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「オレサマはモンスターなんだよ(17ー前編)」

「ゼェッ、ゼェッ! 本当、解らん女だ!! もういい、オレサマは疲れた。お前はどっか、下がっていろ!!!」


「ハァッ、ハァッ! 下がるのはお前だ、下郎げろうめ!! 私はお子様なんかじゃないもの!! セイデンの淑女しゅくじょだもの……お前が解らないだけだ、ベェーッ!!!」


「うわっわ……解ったよぉ! 泣くな、悪かったって、オレサマが悪かった!! …………フゥゥ、で? 何者だ、こちらがいそがしくしているところにまったく……」


「アーッ、また逃げるのね!? 今は私と話しているのでしょう!? 卑怯ひきょう者!!」


「だぁ・かぁ・らぁ~~、見ろよッ!! 誰か知らんが、ここに勝手なさまで立つ者がそこにあるのだ。このオレサマの宮殿に、このオレサマの許可なく、無断に立ち入ったそれは!! ……どうせろくでもない存在だろう。ならば、相応なもてなしをしてやらねばならぬ……そう思わんか?」


「知るか、知るか、知るかぁあぁぁ!! 放っておけ、私を見ろ!! そして無礼をびろぉぉぉぉ!!!」


「いや、詫びただろうが!? お前しつこい、しつこすぎる!! ……いいか、淑女を語るならばな。まず自分の行いをかんがみて、相手の言動をよく見聞きし、節度ある発言を――」


「うるっさぁぁぁぁいいいい!!! 私は怒っているの!! さっきのなんて謝ってる内に入らないから! ちゃんとひざを着いて、手を取って……“無礼な発言、申し訳ありませんでした”……それが紳士しんしというものでしょう!?!?」


「誰がそこまでするかぁ!? 付け上がるなよ、小娘!!! このオレサマが膝を着くのは彼女リーリアにのみだ!!! なんでキサマなんぞに、こんなちんちくりんになど……!!」


 ・・・半壊した黒岩の宮殿。ここではかつて、無数の兵士が広間に槍を立て、あるじに忠誠をちかう光景があった。それらの軍勢は雪崩れ込む数多あまたの敵勢と同じく、宮殿の内外にて灰と化し、風に紛れて消え去ったと伝わる……。


 まぁ、それは数百年も昔のことである。現在は鼻息荒い男女2名と「ボヤ~っ」とした大柄な少年、それと“かざの多い気取った男”と“気配を意図して薄めている女”の姿があるくらいだ。


「・・・・・・・。」


 飾り気の多い男は大仰おおぎょうに腕を広げ、歌い上げるように胸を張った姿勢のまま硬直している。その姿はまるで舞台の上にておの台詞せりふぎんじ、他の者が次の台詞を歌い上げることを待つ役者のようだ。


 しかしむなしいかな、これに返答はない。だから次に進めず、彼は苦い笑みを浮かべて硬直しているのである。


 そうした虚しい姿があわれに思われたのだろう。彼の背後にて気配をひそめていた女がズイ、と前に出た。


「おっ? ――――ちょっと、ちょっと君達! 無礼ぶれいではないか。こうしてたずねてきたあるじ様が、こうして大袈裟おおげさにも挨拶あいさつをなさったのだ。すぐに答えてくれなければ主様が困るだろう? 不愉快ふゆかいだよ。全員、腕でも斬り落としてやろうか??」


 あるじを想ってのことだろう。しかし、それにしたって随分ずいぶんと言動が物騒ぶっそうである。不穏な言動を放ちながら、フードを被った女がスタスタと大広間に歩み出ていく。


 反射的な行動によって置いて行かれそうになった派手な男は「オホンッ!」とせき払いをした。そしていさめるように声をかける。


「いいのだよ、シャル君。私が少々、先走ってうたってしまったのだ。彼らもどうやらお取込み中らしいからね……まずは冷静に話をしたい。我々で節度ある場にいざなおうではないか?」


「なるほど解りました。ならばまず……我々に意識を向けてもらいましょう。ならば誰かを一刺しでもしてこちらに注目を――」


「オォッホン、ンン!! シャル君、発案は有難ありがたいけど……ここは私に任せてくれたまえ。それに、盗賊共の残党が背後から来るかもしれない。とても怖いので、どうか私を護ってはくれないか?」


「!! ――――させません。私が……このシャラザールがあなた様をお守りします!!」


 素早く、残像を残すほどの機敏きびんさで「サッ」とコートの背後に回る女。【シャラザール】と呼ばれた彼女の様子に満足したのか、派手な男はようやく大仰な姿勢を崩した。


「ありがとう、素晴らしい。いやぁ、これで安心して交渉が行えるというものです……そして! それこそが我が生業なりわいにして本懐ほんかい。対話こそが人間社会の関係構築における基本ですからね――――えぇ、そうは思いませんか?? カルザック領主にしてアプルーザンの偉大なる世継ぎ……そう、そこにりなさるはカイル=ブローデン殿下でんか、そうでありましょう!?」


 革靴の底を鳴らしてゆっくりと、派手なよそおいの男が大広間の中央へと歩む。


 都市の風潮ふうちょうに身を包んだ姿が屋根の暗がりからでて、差し込む陽光によってあざやかにさらされる。片眼鏡ものくるふちが光を反射して、銀に輝いた。


 大仰な仕草しぐさと語りで大広間に歩み出た男。それに名指しされた不遜ふそんなる者は機嫌きげんを悪くして視線を向ける。


「あ゛!? このオレサマを気軽に呼ぶなど…………ム?? キサマ、どこかで見覚えが――――ああ、なるほど。そうか、やはり来たか……」


 少女との口論に夢中となっていた【カイル=ブローデン】は「ピタリ」、制するように少女の口を人差し指で止めた。彼が真剣な眼差まなざしで侵入者を流し見ると、周囲の空気が緊張きんちょうに満ちた。


 口元を指で押さえられた少女は当然ながら不服ふふくである。だが、カイルの気を張った横顔を見て何かを察する。【少女アルフィース】は静かにベッドから降りて、無意識にも大柄おおがらな少年の横に立った。


 そして、大柄な少年は――


「おぉ~~? なんね、知り合いなんかね。んでも、こういうの前にもあっただなぁ……あれ、これって……おめさたづ? ましゃか戦うって、そんな気じゃあるまいに??」


 【パウロ少年】は過去に見た光景を思い出したのだろう、これも本能のままに立ち上がる。そして無意識にも、片足を前にして少女の身を前面から隠した。巨木のみきから顔をのぞかせるかのように、少女は少年の脇下から様子をうかがい始める……。


 険相けんそうのカイル=ブローデンは玉座を離れて大広間の中央へとあゆんでいく。見開かれた眼光によって自然と全てを圧倒しながら……ブーツの底を配慮はいりょなく鳴らして進む。


 丁寧ていねいな挨拶に返されたのは無言と威圧。片眼鏡の男は「ニヤリ」、困ったように笑みを浮かべて胸元に手を置いた。


「争う、戦う――いいえぇ? どうして私がカイル様と争いを? そのような無作法ぶさほう、こちらとしてはまったく考えに御座いません。私はただただ、殿下と対話をいたしたく、多分に無礼と承知しょうちしつつも……おそれながら、ここへとせ参じた次第であります。どうかその点、いたらぬところはご容赦ようしゃ頂きたい。何分なにぶん、このおもむき深い宮殿には入口すらかいせぬもので……」


 勝手な訪問を無礼と素直に認めて、こうべれる。片眼鏡の男は深いお辞儀の後、上目に対面の人を見やる。


 視線の先にある不遜なる男は何も言わず。ただ恐ろしく鋭い視線を突き刺したまま、広間の中央にて足を止めた。


 無言ではあるが……言いたいことはハッキリと伝わってくる。そうした思いによって重い空気を感じながら、派手な装いの男は1つ息をみこみ、口上こうじょうを続ける。


「殿下、やはりご承知のようですね? しかしここは一度、あらためて名乗らせて頂きたい。ええ、そうですとも――――ここにある男こそは“霧幻むげんなるミスティック”。帝国に数少なき高等解析術の有資格者にして、国家指定契約魔導士……かすみの“解術士かいじゅつし”とは私のことで御座います。どうか後ろにられます紳士淑女方々にも以後、お見知り頂きたく……こうしてご挨拶の時間をもうけさせていただきました。ご厚意に、深い感謝を――――」


 別に誰も許可きょかなどしていない。勝手に挨拶を始めた片眼鏡モノクルの男――【霞のミスティック】は深々と、改めての礼をしてみせた。


 高らかなる口上は末尾にいたほど音量を上げ、大広間へと染み渡るように響いた。後ろにられる少年少女はポカンとして、大仰な男の振る舞いを眺めている。


 だが、カイルの険相けんそうは変わらない。見開かれた瞳の鋭い眼光は変わらぬ威圧感を放ち、対面の男を威嚇いかくし続けている。どうやら彼はミスティックを知っているらしく、驚きも何もないのであろう。そして知っているからこそ、まるで歓迎かんげいの様子が無いのである。


 沈黙して対面の男をにらみつけていたカイルだが、ここでようやくに口を開く。


「丁寧な態度はめてやろう。だがな……帝都のミスティックよ。オレサマはキサマに用などなく、話す気も無い。即刻にこの場を去り、平穏な暮らしを謳歌おうかするがよい」


「おぉ、そのような……! 確かに突然の訪問、これは謝罪いたします。誠に申し訳御座いません――――ですが、ですが……! どうかお聞きいただきたいのです!」


 ミスティックはスッと、身を起こして気弱そうに表情を悲しませてみせた。しかし、その何もかもが大袈裟おおげさであり……遠目に舞台の上ならば良いが、間近にしたらワザとらしくって仕方がない。


 そういった、いわば「いつわり」の振る舞いを好まないのがカイル=ブローデンである。そうした態度は軟弱なんじゃくであると、強く、太くあろうとしないことをこの男は好まない。


「何度も言わせるな……“聴かぬ”、去れ。その名の通りにつかめぬ魔導士よ……オレサマはキサマのような軟弱者は好かん。それに、話とやらも大方おおかたは想像がつく。帰って親父オヤジ共に伝えよ。“オレサマは帰らぬ”――とな」


「おやおや、これはさすが! 聡明そうめいなカイル様にあって、我がにんを察しておられましたか……しかし、ならば尚更なおさらのことです。どうかどうか、国にお戻りいただきたい。国が、民が、臣下が、おうが…………ご家族が待っておられるのです」


「……もうよい、口をつつしめ。このオレサマは意外に突発的な気性きしょうもあってな……気付かぬうちに、キサマの顔面をこの拳でくだいているかもしれん。ここはカメリア絨毯じゅうたんの上だ、汚したくはない」


 カイルは静かな口調である。しかし、その内容とは異なってこれ見よがしに拳を作り、眼前がんぜんで骨をきしませている。それにしても気性の何が「意外と」なのであろうか?


 そして、要するに。ミスティックはどうやらこのカイルを――【アプルーザンの皇子おうじ】を帝国へと連れ帰りにきたようだ。そしてカイルはそれを察して拒絶きょぜつし、今にもキレそうになっているのである。いくら対面の男が気に食わない風貌、振る舞いだからといって、これは早計なようにも思われるが……。


 それはともかく「顔を砕く」と聞いて。派手なコート裏にひかえていた女が深いスリットの下に手を忍ばせた。気配けはいは隠されているものの、その眼光は冷徹れいてつに……不遜ふそんな男を標的として見定めている。そして、そのことを見ずとも察したミスティックは不安になった。


 後ろの人が先走ってしまう前に……穏便おんびんこと運びをしたいと、気を急ぐ。


「――――おぉ、おぉ、それは恐ろしい! されど私にもせきが御座います。帝国の信頼と忠義をないがしろにはできない事情、殿下ならお判りいただけましょう?」


「解らぬ。オレサマはもう、帝国の人間でも……ましてや、皇子でもない!!」


「えぇ、えぇ、そうですとも。“ここにるあなた様”は皇子ではない。皇子は今、王宮深くにて病を静養中でして……王族方々以外に面会することすらできないのです。どうしたって、一介いっかい魔導士まどうし風情ふぜい謁見えっけんできましょうか? ……しかし、“ここに居る盗賊の頭領”とならば……所詮しょせん盗賊風情とならば。このミスティック、お話するくらい可能でございましょう?」


「――――そうか。ならばそのまま、き者にでもしてしまえ。“王宮に居るオレサマ”なんぞ。大体、皇子はオレサマだけではなかろう。弟だってあるのだから……アレも中々、優秀であるぞ?」


おうは……アプルーザンの国と王は“カイル様”をお望みです。そしてこれは、御父上様だけにあらず――他の2名含む、三皇さんこうの総意でもあります。ですからカイル様……国のため、未来の為にもお戻りください。どうか、エルダランドの凋落ちょうらくに習いませぬように――」


「ほぅ、国の為……か。さて、それはどうかな?」


 一歩、カイルが前に出る。少し身をかがめて、片眼鏡モノクルの奥にある瞳をにらみつける。


「違うだろう――“親父オヤジの為”、だろう? 何が総意だ……気難きむずかしい親父に口を合わせているだけに過ぎぬ。オレサマはうんざりした、失望した……見損みそこなったんだよ。国というものに、皇というものに……人の命を気安く見下げるやからを、オレサマは心底嫌悪した。だから“帰らぬ”と――――早急さっきゅうに去ってあの男に伝えよ!!!」


 言葉をかれているだけだ、会話を行っているだけだ。しかし、ミスティックは作った笑みをどうにかたもちつつ、自然とコートの裏から“透度とうどの高い指揮棒”を取り出していた。


 今にも飛び掛かってきそうな気配。巨大な怪物と相対あいたいしているかのように、ミスティックは精神的に気圧けおされている。


 そこに感じる圧力プレッシャーの理由は肉体的な強さだけではない。その奥にともされた強い精神、そこからしょうじる“覚悟”にこそ、その真なる理由があると……この解術士には理解できていた。


「…………すべては愛する女性の為に、ですか?」


「――――そうだ。悪いか?」


「ハァ……カイル様。御父上もおっしゃられたようですが……なにも国家が彼女を死にいたらしめようと、そういったことではないのです。ただ安静に、おだやかに……最期の時をむかえてもらおうと、それだけのことなのです」


「ああ、よく理解しているよ。つまりオレサマから引きはがし、リーリアを……リアンジェンを、ゆっくりと殺そうという算段だ」


「ですから異なります、アプルーザンの皇子よ。彼女の死は運命によるもの、わば自然なるものです。その雄大ゆうだいな流れに逆らい、あらがい、無理矢理にでも生き長らえることが……本当に、彼女の為でありますか?」


「そうだ。少なくとも、国の為でも皇の為でもない。彼女の為に、オレサマは――」


「違いましょう? あなた様の、カイル様自身の――それはつまり“自己満足”に他ならない。聡明そうめいなあなたなら解っておられるはずだ。つらい運命のもと、苦しみに満ちた彼女の生が安らかに終焉しゅうえんを迎えることを……あなたはおのが願望の為に拒絶し、いている。何が“皇子ではない”、でしょうか? 今もそうしてけんいをかざして、あの女性を我が為にと……それすら認めず、助けたつもりで苦しみを継続させているのは……他ならぬ、あなた様ではありませんか?」


「――――何度も言わせるなと言ったな? だまれ、ミスティックよ」


「黙りましょうか? いいえ、黙りません。今のあなたが皇子ではないと言うのならば、その権限がございません。この口を黙らせたくば、どうかしかるべき舞台へとお戻りなさい。そのような張りぼての玉座などではなく、しん相応ふさわしい席へと…………そうでしょう、盗賊の頭領よ!!」


 ベッド脇に置かれた玉座。金で買われ、運び込まれた偽りの玉座を指揮棒で指し示し、×の字に先を振った。そして指揮棒を大きく右に振り抜く。はるか先に、帝国の繁栄を示して……。


 盗賊の頭領は――――カイル=ブローデンはにぎりしめた拳をゆるめた。


「……キサマは知らぬのだ」


「はい? 何をです??」


「キサマは…………愛を知らない。だから容易たやすく、そのように言える。本当に大切な人がいるならきっと――」


「――なに、愛ですって?? それなどとうに知っている。決めつけないでいただきたい!」


「いや、知らない、知るはずがない。お前はオレサマの……オレサマ達の……オレサマとリーリア、2人の愛を知らない。所詮しょせんはまったくの部外者、事情を曲解きょっかいして話され、つかわされた第三者に過ぎぬ。そんな者が偉そうにこのオレサマを……オレサマの行いを、評してくれるなよ」


「……私とて、お2方の事情に思うところはあります。ですが、ええ、第三者であるからこそ。一介の帝国民としての見解から、この任を受けました。例えあなた様を“無理矢理にでも”、と――それが“可能な者”として、この身が責を覚えた次第で御座います。だから…………いえ、このミスティック。帝国のためにも忠義をつらぬ所存しょぞん。その意思は決して、揺らいだりなどするものですか!」


「そうか……まぁ、思ったより立派なものだ。ならばもう、オレサマは何も言うまい。話は終わりだ、ミスティックよ――――だがな?」


 大きな格子こうし窓から風が入り込み、広間をめぐる。


「一つだけ、最後に言っておこう。無理矢理が可能だなどと……このブローデンの血を前にして、よくぞ吐いたものだ。そのことは褒めてやる、軟弱な魔導士ごときがよ……!」


 はだ寒気さむけおぼえた魔導士は静かに、後ろに下がって距離をあけた。透明な指揮棒からは水気みずけが生じ、つゆとなってしたたる。結露けつろによって透明な指揮棒は白くにごった。


「なんと勿体もったいなきお言葉! 身に余る光栄に恐縮きょうしゅくの至りです。……ですが、お褒めにあずかりまして……恥ずかしくもこのミスティック、欲が出てしまいました」


「フンっ、国家の特別指定を受け、四門しもんの座にく男が……何を今更、求めるというのだ?」


「えぇ、えぇ。殿下よりなおにお褒めの言葉を頂きたく……恐縮ながら、我が自慢じまんの舞台を堪能たんのうしていただきとぅ御座いまして――」


「・・・舞台は好かん。長く椅子に腰かけ、ぎょう々しい語りを聴くなど……体がにぶって困る」


「あぁ、どうかご心配されず! 鈍るなどとんでもない、“すぐに終わりますよ”。まぁ、もっとも……“見たことすら忘れてしまう”でしょうが――――」


 かすみが――きりが生じている。格子窓から入るさわやかな風は、渓谷の景色からこのようなものを運んではいない。


 大広間の室内。この大仰おおぎょうな魔導士、その周囲から……深々とした霧がいつの間にか立ち込めている。


「これから起こる一連のことは一介の盗賊風情を“討伐とうばつ”し、そして帝都領内へと護送する……ただそれだけのこと。無礼とは思いませんよ? あぁ、しかしどうか! どうか、お気を悪くなさらずに……」


「ミスティック……キサマ、覚悟がりんぞ? もうすぐまともな身体を失うかもしれないというのに……それこそ悪く思うなよ。オレサマに逆らったキサマの自業自得なのだからな」


 カイル=ブローデンはたん々としつつ、下衣ズボンの後ろポケットに手を突っ込む。そして黒の手袋を取り出すと、それを両手にはめた。真っ黒な手袋ではあるが、よぉく見ると薄い金字の文様もんようが見て取れる。 


 霧幻むげんなるミスティックは右手で白い指揮棒を払い、左手をかかげる。そして軽く、左の指先に力を込めた。


 「パチンッ」と、左手先から音がはじける。それは舞台の緞帳どんちょうを上げる調べである。




「このオレサマは強い、全てにおいて最強である。付け上がった魔導士如きめ……かくの違いというものを知るがよい――」



| オレらはモンスター 第四章 ~ 怪物的な守護者達 ~ |



「あなたがどれほどお強くとも、“さわれなければ”力というものは意味を成さない。傲慢ごうまんなる偽りの盗賊よ。我が術を受け、存分に無力を知りなさい――」



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