|オレらはモンスター!! ~暗殺者の聖域と別れのメッセージ~|
|オレらはモンスター!!|
聖圏マグダリアのある場所。1人の青年が白銀の廊下を歩いていた。青い頭髪はやや銀の色合いを帯びており、ブレザーの装いには清潔感がある。
弧を描く廊下は長く、しばらく進んでから青年は立ち止まった。
青年が何の気もないような所作で壁に触れると、壁と思われていた部分に長方形の綺麗な切れ目が奔る。そしてそれそのものごと横にズレた。
それは“扉”であり、男が触れた部分は部屋の入口を開く“鍵”のようなもの……。
青年はブレザーの襟をなでるといつも通りという具合に部屋の中へと入っていく。この部屋というのもまた白銀であり、遠目に見れば若干の青みを帯びてもいる。
室内にはいくつもの隔てが存在し、上下階への階段や他の部屋への入口などは見当たらない。ともかくそこはだだっ広い部屋である。
見渡すと、壁面や半端な壁のような隔てに様々な武器が整然と展示されている。
ある程度の類似品毎にまとめられているらしく、それはナイフのような小さなものから大型の剣、弓に付属するかのように数百はあろうかという矢の数々。あるいは鉤爪であったり、はたまた電磁式の大砲なんかも……実に多様だ。
ここは武器の展示場かとも、あるいは武器庫のようにも思われる。
それら武器種は全て鈍い白銀であったり、中には黄金かのようなものもある。金属質なものばかりが並んでいるようだ。
そうした中で一際、明らかに別格の扱いを受けているものがある。
それは天井から吊るされている、青白銀の【大鎌】だ。
青髪の青年は大鎌に背を向けた。そして「バチバチ」と、両手に青白い電流のようなものを弾けさせる。
次の瞬間……吊るされていた大鎌が忽然とその場から消滅する。
瞬間的な出来事であった。多少バチバチしている数秒はあったものの、ほぼ「あっ」という間のこと。たったそれだけで、展示されていた大鎌の柄は現在、青年の手に握られている。
手にしたクリアブルーの大鎌を回し、空を薙ぐ。そして青年は深く息を吐き出した。
目を閉じ「ガンッ」と、強く大鎌の柄を白銀の床に着く。まるで“誰か”を威圧するかのように力強い所作である。
『 ――っとぉ、これは失礼。驚かせてしまいましたか……失敬、失敬 』
声が響いた。それは男性の声だが……青髪の青年から発せられたものではない。
この室内にもう1人、いつの間にか“男”が存在していたらしい。
青髪の青年がゆっくりと目を開く。すると、開けっ放しだった武器庫の入口にある不気味な立ち姿を確認できた。
そこに立つ男は装着している異形なゴーグルによって遠目からだと人ならざるほどに大きな赤眼かのように見えて、さらに全体の雰囲気はいかり肩ながら細身で姿勢が若干に傾いている不安定さがある。ボリュームのある白髪はゴワゴワとしていて、にやける口元には銀の歯が覗いて見える。故に、不気味な印象がある。
かなり異様な造形をしている赤眼の男。それが傾きを左に変えながらニヤリとわらう。
『ですが、あなたも不用心ですねぇ。我々にとって神聖たる場をこのように解放していては……教夫たる者として、教義蒐集の不足を感じませんか?』
『……”ネルガ―”。いくら知る者同士とは言え、人の創輝場に勝手と踏み入るなど……感心できませんよ』
青髪の青年はため息混じりにじっと不気味な男を睨みつけた。
赤眼の男――【ネルガー】はさらに口元をにやりと曲げて、今度は仰々しく賞賛の言葉を贈る。
『・・・おっとと、そうでした。おめでとうございます! 友人としてあなたが教夫の使命を授かったこと、心よりお祝い申し上げますよ? 実に実に、誇らしい気分です……ねぇ、”プライグ”?』
パス、パス……と、手袋越しに鳴る微かな拍手の音。
それを受けた青髪の青年――【プライグ】は大鎌の柄を肩に乗せ、気が抜けたように天井を仰ぎ見る。
『わざわざそんなこと言いに来ますか、あなたが? ……いえ、ここは素直に受けさせていただきますか。今後はあなたを含め、創輝の皆様方には是非ともご助力頂きたいところですからね』
『……気に食わないですねぇ。その不相応な自負が……気にくわねぇんですよ、まったくにね』
『――おや、何か?』
『…………フッ。いぃ〜〜えぇぇ~~~?? あぁ、プライグ教夫!! どうか水臭いことを仰らないでくださいな。このネルガー、敬虔たる信徒として、また旧知たる友人として……献身の思いでこの身を教義に捧げましょうぞ! おぉ、あなた様にどうか、女神の祝福が満ちますように……』
仰々(ぎょうぎょう)しく腕を広げながら、ネルガーは片膝を着いて顔を伏せた。両手を左右に広げつつ手の平を地に着けてその無機質な赤い眼は床を見ている。
プライグは『えぇ、頼りにしていますよ』とだけ言葉を放ち、赤眼の男に背を向ける。そうしてまるで暇そうに周囲の展示された武器を眺め始めた。
伏せたネルガーの表情は伏せられている上にゴーグルでわかり難い。ただ、その口元は笑顔とは逆の向きに歪み、銀の歯は強く擦り合わされているらしい。
しばらくその場に静寂があった。どちらも何も言わず、見ず……。
そうしたしばしの静寂を過ごした後。ネルガーは立ち上がった。
ネルガーがひょろりとした長身を伸ばすと、そこには未だ背を向けたままテキトウに武器類を眺めている青年の背中がある。
それを赤いレンズ越しに睨みつけてから、赤眼のネルガーはその場を去ろうと踵を返す……その瞬間、ふと。
ネルガーは思い出した。
『――あっ、と。そうでした、いけないいけない忘れるところだった……肝心な用事を成さずに帰るところでしたよ』
そう言うとネルガーは胸元に仕舞っていた一枚の長方形……銀のカードを取り出す。
『あなたへの物だそうです。届けてくれとミネルバに頼まれていたのです』
そのように発言しながら銀のカードを放る。空中で回転するカードは真っすぐにブレザーの背中へと飛んでいき、それは後ろ手に背を向けたまま掴まれた。
『そうですか。ご足労に感謝します……でも、だと思った。あなたがわざわざ貴重な時間を費やして賛辞など言いに来るわけないと……予想通りでしたね?』
背を向けたまま横顔だけみせるプライグ。それだけでも解る爽やかな微笑みを一瞬だけ見て、ネルガーは『失敬な!』と憤慨し、足早にその場から去っていった。
1人、白銀の聖域に残った青髪の青年。先日、若くして重責を得たこの青年は受け取った銀のカードに視線を移した。
表裏を確認するが……どうにもこれは真っ新なようで文字の1つも無い。つまり、誰が寄越したものか不明ということである。中身に書かれているのであろうか?
2つに折りたたまれているそれを開くと……そこにも差出人は表記されていない。だが、思ったより短い文面を見て、プライグはカードの差出人がだれなのか即座に察することができた。
そこに書かれていた文面は以下のようなものである。
“ さよなら、兄様。好きな人ができましたので。 ”
マグナリアのプライグ・シャダールはそれまであった爽やかで飄々とした表情を失う。あまりに短く情報不足な文面からでも、彼は大いに察するモノがあった。
青年プライグは片膝を地に着き、両手を横に広げて手の平を地に置いた。そして床を凝視しながら祈りを捧げる。
『――――あぁッ、女神よ!! どうか彼女を御守りください!!! いや、むしろできれば……思い直させては頂けませんかッ!?』
よほど想うところがあるのだろう。青年は地の底に響けとばかりに叫び、祈りを捧げた。敬虔たる彼は額を地に擦り付けて涙を流してまでいる。
ーーそこは聖圏のとある場所。祈りを捧げる青年の願いはされど、神無き国にまで響くのであろうか?
それもきっと、女神のきまぐれによりけりであろう……。
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