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|オレらはモンスター!!_SS:聖圏マグナリア(前編)|

 夜にのみ咲く花がある。


 月光を求めるかのように咲くその花弁は青く、透き通るように薄い。開花のためには月夜である以外にも条件が多く、ごく限られた場所でのみ生息できるはかなき命である。


 この世で唯一、彼らが無数と並び咲き誇るのは聖地においても特別な場所。


 そびえる聖都の中でも嶺滝れいそうと呼ばれる高位階層。広く呼ばれるにはセイデン、一部の貴人らが交わすにはミラーリと呼ばれる居住領域。


 青き花弁が咲き誇る様は彼らが特権のようにでる風物詩となっている。この限られたうたげへの招待を受けることは変哲もない聖域の人にとって極限に近い名誉といえよう。



 ……その年も変わらなかった。【少女】は静かで高貴なる宴に参加して、たくさんの愛情と安心に包まれて美しい景色を眺めた。



 その夜までは普通だった、変わらなかった。



 けったいな世上のことなどぞんぜぬ。“誓い”など知るはずもない。


 ただ普通の……高貴なる少女として。ただ初めての“恋“をしただけだった。


 交わしたくちびるは特別な思い出ではあったが、単にそれだけだった。


 しかし、理解してしまった。心に痛みを覚えた時……少女は“知ってしまった”。


 知ったからには使命ねがいがつきまとう。地の底からの、ねがいだ。


 それは呪いか、それとも加護なのか?



 ただ1つ言えることがある。


 彼女の国にとってそれは決して許されざる“罪“であり、命を断じられるべき運命さだめと信託された事実。



 聖地においては神意こそが何よりも優先されるもの。それはあらゆる人の規則、歴史、想いより優先されて……。







オレらはモンスター!! ~プロローグ~


『アルフィース・ウルスガンド』







Phase1:_イダシアの塔



 円形に広がる居住地。そこには主に木造家屋が立ち並ぶ。


 そして広大な居住地が囲うようにしているのは巨大な塔……とされる建造物(?)である。


 聖圏マグナリアにおいて“イダシアの塔“と呼ばれるその建造物だが……実際のところ、建造物なのかすら不明だ。つまり造られたものかすら不明な遺物……。


 材質はオラクルメタル(聖鉄)と呼称される金属で構成されているらしい。塔の基礎部は現在の技術で削ることすらできないので分析もできていない。ただ、金属だろうな~と、人々は感触などから考えている。


 オラクルメタルには不思議と光沢がない。ただ灰色のとにかく硬い物質……。そのようなものが渦を巻くように、途切れ途切れの螺旋らせん状に天を突いている。不完全なドリル(採掘機)のような見た目とも言えるが、ともかく巨大だ。


 現在、このイダシアの塔には3万人ほどが居住している。つまりは都市1つの人口がまるごと乗っかるほどにこの螺旋なる塔は大きい。


 途切れ途切れと表したが、より詳細にするとこの塔は「中心に穴の開いた欠けた円盤が浮かんで重なっている」構造だ。12階層あるので12枚の円盤。そして円盤らは常に大地に対して平行を保っている。


 この円盤の上に人々は住んでいる。12階層を繋ぐ階段などを設置しながら、人々は長き時をかけてこの塔を居住地にしたのである。


 このイダシア(塔)を中心として栄えた国こそが聖圏マグナリアであり、その聖都とはつまりこのイダシアとその周囲を意味する。


 しかし……不思議なものだ。


 何が不思議かといえばそんな得体の知れないものに何故人は好んで住んだのかという点。


 そもそもこのイダシアは建造者が不明であり、“建造”という手順にて形成されたものかも解らない。現在をもってしてこれを人は作れないし、人以外にこんなものを作れる可能性があるものと考えると、限定されてしまう。


 人々がそのような意味の解らないものに住む理由は……つまり、これを創った存在が【女神】であると信じているからに他ならない。


 大地の母たる女神マグナリアを信仰するこの地の人々にとって、このイダシアこそが祈りと加護の象徴のようなものなのだ。女神の光を求めて人々はこの地を求めて住まい、より高い層にあるものはより強い加護を受けられると信じている。


 ……と、そのように。確かに今は祈りと信仰の象徴として居住しているのが普遍的認識であろう。


 だが実際のところ、そうではない。元々の理由は異なっていた。




 人々が1人の竜に集い、導かれていた時代。


 竜人の教えに異を唱えた異端なる存在。


 【紅き炎】は語る。



― 女神こそが真に愛される者、

  女神こそ真に愛をくれる人よ


  竜も人も等しく子に過ぎず、

  愛を忘れるは愚かなる喪失だ ―



 紅き炎のおしえに一部の人々は付き従った。


 彼らは導きのままに母の塔へと辿り着き、そこに国を作った。


 女神の代弁者たる、導きの紅き炎。


 それは彼女の愛を普遍とすべく、教えを与え、象徴する仮の“夫”として……断続した信託による先導を行ってきた。




 ーーイダシアの塔には隠された13階層が存在する。「隠されている」としたが実際には目立つもので、それは円錐えんすい形の最上部を意味したものだ。ただしこの13階層に繋がる階段も”エレベーター”も存在はせず、ここに踏み入れる者はただ1人に限られている。


 目には見えるが、人の立ち入れる場所としては隠されたものである13階層……そこに立つ人が独り。紅いケープに身を包んだその人は塔の最上位からこの大地を見渡している。


 おかっぱ頭の金色髪。紅い瞳孔で世界を見渡すその人はまだ幼く、よわいは10にも届かないほどだろう。


「……全員がそろいそうだなんて、最後は何回前だったかな?」


 紅い瞳の【少年】は塔の頂上で呟く。そうして「ふふ」と独り笑いを零して、ふらりと“塔の頂上から飛び降りた“。


 倒れるように、落ちるように跳んだ少年。残された足跡から紅い火の粉がチラチラと舞っている。


 イダシアの塔に重なる階層。その11階層めにて人々が10名ほど集っていた。


 白塗りの椅子が円形に並び、そこに座る10名。学帽を被る彼らのほとんどは老人だ。


 彼ら老人たちの背後にはそれぞれ若い1名か2名が立っている。老人たちはぺちゃくちゃと何か話しているのだが、背後の人らは決して言葉を発さない。


 10名の老人たちは何名かが興奮して椅子から立ち上がったり指を指し合ったりして、唾を飛ばしている。円の中央に空いた穴から唾飛沫を落下させながら、老人たちは椅子の横に備え付けられたテーブル上のお菓子をつまんで酒を飲んでいる。だから会話はほとんど半端な活舌かつぜつわされている。


 そうした会の最中。この階層にスルリと、何かが飛び込んできた。


 飛び込んできた何かは円の中央で浮かび、停止する。


 空中で停止した何か……その紅いケープの“少年”を認識した老人たちはあらゆる興奮を忘れて椅子を立ち、その場にひざまずいた。彼らの背後にある人らも同様に跪く。


 両手の平を地においてこうべれる老人たち。その中の1人が言う。


「なんなりと、全て正当なる大教父だいきょうふ様。我ら学会は変わらず準備万全にあります……どうか、ご教示を下さいませ」


 活舌はしっかりとしていた。興奮の感情もアルコールも、瞬時に消化されて正気となる。偉大なる先導者を前にしたら即座に素面しらふとなれること、それが“学会員”としての基本スキルといえよう。


 そして決まった言葉以外は何も発さず。老人は口を閉じる。


 紅いケープの少年は特にだれを見ることもなく口を開いた。


「呪いについては断じての対処を継続しなさい。例え異端なる彼らがそのわざわいを欲望的な力にしようとたくらんだところで……おのが身を焼く愚行と過ぎません。

 我らは彼女が示してくださるように、ただただ怪異をぐのみ。神の意にならざる世のほころびを、これ以上広げてはなりません。あれらはそう、この世の悪意なのです」


 宙に浮く少年はふわりと空を進み、階層の外へと離れていく。


 離れながらに少年は言葉を残した。


「神罰を……断固とした罪を、人ならざると化した者へと与えましょう。それこそが全て人々のため、女神の慈悲に殉(順)ずる行いとなります」


 少年は微笑んだ。そうしてからまたふわり、浮かんで上へと飛んでいく。紅い火の粉が空に散り、はじけた。


 跪く老人たちは少年が去った後もしばらくその姿勢を保ち、充分に時間を経過させてから顔を上げて立ち上がった。


 「たた」と膝を押さえる人もあれば腰を押さえている人もある。神意を前にして行われる祈りの姿勢はしかし、年齢とともにこたえるものとなっていくのだろう。


 紅いケープの少年――【大教父】と呼ばれたその存在はイダシアの最上位へと戻り、そこで「よいしょ」と座り込んだ。


 高層を流れる冷たい風。その寒さを微塵みじんも覚えることすらない存在は「ふふふ」と独りで笑う。


 そして遥か彼方にある者へと問う。


「母にはちょっと刺激が過ぎると思うんだよ。まったく困るよなぁ、心の怪物だなんてさ。あなた方もそうは思わないか……ねぇ、姉上様?」




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