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死んだ私はヒトでなし  作者: 時雨山
第一部:出会い編
3/11

第2話:旅のある日

視点切り替えがあります。

◆が表記された後に視点が切り替えられてます。

旅のある日


「なあ、魔獣に襲われたあの街が妙に静かになった気がしないか?」


護衛を連れての旅もそろそろ終わらせて愛する家族の顔を見るかと思っていたある日、ワシの耳にそんな噂話が入ってきた。

丁度、最後に何ぞ土産話でも欲しかった

ワシはその話に耳を傾けていた。


ふむ、話を聞いてから考えるに

あの街とは恐らく昔この国の国境を守る要塞であったあの街の事だろう。

ワシが幼い頃に強大な魔獣に襲われその街どころか隣国までにも被害を齎した厄災として語られるあの魔獣の巣食う街


当時は何とか魔獣がその街から侵攻しない様に各国の魔術師や騎士団、冒険者と共に街の外に出ない様に食い止めたと聞いている。

今はその侵攻も殆ど無いが街は魔獣の被害者たるゾンビが蠢き街の外にまで溢れて、それなりの被害も有るので各国が連携して常に監視をしているあの街


それがここの所静かだと。


騒がしくなって来たならまだ分かるが、静かになって来たとな?

騒がしいなら魔獣が活発に動き始めたと

警戒を強くし討伐隊を組んで短時間だが魔境に入りその数を減らせばいい。

だが静かになった、それは静かになった原因が其処に居る、もしくは居たという事。


むむむ、気になってきたぞ。

チラリと護衛達を見るとギョッとした様な顔になり首を横にブンブンと振り始めた。

うむ、そうかそうか行きたく無いか。

そんな危険地帯に行きたいとは思わなんよな普通は心配せずともワシ一人で行くわい。

その旨を伝えるとガックリと肩を落とし自分達も付いていくと言ってきた。

嫌なら付いて来んでも良いぞと言ったら


貴方をお一人で行かせる方が問題です!それに出来れば行って欲しくはありません!ですが言っても聞く耳を持ってくれないのは分かっておりますので私達も同行します!


と言ってきおった。

何じゃ、このワシが一人で行くのが不安か、舐められたもんじゃの。

そんじょ其処らの魔獣何ぞに遅れを取るほど老いぼれてはおらんわい。


なーに、チャチャっと見てきて危なそうだったら尻尾を巻いて逃げるわい。

今更張る見栄もない、ワシには愛する家族と可愛い孫が待ってるんじゃそう簡単には死にはせんわい。





はぁ、この人のまたいつもの悪い癖だ。

気になったら自分の目で確かめるまでしつこく粘るし絶対に諦めない。それはもう台所の汚れくらい頑固でしつこい。


こっちが如何しても譲れないと言っても一旦は諦めたふりをして御自分だけでこっそりと抜け出し目標を達成しようとするから目を離す事もできない。

この人は御自分の立場をわかっているのだろうか?


そもそも私達護衛が付いていたとしてもそんな危険な所に連れて行けるわけが無い、それなのにもうこの人は行く気満々になってしまっている。


多分今回も止めようとしても無駄だ絶対どんな手段を使っても行くつもりだ。目が語っている目がギラギラしてるもの。


同僚に視線を送るとフルフルと首を左右に力なく振っている。

目が語っている諦めろと。


うぅ、イキタクナイ。

話で聞く限りとても恐ろしい所なのは明白だ、この仕事に就いてからもあの街の事は何度も耳にしている。


曰く、歩く死者が群れをなして襲ってくるとか

曰く、とても凶暴な魔獣が何匹も彷徨いているとか

曰く、死神が居るとか

他にもたくさん曰く付きの話が掃いて捨てるほどある。


もう、ヤケだ腹を括って付いて行って自分達の仕事を完遂するんだ。

そして無事帰ったら配属先の変更を申請しよう。お給料はいいけどこんな事いつもされてたら体と精神が持たないよ。





それから2日ほど経ちワシは目的の場所まで来ていた。

見たときに思った感想は確かに静かだと言う事、話で聞いていた限りでは死者の群れが外壁の外にまで溢れていて周辺に少なく無い被害を及ぼしていると聞いていた。

しかし今、外壁の直ぐ近くまで近づいているが呻き声どころか腐臭さえ漂って来ない。

まぁ無駄な力を使わずに済むのだからかえって好都合じゃ。


街を覆う外壁を眺めながら入り口を探す。外周の此処からでも分かるこの街に立ち込める瘴気がこの街に危険なモノが居ると雄弁に語ってくる。


うむ、此れは来て正解じゃったな。

此れほどまでの気配、並の兵士や冒険者ではただ魔獣の餌食にされておしまいじゃっただろう。


さて此処からは気を引き締めて本気で当たらねばな。付いて来ている護衛達に気を引き締ろと言ってワシは歩を進める。


程なくして外壁に巨大な穴が開いているのを見つけた。

恐らく此れは話に語られるこの街を最初に襲った魔獣の痕跡だろう。

此れほどの厚さの外壁をブチ破る程強大な力を持った災厄と言われた魔獣それがこの街の中に居る。

もしくはそんな強大な災厄を静かにさせたナニかが居る。


取り敢えず極力目立つ行動は避けるべきだな、今回は討伐しに来たわけでは無い言わば偵察の様なものだ。

もし災厄を凌ぐナニかが居たら一も二もなく即座に撤退、脇目も振らず逃げるしか無い。


しかしそんなモノが居たら一国の力ではどうにもならんぞ。

居て欲しく無いが居たら早速討伐隊の選抜をしなければならんな。


周囲を警戒しつつ外壁を一周して来たが

入り口はあの大穴位しかないか。

事前に声を出したり音を出す事を避けるため決めておいた合図を送り大穴から街の中へ進んでいく。


大穴から街に入りまず目に入るのは瓦礫の山。本来住居であったであろう家々が軒並みなぎ倒された光景。

警戒を厳にしつつ行動再開、なるべく音を立てぬ様に慎重に歩いていく。


まずは街の外壁に沿って一周してみる事にした。

暫く歩いて噂通り本当に静かだ予想していたゾンビの群れも居なければ

厄災と言われる魔獣も見当たらない。


やはり外周ではなく街の中心近くが怪しいか?

合図を送り街の中心を目指すことにする。取り敢えずこの街が今どのようになっているかを確かめねば。

街の中心に進むにつれて障害物が多くなってきた、崩れかけては居るが建物が立ち並び見通しが悪い。


何もない光景が続く中建物の角を警戒しながら曲がると驚くモノがあった。

人間の死体、軽装だが作りは良い物を装備しておる。ふむ、まだ死んでからそう日にちは経っていないな。


死体になって1週間と言った所か、見た所食い荒らされてもいないしゾンビに襲われて死んだのではないな。その証拠に肩から腰にかけて袈裟斬りに三つの線が綺麗に並んで体を切り裂いておる。


しかし見事な切り口だ他に何の傷も見られないことから一撃で殺されたのだろう。


ん?この傷以外外傷が無い?

死体になぜ咬み傷の一つもない?

っ!?まさか!


「伏せろ!!馬鹿ども!!」


風魔法で護衛達の足を払い転ばせると同時に真空の刃が護衛達の首があった所を通り過ぎた。


しまった抜かっておったわ、コレは罠じゃ何故あんな目に付きやすい場所に死体を放置している。


食うのが目的ならあの死体は四肢の何れかが食われていてもおかしくなかったのに体を切り裂かれた傷以外無かった。

それは此方の意識を死体に向けさせるための言わば囮。


此方が周囲を警戒しようとも関係なく周りの建物ごと切り裂く真空の刃。万が一避けられても瓦礫によって退路を封じて効率的に狩りが出来る。


クソッ!此処はもう魔獣の腹の中と同じか!


辛うじて今は生き延びているが果たして何人生きて帰れるか…悲観しても始まらん兎に角一人でも良いからこの街から脱出させなければ。

此れほどの狡猾な魔獣を野放しにする事は出来ん、死力を尽くして活路を見出すしかない!


「一塊になるな!散会しろ!纏めてさっきの刃の餌食になるぞ!!」


もう魔獣に見つかったのならコソコソするか必要も無い大声で指示を飛ばし陣形を組む。


此方が戦闘の準備をすると建物の陰からゆったりとした動作で巨大な狼が現れた此方を睥睨する。体毛は銀色で前肢に鋭い爪を持ちその顔には罠にかかった獲物を今からどうやって甚振ろうか楽しみで仕方ないといった厭らしい笑みが張り付いていた。


状況は絶望的最早一人として生きて帰れない。だが諦めるなどとそんな気は毛頭ない最後まで足掻いてやる人間の意地を見せてやろうじゃ無いか。





この街に人が出入りしているかもしれないと思った日から私は調査を始めた。

まずやった事は本当に人がこの街にやってきているのかという事。


結果は確かにこの街に人が出入りしているという事。まぁ入った数より出る数は圧倒的に少なくなっているが。


次に入ってくる人達を観察してみる、揃いの装備に統率の取れた洗練された動きを見て何処かの兵士なのだと思う。

兵士達は少数の班を作り街の中を探索している

何かを探している風でも無い。

何かの調査をしている感じか?


そして兵士達を観察していたらこの頃ゾンビが現れる原因も判明した。私が斃した魔獣とは別の魔獣が街に住み着いたらしいそれが丁度兵士達を襲っている。


姿が見えるか見えないかのギリギリの位置をキープしつつチクチクと一方的に嬲っている一人また一人と膝を折り倒れていく、この世界の常識で考えるなら自己責任と本人たちの力不足と言って放置する所だが彼らを仮に兵士として見るなら自分の意思ではなく上からの命令で此処に行けと言われたのであろう。


それに自分の目が届く範囲で自分の腕で守れる人が死ぬのはやっぱり見過ごす事が出来そうに無い。


見たところ倒れた兵士達はどれも傷を負ってはいるがまだ軽症の者が多い、今すぐ死ぬ事は無いだろう、なら傷の手当はしなくても別に問題ないか。

なら、傷の手当てと此処からの撤退は彼ら自身でやって貰うとしよう。


さて、遠距離から斃す事は出来るがいきなり目の前の敵が死んだら不審がるだろうし此処は適当に追っ払う位が妥当かな。


道具箱から遠距離用の武器を取り出し構える。

照準を合わせ放つ。

ヒット、右後ろ足に命中。

突然の攻撃に慌て出す魔獣、何処から攻撃が来たのか分からず注意を兵士からそらし始める。

続けて第二射、此方は敢えて外して足元に打つ。

魔獣は目の前の兵士を気にしつつも逃げる体勢に入り逃げて行った。

こんなモンかな、後はご自由に逃げるなり仲間を介抱したり好きにすれば良い。


さて兵士達も混乱しているがその内に此方も退散しよう、面倒はゴメンだ。


しかしこうなるとココに住めなくなりそうだ、ココを引き払ってまた落ち着ける場所を探しに行かないと。


結構気に入ってたんだけどな、少しづつだけど住んでる家の修繕もやってたし、

まだ探索してない所とかあったし。はぁ名残惜しいけど少なくとも1週間ぐらいで出て行かないと。

また暫くは野宿か、気が重くなる。



あれから1週間の内に荷物を纏め使える物を再度探索しに行き、見ていなかった場所の探索などをして出発しようかと思っていたらまた街に人が来た。


お爺さんが一人と壮年の男性が一人、後は若い女性が三人、合わせて五人の人達が外壁に開いた大穴から街に入ってきている。冒険者だろうか?


まぁ良いや、早くこの街を出よう。

人の出入りが多くなった場所に長居は無用だ、しかし早くその穴の側から離れてくれないかな、其処以外に簡単に出られる場所が無いんだよ。


暫く見ていると壁に沿って街を歩いて探索し始めた。

十分に距離が開き視界から見えなくなったのを確認する。

私は直ぐに街を出た。


街を出てから一刻ほど歩いた頃暇だった私はふと頭に沸いた疑問について考えていた。


なぜこの頃になって人が頻繁に来るようになったのだろう。


この街が魔獣に襲われその後地獄のような危険地帯になっているのは知っている筈だと思うのだが?


うーん…あの街に財宝が眠っているとか?

探索した限りそんなの無かったしな?

街を襲った魔獣の肝が貴重な薬の材料になるとか?

斃したあの無駄にデカいイノシシ見たいなヤツの肉は美味しかったけど肝が貴重な薬になるとか聞いた事無いし、記録にも載ってない。


考えてみるがどれも的外れな気がする。


うーん何かあったとすれば………

瞬間頭の中でパチリと何かがハマる感覚がした。


………あ、もしかして私が街の中のゾンビや魔獣を斃した所為で街に変化があったからその調査に来て…る?

……じゃあこの前の兵士達が魔獣に襲われたのも私の所為………?


何て事だ、人目を避けなるべく人の居ない土地に隠れ住んでたのに人の来る原因を私自身が作っていた。

しかもそれで無用に人が被害を被るなんて許されざる事態だ。


じゃあさっきの人達も私が原因で危ない目に合うかもしれない。

それはダメだ!

少なくとも自分が原因でその様な事態になっているのだ、自分の手が届き守れる場所に居るならあの人達を助けなければ!

私は歩いて来た道を全力で走り街に戻った。


「お願い、まだどうか魔獣に会わないでいて。」


私は募る不安を消すために祈るように呟いていた。


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