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「オラはモンスター(6)」

「…………。」


「…………あのぅ」


「…………うん」


「もう……大丈夫だか?」


「うん……たぶんね」


「そっか……なんかその、悪ぃ夢でも見ちったんかにぃ?」


「悪い夢……そうね、怖かったかも。でも、よく思い出せないわ……」


「んまぁ、そうさね。夢ってあんまし覚えてねぇっぺよな……ナっハハハ!」


「うん……そうね」


「ハ、ハハハ……ほんにね……うん」


 それは突然の出来事だった。馬車の中で目をましたアルフィースは泣き始め、すがるようにパウロへとしがみついてきたのである。その理由を少女はハッキリと解らず、だからこそしばらく泣き続けていたのであろう。その時、少年にできることは優しく見守ることだけだった。


 よって現在、馬車の中。少女はいまだに少年へとその身をあずけている状況だ。当初、緊張と良い香りで震えていた少年も少しずつ状況に慣れてきた……が、自身の内側から感じる激しい鼓動は治まらない。


「んでも君さ落ち着いたっけ、えがったえがった! しっかし……オラさ大声でびっくらさせちまったのはほんに、すまんと思うっけよぉ……どうか許してくんろ!」


「は、大声?? それは解らないけど……きっと、悪い夢は昨夜の悪い人のせいじゃないかしら? あなたのせいではなくってよ」


「お~~そっか……でも、ほんにすまんすなぁ。オラが昨日もっと早く――」


「いいっ! いいの、昨日のことはもういいの!! パウロは何も悪くない。だって、私をみつけてくれて……嬉しかった、から」


「・・・・・へっ?? えっへへ、そ、そぉぉだかぁ? へへっ、だっけオラは君さ護るって言ったかん――」


「そうね……初めて会った時からの約束おねがい、だからね。護ってくれてありがとう」


「・・・・・お、おおっ。お・・・・・おぅん・・・・・お、オラ・・・・・おら、は・・・・・・」


「ほんとうに約束、護ってくれて嬉しいよ、パウロ……」


「ん、んぁあ……そうっだな!! うんうん、オラさだっけおっとぅ(父)に昔っから言われてっけよぉ~。おっとぅったらいっつも酒さ飲んだらあんなんなるっけ、してオラにいっつもだな――――」


「・・・ふふっ、そうね。うんうん、大丈夫。聴いてるから……続けて?」


 パウロは間近まぢかにある少女から見上げられている。まさに眼前である彼女の瞳とくちびるの動きを見て、落ち着きをうばわれてしまうのもやむを得ない症状だろう。


 一方のアルフィースは思い起こしていた。それは先に見た夢の残渣ざんさが脳裏に残っているからこそ、鮮明である。


 あの日、初めて出会った時にあった感情は冷徹れいてつなものだった。今にして思えばその頃の自分がにくらしく感じる。今、見上げる彼はあの頃から何も変わらないというのに……。


「変わらない、パウロはあの時から変わらずにいてくれる。私を、見ていてくれる……」


「――――んでおっかぁ(母)がよ、そん時えぐかったわなぁ……おっとぅあんなんして平べったくなっちまうんじゃにぃかと本気で心配すて…………ん?? なした、アルフィースつぁん??」


「ううん、なんでもない。やっぱり、いつも護ってくれていたのよ。だから、ありがとう……って」


「え、えへっ……んだかぁ?? んでもそんな……いやはぁ、オラはただ君さ無事で笑ってくれてたら、それがその、オラだって嬉しいってか……幸せってか……な、なな、なんこれね!?」


「幸せ? 私はともかく、あなたが幸せ……。でも、それってあなたはただ約束けいやくを……いえ、そもそも私はあなたに…………あれ??」


「らっけねオラ……昨日のヤツだってぜってぇ許さんからよ! 君を怖がらせた“そいつ”、オラが絶対……絶対に見つけ出してよ、ぶっ倒してやっかんね! えっへへへ!」


「えっ。ああ、そう、ね……ん? あれ、私ってあなたとて、それは私だって……ん??」


「へっへへ! オラはこんなんでも強くなってっからよぉ。君さ護るために……らっけ、君さ傷つけるヤツには容赦ようしゃせんからね。それがオラの“使命けいやく”だっけよ? 絶対、今度こそ……オラが君を護るんだ!! そんなクソ野郎はオラがぶっ壊してやる!!!」


「……パウロ? だからもう、昨日のことはいいのよ。私、もう忘れたいから……あんまり乱暴なことを言わないで?」


「ん……おお、すまんす! 悪ぃこと思い出させちまったか……んだね! 君さ言うように、わざわざ探すこともねぇっぺな。らっけ、偶然にでもみつけたら……そんときブチノメセバいいわな!! ワッハハハ!!!」


「……パウロ、あのね? あなたが私のためにそう言ってくれてるのは解るのだけどね……なんでしょう? あなたってば、なんだか少し――――え。」


 アルフィースは大分だいぶ落ち着いていた。それまで悪夢からのショック状態にあった彼女はすっかり冷静となり、自分の状態と彼との距離を知って1つせき払い。そうして離れることができた。


 少女が冷静になった理由は時間とぬくもり以外にもある。


 ずかしさとうれしさに、わずかの違和感が混入した感情――。それまで感じていた体温の暖かみが失われていくさびしさをおぼえながら、少女はあおぐように手をパタパタと胸元で揺らした。


 そのまま少女は赤面した顔を隠すかのように、本能的に視線を少年かららして外へと向ける。


 ここで彼女が見たのは馬車の外である。この時刻、車窓からのぞく景色は――いや、覗いている“者”は――。


「・・・・・ッウォはぁぁぁぁああッッッ!!?!?」


 豪快な叫び声は少女アルフィースから発せられた。そして驚愕きょうがくした勢いで飛び退き、せまい馬車の中で「ドスン」と背中をしたたかに打ちつけたのもアルフィースである。


 ふと向けた視線の先。そこには馬車内の様子をうかがっていた“御者ぎょしゃの男”が半分顔をのぞかせていた。唐突とうとつなその存在に気がついた彼女は気が動転し、思わず激しいリアクションをとったのである。


 一方、御者の男も不意な少女のオーバーリアクションに驚き、「ヒィィィ!」とおびえた様子を見せている。そして少年は「アルフィースつぁん!?」と、勝手にダメージをった少女の身を案じていた。


 アルフィースは異様に驚いたものの、御者の姿をよく確認することで落ち着きを取り戻したらしい。「痛いけど大丈夫」と中途半端に無事を伝えた。


 そうして若干じゃっかん恥ずかしそうにしている少女の無事を確認して……パウロは「ニッコリ」とした笑顔を少女に見せ、そしてすぐに馬車から“飛び出した”。


 素早いものだ。パウロの身体能力は持久力も当然ながら瞬発性にも高い能力を有している。だから“飛び出した”と言っても、ほとんど体当たりして馬車の扉をはじき飛ばさんばかりの勢いがあった。


 少年のこの行動は突飛とっぴなものに思われる。この状況で馬車から飛び出す意味が解らない。


 そのように少女が困惑し、状況を理解するより前。


 馬車の外から“男性の叫び声”が聞こえてくる。


「ひゃ、ひゃぁぁあああ!!?」


 どうやらそれは御者の男が放った悲鳴らしい。アルフィースは突然の悲鳴に恐れを覚えたが……心にチクチクとした痛みを感じ、直感に突き動かされるようにして彼女もまた馬車を降りた。


 すると……そこには異様な迫力ある光景が現れた。


 馬車の外にあったのは大男が初老の男性を片腕でり上げている、という有様。


「なぁ……おめさ、なんした? おめさよぉ、アルフィースつぁんをおどかしたんか?? なぁ??」


 大男は真顔でそのように問い詰めている。吊り上げられている御者の男性はひどく怯えながらプルプルと首をふるわせた。


 首裏のえりつかまれ、片手ですんなりと吊り上げられている状態……当然、息苦しいのであろう。バタつく脚がくうを蹴っている。


 アルフィースは思う“一体、何が起きているのか?”――と。


 そして次の瞬間には“やめさせなきゃ!”――と思って行動した。


「パウロ、何をしているの!? その人を“放してあげて”!!!」


 少女が命じる。命じられた大男はすぐに御者を放してあげた。「ドスン」と、20cmくらい浮かび上がっていた御者の足先は接地(落下)し、初老の男は尻もちをつくようにしてその場に座り込む。


 御者の男が「ぎゃぁ!」と涙声に叫んだ。それを一瞥いちべつもせず、大男が不思議そうに少女を見ている。


「なしたんね、アルフィースつぁん。こいつになんかされたんらろ? そんならオラがとっちめてやっけよ……安心しちくり! ちと、待っときんしゃい!!」


 大男はほがらかに笑っている。少女に向ける笑顔は確かに見慣れたもので……しかし、少女はそこに安堵あんどを覚えなかった。それよりもまず、怒りのような混乱が少女にある。


 大柄な少年が改めて御者を見下ろした様子。そこに握り固めた右の拳を確認して、アルフィースは2人の間に身体を割ってれた。そして、少年を見上げて問いかける。


「いやいや……いやいや、いや!? なによ、突然なんなのよ!? この人が何をしたっていうの!! どうしちゃったのパウロ……さっき私が驚いたことが気に入らないの?? なんで!?」


「へぇぇ?? いぁ、気に入らんことないわな……や、そら君さ痛がっていたんはダメらろ。らっけこいつがなんかしたんかって――」


「だからってこんなッ……こんなことするのはダメでしょう!? 私が勝手に驚いてひっくり返っただけなんだから!! それがどうしたって、このような乱暴な光景になりまして?! 意味が解らないじゃないの、もうッ!!!」


 段々とアルフィースも状況を整理できつつあるらしい。混乱していた感情に怒りの割合が高まってきた。


 衝動的にアルフィースは“もっと離れて!!”と少年に命じた。それを聞いた少年の足は勝手に動き出し、後ろ向きに駆けてそこいらの木に激突。揺すれた木の枝からリスが一匹、あわてた様子で跳び下りた。


 が舞い落ちる光景と「いてっ!?」という声を背後にして。少女が足元に頭を下げる。


「あの――本当にごめんなさいッ! 彼ったら急に怖がらせるようなことをしてしまって……でも、きっと悪気はないのです。勘違いしてしまっただけなので……どうか、お許しくださいませッ!!」


 少女アルフィースが深々と謝罪した。そうした少女の振る舞いを受けた御者の男は「ポカン」としている。それはそうだろう。


 ……呼びかけても返事がない馬車の中の客人。様子を見ていると突如とつじょとして驚き、ひっくり返った少女。直後に少年が飛び出してきたと思ったら、自分を吊り上げて人間離れした形相ぎょうそうにらみつけてきて……。


 この数分で御者の男が体感したものはどれも不思議体験でしかなかった。状況が解らず、ただ首がしまった息苦しさと落下の軽い痛みだけが鮮明だった。


 そして現在、目の前では可憐かれんな少女が悲しそうな表情で頭を下げている。何が何なのか御者の男は解らないが……どうやら2つのことは理解できた。


「ええ、その……どうか頭をお上げください、お嬢さん。そうですね、きっと何か……間違いや不運が重なったのでしょう。だから大丈夫です……うん、そうしましょう!」


 御者の男は立ち上がりながらそのように発言した。彼はここで「この少女はまともらしい」と解釈していたので、彼女を頼りにこの場を収めようとしたのである。


 ・・・加えて言うなら「あの大男はまともではない」とも解釈していたので、早急に話しをつけてこの場を去ろうと考えていた。しかし、単に逃げるわけにもいかない……何故なら彼は“クラウンボール社の社員だから”である。つまり仕事への責任がある。


 少女アルフィースは顔を上げたが表情はくもったままだ。それは御者に対する申し訳なさもそうだが……何より、少年に対する不意な不安感があるからだろう。


「あの、私もどうしてって、それは解らないんですけど……彼がわざとこのようなことをする人ではないと、それだけはどうか――/


/え、ええ……大丈夫、大丈夫です! 解っていますとも! ええと、それでは目的地に到着いたしましたのでお支払いの方を――」


 少女も御者もかぶさるように言葉をわした。互いに言葉は聞いていても意図までみ取る様子はない。それは困惑と焦燥しょうそうが合わさった結果の会話であろう。


 提示された金額は3400PLぺルラ。少女は言われたままにピンクの財布から紙幣しへい貨幣かへいをごちゃまぜに手渡した。御者は金を受け取るとさっさと頭を下げ、そして座席に飛び乗ってあせる様子で馬車を走らせ始める。


 御者の男――【ウォード=スコルティ】はこの職にいてまだ3ヵ月。されど、彼は職務上の手順はすでにあらかた覚えていた。代金の受け取り前に行う宿泊施設の提示や、帝都壁門への案内是非確認など、そうした事柄を知らないわけではない。


 ただ、この時は余裕が無かった。最低限、代金の受け取りをきっちりと行うまでが彼の精一杯で……。


 急ぎ去っていく馬車。それをさほど気にすることもせず、少女は振り返った。広がる景色や現在地など今は目にも入らず、ただ1人の事以外に気が回らなくなっている。高揚こうようしていたはずの顔はすっかりと冷え、むしろ青ざめているかのようだ。


「・・・おいっちち! れてはきたけんど、にしても勝手に足さ動くんはやっぱし、気味悪ぃ感じあるっぺな……んぉ? ど~~すた、アルフィースつぁん。そげな怖ぇ顔して……わ、笑ってくれねぇか? イ、イっヒヒ……ヒ……あり??」


 「ガサガサ」と枝葉をかき分けてしげみからでた巨漢。パウロ少年は二重の意味で不思議そうにしていた。


 1つには先ほどまであった馬車や御者が存在しないこと。2つには少女アルフィースがとても不機嫌な顔つきで自分を見ていることである。


 パウロはすぐに理解した。アルフィースが“かなりご立腹である”……と。しかし、いつもそうなのだが……その“理由”となると中々判別できないものなのである。


 少年はこれもいつものように身を縮めて恐る恐るに少女へと近づき、頭をペコペコと上げ下げしながら謝り始めた。


「すまんす……オラまた、なんかやっちまっただか?」


 オドオドとした少年の様子。そのようなものを眼前にして……。


 けわしい顔つきのアルフィースは「プゥッ!」と息を強くき出した。少年の肩が「ビクッ」と反応する。


「――パウロ、どうして私が怒っているか解りませんか?」


 眉間みけんのシワは精一杯深く、かなり怒っているように思われる。しかしその口調は落ち着いたもので、まくし立てるような速度を感じさせない。


 アルフィースは一連の流れの中で冷静さを取り戻したが……だからこそぬぐえぬ“違和感”を覚えていた。胸の奥にあるささくれのような小さい“痛み”が消えない。


 静かに落ち着きながらも、その様子がかえってパウロにとっては威圧感あるものに思われる。少年は左右の人差し指をこすり合わせてながらモジモジとする。


「あんのぉ……たぶんとか、そういうのはあるんらけど……んでもあの、はっきしとはわがんねって……あっ、そういうことではないんらけど……あの……でも……すまんす、ほんに……」


 え切らない言動。中身の無い返答など不要と、アルフィースが語気を強める。


「あのね……いきなりで驚くでしょう!? 何がって、あなたがあの人を……あのおじさまに何をしたのかって、そのことよ!! 解らない!?」


「えぇ……っと、ほんにすまんす。オラはあいつが……いぁ、あん人がてっきりアルフィースつぁんさ怖がらせたんかと、傷つけたんかと思って……違うんか?」


「ええ、早とちりよ!! ・・・・まぁ、確かに驚いたし怖いとも思ったけど? でもそれはあの人が悪いわけでもなんでもなく、私が勝手に驚いたのよ!! なのに彼を責めるなんてひどいわ!! いや、そうでなくたって。いきなりあのような乱暴な振る舞いをするなんて……あなたどうしたっていうのよ!?」


「いぁ……らっけ、オラさ君を護りたいって……んでも、勘違いしたんなら謝るっぺや。ほんに……悪ぃことしちまった」


「ええ、そうね! あの人はもう行ってしまったけど……きっと、次に会った時は謝りなさいよね!!」


「うん……反省すてます……しぃましぇん……」


 少女にしかられたことでパウロ少年はすっかりしょげかえったらしい。勘違いで人を吊り上げておどしてしまったんだと、そのことを理解して反省した。


 ぐったりと項垂うなだれて反省する様子を見て、アルフィースも一先ひとまず感情を抑える。


 確かに彼の行いは突飛で問題あるものだった。しかし、どうやら悪気あってのことではないらしく……いや、そもそもパウロが悪気をもって何かをするわけがないのである。そのことをアルフィースは誰よりも知っている。


 知っているからこそ、彼の行動に混乱し、違和感を覚えた。


「でも、君さ無事でえがった。なんもなくて、オラの勘違いで……ほんに、えがったよ」


 しょげていたパウロは顔をゆっくりと上げ、いまだ不満そうな少女の姿を確認する。


 心底安心したような、穏やかな表情。そうして「へへへ」と笑う少年に対して、少女は「勝手に心配した挙句あげく、安心しないでよ!」と、背を向けて答えた。


 彼が謝る声を背中に聞きながら、アルフィースは自身のほほを叩く。「はぁ」と小さくため息が流れ出た。



 立ち尽くす2人。風が彼女らを吹きつける――。



 大地を駆けのぼった夕刻の風は冷たく、空は朱色に染まりゆく頃合い。かかる陽が影を濃く、少女と少年の足元に伸ばしていく。


 あきれたようにしばらく天をあおいでいたアルフィースは「チラリ」、視界を前方に移した。つられてパウロも同じ方角を見る。


 2人はそろって同じ方角を眺め、そして――――同時に目を見開いた。


 少女と少年が立つその小高い丘からは周囲を遠くまで見渡すことができる。その景色を古くにさかのぼれば、数万の兵士が並ぶ戦火もそこにあった。しかし、今は平穏な情景だけがそこに広がっている。


 流れる川を眺めればいくつかの橋が確認できた。川の対岸には家屋の群れが成す広大な景色がのぞめ、それら家屋の群れはややさびれたようにも見えるものの……何しろ“数”が凄い。


 その先を見やればそびつらなる“赤い城壁”。断崖絶壁かと見まがうほどの威容いようであり、異様でもある情景。百年以上の昔……城主によって突き破られた城門がぽっかりと、口を開いたまま構えられている様子が見て取れた。


 聳える城壁の中からのぼっているらしい白煙はくえん。無数の煙がモウモウと、夕刻の空をおぼろけがしている。城壁外からも立ち昇る煙はあるが、それらかまどなどから生じるものとは少々気配が異なるようだ。


 遠目にざわめく黒い影の集まりはここまで喧騒けんそうが聞こえるかのような人だかり――人の群れ、人の往来おうらい。城壁外の街並みですら多くの人々がっているらしい。だとすれば、城壁内はどのようなことになっているのだろうか……少女はふと、そのような疑問を脳裏に浮かべる。



 馬車から降りてしばし、ゴチャゴチャとしていたのでまったく気にもできていなかった。ここで2人はようやく、自分達が“何処どこいたったのか”を察しつつある。


「……あんさ、アルフィースつぁん?」


「……なぁに、パウロ?」


「あんさ、あんさ……これって“街”なんか?? んでも……何処までが“街”なんだ?? 今まで見たのとなんか全然、違うくて……えらくデッケくねが???」


「たぶん……見える全部がそうなんでしょ。ふぅん、でもなるほど……私達とながくを戦うだけの“格”ってものは、確かにあるらしいわね。それもそれなりに、だけど……」


 パウロはともかく。圧倒的な人の気配と人工物の量を見て、これまでの経験と現実を照らし合わせて、それが何であるかを理解しようとしている。


 アルフィースはともかく。置き去ってきた記憶の景色と現在にある景色を見比べて、自身の中にある栄華と誇りを保とうと心がけている。



 当初、目的なく旅立ったアルフィースとパウロ。


 彼らは道中で出会った様々な人々にみちびかれ、旅路をあゆみ、結果としてここに到達した。


 看護師(?)の友人曰く、「色々すんごい」らしいその場所へと……。




 そこに至って、はたして彼らは何を見ることになるのであろう――――――?






 第65話 「オラはモンスター(6)」END







 【ウォーレンダリア連皇領】……その名にある通り“連皇”、つまりは複数人のおうによって治められた国家の集合体である。最も、実質として単一の国と言っても差支さしつかえはない。


 帝国は“ダリア信奉しんぽう”から始まった国とされ、その中心地である【アプルーザン】は始まりの地であり、最も威厳いげんある都市とされる。


 アプルーザンを治めるのは代々世襲されるブローデンからの皇(唯一帝)である。“祖竜ダリア”の子孫……あるいはその生まれ変わりとも信じられているこの血族を中心として、ウォーレンダリアは栄えた。


 アプルーザンは別称で“真都”ともされる。これは「本当はここが中心なんだよ」という歴史をかんがみた観点によるものであろう。始まりの地の意地ともとれる。


 そのアプルーザンが賢帝ユウマ=ブローデンの統治下にあった時代。彼の提唱した思想により、新たなる都市国家【オーヴァルキュア】が形成された。


 オーヴァルキュアは別称にして“帝都”とされる。それが意味するように現在では「連皇国の中心地」とみなされており、さながら「権威の真都」「実力の帝都」といった様相にある。


 これに加えて【マナリュア】と呼ばれる都市も存在するが……ここは他の2つに比べるといくらか尊厳そんげんが小さいようだ。


 これら連皇三都れんおうさんとの中で、オーヴァルキュアは最も聖圏に近く、防衛の必要性から軍事的な発展を大いにげてきた。元々が最前線基地として構えられた陣営、あるいは長城がおこりであったこともあり、それを補修・大幅な補強をしたものが現在にある紅い城壁である。


 この城壁が築かれる目的となり、また実際に発生した戦火として“ドゥ・アンダ平原の殲滅せんめつ戦”がある。


 オーヴァルキュア西に広がる丘陵地帯も含むこの地において、過去に聖圏の大軍勢が壊滅したことは輝かしき都市の歴史として今も語り継がれている。



 栄光を享受きょうじゅするべき英雄と、栄光を隠匿いんとくされるべき英雄……。



 それはまさに光と影。2人の英雄を中心とした戦火の一幕ひとまくである――――――。






歴史家、オットー=ブランによる著書:「グランダリア戦記」より抜粋







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