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「オレサマはモンスターなんだよ(18―2/5)」

 ――宮殿の大広間に「パン、パン」と青い光が再び散り始めた。そこには咆哮ほうこうを上げ、竜の霞がかった身体をえぐりながら、魔導士の幻影をつぶして回る怪物的な青年の姿がある。


 より一層人間味が薄れたかのようなあばれっぷりだ。黒の外套マントひるがえして飛び回る彼の軌跡きせき。そこにはキラキラと、黄金の光がなびいては消えていく――。



 次第に霧が薄まる大広間。はかない火花の如く、青い光が咲く大広間。そこに「ガラガラ」と音を鳴らして駆け込む小柄な姿がある。


「ぜぇ、ぜぇ……持ってきたわ……持ってきたわよ! パウロ……ほら、コレ!! この前もらったやつ!!」


 それは少女アルフィースだ。彼女は息を切らしつつ、キャスター付きのカバンを引きずるようにしてこの大広間へと舞い戻ってきた。


 いや、舞い戻るなんて華麗かれいなものではない。岩の床はデコボコとしているので進むのも一苦労らしい。幼気おさなげが残る淑女がけわしい表情でヨタヨタと、いかにも危ない様子で向かってくる。


「んおっ、アルフィースつぁん!? なにさ、そんなん引きずってからに……ほりぇ、オラが持つっぺよ、貸してみぃ??」


 少年は少女の姿を見て即座に反応。ヨロヨロと危なげな彼女へと真っ先に駆け寄っていく。そして彼女が引きずる大きなカバンを軽々と、片手で持ち上げてみせた。


「あっ!? だ、ダメだってば! こんな重いもの……無理するなとめいじたでしょう!?」


「いぁ~、別に重くねぇっぺよ? ほりぇ、このと~~り。ポンポンっとね!」


「わぁ、すごいのね♪ パウロったらやっぱり力持ち――って、コラぁ!! カバンをクルクルほうらないで頂戴ちょうだいな!? どうしたってあなたはやっぱり、何かと乱暴なのだから!!」


「あちち。す、すまんす、すまんすぅ……そげな、腹さペシペシすっとまぁた君の手が……」


「痛ぁい!!! あなたのお腹って硬い、硬すぎるわ!!! “やわらかくなれ”!!!!」


「え、えぇ……それはさすがに無理だっぺよ……」


 ボディに数発のパンチを受けたものの、少年はまるでダメージを受けていない。むしろ少女はヒリヒリとする手を押さえて無茶なことを命じている。それに効果はない。


 ところで……少女アルフィースは何故なぜにその白いカバンを持ってきたのであろう? 彼女は負傷を気にするパウロを見て何かを思いついたようなふしをみせてはいたが……。


「わ、割れていないわよね……よかった、大丈夫! まったく……“このガラスびん”みたいに壊れやすい物が入っているのだから、丁重ていちょうあつかってくださいな、丁重に!!!」


「あい、ほんにすまんす……ん?? そんなんあったっけか??」


 ちゅうをポンポンと浮かされていたカバンをうばい取ると、アルフィースはその中から『水が入ったガラス瓶』を取り出した。それは2本あり、少女はその内の1本を掴んでかかげている。


 ――これは先日、“ある医者のような男”からさずかったものだ。中身は水ではあるのだろうが……どうにも普通のものではないらしい。


「フフン、よっくお聞きなさい? これってね、フェイちゃんいわく“身体を治すお薬”なのでしてよ? こんな、見たところ何の変哲へんてつもない水だけど……私は見たの。ほら、あなたがあの例の不気味で怖い人をやっつけたでしょう? 思いっきり飛ばして!」


「先日に、ぶきみでこわい?? ・・・あ~、アイツか。ブルンゲルらろ? あん時はほんにやり過ぎるとこだったっけね。ルイドさ、あんだけ注意してくれたんにね……オラってやつはほんに、昨日も――」


「・・・何を勝手にむなしい顔をしているのよ、やめてくださいな? ――でね、この水ったら、あれだけ弱っていた人を……正直、死んでしまうのではないか、という具合のあの人をね……どうやら治したらしいのよ」


「ほぅぅ?? それはあんがたいねぇ! 感謝、感謝だっぺよ。この水さすんげぇなぁ!」


「ま、フェイが手際よくしていたからってのも大きいでしょうけど? それにしたって、この水が身体に良くくことは間違いなさそうなの。だからね、きっと……あなたのその胸だって、これで治るのではないかしら? ルイドが作ったものだしね!」


「ぬぉっ、ルイドがか!? んならきっと良いもんだっけね。んだんだ、使ってみっぺよぉ~・・・・・で、どうやって??」


「どうって、それは・・・・・たぶん、“飲む”のよ」


「のむ?? 口から??」


「そうれはそうでしょう、だって水だし……。遠目で何をしてたかよく見えなかったけど、確か飲ませていたわ……おそらく、きっとね!」


 ここで言うアルフィースの根拠こんきょは先日に見た光景である。しかし彼女は少年の恐ろしい迫力はくりょくに注意を奪われていたので、あんまりハッキリとした記憶がない。ぼやっとしたおぼろな感じで「飲むのだ」と言っている。はたして、本当にそうであろうか……?


「んでもそうだわな、ルイドの作った水らっけね~。んじゃぁ、飲んでみっぺよ!」


「う、うん…………あっ、いいこと? 飲むのはいいけど、少しず――」


「んぐっ、んぐっ、んごごごごップハァ!!! ・・・・・な、なんこれ??」


「少しずつね……飲めって……って。どぉぉぉしてあなたはいつもそうなのかしら!? なんんんで話の途中でもうっ、行動しちゃっているのよぉぉぉ!!!」


 一応、若干じゃっかんは自分の記憶に自信がないらしい。アルフィースは慎重にしろと忠告したかったのだが……手遅れだった。


 水(?)を飲み干したパウロはき込んだり嗚咽おえつしたりしている。どうやらとても不味まずかったようだ。


「なんかすっげく、ものすっげく……っげぇぇぇぇ!?!?!?!!? うぇっ、ぺっぺっ!! これほんに飲むもんだか!? 毒みてぇだわ、まっずぅ!!!」


「だぁ・かぁ・らぁ!! 少しずつよ、少しずつ!! 様子を見て、本当に飲めるのかを確かめてから――」


「え?? 本当に飲めるって……らって飲むもんらってさっき…………んおっ!?」


「それはあなたが悪いんじゃない!? いいこと、私に相応ふさわしい紳士たらればね。まずは人の話をきちんとお聞きになって、落ち着いた行動を心掛けて…………って。パウロ??」


「な、なんかオラ、オラの身体―――――――なんかっちぃぃぃ!?!?! あつつつつ、アッッッつい!?!?!?!」


「ぱ、パウロ!? パウロしっかり……っちち、アッッッつい!?!? ち、近づくだけで熱が……!!!」


 異変が起きている。謎の水を一気飲みしたパウロは目を見開き、身体を抱えるようにしてうずくまった。そしてゴロゴロと転がって“えている”。


 何に耐えているかといえば“異常な熱”である。体内から湧き上がる熱気に苦しみ、彼はもだえているのだ。蒸気のようなものも湧き上がっており、見るだけでもハッキリ苦しそうな有様だと解る。


「う、うがぁあぁぁあ……ッ、ぐっあ……あ、アルフィース……つぁ…………ああああああ!!!!!」


「う、うわぁぁッ、そんな!! パウロ、パウロぉぉぉ!?!? いやよ、しっかりして!! ――わぁぁぁん、どうして、どうして?? 治すつもりだったのに、うぇぇぇぇん!!!!」


 えらい騒ぎだ。蒸気をまき散らしながら苦しみもだえる少年に、それを介抱かいほうしようにもあまりの熱気に近づくことすらままならない少女。


 少年は次第に声すら失い、シィン……として動かなくなった。少女はボロボロに涙を流し、なおも残る熱気を前に右往うおう左往さおうしている。


「…………あれ、パウロさん? どうしたのかしら……なんでか湧き立っているし、アルちゃんも困っている…………ハッ!? これはきっと大変ですね!?」


 少し離れた格子こうし窓の近く。怒り狂う皇子を心配そうに眺めていた女性が異変に気が付いた。


 存在希薄な様子の彼女は「大変だ」と思って、カイルを呼ぼうとする。しかし、現在彼は魔導士達と交戦の最中さなかだ。それでも大切な友達の大切な人が苦しんでいるのだから……と。


 されど迷い、薄いくちびるを閉じてキョロキョロとし、思考の終着点を見失って床を見る。どうしようどうしようと、考えてばかりで行動ができない。


 いつもカイルが助けてくれるから……いつもカイルが先導してくれるから……自分が考えて動いてしまうといつも誰かに迷惑がかかっている……そんな気がして……。


 迷う女。おずおずと落ち着かない視線。そのかたわらにはいつの間にか“人が立っている”。


 それはパウロでもアルフィースでも掴み難い魔導士でも……カイルでも、ない。


「こんにちは――――そして、ごめんなさい。あなたに個人的なうらみはないのよ? でも私は彼の鋭利えいりな道具だから……何よりも優れた、彼の一番でありたいから……ね??」


 フードの下にある表情は硬く、無表情に近い。そこに見える瞳は冷たい印象をあたえ、薄く赤い唇が言葉をたん々とこぼしている。


「あっ…………ああの、ええと……あのあの…………あなたは??」


「私? 私は――そうね、名乗っておくわ。私は【シャラザール】……あなたの最期さいごつくる者よ」


「あ、はい。シャラザールさん……ですか? あの、えと、わた、私は…………【リアンジェン】です、はい……」


「そう、リアンジェンね。覚えておくから、どうか私の名も覚えて持ってって? 恨んでくれても構わないから――」


 見知らぬ女性に声を掛けられた……知らない人間との会話に恐怖が生じる。嫌われたり困らせたりしないようにと、そうしていないかと……“希薄なリアンジェン”は自分の振る舞いを必死に考えている。


 対して目の前にある“シャラザール”は淡々としたもので……。“恨まれても構わない”とまで言い切った。彼女に有象うぞう無象むぞうなる他者への恐れなどない。あるのはただ、“大事な1人”の信頼を深めたい欲求である。


 その想いを象徴しょうちょうする刃が――彼女のまとう下衣の深いスリットから取り出された。


「すべてはあるじ様のため。彼の名誉めいよの為に、その希薄なる命――この手でもらい受けるわ。どうか、せめて悪く思って頂戴ちょうだいね?」


 格子窓から差し込む日差しが、銀の輝きを“短刀ナイフの刃”に与えた。


 気配を意図して薄める女は大広間の端にて、しゅく々とした“任務遂行”を成そうとしている。それはただし、任務とは言っても独断によるもので……誰の指令というわけでもない。


「私の、命……それって、どういう…………あっ!? あの……ちゃんと聞いていたんですけど、その、解らなくって……ごめんなさい……」


 リアンジェンはここにきて謝っている。刃を構えた人を前にして言葉の選択に必死な様子。相手の言い分が理解できないことで嫌な思いをさせまいと、せめて謝っておこうとしているらしい。


 向かい合っているのに、会話をしているのに……まるで互いの意図が通じていない。


 何も伝わらないまま、ただ名乗り合っただけ。見知らぬ人とのそんな会話を最後に、希薄な命は無防備にもここでろうとしている。


「さようなら、過酷なる運命の人よ。せめて刹那せつなに――苦も無く、ほうむり去って差し上げましょう」


 守護者は気が付かない。怒りに狂い、本能に使命をかすまされている。それを制する者は力を行使しようともしない――するつもりもない。



 一条いちじょうに射したような銀の軌跡。それはきそうなほど白く、けがれ無き清浄なくびへと向かう。



 よどみなく、真っ直ぐに突き出された刃は希薄なる彼女の首筋を刺し貫――


「なんね、あんた!? そんなもん振り回してからに……ほりぇ、危ねっから仕舞いなっせ??」


 ――真っ直ぐだった刃の軌道きどう。それは斜め上方に“らされた”。


「おっ!? ・・・・・なんだ、キサマ?」


「そらオラが聞きてぇっぺよ。おめさ、何者なんね?」


 シャラザールの刃は素早く――気配を薄めた自然な感情のまま――微塵みじんの狂気無く対象の首をねらった。その狙いに間違いはなく、本来なら外れる道理はない。


 まぁ、道理はなくとも“想定外イレギュラー”がそこに介在かいざいすれば話は別である。ここではそう……その素早くすきの無い、手慣てなれた一撃を容易たやすく払いのける“少年”の存在が想定外となった。


 つい先ほどまで熱にやられて床を転がりまわっていたパウロ。それが今はケロっとした異変の無い表情でここに立つ。


 熱さに悶え、苦しむうちに取り払った包帯。それは先ほどまで居た場所に置き去られていて、傍らには座り込んで涙をぬぐう少女の姿がある。


 冷酷れいこくな暗殺者が問う。


「キサマ……なんか居るなぁとは思っていたけど……一体、何者だ? 私の刃を払いのけるとは……只者ただものではないな?」


 呑気のんきな守護者が返す。


「んぉ、オラか? オラはパウロ=スローデンっちゅうもんだず! ヤットコ村でまきを・・・・・いぁ、それはそうとしてな? おめさそれ、そんなんもし当たったら血が出るわさ。仕舞いなっせ、大事さなる前によ~」


 パウロ少年は自己紹介も途中にして、そんなことより危険な刃をどうにかしなさいと注意する。


 どうにも緊張感がない大柄な男を前にして、暗殺者の女は首をかしげた。


「パウロ、スローデン?? 聞かないが……どうやら只者ただものではないらしい。無邪気むじゃきに床を転がっていたのでただの変な小僧かと思いきや……」


「無邪気って……いぁいぁ、すっげ苦しかったんだわ!? ほんに、オラこれもうダメだわってよ? もう熱くって熱くって……らっけ、せめてアルフィースつぁんから離れようとしてんのに、あん子近づこうとすっし……いぁあ、ほんにまいったっぺよぉ~。

 んでもね……ほりぇ、こんなん! こうして、こうやっても…………痛くねぇんだっぺ! 胸さね、治ったみてーなんよ! さっすがルイドの水だっぺね~~。だけんども、やっぱすオラ、これ使い方間違ってんじゃにぃのって、それはやっぱすだな――」


 とても元気だ。パウロ少年はすっかり胸の怪我も治ったようで、グイングインと上半身のバネを活かした運動を行いつつ、やはり気になる例の水の使い方について疑問をていしている。


 そんなことを言われても何のことだか……まるで対面の女性は知れない。“暗殺者シャラザール”は初めこそ相手の言葉を理解しようとしていたが……ものの5秒ほどで面倒になって聞くのをやめた。


 彼女にとっては少年の健康問題などどうでもよい話。それより注意すべきことはこの少年に使命を邪魔されたことである。


「なんだっていいけどね……邪魔をしたな、キサマ? 私がだんじようとしたのに、キサマはそれを妨害したな?」


「じゃまって……そら、すっぺょぉ! らって、そうしねぇとリーリアすぁんさ、怪我すっとこだったろが!?」


「怪我だと……なめるなよ? 私は彼女の命をとうとしたのである。怪我など、半端になどするものか」


「あ、そっかにぃ? そらすまんこと・・・・・って、ハァっ!? なに言ってんの、おめさ!? た、絶つってそれ……リーリアすぁんをどうするってよ!?」


「どうするもこうするも、“あやめる”ということだ。彼女の命を断じ、我があるじに責をくす――それが心より仕える者の務めというものだ」


「だ……ダメダメ、ダメだわ、それ!! なんか知らんけどね、やらせねぇっぺよ!? おめさあっち行け!! 危ねぇのはおめさだったんか……なんなんよ、なしてよ!?!?」


 逐一ちくいち危険極まりない言動。これを受けてパウロ少年は咄嗟とっさに身構えた。対面からはすに身体を向けて両腕を曲げ、顔の近くに置く。


 「戦闘態勢」である。これを見て相対するシャラザールも身構える。左の肩を大きく下げ、“かがむ”と表するには少々異様な姿勢。左手に刃、右手は背中に置いて……虚空に何かを掴む素振そぶりを見せている。


 深く呼吸をきざむ少年。ゆっくりと肩をゆする大柄な男を前にして、細身の女はほとんど呼吸をひそめて静かに障害物を見定めた。


「――――頑丈がんじょうそうだな、キサマ。それが取りか? 手は早いようだが、その図体だからな……」


「な、なんねそんな……じろっと見んなや。お、おめさ……お、女ん人、らろ?? なぁ、やめようや……なんたって、こんなん……オラ、オラは君さ殴りたくねぇもの!!」


「へぇ?? ・・・・・ははぁ〜ん、なるほどさては純真ピュアだなぁ? 悪いケド、私はそういうところ容赦なく付け込むわよ。だって、あなたは私にとって何も特別ではないのだからね……♪」


 構えたものの、明らかに躊躇ちゅうちょしている少年。純真じゅんしんさまを見て女が笑った。


 ぐらり。細身の体が傾くと、それが――――


「――――ッぶなぁい!? おめさ、オラを無視すんなや!!」


「……っとと、存外ぞんがいに素早いものだ。それに私の動きが…………見えている、のか?」


 緩急かんきゅうがある。おだやかなくらいにふわり、刃を少年へと向けた暗殺者の女。それは次の瞬間にんだらしく、あやうく見失いそうな速度に慌てながら、パウロは身体ごと踏み込んで割り入った。


 危険な女の刃は緩急のある動きの最中さなかねらいを巨漢の背後にある希薄な女性へと変更したのである。というより、常に狙いはそれだ。


「やめーって! おめさ、仕方ねぇ……オラが相手になっからよ? んでもやっぱす、殴るのはちょっと……んでもよぉ、どうしてもってなら……」


「ハハハ!! いやいや、遠慮えんりょするよ? 私はキサマなど“どうでもいい”の。後ろの彼女を消せれば、それでいいのだからね?」


「いぁ、らっけその前にオラが戦ってやるっけよ! まずはこっちさそれ向けろや!」


「あら、なぐれもしないのに? いずれにしても……単に邪魔なだけだよ、お前は。我が使命の障害物でしかないね。戦いたいなら、どうぞご勝手に……私の残像とでもたわむれていなさい」


「?? な、なして?? オラはこうして身構えてんのに……やっぱす、殴れねぇとか、そんなん言ってっから相手されねぇんだか??」


 シャラザールは少年ではなく、その背後にある女性――リアンジェンを狙っている。


 立ちふさがったのに無視されて……少年は「戦わねぇのか!?」と困惑した。戦いと決着にまるで意味を見ていない様子に対して、それが理解できないのである。


 “戦い”というものへの認識がまるで異なる。闘いを目的としているか、手段としているか……とらえ方が異なる彼らは理解し合えないであろう。


「いつまでも、その大人おとなしい人を守れると思うなよ……?/


/やるしかねぇんか!? んでもオラ、おっとぅ(父)に……!」


 少年を翻弄ほんろうし、すきうかがうシャラザール。


 自分ではない者を狙われて、どうにか退しりぞけるだけで精一杯なパウロはそれも次第に追いつかなくなってきた。


「――――ってぇ!?」


「おやおや、当たってしまったな。しかし良いではないか、後ろの人に当たらなくって……」


 赤くき出る。かすめた刃が少年の二の腕から鮮血せんけつを散らした。それも少年が無理にらさなければ、このおよんで呆然と立ち尽くしている女性の首をつらぬいていたことであろう。


「……あ、あの……えと……ど、どうすれば? ……あの……や、やめて…………?」


 消え去りそうな声で途切れ途切れにうったえる。しかし、そんなものでは何も止まらない、変わらない。


 離れた位置から――鮮血に驚き、彼の名を呼ぶ少女アルフィースとは音量から異なっている。リアンジェンがしんに希薄なのはすなわち、“覚悟”なのであろう。


「お願い、やめて…………やめて? どうして傷つけて…………助けて。たす、けて……カイル…………うぅぅ」


 ……悲惨ひさんな幼少期をて、さげずまれて育ち、やまいおかされた身体と心……。弱さをじて強さにかれる……護られてばかりがつらいと、守れない自分がくやしいと……日々に涙を流す。過酷な運命に直面して、いっそ消えてしまえばよいのにとおのが命を軽んじる……。


 そんな全てから――彼女自身からも“護りたい”と。


 きっと身体を治して“2人”で強く生きていこうと……“最強たる自分“が、その未来をきっとかなえてみせるのだ、と。


「うぬぉっ!? いってて……んでも退けねぇ! ちぃっとずつ“解ってきた”し、なぐれなくっても、掴んで止めるくらいなら……!」


「ウフフッ、また傷が増えたな? それにしても……何だかキサマ、少しずつ私の行動を……いや、まさかとは思うが……読み取れるはずはないよな? 遊んでいる場合ではない……か?」


 鮮血がしたたっている。パウロの身体にはいくつか切り傷ができており、中には深い傷もあるようだ……が。それらは古いものから数秒で止血されているらしい。パウロがりきむとそこが短時間で凝固ぎょうこし、かさぶたとなってふさがっているようだ。


 その様子も異様で不気味である。しかし、シャラザールとしては自分の動きが次第に把握はあくされつつあることの方が気になっている。攻撃を受けながらもよく見られていることが……落ち着いた少年の視線が、気にさわる。


 時間をかけてはマズイと感じ、虚空で遊ばせている右手に「バチバチ」と青白い閃光せんこうむ無く生じさせた。


 その時、シャラザールは戦慄せんりつする。


「――ッ!? きゃぁぁっ!!?」


 転がるように飛び退いた。姿勢を大袈裟おおげさに崩すことを嫌う彼女だが、こればかりはたまらずすべり込むように床へと倒れる。


 暗殺者が先ほどまでた場所。その石床には拳がめり込んでいる。


 拳が引き上げられるとパラパラ……岩の破片が黒の手袋から落下した。


 間一髪のことである。0.5秒でも遅ければ今頃いまごろ容赦ようしゃなく、シャラザールの背骨はへし折られていたことであろう。最悪、背中から腹部に拳が貫通していたかもしれない。


 凄惨せいさんな光景を見せずにすんだ……もっとも、今の彼にそこまで配慮はいりょする余裕はない。


「おい、女……キサマは何をしている? なぁ、何をしているのだ? 答えろ…………答えろよ!! このッれ者めがッッッ!!!」


 人間らしからぬ怒声と共に眼光が突き刺される。床に倒れ込んでいる暗殺者の女は恐怖で身震いした。


 カイル=ブローデンは激怒している。魔導士に続いてコイツもか……と。許しがたい狼藉ろうぜきの連続ですっかり感情が狂っているらしい。まるで身体的疲労を感じさせない様子だが、感情の激動が続いたことで呼吸は荒々しくなっている。


 大広間では片腕を失い、腹部に大穴を空けられ、顔が半分砕けて……見るも無残なまでにボロボロとなった“霞の巨竜[ミスティック・ドラゴン]”がある。あれほどれていた半透明の戦士は残り数体しかおらず、広間に満ちていた霧はほとんど無い。これはつまり……魔導士ミスティックの“力”が消耗しょうもうしている証なのであろう。


 確かに派手な魔導士には明確な体力的限界が見えていた。派手なよそおいに身を包んだミスティックは片膝を絨毯じゅうたんに着いて息も絶え絶えに「ゼェゼェ」としている。ただし、揺らぐ視界の中でも床に飛び退いた彼女の姿だけは鮮明に見えている。


「しゃ……シャル君?? また、いつの間にそんな…………んもうっ!!」


 力を振りしぼるように霞のミスティックが指揮棒を振り下ろした。床に倒れ、うように後ずさる彼女を護る為に、霞の竜が巨大な尻尾をぎ払う。


 対して一瞥いちべつもせず。カイルはその場でくるりと、軸足を中心として1回転。雑な様子で蹴りを放った。


 黄金の輝きをまとった蹴りから衝撃波が放たれる。これに直撃した巨竜の尾には亀裂きれつが入り、青白く発光。そののちに爆発して霧散むさんしてゆく。


「いい加減にな……わずらわしいんだよ!!!」


 カイルは咆哮し、霞の巨竜へと駆ける。駆ける足元は黄金に輝き、軌跡を残す。


 黒衣の皇子は飛び上がって竜の膝に足をめり込ませ、更に飛び上がった。続けて竜の肩も踏み砕き、青い光と破裂音を残して――――更に更に跳ぶ。


 高々と跳んだカイルは空中で反転。半壊した天井てんじょうに張り付き、それを足場として脚部に力をめた。


「消え失せろ、虚像きょぞうごときが!!!」


 天井を蹴り、床に向けて高速落下を行うカイル=ブローデン。開かれた彼の右手は黄金の炎かのように蒸気を放ち、腕全体ごと光り輝いている。


 野蛮やばんな皇子は墜落ついらくするように着地した。四肢ししもちいた盛大な着地の衝撃によって、黒練岩こくれんがんの床は破裂して破片が飛び散る。それと同時に巨竜の身体は強い光を放ち、たて一文字いちもんじに裂けながら弾けて消滅した。


 霧散した竜の身体は跡形あとかたもなく……かすかに残った霧の中で、ゆっくりと身体を起こす黒衣の姿だけがある。


「フゥゥ。さぁ……終いだ、脆弱な魔導士よ!! そして観念せよ……そこの女もだ!! 我が人への凶行をあの世でいるがよい!!!」


 眼球が血走り、息は荒い。まるで人間の本能――それがさらけ出されたかのようにえ、たける。いくらか疲労の様子もあるようだが、それは身体的なものではないだろう。彼の身体的制御装置に問題はなくとも、心理的制御装置には重大な延焼えんしょうが発生しているらしい。


 立ち上がるカイルはぐらりと、って危うく倒れそうになった。片足を引いて踏みとどまったが……本人はそのことに自覚がない。あるのはただ、“護らねば”という想いのみ……。


「…………カイ、ル……?」


 “彼が仰け反って倒れそうになる“……その光景に対して最も違和感を覚えたのは本人ではない。希薄なリアンジェンはフラフラと、初めて見る“疲労した彼”のもとへと近寄った。


 歩行までもおぼろげだ。フラフラとした歩みを、視界に映らなくとも守護者は知覚してそしてその身を案ずる。


「リーリア、来るな!! オレサマは平気だから心配など・・・というかだな?? お前はどうしてここに……いや、ともかく部屋に戻れ!! 無茶をするなよ、まったく――――てウェっ!?」


 化け物のような表情。恐ろしい険相だったカイルだが……その表情は呆然となり、何も言えなくなった。


 そっと頬に触れた手が――涙を流す女を前にして――偽りの盗賊は苦言くげんの1つも言えない。


「…………私の為、ですか?」


「・・・・・ふ、フンっ! ただの気まぐれだ。やつらがあまりに気に食わない態度をとるからな……ちょっと仕置きをしてやろうと、そう思っただけだ。お前は何も案ずることはない」


「……疲れているのですか?」


「いや、別に? フンッ、オレサマの力は無尽蔵むじんぞうだ。疲労などまるでない。だから、心配しないでよい」


「……いつもそうですね。私に心配させまいと……うそくんだから」


「う、嘘など……オレサマは正直が好きだ。誤魔化す必要などありはしないし、そういったやからこのまん。それはお前が一番解っているだろう?」


「はい。私がカイルのことを……一番に想っておりますから」


「!! ――そ、それは結構。うむ、そ、そうだな。お、オレサマもな、そのな……解るな?」


「ええ、わかります。あなたの想い、ずっと感じていますから……」


「・・・・・うん。なら、良い……」


 大広間の中心にて立つ2人。女は上目うわめ使いに男の頬をで、男は頬を赤らめた。


 腕を組んで平静を装う男とまゆを下げて不安を隠せない女。そうして向き合う2人を遠目に眺めて……疲労ひろう困憊こんぱいな魔導士は苦笑う。


「あぁ、美しい……いや、しかし。一度受けた責務ですから……必要なことは大局的な美の観点です。そのためならば、私はたとえこの身がくだけようとも――――あっ。」


 片膝を着いた魔導士。彼の場合は皇子に比べて消耗しょうもう露骨ろこつであり、や汗が止まらなくなっている。手先も震えてしまっており、満足に握力を出せず……指揮棒がその手から零れ落ちた。


 竜は失われ、同調するように戦士達もぽつぽつと消滅していく。霞のミスティックはそれでもあきらめ悪く、震える指先で指揮棒を拾い上げようとする。


 その指揮棒が「ヒョイ」と。まみ上げられた。


「――あるじ様、ここまででしょう。それ以上はあなた様がもちません」


「……お貸しなさい、シャル君。私の限界を決めるのは君ではない」


 女が拾い上げたガラスの指揮棒を掴み、奪い取るミスティック。珍しく少し乱暴な振る舞い。


 そんな男の言動に対して……シャラザールは「ムッ」として表情を変え、背を向けた。


「だってあるじ様、おし物まで汗だくではありませんか。また体調を崩しますよ?」


「もう、心配性なんだから君って人は……私を誰だと思っている? いや、その前に……まず君は勝手が過ぎるのだよ。言ったよね? 指示があるまでひかえていなさいと……」


おっしゃられましたね。だけど、主様が危ないなと感じたので……自己判断で行動いたしました」


「ほらぁ! 自分でも解っているじゃないか。勝手な行動をして……どういうつもりだね。どうせあのを殺害しようとしていたのでしょう? 見ていたよ??」


「それは……ごめんなさい。だって、主様が危険だったから……あの子さえいなくなれば解決することだし……」


「いやいや、だからさ。それはけたいと道中で話したよね? そして君は言ったよ、“なるほど解りました”って・・・・・いや、全然解っていないじゃないか!?」


「ううん、解っていますもの。だけど、あなた様が苦労なさっているからですね。だから私は――」


「それが解っていないというのだよ!! ……あのね、君はね、いつもそうだけどね? こう……思い込んだらそればっかりになるの、やめてほしいのだよ。しかもたちが悪いことに多少の前提条件は無視してしまおうという……なんか、結果が良ければ全てよし、というか…………そう、“美意識”! 美意識に欠けているのだよ、君は!」


「・・・・・ふぅん?」


「知っているよね?? 私が……それこそ人間の人間たる所以ゆえんだと考え、だからこそ重んじて何事にも過程の美を追求したいと……。つまり、1つの舞台に結末があるとしてね? そこに至る行程がないがしろになっても良いわけではないでしょう? それが良しとなるならば、人の考えに余地などらず、思考・工夫くふうそのものが不要となるのだよ。ねぇ、違うかい!?」


「・・・・・・・・。」


「フゥ、やれやれです! ああ、んもぅ。どうしてこのような場でこのような……私の主義に反しますよ、まったく!!」


「・・・なるほど。では、嫌いになられましたか?」


「困ったものです。思えばあの日、出会った時からも――――――え???」


「主様は私のこと……嫌いになられましたね? 勝手をしたから、嫌いになったのでしょう?」


「?? 何故なぜです? いや、君を嫌いになんてなるわけないでしょう……この魔導士ミスティックが?」


「いいえ、きっとそうです。勝手をして私はあなた様に迷惑をかけたから……嫌われました。このシャラザール、あなたを失望させたからにはおそばにあるのは間違いです」


「??? イヤイヤイヤイヤ…………違う違う! 失望など……ただ、ちょっとね? 息を合わせてくれると助かるというか? 別に君の行いが悪かったと言いたいわけでは――」


「あなたに嫌われてしまったのなら……仕方がない。このシャラザール、ここまでです。長い間お世話になりました、主様。せめてこの命、みそぎとして散らしてあなたの失意にびようと――」


「おわぁっ!? だ、ダメダメダメぇ!? シャル君、何を言い出すの――――って、ああっ!? や、刃を仕舞いなさいよ、刃を!! 嫌いになんてなってないのだから、むしろ心から君のこと――」


「グスッ……主様ごめんなさい。私はダメな女です……どうかこれで許してください……さようなら……」


「許すも何もぉ!!?? 君は何一つ悪くない!! ――あぁ、むしろどうかどうか……おろかな私を許しておくれ、シャルル。責も無い君に対して、自分の無力をないがしろにして……追い詰めた私こそが身勝手だったのだ!! だからどうか、頼むから怖いことを言わないでおくれ……!!」


「・・・では、ゆるしてくださるのですか。シャルは悪くないのですか??」


「もちろんっ、悪くないさぁ~!! あぁ、あぁ、どうかこれからもそばにいてくれたまえ……君がいなければ“ボク”はおかしくなってしまう……!」


「じゃぁ好きですか私のこと――――シャルのこと、好きですか。主様?」


「もっちろん、大好きさぁ!! あぁ、愛しているとも!! ささ、近づいて……どうしてそっちを向いているのかね? 1mも離れてしまっているし……あぁ、シャルル! ボクのいとしい人よ!!!」


「うん、私も好きですよ……だから、シャルはあなたの責務を全うさせてあげたいと思うのです」


「おぉ、シャルルよ!! このフードを外してあげようね。そしてそのあいらしい眼差まなざしをどうかボクに――――えっ。」


「そうです、責務をまとうしましょう。“私達の力”を用いれば可能……容易たやすいです。あっして気絶でもさせて……あとはテキトウに霞の一撃を加えれば完了します」


「そ、それは……そうだけどさ? でも、そんな強引な手段は……だって、主義に反するよ。そんなの――」


「これまでだって十分に強引でしたよ。何が話し合いで解決ですって? 美意識も結構ですが、このまま手ぶらで帰るおつもりですか? 言い訳を考えるのも一苦労でしょう?」


「いやぁ~~~だってさぁ。そりゃぁ、勝つよ?? “圧倒する”さ、あの皇子と言えど……でもそうして引きずるようにして帰っても、それは美しい過程とは――」


「主様のこだわりはともかく、任務達成という目標は成せます。それが何より大事でしょう、あなたの評価として。それにいくらあなた様が感情的になられても、所詮しょせん彼らは我々にとって無関係な存在。悲劇的だろうがなんだろうが、ほぼ接点もない存在なのですから。そのためにあなた様が立場を失うのはいかがなものでしょう?」


「うぅ~~~ん。いや、でもなぁ……」


「――また、シャルは勝手を言ってしまいましたか? 迷惑していますか??」


「えっ!? いや、迷惑なんてないさ! シャルルったら、本当に聡明そうめいで素晴らしいなぁ! さすがはこのボクが愛する絶対にして唯一ゆいいつなる人! 賢明けんめいなるボクと感性がよく似ているなぁ!!」


「では、“しましょうよ”。賛同してくれるのでしょう? ほら、やっつけましょう……あの皇子。さっき私を殺そうとしましたよ?」


「え。う、うん…………ま、そうだね。君が言うように、現実的に考えてやるしかないよね? ボクとしてはなるべく穏便おんびんな事運びを心掛けたいところだったけど、こうなってしまってはね。でも、まぁ……ボクも他に打つ手なし、ということもなくって。やろうと思えばまだまだ――」


「いいから――ねぇ、“チャールズ”??」


「あっ、はい。うん、ええと……じゃ、このフードを外すよ。いいね??」


 霧幻むげんなるミスティックこと【チャールズ=オルドゼア】。彼は暗殺者シャラザールのフードを取り、その顔をあらわにしてあげた。


 青い頭髪はしとやかに、結べない程度の長さにまとまっている。


 顕わとなった少女の瞳は青く、フードの影がなければまだ残る無邪気さが垣間かいま見える。それでも無表情のようなものだが……影が取り払われた分だけ、わずかな表情変化が間近によく見て取れた。慣れている人なら尚更であろう。



 宮殿の大広間――半壊した天井のした、影の中。薄暗がりに身を寄せ合う派手な青年と危険な少女の姿がある。


 そして一方、広間の中央に立つ男女――希薄な彼女が不遜な彼の胸に、そっと細い身体をあずけている。


 あとはベッドのかたわら――傷だらけの少年に駆け寄って手当てを試みている少女。しかし、その傷はほとんどがもうふさがっているようだ。



 ふと、大柄な少年と可憐な少女は気が付いた。


 広間の影の中。向き合う男女が――魔導士と暗殺者が見つめ合い、語り合う光景。少年と少女は一度顔を合わせてから、その様子を呆然ぼうぜんと眺めている。


「……いつぶりでしょうか。結構間が空いたような気がしますね?」


「そうかな。昨日だってしたし、一昨日おとといだって……それこそ、毎日さ」


「ああ、普通のではなくって……これから行う方のことですよ」


「あぁ、う~~んとそれなら……一年くらいったかな? なにせ、こんな機会はそれほどないからねぇ……」


「それに越したことはありません。これこそが、本当の“切り札”……でしょ?」


「うぅ~~~~ん……あんまりそうして言いたくはないがね。だって、この力もいとしい君の一部でもあるのだから……道具のような扱いはしたくないのだよ」


「ハァ……あのね? だから、私はそれで構わないと……あなたの道具でありたいと何度も何度も――」


「あっ、その発言はさすがに許さないよ。君はボクの最愛なる人だ。過去や経緯など、まるでどうでもいい。今の君が全て……こうして傍にあるだけで、幸せなんだからさ」


「・・・・・先ほど過程が大事だなんだと仰られては??」


「それとは異なる。今、この瞬間こそが……“ボク達の過程”さ。だから、できる限り美しくありたい……それがボクの美学だ」


「フフゥン? なるほど、解りました。ならば…………美しくありましょう」


「もちろん。ただし、この瞬間はたとえ特別でなくとも、いつだってボクは――」


「チャールズ。さぁ、どうぞ?」


「――んっ? あ、うむ。コホンっ・・・・・しからば、ンンッ!!」


 1つ、咳払いを。緊張を払うようにのどを鳴らしつつ男は身だしなみを整える。

 呆れた表情で「そんなのいいです」とばかりに彼のお腹をつつく女。


 かされた魔導士は「うんうん」とうなずき、1つ息をいた。

 暗殺者は無表情を崩し、うつろな瞳で身体を彼に寄せる。


 気取った風に派手な青年は細身の彼女を優しく抱き寄せ……軽くこうべを垂れた。

 危険な少女はしがみつくようにしてかかとを上げ……背に回した手に力を込める。


 交わされる、くちびるとくちびる。

 互いの暖かさを感じて。その瞬間により一層、2人は強く抱き合う。


「…………もう少し、いいかな?」


「うん……でもそれは後で存分にね? だって、あと数秒でくちびるも無くなりますから」


「そうか。口惜くちしいですねぇ、まったく……では後程のちほど。それこそ丹念たんねんに……覚悟しておいてくださいね?」


 ふらりと、残された体力を振りしぼって|男|が後ずさる。


「いいですけど……だったら早いとこ館に帰りましょうね? 外ではもう、嫌ですから……」


 離れた途端にフードを被り、頭髪を隠す|女|。隠された表情の口元は微笑んでいる。




「 出先もいいけど……2人っきりが、本当は一番なんですよ?? 」



 ――重振じゅうしんの怪物―

  パルスヴェイド ―PULTHVEID――



『 あぁ、実に美しいパワーを感じます! やはり我らは運命のきずな――これがその証です!! 』






|オレらはモンスター!!|






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