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「オレってマジモンスター(4)」

 そこは男2人の密室。少年パウロと青年ジェットが向き合い、何やら会話をしている。


「――つまりな。“装怪者そうかいしゃ”ってのはな、その身に怪物を宿している“女”を意味する言葉なんだぜ。どうだ、解るか?」


「ほぇぇ~~~~~、まったくわがんねや。だって女の人の中だって肉とかあるべ? ほんなん、どうやって怪物が入ってんだ? そら無理だべよ」


「身体ってより……そうな、心の中に飼っているとでも考えな。難しけりゃ“とにかくそういう人もいるんだなぁ~”って認識でもOKだぜ」


「はぁ~、そんなことあるもんだかなぁ……」


 パウロはベッドの上であぐらをかき、ポカンと口を開いた表情で聞いている。彼は現在、聞いている話のぶっ飛んだ内容がどうにも頭に入らずにいた。


「信じがたいだろうが……そうだな、証明に1つ面白い話をしてやろう」


「ほぅ、なんだべ?」


「お前、あの子……アルフィースとキスをしただろ? “なんでもする”って約束した後にな」


「おぅ! そら――――――ほんげぇぇぇぇぇぇ!?!?!? な、ななななんあな、なっしてそただなこととっとと?????」


「ハハハ、解るよ。そんで、その後……そうだな。お前、自分の身体が変な感じに……くだいて言っちまえば“自分自身が化け物になる”って異常事態を体験しただろ?」


「……た、たすかに!! それはあっただ。なんか全身がトゲトゲしって、あんなデっケ刃物止めてもちぃっとも痛くもかゆくもなくってだな……それこそ、夢の出来事みてぇだべ」


「へぇ、色はやはり黒で……全身がトゲトゲね。ふぅん、そっちはそうなるんか。まぁ、ともかくそれが“怪物化”っつって……怪物の存在が装怪者からお前の心に“装心そうしん”されたってことなんだけどな。専門的に言えば」


「すっげぇぇぇ!!!!! ……んでもなんもわがんねぇ。オラ、また知らなかったんだすか……」


 パウロは落ち込んだ。町を知らなかったように宿を知らなかったように……装怪者を知らなかった自分をじた。「知っていて当然のことを知らない」ことが恥ずかしくってたまらないのである。この場合は知っている方がオカシイのだが。


「いやいや、普通はこんなん知らねぇって。つか常識ある人間が装怪者なら、普通は教えてくれそうなもんだけどな? あのお嬢ちゃん、よっぽど“り人”のことを道具みてーに考えてんのかな……そこが心配なんだよ」


 アルフィースの姿を連想したジェットは苦い表情を浮かべている。目の前にある男が道具のようにあつかわれているのでは……そう考えて不安になったのだ。


 ジェットが不安を覚えるのも無理はない。|装怪者|と|拠り人|の関係性は不公平に陥ってしまう危険を多分にはらんでいるのである。装怪者が“抑制力よくせいりょく”の意義を勘違いするとまず、そのようになる。


「お前さ、パウロ。最近……っつか、今日からか。身体が勝手に動いたり、思ったとおりにならないことないか?」


「え? ん~~っと、そうだずなぁ……そういやこの町入る時とか、おっかねぇのに脚さ前に進んだりしたべやな。なしてかアルフィースつぁんの前だとついつい土下座しちまったり……」


「それな。ゼッテぇ聞かされてないだろうが……抑制力つって、装怪者が拠り人……つまりはオレ達みたいなヤツの行動を制御できる力によるものなんだぜ?」


「ぬん? ・・・・・つまり、どゆこと???」


「お前はな、“アルフィースの意思によって行動させられた”んだよ。ようは、どんな命令だって言うこと聞いちまうのさ、今のお前は。アルフィースの言いなりだよ」


「・・・・・??? ・・・・・そう、か???」


「信じがたい話かもしれねぇけどよ、そういうものなんだ。でも安心しろよ、制御されるのは身体のみで心や感情は自由だし……それに、お前が望むなら“対処法”を教えてやる」


 椅子の背を抱えるように座っているジェット=ロイダー。この男は態度こそ悪いが、いたって親切心で“忠告”を行っているらしい。アルフィースの態度と大柄おおがらな少年のノンビリとした性格を合わせ見て……「不憫ふびんだ」とジェットはうれう。


 例えどのような事情があれど。人の無知につけ込み、抵抗しがたい力を行使して利用するという所業……。ジェットはそのことが許せない性質たちであり、そうでなくともこの「あわれ」と思われる少年を救ってあげたいと考えたのだ。


 それは善意だ。順を追って考えるほどにジェットは正しい。正論かつ良識的見解であろう。


 ただし、それは彼の視点から見た話である。


「っつーかよ、やっぱそうだったのか~~って話だぜ? あのお嬢ちゃん、ガキの割にえげつない事をいけしゃあしゃあとまぁ……」


「・・・・・。」


「どうだ、パウロ? 自覚はないにせよ、引っ掛かっていた謎が解けたんだ。さっきは答えられなかった“彼女をどう思う”って質問。これで答えが――」


「・・・すまんす、ジェット」


「――ん?」


 ベッドの上であぐらをかいて座る少年。大人しく、一方的に“忠告”を受けていた彼だが……それは葛藤かっとうで表情を複雑に変えながら、行きつく先は“怒り”の顔で目の前の青年をにらみ付けた。


「オラ、オラ……助けてもらった分際ですまねぇんだけどよ。オラ、どうやらあんたに腹が立ってしまったらしいんだわ……」


「――――!」


「いぁ、わぁがってんだ。あんたは悪い人じゃねぇし、言ってることも……ほっとんどわがんねが、きっと正しい。だっけどよぉ……なんでかなぁ? オラぁ、アルフィースつぁんが“悪者”みてぇにされっと、こぅ……」


「―――――ぅ、おっ!?」


「拳がグツグツと……えたぎったように心まで熱くなっちまうんだわなぁ……。 のぅ、これなんしてかなぁ???」


 ベッドの上であぐらをかいて座る、ただの少年だ。大柄だが、特別に知恵や技術や権力を得ている存在ではない。


 ただ、それがこらえるように口をへの字に曲げて拳をにぎり込んでいる姿……。


 少年に無い様々なものを得ているはずのジェット=ロイダー。彼はドクドクときざまれる自身の鼓動を感じながら、息をんで圧倒された。それは少年の体格や力強さがもたらした畏怖いふではない。


 もっとはるか内側から……少年のしんからき上がってくるものによって。ジェットは思わず常々手にしている機械的な杖――有事ゆうじに頼れる“得物えもの”を構えてしまった。


 「はっ」と、自分の左手が構えたことに気が付く。ジェットは大きく息を吐き出して気を落ち着けた。その上でしっかりと、構えを解いて帽子を脱ぎ……面と向かって少年の瞳を見た。


「パウロ。1つだけ……いいか?」


「……なんだ?」


「答えてくれ。お前は“彼女のことをどう思っている?” ――返答によってはオレも覚悟を決めなきゃならない事だ。大事なことだから、答えてくれ……」


「…………それなんだがよ、ジェット」


「ん、どうした?」


「オラもそれ答えてから物申そうと思ったんだが……なんか、やっぱどんな考えたっても、“言えん”のだわ。なしてかなぁ? 頭ではどうやらわがってっけど、言葉にできねんだよ……」


「フッ――――なるほど、そうか」


「おぅ、すまんな」


「いや、謝るなって。オレの態度は決まった――――そうさ、謝るのはオレの方だ。すまなかったな、パウロ。どうやらオレは早とちりして、勝手に決めつけてしまったらしい……」


「あにぃ???」


 苦笑いのジェット。それは自嘲じちょうであり、おのれの甘さを察して非を認めたからこその感情である。


「――この通りだ。オレは、お前の大切な人を悪く言ってしまった。申し訳ない……どうか、許してほしい」


 椅子から立ち上がり、深々と頭を下げるジェット。機械的な杖も手放し、まったくの無防備に彼は頭を下げている。


「・・・・・い、いぁ、ジェット! オラもわりぃんだ、オラがもっとハッキリ言える人間だったら……きっとジェットも誤解すっことなかったべ?」


「ちげーんだ。オレは……もし、オレがお前の立場だったらと思うとよ? 質問もそうだし、決めつけもそうだし……ともかくやっちまったぜ! パウロ、マジで一発殴ってくれ! そんなんじゃまるで甘いけどよ!!」


「だ、だ~みだって、そら! なして恩人をば殴らんといかんね!?」


「恩人だろーがカンケぇねぇって!! こんなもん、反省して許されるこっちゃねーぜ!? 人の女を馬鹿にしたようなこと口走りやがって……くぅっ!!」


 何か変なスイッチが入ってしまったらしい。ジェットは自分への怒りによって我を忘れているようだ。行動がおかしい。


「あっ、なしてんだ、お前ぇ!? 杖で自分の頭さ殴るのやめれ!!」


「ああっ!? か、返せよ! こっちは気が済まないんだ、もう2、30発……!!」


「ダ~メだってぇ! ええい、解らんヤッチャな!? ほれ、こうして……こうっ!!!」


「ウぅッ――!?」


 素晴らしい筋力である。別にジェットが非力ということもないのだが……パウロは彼から容易たやすく杖を取り上げ、尚も暴れる左腕をつかんで無理やり握った。


「こうやって握手すっと、他はなんもできんね? ほれ、こりぇでもう、仲直りだ」


「ぱ、パウロ!? お前ってヤツは……」


 しっかりと手と手をつなぎ、確認するように「ニカッ」と笑うパウロ。その屈託くったくない笑顔に寛大かんだいな心を感じたジェットは涙ぐんだ。


「ジェット。あんたぁ、自分が思うような人間じゃねっぺよ? もっとその温かみに自信さもつべ。何をどう勘違いしてたか知らんけっど……オラのこと思っての事だって、ちゃぁんとわかっけよ? 謝ってくりぇりぇば、それでオラの怒りなんかどっか飛んでったけ、な?」


「パウロ……ったけぇのはお前さ。なんて大らかな人間だよ、お前ったら。こりゃ将来はとんだ大物に――」


「カハーーーーッ、やめちくりぃ~~~!! 照れっぺよ、そっただなこと・・・・・っと、お??? そーいや、ジェット。あんた右腕は……」



「 ――うわ!? ちょっと、何してるのよ。夢中になって男2人きりで……。 」



「 はぃ? / おぉ? 」



 ノックも無しに……いや、ノックはしていた。何度もノックして「食事だってよ~」と声を出し、「ねぇ聞いてる!?ご飯の時間だって言ってるの!!」とさけんだすえの入室である。


 不意のように3号室内に現れた“ミリストリア”。しかしそれは、実のところまったくもって不意の出現ではないのである。


 彼女は呼びかけに応じず、熱い掛け合いを交わしている男性2名を確認して一歩後ずさった。


「あっ、やっべ。もしかして飯の時間になった?」


「うひぃ~~~っ!?!? あ、あ、アルフィースつ、つぁん……そりまたメンコイ(可愛い)格好してからに……」


 固い握手によって繋がったまま、男性2名がヘラヘラとした笑みを浮かべる。そのままズリズリ近寄ってくる有様に思わず女性2名は居室外にまで退避した。


「な、なんなのあなた達? 一体全体、何をどうしてそんな物体に……」


 最早もはや、男2つで1つの得体が知れないモンスター扱いである。すっかり怯えたアルフィースはミリストリアの背後に隠れて背中にしがみついた。


「まぁ、丁度いいか。見てて、アルフィース……お聞きなさい、ジェット!!」


「ハハハ……ふぇ?」


「ええと…………ナンデモいいか! ジェット、“テキトウに踊りなさいっ”!!!」


「はぁぁ? ―――――っと。ぅ、おわわぁぁあぁぁぁぁ!?!?!?」


 ジェットには得意の踊りがある。


 彼らの生まれたタイレーアの村落には“渓谷けこく音頭おんど”というものが存在するらしい。


 靴底を鳴らしてあわただしく下半身を動かしながら、上半身で風の流れをすようなゆったりとした動きを合わせる……上下でテンション落差の激しい舞踏ぶとうだ。本当は踊りながらそれぞれの手で小型の打楽器を打ち鳴らすのだが、それはここにない。


 完全ではないにしろ、現在――宿屋ほほえみの3号室ではタイレーアに伝わる渓谷音頭の騒々しい様子がまざまざと繰り広げられている。


 踊り始めたジェット=ロイダーの姿に誰もが閉口した。苦しな表情で精いっぱい踊る姿に、大人びた女は申し訳なさを覚え、少女は得体の知れない気色きしょく悪さを覚え、少年は華麗かれい体捌たいさばきに感動を覚え……騒音に駆けつけた店主の老人は虚無きょむに近い感情を覚えた。



 おおよそ5分はあろうか。周りにとっても長い5分間であったが……おそらくこの世界中で誰よりも。


 その5分を長く感じていたのは他ならぬ、ジェット=ロイダーその人であろう――――。






第8話 「オレってマジモンスター(4)」 END







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