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|オレらはモンスター!! ~赤い外装の家屋~ |

 小高い場所から遠くを眺めれば、つらなる赤い城壁をかすみ見ることができる。


 夕刻の帝都。家並みが続く坂の途中に一軒いっけん家がある。それは3階建ての立派な構えで壁はえるように赤い。


 立派ではあるが、ちょっと装飾そうしょく過剰かじょうだ。これを「良し」とする家主の感性は随分と派手はで好きらしい。


 実際のところ“彼”は大仰おおぎょう所作しょさを意図して振る舞い、何かと大袈裟おおげさを好む人である。


 夕暮れの都市。登る坂道にて「カツカツ」と、ブーツのかかとを鳴らす人……。


 その男が過ぎると誰もが振り返る。その理由は“目立つから”だ。


 薄暗くなりつつある夕刻にあってなお、その人は景色にえている。歩くたびに金の長い髪がなびき、羽織る赤いコートのすそがたなびいた。右目にある片眼鏡モノクルは銀に輝いており、その手には何か紙袋に包まれた物をたずさえている。


 スラリと伸びた背格好を都市の風流でかざり、ゆう々と坂を登る男性。これが目立つのは派手だから……というのもあるが、単に彼が有名な人物だということもある。


 派手なよそおいの男はやがて、赤い外装の家屋前で立ち止まった。


 右手に抱えている紙袋を大事そうにしながら、コートの裏に手を差し入れ、1つのかぎを取り出す。


 家屋に入るとそこは整ったリビング。大きなテーブルの上には何か輝いている装置のようなものがあり、入って右側には湾曲わんきょくした階段がある。


 派手な男は軽くリビングを見渡してから、少し早足に階段をのぼった。そうしてフカフカと絨毯じゅうたん廊下ろうかを歩く。


 廊下はそれほど長くない。派手な男は立ち止まると左側の扉を開く。


 扉を開いて部屋の中を見た派手な男は「……ハァ!」と大きく息を吐き出す。それから首を左右に振った後、ひたいに手を置いてるようにふらついてせた。


 ヨロヨロと壁によりかかるようにして、どうにか部屋の中に入る男。そうした彼の視線の先にあるのは……“誰も寝ていないベッド”。



 そして、天井てんじょうから逆さになってぶら下がる女性の姿。



 どうやって天井に……それは、その女性が足に装備している“鉤爪”をもちいているからだ。それを突き刺すことで、彼女は天井から反転した光景を眺めることができている。


 逆さの女性は部屋に入ってきた人に向けて言う。


「おや! お帰りなさい、あるじ様……どうかしましたか?」


 逆さの女性はそのように、たん々とした落ち着いた口調で言った。彼女は天井に張り付きながら、よく見ると腹筋運動を行っている。


 寝巻パジャマなのであろうか。若干じゃっかんけるような薄布一枚、それと下着だけをまとったよそおい。腹部に巻かれた包帯が透けて見える。


 そのような光景でそのような様相でそのような態度……。これを見た派手な男はしばらく不服ふふくそうな顔で押し黙った後、左腕を上下に振りながら命じた。


「もうっ、降りなさい!! どうしたって君はそんな……心配するこちらの身にもなってくださいよ。ハァ、やれやれ……“シャル君”、私は言ったよね?」


 あきれたように溜息混じり。そのような状態で命じた男性。


 その指示を受けた天井の女――【シャル】と呼ばれた女性はすんなりと天井から降りた。


 どのように降りたかというと、その脚にある鉤爪を虚空にき消し、「ストン」とほとんど音も無く着地したのである。鉤爪が消える時、青白い電流のような輝きがほとばしった。


 窓からは街の景色が見える。夕刻の陽が射し込む情景にチラついた青白い光。


 派手な男は「やれやれ」とまた首を左右に振る。そうして呆れた様子を魅せた。


 そのような態度に対して……シャルと呼ばれた女は不思議そうに首をかしげる。


「主様、如何いかがなされましたか? 何かお疲れの様子ですが……そうだ、もう夕刻ですものね! いけない、夕食をご用意しませんと……」


「いやっ、いい!! いいよ、まだ。というか、だから安静にしていてねって、そう…………何度も言ったでしょぉがぁ!?」


 派手な男――【チャールズ】と呼ばれた男性は叫んだ。勢いで彼の片眼鏡がズレるほどだったので、シャルは「キョトン」として戸惑とまどった。


「えっ、どうしたの? 何をそんなに怒って……“チャールズ”。もしかして私また、何か悪いことをしましたか?」


 シャルは……【シャラザール】はかがんだ姿勢から立ち上がった。立ち上がるとその薄布のせいもあって体格がハッキリとする。


 天井に張り付いて腹筋を行う筋力はあるようだが、見た目からしてそうは思えないほど華奢きゃしゃな体つき。全体的に「細い」という印象がある。


 目つきは鋭く、肌は透けるように白い。


 戸惑った様子で立つシャラザールは青い前髪をいじった。特に悪びれた感じではない。ただ、「どうした?」という具合に立つ少女……。


 そうした態度を前にして、チャールズは三度みたびくらいの溜息を吐く。


 そして、”語り”始めた。


「あのね……悪いかどうかと言われれば、そりゃぁ悪いよ!? 何故なぜなら君はまだ怪我けがが完治していない……どころか、まだまだ安静にしていなきゃいけない状態なんだ。だからボクは君に何度も――何度も、何ッッッ度も!!

 ……言ったよね? “お願いだから静かにしていてくれ”って……なのにどうしてだよ? 君は“解りました主様”なんて言うけど……いつだってそう! 気が付くとそうやって勝手にしちゃうんだから。というか食事だってまだいいって! ボクが作るし、最初だってそうだっただろう?? 家事の一切はやらないでよ、安静にしてくれたまえよ!!!」


「・・・・・はい。」


「もうっ! またそうやって素直な感じ出して……でもまたしばらくすると動き出すんだろう?

 あのね、大体君は行動が雑――――って、そうそう! だから気軽に“創輝”しないでって、それも何度もいってることだよ!? それがどうしてあんな鉤爪で天井なんか……ほら見て、穴が開いてるよ!?

 ハァ……ボクはね、別に帝国貴婦人みたいに気取れって、そう言ってるわけじゃないの。ただ、もう少し……ほんの少しだけでもね? おしとやかさというか、そういうものを身に着けてほしいと、これもいい加減何度言ったことかとーー」


「・・・・・。」


 チャールズは最初こそ視線を少女に向けていた。だが、やがて熱が入る内に拳を作り、身体を震わせ、伸ばした指先を虚空に彷徨さまよわせながら……まるで舞台上の演者えんじゃかのように振る舞い始めた。


 そうした光景と言葉をだまって見聞きしている少女ーーシャラザールの視線は鋭く、唇はへの字にがっている。

 

 彼女は彼の演説が終わるのを黙って待っていた。


「――であるからして! ボクは君に女性像などというものを押し付けているつもりはないのだよ。ただ……ただね?

 平穏を継続するためにもそうした態度・意思は必要だと思うし、何より全ては君のためなんだ。なのにどうして解って頂けない、理解されない?

 これほどの情熱が伝わらないというのか……ああ、いとしきシャラザールよ!? どうかあと少しだけの落ち着きというものを、わたしのために心掛けてはもらえないだろうか……??」


「・・・・・。」


 大仰おおぎょうな振る舞いだ。大袈裟に両腕を広げ、膝を地に着き、天をあおぐようにあごを上げるチャールズ。


 窓の外はほとんど陽が沈んでおり、かなり暗い。都市の家々もあかりをつけ始めた様子がうかがえる。


 そうして薄暗がりとなった部屋の中。片膝を着いて天井を見上げる派手な男と、その前に立つ薄着の少女。


 しばらく彼らの間には沈黙があった。どれほどか……数分であろう。


 そうしてから、薄暗がりに返答が無いことに気が付いたチャールズは「あれ?」と言って立ち上がる。


 そしてっすらと見える点灯装置スイッチを探した。


 「カチッ」と、光がともされる。


 灯された光のもと。男が見たそこに立つ少女は――


「・・・うっ、ぐすっ・・・うぅ・・・・・。」


「・・・・・ええッ!? シャシャ、シャル君!? どうしたんだね!?」


 泣いていた。電気の明るさによって流す涙が鮮明に解る。ぬぐうこともなく流される涙と、への字にがった口。


 そしてうるんで弱々しい瞳を見て……派手な男は口を大きく開き、うろたえた。


 明らかに驚愕きょうがくとした表情。衝撃を受けて狼狽ろうばいしている男の姿。


 それを見た薄着の少女が言葉をこぼす。


「うぅ……ごめんなさい、チャールズ。私はまた悪いことをしてしまいました。あなた様の言いつけを護らず、勝手に吊り下がり式腹筋をしてしまいました……ですが、ですが!!

 あなたに解ってほしい……それはなるべく早くあなた様の役に立ちたいから……だから、私は早く体力を取り戻そうと……うぅぅぅッ!!」


 少女は両手で顔をおおった。そうして「うぅぅ」とうめき声を発している。


 その光景。これを見た派手な男、チャールズ=オルドゼアは口元に手を置いて「アワワワ」とさらに狼狽えた。


 狼狽えるチャールズは再びに片膝を着くと、祈るように、願うように少女を見上げる。


「お、おぉ……おおっ! どうか泣きんでおくれ、愛しいシャラザール!! 全てはこのボクが悪いんだ……君の想いを察せず、なんと無礼なことを言ったものか……ああっ、この口がにくい!! なぜこうもボクというものはおろかなんだ!?

 そうだ、君は何も悪くないんだよ……勝手をしたのはこちらのほうだ。こんなにも純真に愛してくれる君のことを、しかるように責めてしまったあやまちちッ!!

 このつぐないきれない罪をどうか、愚かな私をどうか……ゆるしておくれ……!」


「・・・うぅ、シャルは悪くないのですか? 勝手をしたのに?」


「悪くない、悪くないよぉ〜! 勝手だなんて……君の想いは何よりもとうとく、美しい! 決めつけて鈍感だったボクこそ謝罪するべきなんだ!

 ああ、どうかもう泣かないで? 最愛なるシャラザールよ……」


「えぇ、そうですか。でも、シャルにだって悪いところはありましたよ? あなたを心配させてしまったのだから……それは本当にごめんなさい。怪我がもう少し良くなるまで、腹筋も腕立てもスクワットもひかえます。柔軟体操ストレッチだけにします」


「んあぁッ、素晴らしいッ!! なんて謙虚けんきょで優しいのだ、ボクのシャラザールよ! そうとも、どうか身体を大事にして……ほら、食事だってボクがちゃんとこしらえてあげるから……」


「――そうね、私も早とちりしてしまいました。“食事なんていい”とか言うものだから、てっきり私の手料理が嫌になったのかと……」


「そんなことあり得ないッ!! このボクが君の料理を拒絶きょぜつなどするものか? いや、それは確かに最初は拒絶というか戸惑いはあったけど……いやッ、違うんだ!

 だとしても最初から魅力的だったから! 腹には入ったから大丈夫! それに今なんて見違えるほど上達もしたし……まったく、君の才知と器用さには驚かされるなぁ!!」


「フぅン……まぁ、いいでしょう。確かにお腹はきましたし……気が付けば、外も暗いですね」


「よしよし、もちろんだとも! このチャールズ=オルドゼア、人は魔導士としての私を羨望せんぼうするが……何もそれだけが私の得手えてではない!! こと、君の前においては一流のシェフとしてもるものさ!

 すぐに取り掛かる、しばし待っていてくれたまえ!!」


 そう言うと、チャールズはコートをいでこれも赤いワイシャツのそでをまくった。


 その背中に向けて。涙のあとはあるものの、まるで平然とした表情の少女が問う。


「ところであるじ様。その手にしているものは……何ですか?」


「えっ。手にって……ああ、これかい? これは…………そうそう、大切なことを忘れるところだった。

 これは君へのプレゼント――ひまを持て余して退屈たいくつだと、そう言う君のために用意した物さ!」


 そうして派手な男が手渡してきたのは“何かが入った紙袋”。中身は長方形で薄く、どうにも書物のような存在らしい。


 「これから淑女となる美しい君に相応ふさわしいものさ☆」――などと。指を鳴らして「ニッコ」と笑うワイシャツの男。それは意気込んだ様子で部屋を出て行った。


 少女が1人、残された部屋。


 シャラザールは紙袋を「ガサガサ」と揺すった後、ベッドに腰を下ろす。


 “これから”という部分は気になったものの、彼の言葉に悪い気はしていない。それにしても、紙袋の中身はなんだろう……と。


 紙袋を「バツンッ!」とやぶって開く。すると、その中にはーー


「・・・ん? なんだろう、コレ?」


 ーー中には一冊の本が入っていた。きらびやかな刺繍ししゅうほどこされた茶色い表紙が美しい。


 少女は重さや感触から予想していた。そしてやはり書物だったか……と。あまり読書を好まないシャラザールはちょっと残念そうな表情を浮かべている。


 それでもせっかくなので……ざらつく表紙をでてから「まぁ、いいか」と試しに開いてみた。


 表紙を開いて手が止まる。視界に映ったのは”1枚の風景画”。


 それは何処どこかの草原を描いたもので、鮮やかな空のあおに草地の緑色が優しく感じられる。


 しばらく呆然とその1枚をながめた後、少女はページを1枚めくった。またしばらく眺めた後、めくって、めくって……。


 少女はいつしかベッドの上で横になり、それを読みふけっていた。


 シャラザールは優しい色合いの1枚1枚に魅入みいられながら、そこにえられた一文にも心をかれている。


 すっかり夢中になってしまったようで、階段下から赤いシャツの男が「食事ですよ~」と声を張っても少女は気が付かない。


「おや、どうしましたかね? まさかまた筋トレなど夢中に……?」


 不思議に思った彼が彼女の部屋をおとずれると、そこにある光景を見てまた驚いた。


 そして、「二コリ」と。


 男は微笑ほほえみを浮かべて部屋を後にする。そして、ちょっとだけ食事を遅らせることにした。



 彼女がその詩集を読み終わる頃まで――――――。







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