って私の話に耳を傾けるミーシャちゃんの表情は真剣そのものだ
コレは此方もその思いに応えなければいけない。
「よーし、じゃあ深呼吸から始めようか!」
◆
「はい、それじゃあ目を閉じてゆっくりと呼吸をしながら体の内側に意識を集中して」
「はい…」
先生の指示に従い目を閉じ、ゆっくりと呼吸をする
視界が真っ暗な中、風の音だけがやけに大きく聞こえてくる
だけど風の音は聞こえても肝心の魔力を感じる事が出来ない
…もっと集中しないと感じれないのかな?
そもそも魔力ってどんな物なの?
何を感じれたら魔力を感じたって言えるのかな?
だけどさっきから集中しようとすればする程、風の音が強く耳に入ってくる様な気がする
…いけないもっと、もっと集中しないと
頭を振って余計な考えを追い払う。
もう一度体に意識を向ける、ゆっくりと深い呼吸を繰り返す。
しばらくそうしていると変化が出て来た
感覚が鋭くなっているのが分かる
鼻先をくすぐる料理の匂い
肌に触れる空気の冷たさ
脈打つ血の流れ
胸の鼓動
その奥
………あった。
胸の奥、何だか暖かい物があるのを感じる事が出来る、コレが魔力…?
「…あっ」
「魔力を感じる事が出来たみたいだね」
声を掛けられ、目を開けると先生が笑顔で私の顔を見つめていた。
「うん、思ったより早く出来たね。無意識とは言え、魔法を使えていた事を踏まえても良い結果と言えます」
「えっと、あの…」
目を開けたら急に先生の顔が近くにあって気が動転して、何と返事をしたらいいか分からなくなりモジモジしているとポンと頭に手を置かれた
「おめでとう、ミーシャちゃん。コレで魔法使いに一歩前進だ、でもまだまだ覚える事が沢山あるから一緒に頑張っていこう。」
そう言いながら先生は頭を撫でてくれた、先生の手の温もりが伝わってきて何だかむず痒いけど、嬉しい気持ちの方がその上を行く
「はい!先生!私がんばります!だからもっと色んな事を教えて下さい!」
そう勢いよく返事をして今日の勉強は終わった。
その後はお父さんとお母さんと先生と一緒に晩御飯を食べた
先生が作ったと言うハンバーグはとっても美味しくてあっという間に食べてしまった。
今度食べる事があったらもっと味わって食べよう…
食べ終わって今日あった事をたくさん話した。お父さんもお母さんも私の話をニコニコ笑いながら聞いて頭を撫でてくれてとっても嬉しかった。
寝る時間になったので部屋に戻りベットに潜り込んで寝ようとした時、「魔法使いに一歩前進」と先生に言われた事を思い出し改めてその実感が湧いてきてしまった。
多分今の私の顔は嬉しさで緩みきっているだろう
その後は興奮して中々寝付けず、翌朝少しだけ寝坊をした。