「オラはモンスターだっぺや ~私、お嬢様ですのよ?(4)~」
『・・・・・随分と、ハッキリ言ってくれるのね』
『あ!? す、すまねぇ……悪気はねぇんだ、ほんと!』
『フンっ、別にいいんだけどね。感性は人それぞれだし……』
『そっかぁ? だってこれ、誰がどう見たって……っとと』
『・・・・・フンっ! 勝手にして頂戴な。テキトウにしたら、出てってよ』
『お、おぉ…………あ、あんさ?』
『…………なに?』
『い、いやぁ…………あんたぁ、この辺の人じゃねぇろ?』
『??? そうだけど……だったら、何よ?』
『オイラ……く、詳しんだわ、この辺り! 美味い飯屋も知ってんだよなぁ~♪』
『だから、なにって? 私は忙しいの。貴方とは合わなそうだし、さっさと――』
『ま、まだ解らんよ!? その、もっと話せば……!』
『・・・・・はぁ??』
『丁度昼時だしさ。お、オイラと……め、飯でも…………どう??』
『――――何よ、それ。言っておくけど、あなたの第一印象は最悪だから』
『ィ……た、たはは~~! まいったな、ごめんよ。気を悪くするつもりはなかったんさ。んでもやっぱしこういうのって正直な方が――』
『悪くなるに決まっているじゃない!? はぁ、たまの客がこんなのとはね……』
『ご、ごめんよ? じゃ、じゃぁ……お邪魔したな。えと、でも……頑張ってくれよ。応援すっけさ、なはは……は……』
『・・・・・あ~~あ!! なんだかイライラして、お腹空いてきたわ。どうしましょう??』
『――――――えっ。』
『……確かに、この辺まだよく知らないのよね。どうせ感性は合わないだろうけど……特別よ? 1回だけ、チャンスを与えてあげる』
『う、うぉっ……!? マジか、よっしゃ! んならね、えっとね……付いてきて!』
『あ、ちょっと!? お待ちなさいな、カバンも何も……もうっ! やっぱりあなたとは絶対合わないわ、こんなの時間の無駄よ!!』
『へへっ、サラヴァン区はオイラの庭みてぇなもんさ! ほら、あっちの通りはね…………』
『・・・やれやれ。ちょいとあなた、名前くらいまず名乗ってよね。これでは不便じゃないの?』
『アっ……そ、そだな。あんね、オイラは――――』
|オラはモンスター!!|
「――――ご堪能、頂けましたでしょうか?」
「んむぅぅ、バッチシ!! ほんに美味かったわぁ~~、ごっすぉさんです!!」
「ええ、とっても満足です♪ ありがとう、ローゼンハックさん。かわいいケーキまで用意してもらって……」
森の中に佇む館の2階、その1室。絵画だらけの不気味な空間とは別の、少し広い明るい部屋。
小型のシャンデリアにテーブルを照らすロウソク。久方に使われた応接間で、3名が縦長の食卓を囲んでいる。
今宵の食事に対し、少年と少女は舌鼓を打って称賛している。どちらも笑顔だが……もう1人。車椅子に腰かける老婆はシワの多い顔を険しくしていた。
「……塩加減が不服でした。ローゼンハック、あなた最近ミスが多いわよ。体調、大丈夫なの?」
「おっと。これはこれは……不手際をお詫びいたします、お嬢様。……いえ、体調は悪くありません。どうか、ご心配なさらず」
「身体を大事にしてよね、無理をしないでよね……もう少しだから、頑張ってよね。お願いだから……」
「……このローゼンハック、誓いは決して破りませぬ。最期の時まで、あなたとキャラバックを守り通します。まだまだ健在に在ります故、少しなどと……」
「だから、気を張りすぎなのよ。もぅ、そういう齢でもないじゃない、ね?」
顔色の悪い執事は老齢の女に哀愁ある視線を落とし、気品に満ちた女は老齢の執事を上目遣いに見た。
老人2人の会話は互いを永く知る者同士の呼吸によって成立している。つまり、諸々の事情を知ったうえで通じ合っているので、それを端で聞く他者には理解し難い。
少女は注意深く2人の会話を聞きながら、ケーキに乗っかったイチゴを真っ先に頬張った。隣の少年は特に何も気にせず「うんめうんめ!」と言いながら空の皿を舐めまわしている。
食事を終えて、老婆が言った。
「そうだ。あなた……“アルフィース”と言ったわね、お嬢ちゃん? あなたこの後少し、私の部屋にいらしてくださらない?」
口元をハンカチで拭い終えて、凛とした表情で少女を見る老婆。彼女としては威圧しているわけでもないのに、無意識な語気の強みが少女を「ビクッ」とさせる。
「こ、この後……べ、別に構いませんわよ??」
「結構。少し話したいことがあってね……ああ、特に深い話でもないわ。ちょっと興味があるの。こうして客が訪れるのも珍しいからね――――じゃ、待ってるわよ」
キャリキャリ……と。車輪を手で漕いで移動を始める老婆。顔色の悪い執事は彼女の車椅子を押そうと寄るが、「いいから!自分で行くの!」と一瞥されて追い返された。
まだ1口残っているケーキを口に運ぶことも忘れて……少女アルフィースは「何を話すのかしら」と警戒した小動物の構えを見せている。
しかし、どうにも少女は老婆を畏怖しているような……気圧されている感がある。きっと、同じ“お嬢様”としての対抗心と、老人に対する彼女なりの“敬意”が合わさって緊張を生み出しているのであろう。
それと、“気になる会話”が曖昧にされたまま放置されていることも理由か。
「ふぅぅ、腹いっぱいだぁぁ~~ふわぁぁぇぃ。んやぁ、眠くなってきちまっただなぁ……」
「ご用意できております。“パウロさん”、寝室へとご案内いたしましょう。1階部分に設けてありますので、どうぞこちらへ」
「おっ、そっだか? んだら世話なっけねぇ……あんがてぇ、あんがてぇぇわぁぁふわぁ……にゃむにゃむ」
眠気眼の少年が立ち上がる。大きなあくびと大きな伸びに、ぼーっとしていた少女はビックリして。慌てた様子でケーキの1口を頬張った。
応接間を出た少年と執事は階段を降っていった。少女は眉毛を下げた表情でその広い背中を見送り、名残惜しそうに立ち上がるとおずおずとした歩行でコの字型の廊下を歩き始めた。
そして、不気味な印象の部屋へと……入る。
「――――ようこそ。来たわね、お嬢ちゃん?」
「ど…………どうも。」
「どうぞ腰かけて? ああ、足元に気を付けてね。色々散らばっているから」
「はい…………あっ。」
「パキッ」と、何かが折れる音。それはきっと筆か何か、細い物らしい。暗がりの部屋なのでいまいち解り難い。少女はいよいよ気まずい表情になった。
「ご、ごめんなさい。今、私……」
「ああ、いいのよ。どうせ筆は沢山あるし……怪我してない? なら、いいわ」
少女がどうにも緊張して硬い……そういったところを老婆は察しているようだ。意図して言葉を和らげ、諭すように話している。
暗がりの居室に油臭が充満している。正直言って、長く居たいと思える環境ではない。少女アルフィースは暗がりの中で視線の置き場に困り、とりあえずロウソクの灯を眺めた。
「――――アルフィースちゃん」
「あひっ!? は、はいはい!?」
「何も、不安がることないわ。だって私達、“同じ”じゃないの。珍しい者同士、心を開いて向かい合っても……良いとは思わない?」
「同じ……私達は同じ…………<装怪者>?」
「そう、とても希少な存在――――装怪者がこうして顔を合わせ、静かに語り合う機会なんて、そうそうあるものじゃないわよ?」
「・・・・・そ、そうですネ」
老婆はそういうが、アルフィースとしてはここ最近別に珍しくない。むしろ日常的なくらいに感じられる。それこそ稀有な境遇なのだろう。
「―――――。」
「・・・・・。」
老婆は尽きかけたロウソクを取り換え、火を灯す。その作業中、まるで会話が止まってしまい、僅かな月明かりが差し込む窓が唯一の見所となる。
少女は老婆に呼びつけられた理由もまだ知れず。シーツの擦れる音をただ、静かに聞いていた。
「――――で、アルフィースちゃん。あの子、パウロくんだったかしら?」
「え、はい……パウロが何か?」
「彼が最初の拠り人じゃないでしょう?」
「ええ、まぁそれはそぅ・・・・・ドゥワァッ?!!?」
鬼気迫る表情。蝋の灯りに照らされた少女の、大きく口と目を開いた有様がそこにある。
「ウフフ……解るわよぉ。だってまだ、そこまでの関係に見えないもの。まだ、目を付けられるような感じではない……」
「う、うぇ、だっ・・・・・え??」
「落ち着きなさい。拠り人が生涯通して1人じゃないって、それは珍しいことではないわ。むしろ普通そうなんじゃない? 単純に“恋人同士”って考えたら……知りませんけど」
「あ、あわわわわ……ここ、こ、こぃ……そ、そんなこと私は――」
「解っているわよ。聞いたわ、彼ったら付き人なんでしょう? でも、拠り人なことは間違いないのよね?」
「…………そうです。パウロは……あいつは私の付き人でして。拠り人なのも成り行きというか、その……だからこぃ――」
「~~~~~っっっアアア゛、いいなぁ!!! 羨ましいっ、懐かしい、愛おしい!!!!!」
「・・・・・!!?!!??」
突如として。ベッドのシーツを力強く叩いて騒ぎ始める老婆。今度は呆気にとられた様子で口を開く少女の有様が、風圧に揺らぐ灯に照らし出された。
「私だって昔はね、そもそも彼とは最初――――ッホ!? ゴッホ、オホ、ンホッ!?!?」
「うわぁっ!? おバ――お嬢様っ、しっかりして!!」
「だ、大丈夫、大丈夫。手を出さないで、自分で落ち着くから…………っフゥ。いけない、いけない。ローゼンハックに叱られてしまうわね。先ほど身体を大事にと言っておいて、自分がこれでは情けない……」
老婆は胸を押さえて息を整え、ゆっくりと水を飲んだ。制止するように突き出した腕は少女に向けられており、立ち上がっていた少女は触れずにも押されたようにして腰を降ろした。
「フゥゥゥ…………ま、そういうことよ。」
「・・・・・??」
何がそういうことなのであろう。今度は勝手に納得して老婆は満足そうにしている。笑顔を向けた先にある少女は夢の中の幻想のようで……。
「でもあなた、そんな様子だと……どうにも可愛すぎる。そこが不思議なのよ、装怪者としてはね」
暗がりの中でよく確認しようと、老婆ユリーシャが手招きする。少女アルフィースは困惑しながらも身を屈めて、顔を前に出した。
そこに手を触れ、まじまじと確認する老婆。見つめられた少女の頬が赤く染まる。
「若いわね。肌も反応も……だからやっぱり、変なのよねぇ」
「あのぉ……な、何かおかしいところがありまして? 私、何か変なの?」
「んん~~~?? ……ま、いいや。ところであなた、見所あるわよ。題材にして描きたくなるくらいにはね」
「・・・・・はいぃ??」
……とにかく身勝手である。少なくとも、少女はそのように感じている。
この老婆――ユリーシャという人は、どうにも自分の都合で物事を進めようとする。自分を常に人より1段上にあると考え、気位高く振舞う。その様子がどうにも少女としては苦手で……お株を奪われたようにやり難いのであろう。突拍子も無い言動に振り回されてしまっている。
「ところであなた。パウロくんと初めて出会った時の言葉って、覚えてる?」
「え、パウロと初めて会った時?? ……あれ、なんだっけ。確か目が覚めたら彼の家で……ええと…………いや、解んない??」
「……私はね、覚えているの。彼と――“夫”と出会った時の事。最初に言われた言葉、鮮明に覚えている。……もちろん、返した言葉もね?」
想いを馳せるように、老婆は天井を見上げた。ぼんやりと照らされる天井に、ぼんやりと情景を思い浮かべて……その表情は実に穏やかだ。
「ウフフ、そうね。というか――――というか忘れるわけないじゃないの!?!? ねぇ、彼ったら初対面でなんて言ったと思いまして!!!?」
「ピッ!? わ、解りませんッ……!!」
「あのね、彼ったらね……初対面よ? 私の画廊にいつの間にか居ると思ったら……私に振り返って、開口一番・・・
『 いや、下手だなぁ~~。ここの絵は全部、酷いもんだね。 』
・・・普通言わないわよね、そんなこと? それをまぁ、よくズケズケと……忘れるわけがないでしょうっ!?!? 何様なのよ、そう思わない!!? んんんがぁぁぁぁあ!!!!!」
「あわわわわ……お、落ち着いて。落ち着きなさって、お嬢様ぁ!!」
また興奮し始めた。もしかしたら単に情緒不安定なだけなのかもしれない。老婆ユリーシャは天井を指さして怒りの形相で少女を睨みつけた。アルフィースは慌てて「お、思います!」と硬直して答える。
「ハァ、ハァ……いけない。そうね、落ち着きましょう。スゥ、ハァ、フゥ…………ともかく。彼との出会いはそんな感じだったわ、最悪の第一印象よ。とてもじゃないけど後に夫婦になるなんて、考えられなかった」
「ドゥドゥ……! はぁ、なるほど……って。“私の画廊”??」
「あっ、そうそう。私は若い頃ね、帝都で“画家”を目指していたの! 自分には才能があるって、飛びぬけた才能があるって思っていたからね。それがまったく、まるで評価されなかったのよねぇ……」
「ええと、じゃぁこの部屋の絵って全部……もしかして玄関にあった絵も?」
「私の作品よ。おっと、皆まで言わないで頂戴? ……そう。飛びぬけていて周りが付いてこれない、だから評価されない……って、違うわよね。単純にご覧の通り……彼が言った通りだっただけ。ウっフフフ……これだけ描いても、未だにコレなんだものなぁ」
老婆は自嘲気味にしている。悲しそうな様子を注視するのもはばかられ、少女は思わず視線を外して暗がりに注意を向けた。
そこにぼんやりと浮かぶ絵画はほとんどが人物画であり、あまりに不気味な光景だ。それも良く見ると……下手くそながら、全部同じ人物を描いているように思われる。
「今なら素直に受け入れられる。私って、本当に絵が下手よ……」
「そ、そんなこと……よりも。描きたいものを描くことが、大切なのではないですか?」
「――!! あなた、アルフィースちゃん……良いこと言うわねぇ、その通りよ! だから私は今も描き続けているの!」
老婆は嬉しそうだ。少女が自分の想いを先回りしてくれたことで、心地よくなったらしい。
「でも、誤解しないでね? それじゃ解らないだろうけど……夫はね、ウフフ♪ そうよ、本当は私の方こそ、彼に一目で惹かれていたの。人との関係は第一印象で大体決まるって聞くけど……彼の魅力はそれを覆すほどのものだったようね!」
「あ、はぁ…………でもこの絵からも解りますよ。とても素敵な方だったんだろうなぁ……」
「・・・あら、過去形なのね?」
「うっ!? あ、あの、だって……ごめんなさい。たぶんそうかなって……思って……」
「謝らないで、その通りよ? 彼はとても素敵で、優しくって、ハンサムだったけど……とにかくセッカチなところが、気が早いところだけは……直してほしかったなぁ」
「・・・・・。」
この館には老婆ユリーシャと執事ローゼンハック以外に気配が無い。パウロのように五感から来る感知ではなく、アルフィースとしては状況から察する勘によってそのことを理解していた。
「……いつもそうだったの。私の手を引いて、時に手が離れても走って行って……遅れて気が付いたら、振り返って手招きしているの。今も、そうよ……随分遠くからね」
「――――ここで、一緒に暮らしていたの?」
「うん……もう、40年前にもなるわね。思えば人生の半分も一緒ではなかった。それでも私にとっては……私の人生は、“彼と共にあった”……そう、思いたい」
部屋中に並んだ人物画。色々な表情で描かれた彼の姿をぼんやりと眺めるユリーシャ。
強い語気に強い気性で威圧的な人――しかし、彼女が気を抜いた時。そこにはやつれてシワも多く、足が不自由で老齢な女が存在する。気を張らなければ、長く保てないのであろう。生まれながらに気が強い、ということもあるだろうが……。
……正直なところ。少女はここまでこの空間が居心地悪かった。何故なら不気味だから。
しかし、老婆の語りを聴く内に……それらの正体を知った今。感情は反転している。
「私の絵が下手だと気が付かせてくれたのも彼、私が今も絵を止められない理由も彼……。こんなシワだらけで力の入らない手でも、彼の姿を描き続けている。私が上手ければ格好もつくのだろうけどね。ウっフフ……寂しい女でしょう?」
微笑む彼女は痛ましい。だけど、その姿から――今度は目を逸らさない。その自嘲は“違う”と感じたから。
「お嬢様――――私、さっき言ったじゃない? 上手いか下手かなんて、関係ないわ。確かに寂しいことは寂しいかもしれないけど……私はあなたの絵を素敵だと感じる。あなたの大切な人への想いを知ったから……見方が変わった」
「――――――。」
「込めた想いも含めて1つの作品でしょう? 私はこの絵に込められた想いが暖かいものだと思うから……不気味になんて、もう感じない。それに、よく見れば全部良い表情をしているわ。多少形が崩れていたって、想いの強さに関係ないもの!」
「――――そう、不気味だと思っていたのね?」
「・・・・・・あっ。い、いぁ、その……」
本音が飛び出たこと、本音が知られたことに少女アルフィースは「しまった!」と目を泳がせた。おどおどと挙動不審になり、今にも逃げ出しそうな少女の姿……。
訝し気にそれを眺めてみせた後、老婆は口元を抑えて噴き出した。
「――――ぷっふふふ! あっはははは……そりゃ、不気味よね。これだけ人の顔が暗がりに並んでいたら……」
「あのっ、あのの、だから今は違くって――」
「でも、嬉しい。ありがとう、アルフィースちゃん。正直に言ってくれたこと、心を開いて話してくれたこと……一応、絵を褒めてくれたことも……ありがとうね」
老婆が――ユリーシャ=キャラバックがこの部屋に少女を呼びつけた理由。それは深い意味などなく、本当にただこうして“似た者同士”、心を開いて語りたかっただけなのだろう。
永く、この辺境の館に2人きり。執事と静かに暮らしていた女の退屈凌ぎで誘った……単純にそれだけのことだったのだ。
彼女の本当に嬉しそうな笑顔を見て、少女もそのことを理解する。老婆の語気は何も変わらないのに、そこから威圧感を覚えなくなった。
「アルフィースちゃん。私、あなたを気に入ったわ。可愛らしいし、聡明で理解が良い。まるで若い頃の私みたいよ」
「え、えへへ……何ですぅ、そんなこと……あるかなぁ?? でも、そう言ってもらえることは、嬉しいなぁ……ウッフフフ」
突拍子もない質問に困惑もあった。しかし、それらが単に興味本位の話なのだと思えば、さほど身構える必要も――
「それで、アルフィースちゃん。あなたはパウロくんのどこが“ 好き ”なの??」
「ウフフ、フフ・・・・・・・フォォォオッッッ!!!!?」
驚愕している。少女アルフィースは不意打ちに絶句し、稲妻が身体を奔ったかのように「ピン!」と硬直した。
「あれ? だって、一緒にいるのでしょう。何か事情があるにせよ、こうして辺境地まで2人っきりで来るくらいだもの。気に入った人でないと、そんなことないでしょう?」
「だばっ、ばっ……す、す、すす、いぁいぁ、そ、それはぁ…………あうぅッ!?」
「・・・・・だぁもぉうッ、なぁ~~るほどねぇ!! 解った、解った。今の質問は忘れて? 意地悪だったわ、ごめんなさいねぇ♪」
「かっ、がっ……うぅ……うぅぅぅ……!!」
「だったら、質問を変えましょう。アルフィースちゃん……あなた、パウロくんの“嫌いなところ”って、ありまして??」
「うぅぅぅぅ・・・・・んん?? 嫌いなところ……パウロの??」
稲妻のショックで痺れるように痙攣していたアルフィースだが。「パウロの嫌いなところ」という大変イメージしやすい内容を聴いて平常心を取り戻したらしい。
「そうそう。あの子と一緒に居て気に入らないというか、直してほしいというか……」
「嫌いなところ…………そりゃ、ありますわよ。あのね、聞いてくださいます?」
「うんうん、聞くわよ~~♪」
「あのね、まずね……パウロったらガサツで大雑把なの。よく物を壊すし……身体が大きいのだから、気を付けて欲しいのだけどね。つまりマナーがないってことで……食事だっていつもかぶりつくようにして、動物じゃないのだから! 少なくとも、このアルフィースの横にあって、あのような振る舞いは相応しくないと思うの」
「そうね、先ほども勢いよく……テーブルびちゃびちゃだったもの」
「それにデリカシーがない。なんだかよく……は、裸に近い恰好をして……このように可憐な女性を前にしてね、はしたないこと限りませんわ!? 無礼千万よ。ましてやこの前なんて私の下着を…………ああもうっ、思い出しただけでイライラしてきた!」
「あらあら、随分と苦労しているのね。大変ねぇ」
「そうなのよぉ、解ってくれます?? あとね、パウロはちょっと自信が無さすぎると思うの。それこそ手を引いて歩いてくれるような……そういったね、頼りがいみたいなところが足りないの。そりゃぁ、変に横暴なのはイヤだけど……あれで戦うと強いもの。もっと胸を張って、このアルフィースの拠り人として……堂々と肩で風を切って歩いてほしいわ!」
「まぁ、頼りになるのね! 彼ったら強いのね~」
「ふ、フフン? それはそれはスゴイものでしてよ? でもね、だからと言って無茶をしすぎるのも良くないわ。確かに彼は頑丈でものすごく力強いけど……いつも無茶を見ている方からすると、心配だってあるのよ。……いや、大丈夫だと解っていてもね? 私のためにって、それは当然だけど……自分のことも、少しは気を付けてほしいわ」
「……彼はいつも、あなたの為に無茶をするのね?」
「そう……そうなの。だから、そういうところが――」
「そういうところを直して欲しい。なるほどねぇ~♪」
「・・・・・な、何か変ですか? 何をそんな笑って……」
「え、別にぃ? ただまぁ、よく見ているなぁって。それだけ嫌いなとこを挙げられるのだから……彼のことをよく理解しているのだなって。関心しているのよ」
「――――――べ、別にその、理解と言うか……だって見ていないと何するか解らないし、心配だし……あっ、周りがね? 言ったでしょ。よく物を壊すって……ガサツだから、心配なの」
「うんうん、解ってる。アルフィースちゃんは大変ねぇ~」
孫の話を傾聴する祖母であろうか。老婆ユリーシャのなんと穏やかなることか。よく賛同してくれるので、アルフィースの語りにも熱が入ったらしい。
どうしてか、やたらと和やかな視線を送られて……。
少女アルフィースは我に返ったように、若干浮かせていた腰を椅子に降ろした。思った以上に自分が語った事実に……今日会ったばかりの老人に対して畳みかけるように語ってしまったことを、少し恥ずかしく思っているらしい。少女は熱の残った耳をいじって俯いている。
そんな少女の姿を見て……老婆は安心したように小さく溜め息を吐いた。
「ねぇ、アルフィースちゃん?」
「あ、はい…………なにかしら?」
「大切にしてあげてね、パウロくんのこと。あと、大切にされてね、パウロくんから……」
「・・・・・ふぇ???」
「……ふぁぁぁ~~~っと、失礼。なんだか沢山お話したら、眠くなってきちゃった。年々、夜が遅くまで起きられなくなってきたわねぇ」
「――――うん。私も、ちょっと眠いかな」
「ウフフフ……ありがとうね、アルフィースちゃん。寝場所はここの2つ隣の部屋を用意したと、ローゼンハックが言っていたわ。荷物もそこに運んだそうよ。……今日はゆっくり休みなさい、可愛いお嬢ちゃん?」
「ファ……ムン。ほうね、寝ようかひら。いっぱい歩いたから、まるで子供のように早く眠くなってしまったのね……うん」
「ウっフフフ♪ そうね、きっとそうよ!」
「はぁい。それではおやすみなさい、お嬢様…………にゃむにゃむ」
誘われたように、眠気眼を擦って立ち上がる少女。暗がりの部屋から出ていくその小さな後姿を――自分によく似て気が強い彼女の姿を――老婆は鮮明な意識で見送った。
「子ども扱いされたくない……よぉく解るわよ、その気持ち。でもねぇ…………だぁって、あんなに可愛いのだから! そりゃからかいたくもなるってものよ、ねぇ!?」
暗がりの中に語りかけると、鮮明な声色で「あんまし悪戯してあげんなや?」と、返ってきた……気がする。
老婆は窓の外を見る。ロウソクの灯が照らす窓ガラスに映る自分の姿。
痩せたその肩を抱いてくれる、優しく、頼もしい腕は見えない。
だけど、自分だけが想う自分の中だけの存在となった彼が――自分の想いを“ステキ”と言われたことで――なんだか彼まで褒められた気がする。
本当はもっと話したいと思っていたけど……堪えられそうになかった。
あの少女と同じで気が強いと自覚がある。だから、1人になりたかった。
頬を伝う涙を拭いもせず。夫婦水入らずの想いに、ただ浸りたかったから――――――。
第53話 「オラはモンスターだっぺや ~私、お嬢様ですのよ?(4)~」END




