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死んだ私はヒトでなし  作者: 時雨山
第一部:出会い編
2/11

第1話:あの日から

あの日から


あの日から幾日が過ぎただろうか。


自らが死にその死を悼んでいる人達を見たのはどの位昔の事だっただろうか。


人とはこんなに呆気なく死ぬものなのかと

いつもより具合が悪く寝て体を休めただけなのに

気が付けば私の体は宙に浮かびその側で悲しみに暮れる家族と横たわる自分を見ていた。


其れから数日後に雨の降る中皆が私が入った棺を墓に運んで埋葬し

墓に花を手向ける人達を見て

墓石に刻まれた自分の名を見たのは


そのあと意識が遠くなり視界が霞んできたのを覚えている。

あぁ、これが天に召されるという感覚かと思いながら身を委ね意識を手放してあるモノに出会い紆余曲折あって今此処にいる。


あれから数え切れないほどの冬を越え

もう何度目になるかわからない春を迎えた。


今私が居るこの屋敷は打ち捨てられた街の中にある

ボロボロで所々屋根が崩れているが街の中では比較的原形を留めている方だ。


今日も今日とて使えるものを探しに街の中を探索しなくては。

まぁ、大体目星い所は探したので単なる暇つぶしの様なものだ。

さて今日は平民街の方の探索でもしようかな



崩れた建物の瓦礫を越えるのも慣れたもので大きな瓦礫をヒョイヒョイと軽快に跳ねながら進む。

ボーッと崩れた街並みを見ながら最早道とは言えなくなった道を歩く。


打ち捨てられたこの街はいつからこの状態なのか私は知らない。

私が此処に来た時には既に街は人の住むには適さない物になっていた。


遠くに見える外壁の大穴から此処まで放射線状に倒壊した建物の崩れ加減から自然に壊れたものでは無いのが見て取れる。

この街は魔獣の被害に遭ったのだろう。


魔獣、多量の魔力を体内に取り込み独自の進化を遂げた生き物。

力も知恵も他の動物とは比べるまでも無く強く高い、そしてその身に纏った瘴気を自らの縄張りにばら撒き瘴気に耐えられる生き物以外が長時間その場所で活動出来ない魔境に変える化物。


人の住む領域を侵しテリトリーを広げる悪しきモノ、人はその魔獣から住む場所を取り戻すべく魔獣を討つ。

長い長い魔獣と人の一進一退の攻防は

いつの世も変わらずに続く

そんな危うい平和が永遠に続く訳もなく幾度と無くその均衡は崩れている。


数年に一度の魔獣の大氾濫、何処かで増え続けた魔獣が自らのテリトリーから溢れ新しい縄張りを求めて濁流の様に流れ出す。

その余波に飲み込まれる事は人々にとって甚大な被害を齎す。


大概の場合は魔獣が増えない様に数を減らす為の討伐が定期的に行われるのでこの街の様に大きな被害に遭うことはまず無いはずなのだが


何がどうなってこんな有様になっているのか、定期的な討伐を怠ったか其れとも倒すことの出来ない強力な個体がいたか、どちらにせよ討伐が出来なかった時点で街に伝令を走らせれて避難なり何なりすれば人的な被害は軽微で済んだだろうに。


多分この街は防衛戦を選んだのだろう。

確かにあの巨大で堅牢そうな外壁は今まで多くの魔獣の襲撃を耐え抜き見事迎撃してきたのだろう。


だから侮ったのだろう。

たかが魔獣、獣と何ら変わり無いと。

この街の現状は相手の力量を測れなかった者が手痛いしっぺ返しを食らっただけの事だ。


別に珍しくも何とも無いその辺の粋がってる冒険者と何ら変わり無い。

被害の桁が個人の命か多くの人々の命かの差でしか無い。


暇つぶしにそんな事を考えていたけど急にバカらしくなってきた。

今の私にはそんな事知ったこっちゃ無い。


寧ろココが人の寄り付く場所になってもらっては困る。

長く生きている内に気が付いた

人と私は相容れないとどんなに此方が心を砕こうと相手には伝わる事が無いと。

だから今のこの場所は私にとって好都合だ。


今この街の中に生きている人間は一人として居ない


そう私を含めて生きている人間はいない


だって私は魔獣だから


魔獣とは少し違うけど人から見れば違いは無いのと同じ。

私は瘴気を気にする事なく行動ができる、強い力と知恵と知識もある。

それに私の体からは瘴気が出る事は無い。


だけど私が幾ら人を助けても私が幾ら魔獣を退けても人が私を見る目は変わらなかった。


いつか分かってくれる人が来ると私は必死に頑張った。

ボロボロの体を引きずって多くの人達を助けても、魔獣に殺されそうな子供を助けても、燃え盛る家からお婆さんを救い出しても、何も変わらなかった。


私が普通の人とは違う事が分かるとみんな表情は笑っていても目の奥に怯えを含んだ目で私を見ていた


分かった途端私を腫れ物を見る様な目で見るのだ、助けてもらった恩義はあれどできれば近づきたく無い、そんな目だった


上辺だけ取り繕った言葉や心が篭っていない感謝の言葉を聞いていると無性に悲しくなった


嗚呼、やっぱりダメだった、またダメだったのかと


それでも助ける事のできる力があって知恵と知識があるなら行動せずには居られなかった


決定的だったのは助けた人達が魔獣を倒した私に恐怖を抱き、私を殺そうとした事だったか


皆が手に手に剣やら槍やらを持って私が寝ている隙に大勢で襲われた、体を剣が切り裂き槍が身を貫く

無抵抗な私を何度も何度も殺そうとしていた


それでも私は死ななかった

いや元から死んでいる物を殺す事など出来はしない


私を殺したと思っていた人達は串刺しになった体で平然と立ち上がる私を見て悲鳴を上げながら脇目も振らず逃げて行った。


思えばあの頃から私は極力人目を避け人の居ない土地を探してココにたどり着いたのだ。

あれから暫く人とは会っていない、まぁこんな人が容易に入る事の出来ない魔境に居るのだから当然か


昔の感傷に浸っていると崩れた家の陰からのそりと緩慢な動作で体を動かすモノが出てきた。

そのモノの皮膚は爛れ肉が腐り落ち所々骨の見えるところさえある。目には光がなく、いや目も無いか

私の前に世にも悍ましい歩く死体が現れた、所謂ゾンビだ


魔獣に殺されその瘴気が時間を掛けて死体に蓄積した魔獣の被害者の成れの果て


はぁ、まだ居たのか。

私は辟易としながらいつもの様に胸に手を当て祈りを済ます

そして素早く懐から武器を取り出し放つ


ドパン!破裂音と共にゾンビの上半身が吹き飛び散り散りになって宙を舞う。

バランスを失った下半身はそのまま倒れ少しの間を置いた後灰になって消えていく。

武器を懐に仕舞い姿勢を正す

また胸に手を当て祈る


この頃は見なかった筈のゾンビが最近また出る様になって来た。

私がこの街に流れ着いてきた時は其れはもう目を覆いたくなる様な地獄が広がっていた。


死者の群れが生きとし生けるものを求めて群れをなして行進しているのだ

生きているものが居ればそこにゆったりとした動作で近づき食らう。

俊敏な動きで逃げても無限に沸く死体の波に飲まれ食われる。

死体が蠢き更に死体を増やしていく。

悍ましきこの世の地獄そんな感じだった


幸いと言っていいのか分からないが私が来た時には人は一人残らず死体になっていた。人が人を食らう所を見なかっただけマシかな。


その後一月ほど掛かって街の中を隈なく周り弔ったのだが、何故か最近また見かける様になった。


ゾンビと一緒にこの死体の群れを作り出した原因の魔獣も一緒に駆除したからまた新しいゾンビができる事は無いはずなんだけどな?


まだゾンビになって無い死体がゾンビになってしまったのかな。

隈なく探して弔ったと思っていたけど、まだ探せていない人が居たのか。


悪い事をしたな、出来ればゾンビにならずに安らかに眠らせておいてあげたかった。


まぁ魔獣を倒しても魔境になった場所が浄化されて自然に人の住める場所になるまで途轍もない時間が掛かる。

その間に新しい死体が魔境に増えればその内ゾンビになってしまう。


ふむ、もしかしたらこの街に人が出入りする様になって来たのかもしれない。

少し気をつけた方が良いな。

人から見れば私も十分異形の″モノ″姿形は人なれど本質は違う。


警戒しておくに越した事はない。

まぁ最悪数週間寝ないで警戒する事も出来る、人が多くの出入りする事実が確認できたらココを引き払えば良い。

それまではココで暮らそう。

いずれこの身でも誰に憚る事なく暮らせる日が来る事を祈りながら。


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