第7話:魔法の先生
遅くなりました読んでくれている方々には大変な迷惑をお掛けしました。
申し訳ございません。
これからも不定期な更新になりますので気長にお待ち頂けると幸いです。
今回は熊に追われていた女の子の視点になります。
魔法の先生
暖かい日の光が閉じた瞳に降り注ぐ
眩いその光は私の目を覚ますには十分だった
眠い目をこすりながら体を起こす
自分の部屋
少し前まではお母さんと相部屋だったのだけど10歳の誕生日を迎えた時にお姉ちゃんが使っていた部屋をもらったんだ
しばらくぼーっとする、ふと窓の外を見るともう太陽は空の真上に登っていて今が昼時なのが分かる
家のキッチンからパンを焼く香ばしい匂いとおいしそうなスープの匂いが漂ってくる
「良い匂い…もう、お昼か……お昼…?…しまった?!お母さん1人じゃお店回んないよ!急いで行かなきゃ!!」
急いで身支度をして部屋を出る
私の家は宿をやっていてその宿の一階には一緒にレストランも建てられている、お昼時になると旅の人やお仕事の休憩時間を利用して来るお客さんでそこそこ忙しく私とお母さんで何とか切り盛りしているのだ
それなのに…寝坊してしまった、仕込みも何も手伝えなくてごめんなさい。
とにかく早く行かないとお母さんが大変だ
お客さんに注意しつつなるべく駆け足でキッチンまでの道を急ぐ
そばまで来るとガヤガヤといつもよりお客さんがいる声が聞こえてくる
キッチンの扉をそっと開けて中に入ると同時に頭を下げてお母さんに謝る
「お母さんごめんなさい、寝過ごしました!」
頭を下げてお叱りの言葉を待っているが一向に反応が返ってこない不思議に思い顔を上げると
「えーっと…アンナさんなら今注文を取りに行ってますからキッチンには居ませんよ?」
困った顔をした綺麗な女の人がキッチンで料理を作っていた
村では見ない顔の人だ…でもどこかで見た顔?………あ!?
「熊から助けてくれたお姉さん?!どうして此処にいるんですか?」
「色々あって宿のお手伝いしてるの、えっと確かミーシャちゃんでしたよね?体は大丈夫?どこか痛いところはないですか?」
心配してくれているのか優しく微笑みかけてくれるその顔がとても綺麗で私の心臓はバクバクと早く動き
それとは反対に体は岩のように固まり動けなくなってしまった、それでも懸命に答えようとして…
「は、はい!な、なんともないでしゅ!」
噛んだ
「ふふっ、そっかなら良かった。おっと危ない危ない、焦がすところでした。」
私の困惑も知らずお姉さんは調理を続ける、アタフタとどうしようか私が迷っている間にお姉さんは目の前の料理を作り終えてしまった。
「アンナさん、料理出来上がりました。2番卓のお客様の料理です」
作り終えた料理をキッチンとフロアの境にある棚に置いて次の料理の準備をするお姉さん、…はっ!ボサッとしている暇じゃない急いで手伝わないと…キョロキョロと周りを見て何をすべきか探す
「お姉さん、私はお皿洗っておきますね、何かあったら教えてください」
「うん、ありがとう。でも無理はしちゃダメですよ具合が悪くなったら直ぐ言ってくださいね?」
その後お姉さんは黙々と料理を作り
私は洗い物がひと段落するとフロアでお母さんと一緒に注文を取ったり、料理を運んだり
お勘定をしたりして目まぐるしく時間が過ぎていった
◇
「ふぅ…お疲れ様でした。ごめんなさいね、こんな事頼んじゃって」
「いえ、私から手伝いたいと言った事です。お気になさらず、それに料理を作るは好きなんですよ」
お客さんが大体捌けて来た頃、お母さんがお姉さんにそんな事を言って謝っていた
「何時もならこんなに混むはずないんだけどね…今日はどうしてこんなに混んだのかしら?」
「お店が繁盛するのは良い事じゃないですか。でも毎日こんなに人が来てしまったら大変ですね」
「まぁ、たまにはこの位忙しい日があっても良いかもね、本当にたまにならね」
そう言って笑い合うお母さんとお姉さん、私は休憩していて良いと言われたのでカウンター席に座って2人の会話を眺めていた
しかし何でこんな状況になっているのだろう?
多分だけど私が寝坊したからだ
でもこんなに寝坊したのは初めてだ
いつもなら私が遅くまで寝ているとお母さんが部屋まで来てベットから毛布を引き剝がし私を叩き起こし
桶とタオルを持たせて「顔洗って来なさい、そしたら目も覚めるわよ」って無理やり部屋から追い出す一連の流れがあるのだが今日はそれが無かった。
それに今もこうして寝坊した事をお母さんから叱られてない事も不思議だ本当に何なんだろうこの状況は?
「ん?どうかしたのミーシャ?まさか具合が悪いの?」
さっきから黙ったまま考え事をしていたせいで顔が険しくなっていたらしく
お母さんが私の顔を覗き込み心配そうに見つめてくる
「ううん、ちょっと考え事をしていただけだよ。…お母さん…私を叱らないの?」
気になっていた事を言うとキョトンとした表情になりお母さんは固まってしまった。
少しの間が開いて、何か納得がいく答えが見つかったのかポンと手を叩いて私に近づいて来る、しまった余計な事を言ったか…!?
怒られる覚悟をしてギュッと目を瞑ると優しくポンと頭に手を置かれゆっくり撫でられた。
「ミーシャあなた自分が寝坊した事を怒られると思ったの?」
頭から手を離しその手を肩に置かれ
そうお母さんに問われると私は首を縦に振った
「確かに、いつもの寝坊なら部屋まで起こしに行く所だけど今日のはいつもと違ったからね、キチンとした理由もあったし…」
そうお母さんが言葉を切ると顔を横に向ける、私も同じように横に顔を向けるとポットを持ったお姉さんがすぐ横に立っていた
「私がアンナさんにお願いしたんです。ミーシャちゃんを絶対に起こさないで安静にしてあげて欲しいと、あんなに大変な事を経験したなら休息は必要でしたから」
そう言ってお姉さんはお茶の入ったカップを私とお母さんに差し出す
「本当に大変だったのよ、ミーシャあなた魔力欠乏を起こして2日前から寝込んでたのよ」
「…え?嘘?2日?私そんな寝てたの!?」
お母さんそう言われ吃驚して大きな声を出してしまう
全然そんなに大変な事になってるなんて思わなかった、お母さんには心配かけちゃったな。
「お母さん心配かけてごめんなさい」
「良いのよミーシャが無事にこうして私の前に居るんだからそれだけで嬉しいわ」
ギュッと抱きしめられた、お母さんの体は少し震えていて、顔は見えないけど泣いているような声が聞こえてきた。
何かが肩を濡らす感覚がする
すこし冷たいけど私にはそれがとても温かい物に感じられた
お母さんの背に私も手を伸ばしギュッと抱きしめ返した。
◇
「ごめんねミーシャ、本当はいつもみたいに接するつもりだったのに、あなた意外と責任感強い所があるから変に気負ってしまうんじゃないかって思ってね」
お母さんと抱き締めあったのはほんの少しの間だったけど、どれだけ心配かけたか分かった気がした。
「でもどうして魔力が無くなったのかな?私は魔法なんか今まで一度も使った事ないのに…」
そう思っていると微笑んでいるお姉さんの顔が目に入ってきた
「…やっぱりですか、人間死ぬ気になれば無理も道理も引っ込んでしまう時があるものですね。」
「え?それどういう事ですか?」
不思議に思っている私に
お姉さんは屈んで視線を合わせながら説明してくれた。
「ミーシャちゃん、思い出したくないでしょうけど熊に追われていた時あなたは無意識の内に魔法の力を使ってあの熊の速度から逃げていたんですよ。」
「…それは、本当…ですか?」
戸惑いながらも私はお姉さんにそう聞き返した
「はい、嘘は言いませんよ。しかし命の危険があったにせよ、あれ程綺麗に練り込まれた魔力の流れは久々に見ましたよ。」
褒められて悪い気はしない
魔法が使えるなら私の夢にグンと近付く大きな一歩になる
多少の期待を込めてお姉さんに尋ねる
「そ、そんなに凄かったんですか?」
「えぇ…まぁ、自然にあれだけの事が出来るのですから正直に言うと才能があるとしか言いようが無いですね。」
「さ、才能…か」
グッと手を握る、今まではただの夢で終わるはずの私の夢が現実味を帯びてきた魔法の才能があるならばきっと夢に届くはずだ
あの場所へ、あの人の元へと行けるはずだ、バッと顔を上げるとお母さんとお姉さんが私を見ていた
「それでねミーシャ、あなた魔法の勉強をする気は無い?」
ニコニコと笑うお母さんがそう私に聞いてくる、私の正直な心だと魔法の勉強には大変興味がある
だけど魔法の勉強はとても難解だとも聞いた事もあるし、そもそも魔法教本の値段がとても高い、経済的にそこまで裕福では無い我が家には少し厳しい。
それに仮に魔法教本が手に入っても教師の1人でも雇わない限り、本を片手に独学で学ぶ事はほぼ無理だろう。
家には魔法の教師を雇うだけの蓄えがある訳じゃ無いし、それに宿の手伝いをしながらそんな事が出来るだろうか…現実的に考えて難しい。
今までお母さんとお父さんと私で何とか出来ていたのに、ここで私が手伝う時間が少なくなったら………頭の中がゴチャゴチャとまとまらない。
でも…それでも、あきらめたく無い、叶えたい夢だから、叶えなくちゃいけない夢……だけどこれは無理かもしれない…
「魔法の勉強…してみたい、してみたいけど家の宿の手伝いもしなくちゃいけないし…家にはそんな余裕も…無いからそん…なこと、できない…よね。」
ダメ元で一応の答えを返すが段々と尻すぼみになり声に力が無くなってくる、言い終わるとそのまま顔を俯かせる
「ミーシャ顔を上げて」
お母さんは一冊の本を差し出して来た本を手に取る
分厚く重厚で綺麗な装飾のしてあるいかにも高そうなその本の表紙にはこう書いてあった
「…魔法教本…お母さん!これどこで買ってきたの!?これがとっても高い事私でも知ってるよ!?家にはそんな余裕…無いのにどうして…!?」
あまりの衝撃に思わず、本をお母さんに突っ返してしまった
だってあの本一冊で私たち家族が一ヶ月間豪勢な食事をしてもまだお釣りが出る位の値段がするのだ驚いて当然だ
「落ち着いてミーシャ、それは買ってきた訳じゃ無いのよ、その本は貰ったものなの」
「これを貰った?!こんな高価なもの誰から?!」
誰からと私に問われてお母さんはある方向に首を動かす、私もその動きを追ってその方向を見ると、軽く手を上げて微笑んでいるお姉さんがいた
「はい、その本は私が差し上げました」
「でも…何で…こんな高価なもの…私なんかに…」
本当にそれだ、この本を売れば少なく無いお金を手に入れる事が出来るのに、何で私なんかに…そうな風に考えているとお姉さんは私の目を見て話し始めた。
「私はもうその本の中身を嫌という程見尽くしましたのでもう私には必要無いものなんです。ならば今必要としている人の元にある方がこの本も喜ぶかと思いまして。」
お母さんから本を渡してもらい、お姉さんはゆっくりと私に本を差し出して来る
「本は誰かに読んでもらって初めて意味のある物になります、誰かに読んでもらえるなら本にとってこれ程の幸福は無いんですよ。もしあなたが迷惑で無ければ受け取ってもらえますか?」
「いいんですか?私なんかが貰っても…」
「えぇ勿論、ただ埃を被っているだけの本に意味はありませんからね。」
差し出された本におずおずと手を伸ばし受け取る、ズシリと重いその本を胸に抱きしめ椅子から下りてお辞儀をする。
「お姉さん有難うございます。この本一生大事にします。」
「はい、大事にしてくださいね。」
思わぬ所からこんなに高価なものを貰ったが肝心なのはコレからはどうやって魔法の勉強をしていけばいいのかと悩んでいるとお母さんに肩を叩かれた
「なに、お母さん?どうかしたの?」
「ミーシャ魔法の勉強を独学で学ぶ事は難しいのは知っているわね?」
私は首をコクコク縦に振って、理解している事を伝える
「そこでねお父さんとも相談して魔法の先生を雇う事にしたの」
「何考えてるの!?お母さん!?家にそんな余裕はないでしょ!?雇うって幾らお金が掛かると…!?」
「ストップ!」
捲したてる私の顔を遮るようにお母さんは手の平をこちらに突き出して言葉を遮ってきた。
「最後まで話を聞きなさい、お金の事なら心配いらないわ格安でやってくれる先生を見つけたから。」
そう言ってお姉さんの方を見るお母さん…まさか?!
「そこに居るお姉さんが明日からあなたの魔法の勉強を見て下さる先生よ」
「よろしくねミーシャちゃん」
唖然としている私を置き去りにして話はどんどん先に進んでいく
「あ…そう言えば私まだミーシャちゃんに名前を名乗ってませんでしたね。私の名前はリアと言います。コレから宜しくお願いしますね。」
お姉さんはペコリと頭を下げてお辞儀をしてくる。
「ほら、ミーシャあなたもちゃんと先生にご挨拶しないと」
「う、うん…私の名前はミシェール・グラスファームと言います。親しい人達からはミーシャと呼ばれています。声を掛ける時があればその呼び名で呼んでくれるとうれしいです。リア先生これから宜しくお願いします。」
「先生、娘の事を宜しくお願いします。」
お母さんと一緒にお辞儀をした
「はい、これから大変な事や難しい事も出てくるでしょうが諦めずに一緒頑張りましょうね。ミーシャちゃん」
「はい!」
こうして私は魔法の勉強をする事になった
本当にチョロっとですが
やっと主人公の名前を紹介できた。
本名とは違う偽名ですが彼女にもそうする理由があったりします。
その理由を明かすのはいつになるのやら…
次回もなるべくなら早く投稿したいと思っていますので
何卒見捨てないで見てやってください。