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「ワタシはモンスターだ(怪しい患者)」

 晴天の下。波間に日差しが反射して、キラキラと輝いている。


 まだ観光のシーズンには少し遠い。広大な海岸をようする海辺の街――“マバラード”。傾斜した坂道に雑多な様子で並んだ街は古く、複雑に入り組んでいる。


 マバラードのおこりというものは、過去に沈んだ宝物ほうもつ栄誉えいよを求めて無数の人々がつどい、急増につくられたことに由来する。


 だから都市計画などなく、元々中立地域の小さな漁村ぎょそんだったこともあって、東西の文化が入り乱れる不規則的な形状と文化が形成された。今では独特な文化の観光名所として名をせている。


 それも年に1度、夏に限った話だ。それ以外は静かなもので、古くに捨てられた空きの多い住宅街はそれこそむなしい。


 そんなマバラードの大通り。商店街とその付近には洒落しゃれた店が並んでいる。人気のパン屋で看板かんばん娘が今日も声を張り、常連たちを迎えている光景がにぎやかだ。


 パン屋の看板娘からお釣りと紙袋を受け取って「ニッコリ」と。この青空に負けない晴れやかさで笑う少女。


「ありがとぉっ! わぁい、パンだ、パンだぁ! あんぱん・・・・・ええいっ、食べちゃえ!! 我慢がまんできねぇッ!! むしゃむしゃ、はぐっはぐっ……もぐもぐ!!」


 まだ店の中だというのに、パンを1つ頬張ほおばり始める少女。よそおいは看護師と家政婦の中間みたいなものであり、頭にかざったカチューシャが咀嚼そしゃくの衝撃でらいでいる。


 店主も看板娘も特に何も言わない。この少女はここに常駐じょうちゅうしているわけではないが……ちょくちょくマバラードに顔を見せる知り合いなので「いつもの」といった具合だ。


 看護師(?)の少女は大通りの坂道にでて、スキップ混じりにける。


「今日も良い天気ねぇ~~……なのにセンセイったら! 家に閉じこもってばっかり…………ンハっ?! そうだわ、私がお連れしちゃいましょう♪ デートよ、デートォ!!! いやはや、その手があったか~、こいつぁ失念しておったわい!!!」


 どうにも口調が安定していない。太陽を見上げてけわしい表情の少女が全力疾走で大通りの裏へと入っていく。


 大事そうに紙袋を抱えて、看護師(?)の少女は迷いなく“その家屋”へといたった。


 入り組んだ住宅地にまぎれている古い木造家屋。2階建ての民家の扉を開き、少女が――【フィナンシア】が満面の笑みで開口一番に叫ぶ。


「センセイッ、お付き合いくださいましっ!! このフィナンシア、おデートがしとう御座いますッ!!!」


 々しく、いさましい顔つきだ。流離さすらいのサムライかと見まがう表情でご提案するフィナンシア。


 扉が開かれ、いきなりさけばれて……家屋内の人々は「ポカン」としている。


「いや……フェイ君、どうしたのだね突然に……パンは買ってきたのかね? 朝食のパンは…………ああ、持っているな」


 燕尾えんびの白衣をまとった男が振り返る。彼は少女の手にある紙袋を確認して、とりあえず目的は達成したのだなと安堵あんどした。


 何せフィナンシアは目的も忘れて思い付きを優先することが多々ある性分しょうぶん。そんな彼女をお使いに向かわせると、いつだって白衣の男――【ルイド・カチ―スキー】は心配してしまうのである。


 振り返ったルイド・カチ―スキーの左腕。白衣のそではだらりとしており、厚みが無い。どうやらその左腕はまるごと欠損けっそんしてしまっているらしい。


 そしてその左腕は現在、彼の目の前にある。木製のテーブル上に当たり前とした様で置かれている。


「ホホ、元気じゃのぅ~。どうじゃ、フェイちゃん! ここはこの武骨ぶこつな男ではなくって、“ワシ”とおデートなど……なぁんてね☆ ファッハハハ!!」


 外されたルイドの左腕をいじっている人がある。それは老人であり、頭部はこの薄暗い室内でも輝きかねない、ツルっとしたつややかなものだ。


 ウインク混じりに誘われたフィナンシア。それはーー


「いえ、お断りいたします。ではまたの機会に……失礼いたします」


 ーースイッチが切り替わったかのように真顔となり、頭を下げて家屋を出ていくフィナンシア。


 少女のすさまじい拒否反応を受けて、艶やかな老人はその頭頂部をでながら目をせた。


「じょ、冗談じょうだんなのに……フェイちゃんったら。近頃のは難しいのぅ……」


「…………老師よ。恋に年齢はとやかく言いたくありませんが……しかし如何いかんせん、あなたと彼女ではあまりに年の距離がありすぎる。それに、彼女はワタシの助手でありまして、確かにあなたはワタシにとっても偉大な――」


「いやっ、だから冗談じゃよぉ~~! んもぉ、ルイドったら♪ 年寄りのちょっとした悪戯心いたずらごころ……敏感びんかんに感じてくれないと、ねちゃうぞっ☆」


「……はい、承知いたしました。まだまだ、ワタシも精進しょうじんが足りませんね……」


「え・・・いや、そんな小難しいことじゃ・・・・・あぁんっ、もうっ!!」


 冗談をやたらと重く返されて……。艶やかな老人――【リッキー】が派手にった。


 対面する医者の男はその無機質な瞳で老人を観察し、首を傾げて「何を狼狽うろたえておられるのであろうか」と難しく考え込んでいる。


「……フゥゥ。ほぉら、また手が止まっているよ? そんなんじゃぁ、いつまで経っても直らないんじゃないかねぇ、リッキー??」


 なんとも気だるそうな、だらけた声色こわいろである。声のぬしは備えられているバーカウンターの裏にいるらしい。


 カウンター裏の“女性”は眠そうなまなこで爪先を弄っており、組んだ足を大胆だいたんにカウンターの上に乗っけている。黒のタイツで中身は見えなかろうが、それにしたって行儀ぎょうぎが悪い。ヒール高いのくつを足先に下げて、ぶらぶらと揺すってまでいる。


 この“気だるそうな女”はとがりのある大きな帽子をかぶっている。身にまとう衣服はゆったりとしていて――それを悪く評せば、“紫のボロ布を適当に纏っているだけ”の装いだ。見たところ成熟せいじゅくした大人の気配けはいはあるが……顔の肌艶つやはだからしてかなりの若年じゃくねんに見える。


「フゥゥ〜〜……そうやってルイドを待たせてさ。すぐ直せるって豪語した上でその様なの、情けないねぇ〜」


 背後から続く気だるい声。老人リッキーは「う、うるさいやい!」とやんちゃな様子で答えた。かざした腕には老いてもなお健在けんざいな様子で筋肉が盛り上がっている。


 リッキーの手先はゴツゴツとしており、タンクトップを着た露出の多い身体にはよく見ると至る所に傷が散見できる。その左腕は黒ずんでおり、どうやら過去に大きな火傷やけどったらしい。


 筋肉質な老人はゴツゴツとした手先でも器用に、ルイドの左腕内部にある複雑な配線や部品を弄っていた。裸眼らがん眉間みけんにシワを寄せて……集中したのかと思いきや、まだペラペラとしゃべり始める。


 そうした老人の落ち着かない様子を前にして……。


 割と大人しいたちであるドクター・ルイドは気まずそうにひたいいた。


「まぁ、急ぎではありませんので。老師にはゆっくりと直していただければ……」


 確かに急ぎの用はないが自分の腕である。早くに直ることに勝りはしないだろう。だが、ルイドはそれを強く言えない様子で……どうにもこの老人に気を遣っている雰囲気がある。


 恐れではなく、“尊敬”。丁寧に応じ、重く返しがちなのはそれが理由であろう。


「――いやさ、だから君もそう言うなら手伝ってくれたっていいじゃろう? あんね~、ワシだってもう年なんだかんね? ほら、このつぶらなまなこを見てよ。ショパショパしていてさ・・・可愛い???」


「い〜〜や、可愛くはないねぇ。しっかし、あんたってばいつまでっても集中力が無いというか……年取って落ち着くって、そういうのはないのかい??」


「えぇ、無いなぁ。落ち着くって……それって、大人おとなになるって……こと? そんなのイヤだね。だったらワシは、いつまでも少年のままでいたい!!!」


「あっ、そう。やれやれ……それでよくぞフェイに“もっと落ち着きをもちたまえ”なんてキリッとして言えたもんだねぇ。ま、それでも多少は昔に比べてマシにはなったけどぉ……もう少しはちゃんとしてほしいものだね。

 少年心も結構だけどさ、あんまし年齢にそぐわない振る舞いしてるとこっちがずかしくなるんだよね。あんたは変わらんでいいかもしれんが……人の見る目ってのは変わっていくものだよ」


「・・・・・ああぁんんんッ!? 【ラファンダ】がひどいこと言うぅぅぅ!! 助けて、妻が現実を押し付けてくるんです!!! センセイ・ルイドッ……どうかこのあわれな老人を救ってください!!!!!」


「え。…………いや、それはお2人のことですから、どうかお2人で解決していただきたい。

 おっとと、そういえばフェイ君……ええと、何処に行ったのだろう? お2人はきっと、腹を空かせているのだ。だから争いが――生じるのです!」


 老人リッキーに対するルイドの反応は決して冷たいものではない。ただ、彼らのいざこざに巻き込まれたくないと……。


 末尾の言葉「生じるのです」と同時にルイドは席を立った。


 様子を見てくると、燕尾の白衣をひるがえして早足になるルイド。その背中に「逃げるんかよ、ああん、薄情はくじょう者ォ!!」と声がかかっているが……聞こえていないふりをした。


 ルイドは「困ったものだ」と零しながら日差しの下に出る。古い家屋の外、そこにはさびれた住宅街の様子がある。空き家が多いので日中でも静かなものだ。


 さん々とした陽光。暖められた木造の家屋群から古い木材の香りがただよってくる。浜風に湿気しけってカビた「ツン」とした臭いも混じっていて、まるで独特なものだ。


 ふと見ると。家の前では向かいに住む若者の2人が珍しく揃って姿をみせていた。


 彼らは白衣のルイドなど気にめることも無く、何か空を指さして話している。


「いや、見たんだって! なんかよ、赤いのが……鳥? みたいなのがこう、スバっ……とな。流れていくのが空に見えたんだよ!!」


「やだなぁ、また妄想もうそう?? どうせ寝ぼけて、外に出て貧血でもして幻覚をみたのでしょ??」


「いやぁ~~、違うと思うけどなぁ。ともかく、何かあるかもしれないからよ。様子を見てこようぜ、な!!」


「無駄な労力になるじゃない……ま、いいか。散歩ってことで、付き合ったげるわ……」


 何の話であろうか。若者2人はそうして話した後、街の外れへと向かって歩いていく。


 ドクター・ルイドは考える「またやったのか、りないやつだ……」と。以前にてやったことのある若者の背を目線で追って、あきれて肩を落とした。


 立てたえりで隠された無機質な口。そこから溜息ためいきこぼれ、視線の先から若者2人の姿が見えなくなった頃。


 彼らと入れ替わるようにして別の人達が街の入り組んだ小路に姿を見せた。


 どうやら3人らしいその中に、とても馴染なじみがある姿を見つけて……ルイドがつぶやく。


「……フェイ君? また何かやったか……どうした関係だろうか、あの2人。迷惑をかけたのでなければ良いのだが……」


 看護師(?)の彼女が何かを話しながら“見知らぬ2人”を連れている。それらはこちらに向かってきているようで……ルイドは心配からまた溜息をいた。


 入り組んだ小路を歩いてきた3人。フィナンシアが連れてきた2人。それは男女らしく……。


 男の方はかなり大柄で、この暑い日差しの中でも黒い外套マントまとっている。片手には黒いカバンをたずさえて、威風いふうどう々たる歩行だ。


 そのかたわらで寄りうように歩く女性。強い日差しに目を細めて、口元にはマスクを付けている。それは少々ふらつくような、か細い歩行である。


 見知らぬ男女にルイドはまゆをひそめる。そんな彼の心配などまるで関せず、フィナンシアは白衣の姿を確認次第に突進。勢いあまって激突した。


 激突の衝撃を全て緩和かんわし、何事もなかったかのように彼女を支えるルイド・カチ―スキー。激突したことなどまるで関係なく、ひとみをキラキラとさせているフィナンシア。


「センセイッ、何処どこにいらしたのよ!? ほら、お客さんですよ、お客さん!! センセイに会いたくって、ここまで来てくださったのですって!!」


「なに。客、だと……? ワタシに会いに……か。なるほど、しかし……ワタシがどうして此処ここると知ったのだ??」


 警戒している。ルイドは身構えずとも、気をゆるめずに……どうやら只者ただものではないらしい、自信に満ちた歩行の男を見やる。


 2人はゆっくりと――男は女を気遣うように――歩いて近づいてきた。そしてある程度の距離にて停止。いきなりにらみつけてくる。


「―――キサマがルイドか? その女がそうしてくっついているのだから、そうなのだろうな。……顔が見えんぞ」


 威圧するような険相けんそう――“不遜ふそんな態度の青年”は、これも警戒しているらしい。彼の本能が対面する男に対して「未知なる存在」をしらせているようだ。ただし、その険相は普段通りなもので特別に威嚇いかくしているわけではない。


「お互い様だ……ワタシも、そちらの女性の顔がうかがえない。それで……要件はなんだ? どうしてワタシがここにいると…………何者なのだ、君たちは?」


 ルイドは警戒しているが、それは対面する男が睨んできているからである。実際はそうではないのだが……初対面で彼の性分しょうぶんなど知るよしもないであろう。


 近くにあるフィナンシアを意識して……ルイドの口調は重く、硬い。そして言葉を終える度に伝わる圧力。白衣の男から感じる、得体えたいの知れない気配。


 それに負けじと青年も気をり、彼の周囲があたかもゆがむかのような印象を与えてくる。


 言葉少ない男達の張りつめた空気がそこに――――


「あのね、センセイっ! この人達ったら、センセイに治してもらいに来たそうよ! ねね、センセイ~~てあげてよぉ。ねぇねぇ…………ねぇったらぁ!? ルイドの分からず屋めッ、ムガァァァ!!!!!」


 フィナンシアが表情を歪めて歯をむき出している。あんまりルイドが反応してくれないので怒ったのであろう。つまりは内容云々ではなく、構ってもらいたいのである。


「い、いや、フェイ君。まだ断ってもいないだろうに……何、このワタシに……“診てほしい”? それはつまり、医者としてワタシを頼ってきたと……尚更なおさら不自然だな。ひそむように生きるワタシの、正規ではない生業なりわいを頼って、どうしてわざわざ……?」


「ム、正規ではない……それはどういうことだ!?」


 険相の青年がさらに表情を険しくする。確かに言われていなかった。それは知らない情報であり、良くない部類の情報に不安を感じたのである。


「…………ワタシは何処どこにも所属せず、あかしたぐい獲得かくとくしていない。だから“正規ではない医者”だ。それも知らずに、いよいよ解らないな……答えてくれ。何故ワタシがここにいると、知ったのだ…………??」


「――――フンっ、構わん。腕は確かなのか? いや、確かだと言っていた……だから、オレサマも……信じたい」


 険相の青年は何かを思いなやんでいるらしい。彼は怒っているような表情ではあるが……どうにも“迷い”のようなものが垣間かいま見える。ルイドは相手の正体が掴めず、また不意打ちなどをしてこないことからこれまた困惑こんわくした。


 正体不明であるならば、警戒をくわけにはいかない。構えなくとも、ルイドはいつでも応戦できる姿勢を作っている。


「……こちらの問いに答えよ。誰に聞いた……?」


「…………パウロ=スローデンとアルフィースだ。知っているのだろう……?」


「・・・・・え? あっ……なるほど?? 彼らの……そうか、なぁんだ。ああ、知っているとも!」


 パウロとアルフィース……その名を聞いて一気にゆるんだ。ルイドは大きくうなずいて「やれやれ」と、力を抜いて首を傾げる。


 そのとなりではもう、突発的に興奮こうふんして跳ねている少女の姿がある。


「わぁおっ!!! アルちゃんがどうしたって!? パウロくんがなんだって!?!? ねね、教えてよ、彼らの事!! あなた達、彼らとどうした関係なの?? ちなみに私はアルちゃんのお友達だからッ……大ッ・親ッ・友ッ――――んんんなのだぁぁぁぁ!!!!! うぉぉぉぉお、ちっくしょぉぉおおおお!!!!!」


 また突進しようとする。今度は黒の外套を纏った青年に体当たりしようと、大興奮のフィナンシアは駆けようとした。


 その身体をヒョイと小脇に抱え、尚も空中を走ろうとしている彼女をさておき…………ルイド・カチ―スキーが穏やかにまゆを下げて見せる。


「……聞こう、まずは君達の事情からだ。フェイ君、彼らのことはその後だからね? だから少し落ち着いて…………いや、まりたまえよ!? めなさい、空中でいくら走っても前には進まないのだからね!?」


「・・・・・な、なんだ?? キサマら……そうか。アルフィースの親友……か。そうだな、後でアイツらとのことも話してやるから、まずは――」


「う、うむ……ワタシ達には構わず、話してくれたまえ。彼女はじきに落ち着くだろうから……」


「そうだな……ええと。彼女の……ああ、このオレサマの横にいる…………リアンジェンだ。彼女のやまいについて、こちらも話を聞きたいのだ」


「病……ふむ、そのマスク……呼吸器系か?」


「そうかもな。その…………ソローミン型、なんだよ」


「――――――ほぅ」


「聞いたんだ、アルフィースから……キサマが、知り合いの女を……治したって。だからここに……」


「さて……そこまで語ったかな、彼女らに? ……まぁ、そうだ。ソローミン型肺気障害の女性をワタシは診断ことがある。数少ない友人の連れ合いでね……それが切っ掛けで友にもなったのだが……」


「!! な、治ったのだろう!? その人は今、元気にしているのであろう!!?」


「治った……というのは、残念ながら正確ではない。ソローミン型がいまだに不治ふじの病であることは事実だ。彼女の場合は病の発作ほっさ……これをほぼしょうじない程度におさえ、登山や水泳くらいなら問題なく行えるように体質を改善…………要は日常を問題なく過ごせる程度に、症状を封じたに過ぎない。完治したと聞いてきたのなら、それは異なる。あくまで病の影響をほぼ完全におさえ込んだ……それだけだ」


「治ってない? でも…………発作を、抑えた!?」


如何いかにも。それで…………今の話を聞いて。さぁ、ワタシにどうしてほしいのだ? ……言った通り、治せはしないからな」


「構わんっ、構わないッ――――元気であってくれるなら、それで構わない!! ……頼む!!! リーリアを、リアンジェンを…………てやってくれぇ!!!!!」


 険相など、ない。青年は泣きそうな感情をどうにか抑えて白衣の男へと駆け寄った。


 少し後ろに残された希薄な女性は医者らしき男の話に――――涙が、止まらない。


「――――センセイッ!?」


「……ああ、フェイ君。さっそく診ようではないか…………君たち、“ついて来なさい”」


 末尾まつびの言葉、「ついて来なさい」と同時。そっと小脇に抱えていた少女を地に降ろし、背を向ける。燕尾の白衣をゆるがせ、ドクター・ルイドは古い家屋をしめした。


「治療はするが……個人差があることも念頭に置いてほしい。それに、ワタシの医療は通常の医学とやや乖離かいりしたものである……構わないか?」


「構わないって……ああ、頼む!! リーリア、来るんだ。診てもらおう――――さぁッ!!!」


 青年は明るく、しかし2日も続けて泣くものかよ、と。こらえながら彼女の手を引く。


 希薄な女性もまた、マスクで隠された表情を……目元をうるませ、微笑ほほえんでいる。



 そうして、彼ら4人は古い木造家屋へと入っていった。


 白衣の男に活発な看護師(?)。そして、熟練じゅくれんした技術をもつ老人と――彼すらまだまだあどけなく感じる、妖艶ようえんなる存在が待つ家屋へと……。




 マバラードの空は晴れ渡っている。



 とどまることを止めて歩み始めた2人の旅路たびじ



 それを照らし出すかのように。



 差し込む日差しが、家屋の窓から室内へと。




 光の道を、えがいている――――――







~次回予告~


 カイルとリアンジェンを見送り、再び旅路を進みはじめたパウロとアルフィース。


「はぇぇ~~~……。これじぇぇぇんぶ、集落の一部なんけ??」


 ひらけた視界に広がる景観けいかん。ただただ、圧倒される少年と少女。


「……どうしてこれをその少年が? 彼に何か……?」

「いいこと、お嬢ちゃん? 装怪者と怪物の関係って……存外、怖いものかもしれんのさ」

「もしだったら案内しましょうか!? ここはよぉく、見知ってますから!」

「……知らん名だな。そんな田舎くさい名前、俺は知らねぇ!」

「許さない……許さない――――許さないッッッ!!!!!」

「失格でござる。想い人としてセッシャは……我々はどこで、道を間違えたのであろう?」


 ……そして出会う|2人|と|2人|、あとその他多数。


 彼らの正体とは一体―――っ!?!?



次回、「オレらはモンスター!!」


 『 帝都の前にちょっと寄り道します 』



 すたれた名家めいか名残なごり

 傾城けいじょうの衝撃に乙女おとめは何を思う……?


 胡散うさんくさい占い師。

 水晶に映される少年と少女の未来とは……?


 護る人と護られる人、それは果たして運命さだめであろうか。

 天秤てんびんを持つものは、一体何モノか……?




 旅路の至る地にて。少女と少年は何を知るのだろう――――――?




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