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「オラはモンスターだっぺや ~私、お嬢様ですのよ?(4)~」

『・・・・・随分ずいぶんと、ハッキリ言ってくれるのね』


『あ!? す、すまねぇ……悪気わるぎはねぇんだ、ほんと!』


『フンっ、別にいいんだけどね。感性は人それぞれだし……』


『そっかぁ? だってこれ、誰がどう見たって……っとと』


『・・・・・フンっ! 勝手にして頂戴ちょうだいな。テキトウにしたら、出てってよ』


『お、おぉ…………あ、あんさ?』


『…………なに?』


『い、いやぁ…………あんたぁ、このへんの人じゃねぇろ?』


『??? そうだけど……だったら、何よ?』


『オイラ……く、くわしんだわ、このあたり! 美味うまい飯屋も知ってんだよなぁ~♪』


『だから、なにって? 私はいそがしいの。貴方あなたとは合わなそうだし、さっさと――』


『ま、まだ解らんよ!? その、もっと話せば……!』


『・・・・・はぁ??』


丁度ちょうど昼時だしさ。お、オイラと……め、飯でも…………どう??』


『――――何よ、それ。言っておくけど、あなたの第一印象は最悪だから』


『ィ……た、たはは~~! まいったな、ごめんよ。気を悪くするつもりはなかったんさ。んでもやっぱしこういうのって正直な方が――』


『悪くなるに決まっているじゃない!? はぁ、たまの客がこんなのとはね……』


『ご、ごめんよ? じゃ、じゃぁ……お邪魔じゃましたな。えと、でも……頑張ってくれよ。応援すっけさ、なはは……は……』


『・・・・・あ~~あ!! なんだかイライラして、お腹空いてきたわ。どうしましょう??』


『――――――えっ。』


『……確かに、このへんまだよく知らないのよね。どうせ感性は合わないだろうけど……特別よ? 1回だけ、チャンスを与えてあげる』


『う、うぉっ……!? マジか、よっしゃ! んならね、えっとね……付いてきて!』


『あ、ちょっと!? お待ちなさいな、カバンも何も……もうっ! やっぱりあなたとは絶対合わないわ、こんなの時間の無駄よ!!』


『へへっ、サラヴァン区はオイラの庭みてぇなもんさ! ほら、あっちの通りはね…………』


『・・・やれやれ。ちょいとあなた、名前くらいまず名乗ってよね。これでは不便ふべんじゃないの?』


『アっ……そ、そだな。あんね、オイラは――――』






|オラはモンスター!!|







「――――ご堪能たんのういただけましたでしょうか?」


「んむぅぅ、バッチシ!! ほんに美味うまかったわぁ~~、ごっすぉさんです!!」


「ええ、とっても満足です♪ ありがとう、ローゼンハックさん。かわいいケーキまで用意してもらって……」


 森の中にたたずやかたの2階、その1室。絵画かいがだらけの不気味な空間とは別の、少し広い明るい部屋。


 小型のシャンデリアにテーブルを照らすロウソク。久方ひさかたに使われた応接間で、3名が縦長の食卓を囲んでいる。


 今宵こよいの食事に対し、少年と少女は舌鼓したづつみを打って称賛しょうさんしている。どちらも笑顔だが……もう1人。車椅子に腰かける老婆はシワの多い顔をけわしくしていた。


「……塩加減が不服ふふくでした。ローゼンハック、あなた最近ミスが多いわよ。体調、大丈夫なの?」


「おっと。これはこれは……不手際ふてぎわをおびいたします、お嬢様。……いえ、体調は悪くありません。どうか、ご心配なさらず」


「身体を大事にしてよね、無理をしないでよね……もう少しだから、頑張ってよね。お願いだから……」


「……このローゼンハック、ちかいは決してやぶりませぬ。最期さいごの時まで、あなたとキャラバックを守り通します。まだまだ健在けんざいりますゆえ、少しなどと……」


「だから、気を張りすぎなのよ。もぅ、そういうとしでもないじゃない、ね?」


 顔色の悪い執事しつじ老齢ろうれいの女に哀愁あいしゅうある視線を落とし、気品に満ちた女は老齢の執事を上目遣いに見た。


 老人2人の会話は互いをながく知る者同士の呼吸によって成立している。つまり、もろ々の事情を知ったうえで通じ合っているので、それをはしで聞く他者には理解しがたい。


 少女は注意深く2人の会話を聞きながら、ケーキに乗っかったイチゴを真っ先に頬張った。隣の少年は特に何も気にせず「うんめうんめ!」と言いながらからの皿をめまわしている。


 食事を終えて、老婆が言った。


「そうだ。あなた……“アルフィース”と言ったわね、お嬢ちゃん? あなたこの後少し、私の部屋にいらしてくださらない?」


 口元をハンカチでぬぐい終えて、りんとした表情で少女を見る老婆ろうば。彼女としては威圧いあつしているわけでもないのに、無意識な語気の強みが少女を「ビクッ」とさせる。


「こ、この後……べ、別に構いませんわよ??」


「結構。少し話したいことがあってね……ああ、特に深い話でもないわ。ちょっと興味きょうみがあるの。こうして客が訪れるのも珍しいからね――――じゃ、待ってるわよ」


 キャリキャリ……と。車輪を手でいで移動を始める老婆。顔色の悪い執事は彼女の車椅子を押そうと寄るが、「いいから!自分で行くの!」と一瞥いちべつされて追い返された。


 まだ1口残っているケーキを口に運ぶことも忘れて……少女アルフィースは「何を話すのかしら」と警戒けいかいした小動物のかまえを見せている。


 しかし、どうにも少女は老婆を畏怖いふしているような……気圧けおされている感がある。きっと、同じ“お嬢様”としての対抗心と、老人に対する彼女なりの“敬意”が合わさって緊張を生み出しているのであろう。


 それと、“気になる会話”が曖昧あいまいにされたまま放置されていることも理由か。


「ふぅぅ、腹いっぱいだぁぁ~~ふわぁぁぇぃ。んやぁ、眠くなってきちまっただなぁ……」


「ご用意できております。“パウロさん”、寝室へとご案内いたしましょう。1階部分にもうけてありますので、どうぞこちらへ」


「おっ、そっだか? んだら世話なっけねぇ……あんがてぇ、あんがてぇぇわぁぁふわぁ……にゃむにゃむ」


 眠気ねむけまなこの少年が立ち上がる。大きなあくびと大きな伸びに、ぼーっとしていた少女はビックリして。慌てた様子でケーキの1口を頬張った。


 応接間を出た少年と執事は階段をくだっていった。少女は眉毛まゆげを下げた表情でその広い背中を見送り、名残なごりしそうに立ち上がるとおずおずとした歩行でコの字型の廊下ろうかを歩き始めた。


 そして、不気味な印象の部屋へと……入る。


「――――ようこそ。来たわね、おじょうちゃん?」


「ど…………どうも。」


「どうぞ腰かけて? ああ、足元に気を付けてね。色々散らばっているから」


「はい…………あっ。」


 「パキッ」と、何かがれる音。それはきっとふでか何か、細い物らしい。暗がりの部屋なのでいまいち解りがたい。少女はいよいよ気まずい表情になった。


「ご、ごめんなさい。今、私……」


「ああ、いいのよ。どうせ筆は沢山あるし……怪我けがしてない? なら、いいわ」


 少女がどうにも緊張してかたい……そういったところを老婆は察しているようだ。意図して言葉をやわらげ、さとすように話している。


 暗がりの居室に油臭が充満している。正直言って、長くたいと思える環境ではない。少女アルフィースは暗がりの中で視線の置き場にこまり、とりあえずロウソクのながめた。


「――――アルフィースちゃん」


「あひっ!? は、はいはい!?」


「何も、不安がることないわ。だって私達、“同じ”じゃないの。珍しい者同士、心を開いて向かい合っても……良いとは思わない?」


「同じ……私達は同じ…………<装怪者そうかいしゃ>?」


「そう、とても希少きしょうな存在――――装怪者がこうして顔を合わせ、静かに語り合う機会なんて、そうそうあるものじゃないわよ?」


「・・・・・そ、そうですネ」


 老婆はそういうが、アルフィースとしてはここ最近別に珍しくない。むしろ日常的なくらいに感じられる。それこそ稀有けう境遇きょうぐうなのだろう。


「―――――。」


「・・・・・。」


 老婆はきかけたロウソクを取りえ、火をともす。その作業中、まるで会話が止まってしまい、わずかな月明かりが差し込む窓が唯一ゆいいつの見所となる。


 少女は老婆に呼びつけられた理由もまだ知れず。シーツのこすれる音をただ、静かに聞いていた。


「――――で、アルフィースちゃん。あの子、パウロくんだったかしら?」


「え、はい……パウロが何か?」


「彼が最初のびとじゃないでしょう?」


「ええ、まぁそれはそぅ・・・・・ドゥワァッ?!!?」


 鬼気ききせまる表情。ろうあかりに照らされた少女の、大きく口と目を開いた有様ありさまがそこにある。


「ウフフ……解るわよぉ。だってまだ、そこまでの関係に見えないもの。まだ、目を付けられるような感じではない……」


「う、うぇ、だっ・・・・・え??」


「落ち着きなさい。拠り人が生涯しょうがい通して1人じゃないって、それは珍しいことではないわ。むしろ普通そうなんじゃない? 単純に“恋人同士”って考えたら……知りませんけど」


「あ、あわわわわ……ここ、こ、こぃ……そ、そんなこと私は――」


「解っているわよ。聞いたわ、彼ったら付き人なんでしょう? でも、拠り人なことは間違いないのよね?」


「…………そうです。パウロは……あいつは私の付き人でして。拠り人なのも成り行きというか、その……だからこぃ――」


「~~~~~っっっアアア゛、いいなぁ!!! うらやましいっ、なつかしい、いとおしい!!!!!」


「・・・・・!!?!!??」


 突如とつじょとして。ベッドのシーツを力強く叩いてさわぎ始める老婆。今度は呆気あっけにとられた様子で口を開く少女の有様が、風圧にらぐ灯に照らし出された。


「私だって昔はね、そもそも彼とは最初――――ッホ!? ゴッホ、オホ、ンホッ!?!?」


「うわぁっ!? おバ――お嬢様っ、しっかりして!!」


「だ、大丈夫、大丈夫。手を出さないで、自分で落ち着くから…………っフゥ。いけない、いけない。ローゼンハックにしかられてしまうわね。先ほど身体を大事にと言っておいて、自分がこれでは情けない……」


 老婆は胸を押さえて息を整え、ゆっくりと水を飲んだ。制止するように突き出した腕は少女に向けられており、立ち上がっていた少女はれずにも押されたようにして腰を降ろした。


「フゥゥゥ…………ま、そういうことよ。」


「・・・・・??」


 何がそういうことなのであろう。今度は勝手に納得して老婆は満足そうにしている。笑顔を向けた先にある少女は夢の中の幻想のようで……。


「でもあなた、そんな様子だと……どうにも可愛ピュアすぎる。そこが不思議なのよ、装怪者としてはね」


 暗がりの中でよく確認しようと、老婆ユリーシャが手招てまねきする。少女アルフィースは困惑こんわくしながらも身をかがめて、顔を前に出した。


 そこに手を触れ、まじまじと確認する老婆。見つめられた少女のほほが赤く染まる。


「若いわね。はだも反応も……だからやっぱり、変なのよねぇ」


「あのぉ……な、何かおかしいところがありまして? 私、何か変なの?」


「んん~~~?? ……ま、いいや。ところであなた、見所あるわよ。題材にして描きたくなるくらいにはね」


「・・・・・はいぃ??」


 ……とにかく身勝手である。少なくとも、少女はそのように感じている。


 この老婆――ユリーシャという人は、どうにも自分の都合つごうで物事を進めようとする。自分を常に人より1段上にあると考え、気位きぐらい高く振舞ふるまう。その様子がどうにも少女としては苦手で……お株をうばわれたようにやりにくいのであろう。突拍子とっぴょうしも無い言動に振り回されてしまっている。


「ところであなた。パウロくんと初めて出会った時の言葉って、覚えてる?」


「え、パウロと初めて会った時?? ……あれ、なんだっけ。確か目が覚めたら彼の家で……ええと…………いや、解んない??」


「……私はね、覚えているの。彼と――“夫”と出会った時の事。最初に言われた言葉、鮮明せんめいに覚えている。……もちろん、返した言葉もね?」


 想いをせるように、老婆は天井てんじょうを見上げた。ぼんやりと照らされる天井に、ぼんやりと情景じょうけいを思い浮かべて……その表情は実に穏やかだ。


「ウフフ、そうね。というか――――というか忘れるわけないじゃないの!?!? ねぇ、彼ったら初対面でなんて言ったと思いまして!!!?」


「ピッ!? わ、解りませんッ……!!」


「あのね、彼ったらね……初対面よ? 私の画廊がろうにいつの間にかると思ったら……私に振り返って、開口かいこう一番・・・


『 いや、下手へただなぁ~~。ここの絵は全部、ひどいもんだね。 』


 ・・・普通言わないわよね、そんなこと? それをまぁ、よくズケズケと……忘れるわけがないでしょうっ!?!? 何様なのよ、そう思わない!!? んんんがぁぁぁぁあ!!!!!」


「あわわわわ……お、落ち着いて。落ち着きなさって、お嬢様ぁ!!」


 また興奮こうふんし始めた。もしかしたら単に情緒じょうちょ不安定なだけなのかもしれない。老婆ユリーシャは天井を指さして怒りの形相ぎょうそうで少女をにらみつけた。アルフィースはあわてて「お、思います!」と硬直して答える。


「ハァ、ハァ……いけない。そうね、落ち着きましょう。スゥ、ハァ、フゥ…………ともかく。彼との出会いはそんな感じだったわ、最悪の第一印象よ。とてもじゃないけど後に夫婦になるなんて、考えられなかった」


「ドゥドゥ……! はぁ、なるほど……って。“私の画廊”??」


「あっ、そうそう。私は若い頃ね、帝都で“画家”を目指していたの! 自分には才能があるって、飛びぬけた才能センスがあるって思っていたからね。それがまったく、まるで評価されなかったのよねぇ……」


「ええと、じゃぁこの部屋の絵って全部……もしかして玄関にあった絵も?」


「私の作品よ。おっと、みなまで言わないで頂戴? ……そう。飛びぬけていて周りが付いてこれない、だから評価されない……って、違うわよね。単純にご覧の通り……彼が言った通りだっただけ。ウっフフフ……これだけいても、いまだにコレなんだものなぁ」


 老婆は自嘲じちょう気味ぎみにしている。悲しそうな様子を注視するのもはばかられ、少女は思わず視線を外して暗がりに注意を向けた。


 そこにぼんやりと浮かぶ絵画はほとんどが人物画であり、あまりに不気味な光景だ。それも良く見ると……下手くそながら、全部同じ人物をえがいているように思われる。


「今なら素直に受け入れられる。私って、本当に絵が下手よ……」


「そ、そんなこと……よりも。描きたいものを描くことが、大切なのではないですか?」


「――!! あなた、アルフィースちゃん……良いこと言うわねぇ、その通りよ! だから私は今も描き続けているの!」


 老婆はうれしそうだ。少女が自分の想いを先回りしてくれたことで、心地よくなったらしい。


「でも、誤解しないでね? それじゃ解らないだろうけど……夫はね、ウフフ♪ そうよ、本当は私の方こそ、彼に一目でかれていたの。人との関係は第一印象で大体決まるって聞くけど……彼の魅力みりょくはそれをくつがえすほどのものだったようね!」


「あ、はぁ…………でもこの絵からも解りますよ。とても素敵な方だったんだろうなぁ……」


「・・・あら、過去形なのね?」  


「うっ!? あ、あの、だって……ごめんなさい。たぶんそうかなって……思って……」


あやまらないで、その通りよ? 彼はとても素敵で、優しくって、ハンサムだったけど……とにかくセッカチなところが、気が早いところだけは……直してほしかったなぁ」


「・・・・・。」


 この館には老婆ユリーシャと執事ローゼンハック以外に気配けはいが無い。パウロのように五感から来る感知ではなく、アルフィースとしては状況から察する勘によってそのことを理解していた。


「……いつもそうだったの。私の手を引いて、時に手が離れても走って行って……遅れて気が付いたら、振り返って手招きしているの。今も、そうよ……随分遠くからね」


「――――ここで、一緒に暮らしていたの?」


「うん……もう、40年前にもなるわね。思えば人生の半分も一緒ではなかった。それでも私にとっては……私の人生は、“彼と共にあった”……そう、思いたい」


 部屋中に並んだ人物画。色々な表情で描かれた彼の姿をぼんやりと眺めるユリーシャ。


 強い語気に強い気性きしょうで威圧的な人――しかし、彼女が気を抜いた時。そこにはやつれてシワも多く、足が不自由で老齢な女が存在する。気を張らなければ、長く保てないのであろう。生まれながらに気が強い、ということもあるだろうが……。


 ……正直なところ。少女はここまでこの空間が居心地いごこち悪かった。何故なぜなら不気味だから。


 しかし、老婆の語りをく内に……それらの正体を知った今。感情は反転している。


「私の絵が下手だと気が付かせてくれたのも彼、私が今も絵を止められない理由も彼……。こんなシワだらけで力の入らない手でも、彼の姿を描き続けている。私が上手うまければ格好かっこうもつくのだろうけどね。ウっフフ……さびしい女でしょう?」


 微笑ほほえむ彼女は痛ましい。だけど、その姿から――今度は目をらさない。その自嘲じちょうは“違う”と感じたから。


「お嬢様――――私、さっき言ったじゃない? 上手うまいか下手へたかなんて、関係ないわ。確かに寂しいことは寂しいかもしれないけど……私はあなたの絵を素敵だと感じる。あなたの大切な人への想いを知ったから……見方が変わった」


「――――――。」


「込めた想いもふくめて1つの作品でしょう? 私はこの絵に込められた想いが暖かいものだと思うから……不気味になんて、もう感じない。それに、よく見れば全部良い表情をしているわ。多少形がくずれていたって、想いの強さに関係ないもの!」


「――――そう、不気味だと思っていたのね?」


「・・・・・・あっ。い、いぁ、その……」


 本音が飛び出たこと、本音が知られたことに少女アルフィースは「しまった!」と目を泳がせた。おどおどと挙動きょどう不審ふしんになり、今にも逃げ出しそうな少女の姿……。


 いぶかにそれを眺めてみせた後、老婆は口元を抑えてき出した。


「――――ぷっふふふ! あっはははは……そりゃ、不気味よね。これだけ人の顔が暗がりに並んでいたら……」


「あのっ、あのの、だから今は違くって――」


「でも、嬉しい。ありがとう、アルフィースちゃん。正直に言ってくれたこと、心を開いて話してくれたこと……一応、絵をめてくれたことも……ありがとうね」


 老婆が――ユリーシャ=キャラバックがこの部屋に少女を呼びつけた理由。それは深い意味などなく、本当にただこうして“似た者同士”、心を開いて語りたかっただけなのだろう。


 永く、この辺境の館に2人きり。執事と静かに暮らしていた女の退屈たいくつしのぎで誘った……単純にそれだけのことだったのだ。


 彼女の本当に嬉しそうな笑顔を見て、少女もそのことを理解する。老婆の語気は何も変わらないのに、そこから威圧感を覚えなくなった。


「アルフィースちゃん。私、あなたを気に入ったわ。可愛らしいし、聡明そうめいで理解が良い。まるで若い頃の私みたいよ」


「え、えへへ……何ですぅ、そんなこと……あるかなぁ?? でも、そう言ってもらえることは、嬉しいなぁ……ウッフフフ」


 突拍子もない質問に困惑もあった。しかし、それらが単に興味本位の話なのだと思えば、さほど身構える必要も――


「それで、アルフィースちゃん。あなたはパウロくんのどこが“ 好き ”なの??」


「ウフフ、フフ・・・・・・・フォォォオッッッ!!!!?」


 驚愕きょうがくしている。少女アルフィースは不意打ちに絶句し、稲妻いなずまが身体をはしったかのように「ピン!」と硬直した。


「あれ? だって、一緒にいるのでしょう。何か事情があるにせよ、こうして辺境地まで2人っきりで来るくらいだもの。気に入った人でないと、そんなことないでしょう?」


「だばっ、ばっ……す、す、すす、いぁいぁ、そ、それはぁ…………あうぅッ!?」


「・・・・・だぁもぉうッ、なぁ~~るほどねぇ!! 解った、解った。今の質問は忘れて? 意地悪だったわ、ごめんなさいねぇ♪」


「かっ、がっ……うぅ……うぅぅぅ……!!」


「だったら、質問を変えましょう。アルフィースちゃん……あなた、パウロくんの“嫌いなところ”って、ありまして??」


「うぅぅぅぅ・・・・・んん?? 嫌いなところ……パウロの??」


 稲妻のショックでしびれるように痙攣けいれんしていたアルフィースだが。「パウロの嫌いなところ」という大変イメージしやすい内容を聴いて平常心を取り戻したらしい。


「そうそう。あの子と一緒にて気に入らないというか、直してほしいというか……」


「嫌いなところ…………そりゃ、ありますわよ。あのね、聞いてくださいます?」


「うんうん、聞くわよ~~♪」


「あのね、まずね……パウロったらガサツで大雑把おおざっぱなの。よく物を壊すし……身体が大きいのだから、気を付けて欲しいのだけどね。つまりマナーがないってことで……食事だっていつもかぶりつくようにして、動物じゃないのだから! 少なくとも、このアルフィースの横にあって、あのような振る舞いは相応しくないと思うの」


「そうね、先ほども勢いよく……テーブルびちゃびちゃだったもの」


「それにデリカシーがない。なんだかよく……は、裸に近い恰好かっこうをして……このように可憐な女性を前にしてね、はしたないこと限りませんわ!? 無礼ぶれい千万せんばんよ。ましてやこの前なんて私の下着を…………ああもうっ、思い出しただけでイライラしてきた!」


「あらあら、随分と苦労しているのね。大変ねぇ」


「そうなのよぉ、解ってくれます?? あとね、パウロはちょっと自信が無さすぎると思うの。それこそ手を引いて歩いてくれるような……そういったね、頼りがいみたいなところが足りないの。そりゃぁ、変に横暴おうぼうなのはイヤだけど……あれで戦うと強いもの。もっと胸を張って、このアルフィースの拠り人として……堂々と肩で風を切って歩いてほしいわ!」


「まぁ、頼りになるのね! 彼ったら強いのね~」


「ふ、フフン? それはそれはスゴイものでしてよ? でもね、だからと言って無茶をしすぎるのも良くないわ。確かに彼は頑丈がんじょうでものすごく力強いけど……いつも無茶を見ている方からすると、心配だってあるのよ。……いや、大丈夫だと解っていてもね? 私のためにって、それは当然だけど……自分のことも、少しは気を付けてほしいわ」


「……彼はいつも、あなたのために無茶をするのね?」


「そう……そうなの。だから、そういうところが――」


「そういうところを直して欲しい。なるほどねぇ~♪」


「・・・・・な、何か変ですか? 何をそんな笑って……」


「え、別にぃ? ただまぁ、よく見ているなぁって。それだけ嫌いなとこを挙げられるのだから……彼のことをよく理解しているのだなって。関心しているのよ」


「――――――べ、別にその、理解と言うか……だって見ていないと何するか解らないし、心配だし……あっ、周りがね? 言ったでしょ。よく物を壊すって……ガサツだから、心配なの」


「うんうん、解ってる。アルフィースちゃんは大変ねぇ~」


 孫の話を傾聴けいちょうする祖母そぼであろうか。老婆ユリーシャのなんと穏やかなることか。よく賛同さんどうしてくれるので、アルフィースの語りにも熱が入ったらしい。


 どうしてか、やたらとなごやかな視線を送られて……。


 少女アルフィースは我に返ったように、若干じゃっかん浮かせていた腰を椅子に降ろした。思った以上に自分が語った事実に……今日会ったばかりの老人に対してたたみかけるように語ってしまったことを、少しずかしく思っているらしい。少女は熱の残った耳をいじってうつむいている。


 そんな少女の姿を見て……老婆は安心したように小さくめ息をいた。


「ねぇ、アルフィースちゃん?」


「あ、はい…………なにかしら?」


「大切にしてあげてね、パウロくんのこと。あと、大切にされてね、パウロくんから……」


「・・・・・ふぇ???」


「……ふぁぁぁ~~~っと、失礼。なんだか沢山たくさんお話したら、眠くなってきちゃった。年々、夜が遅くまで起きられなくなってきたわねぇ」


「――――うん。私も、ちょっと眠いかな」


「ウフフフ……ありがとうね、アルフィースちゃん。寝場所はここの2つ隣の部屋を用意したと、ローゼンハックが言っていたわ。荷物もそこに運んだそうよ。……今日はゆっくり休みなさい、可愛いお嬢ちゃん?」


「ファ……ムン。ほうね、寝ようかひら。いっぱい歩いたから、まるで子供のように早く眠くなってしまったのね……うん」


「ウっフフフ♪ そうね、きっとそうよ!」


「はぁい。それではおやすみなさい、お嬢様…………にゃむにゃむ」


 誘われたように、眠気眼をこすって立ち上がる少女。暗がりの部屋から出ていくその小さなうしろ姿を――自分によく似て気が強い彼女の姿を――老婆は鮮明な意識で見送った。


「子どもあつかいされたくない……よぉく解るわよ、その気持ち。でもねぇ…………だぁって、あんなに可愛いのだから! そりゃからかいたくもなるってものよ、ねぇ!?」


 暗がりの中に語りかけると、鮮明な声色こわいろで「あんまし悪戯いたずらしてあげんなや?」と、返ってきた……気がする。


 老婆は窓の外を見る。ロウソクの灯が照らす窓ガラスにうつる自分の姿。


 せたその肩をいてくれる、優しく、頼もしい腕は見えない。


 だけど、自分だけが想う自分の中だけの存在となった彼が――自分の想いを“ステキ”と言われたことで――なんだか彼まで褒められた気がする。


 本当はもっと話したいと思っていたけど……えられそうになかった。


 あの少女と同じで気が強いと自覚がある。だから、1人になりたかった。



 ほほを伝う涙をぬぐいもせず。夫婦水入らずの想いに、ただひたりたかったから――――――。






第53話 「オラはモンスターだっぺや ~私、お嬢様ですのよ?(4)~」END







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