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「オレサマはモンスターなんだよ(10)」

|オレらはモンスター!!|






「加減なしだっぺ!! ほりぇ、いくどぉぉぉぉぉ!!!」


 大地が爆発するようにえぐれた。【パウロ=スローデン】が地面を蹴って駆け出したからである。


「フン……かかってこい。その思い上がった鼻をへし折ってやろう」


 木々の枝葉が震えた。【カイル=ブローデン】がおさえ込んでいた闘志を解放したからである。


 カイルはその場で小さく、左右にステップを踏みながら上体をすった。ほんの1秒あるかのことだが、その動作をてから彼は瞬発力によって足元の腐葉土を切り裂いた。


 つま先をすべらせるような“右への移動”。身体全体をらしたのは高速で迫る突進物に対する回避行動である。カイルは大男の攻撃を軽々とけた。


 先ほどと同じように右腕を振りかぶっていたパウロは拳を虚空こくうに突き刺す他はない。そして顔面ににぶい衝撃を受ける。


「ぐぇあっ!?!?」


「このオレサマを前に2度も同じ手を指すな。くだらん――――ぞッ!?」


 避け際にカイルは拳を放っていた。直線に向かってきた突進物に対して、横からその顔面を撃ったのである。


 確かに直撃した。普通ならこれで昏倒こんとうするのだが……この大柄な男は即座に向きを変え、また真っ直ぐに突っ込んできていた。カイルは少々驚いているらしい。


「そっちさるんね!? 逃さんっぺや!!」


「――阿呆あほうがッ!! またそうやって真っ直ぐと……愚直が過ぎるぞ!!」


 実直、正直かつ図太い突進である。あまりにひねりのない攻撃に対して、カイルは“カチン”と頭にきたようだ。カイルはその場で跳び上がり、ぐるりと身体を縦に回す。


 回転は加速の意味合い。それは振りかぶった大剣のように……彼の長い片脚が上空へとかかげられた。


 「ズドンッ」と、重い音が周囲一帯に響く。空中から放たれたかかと落としはパウロの頭部に直撃クリーンヒット。大柄な男は頭部に痛烈な衝撃を受けたことにより、その身をかがませた。脚撃の威力は少年の身体を伝って足先を地面にめり込ませるほどのものである。


 空中でひるがえるカイル。落下を始めた状況で観察する攻撃の対象。


 それは今、屈みながらも……しっかりと自分を見据えていた。左の拳は熱く握り込まれている。カイルは“寒気さむけ”を覚えて咄嗟とっさに空中で防御体勢をとる。


「 う゛ お゛ ら゛ ぁ゛ ッ ! ! ! 」


「な、何だ――――どぅぉあっ!!?」


 大きくを描く一振りであった。伸び上がるように放たれた拳は強く物体に当たったようだ。


 槍でつらぬかれたと感じるような、硬い痛みがある。腹部に受けた衝撃により、カイルの身体は弾かれて勢いよく飛んだ。そして周囲にあった樹木の一本に激突し、カイルは落下する。


 ガサガサと音が鳴る。どうやらカイル=ブローデンはしげみに落ちたらしい。その様子を聴覚で感じながらパウロはひたいおさえる。


 額からはき出すように流血したようだが……強く抑えているとそれもすぐに止まった。血で汚れた顔面をぬぐい、目を開く。


 開かれた少年の視界には……飛び散る茂みの葉を邪魔くさそうに払いのけながら、両腕を広げて疾駆しっくする男の姿がある。風圧によってまとった外套マントは浮き上がり、元から見開かれたような眼はなおさら開かれ、憤怒ふんどの様相。


 パウロは強烈なかかと落としの衝撃からまだ立ち直れていない。急接近する脅威に対して、反射的に太い腕で前面をおおうのが精一杯だった。


 その太い腕に3発の拳が連続して叩き込まれる。1発、受けるごとに身体が揺らいで後退してしまう。体内から骨がきしむ音が聞こえてくる。


っつ……! なしてこんな重いの、コレ!?」


「お前はふざけたヤツだよ、本当にな。おかげでお気に入りが葉の汁だらけだ…………許さん!!!」


 どうやらカイルは“お気に入りのマント”が汚れたことを気にしているらしい。しかし、そんなものを森の中に着てくるほうが不注意であろう。


 不条理なカイルは止まらない。重厚にも拳を連続して繰り出し、守勢の上から強引に叩き付ける。少年の巨体は押し出されるように後退し、ついには樹木のみきにぶつかった。背中が幹にめり込み、樹木がかたむいていく。


(よっぐ見ろ……こんなんなっても落ち着いて、よく見て……)


 退路を失ったパウロ少年。彼は殴りつけられながらも直撃はけ、次第に呼吸も態勢も意識も、“用意”が整ってきた。


「血によってあがなってもらう!! “あいつ”の想いを汚したむくいだッ!!!」


 よほど、なにか思い入れのある外套マントなのであろう。怒りに任せたカイルの拳が穿うがたれた。その拳は分厚い樹皮を貫き、木片を散らす。


 突き刺さった拳と樹皮の隙間すきまから樹液が垂れ、流れていく。


「おッ……??」


 的を外したと理解する。そして、カイルは直感によって左を見た。


 そこには「ぐるり」と、大きく肩を回す少年の姿がある。


 大柄な少年は――――「ニヤリ」、笑う。


「ちぃっと動くなや? しこたま撃たれたっけね……お返しさしてぇんだわ?」


 少年のほほがヒクヒクと痙攣けいれんしている。笑顔だが、何度もなぐられてムカついてはいたらしい。


 ちなみに……お返しをしたい相手は現在、樹木に腕を突っ込んでいる。


 パウロの表情が切り替わる。その歯は喰いしばられ、眉間みけんには深いシワが寄った。腰を落として両脚を開き、大地を噛むようにしっかりと踏みしめる。右腕を大きく引き下げ、身体全体に“ひねり”を生んだ。


 獲物えものが動けないと考えたパウロは細かい考えを捨て、今は“単純な構え”に移行している。すなわち、彼の持ち得る精神と力と気合を全て込めた……“ただの全力パンチ”を放とうとしている。


 その光景を見たカイルは思わずつぶやいた。“これはマズイ”――と。


「――うんぬぉぉぉおお!!!!!」


「うっ――ぅうおぁあぁっ!?!?」


 それは間一髪かんいっぱつ。高い危機察知能力がカイルに刹那せつな猶予ゆうよを与えてくれた。


 コンマ1秒もない間に腕を樹木から引き抜き、転倒することもいとわず大きくったカイル。


 腕を引き抜き後ろに転倒する最中。カイルは幻想のような光景を見た。



――ゆったり流れる瞬刻しゅんこく。次第に離れていく樹木。


 樹皮が割れ、太い幹がくの字に曲がる。樹木は圧力に耐えられず、破裂してくだけた。


 砕け散った樹木の中を拳が過ぎて巨体が流れる。飛び散る木片の1つがせまり、自分の頬を裂いたのが解った――



 ズズン……と、樹木の倒れる音が大地に響く。


「ア! ちっくそう、避けられちった!? ほんに、強引なやっちゃね~~」


 パウロはくやしそうにポリポリと後頭部をいている。


「・・・・・。」


 なんとか避けたカイルは尻もちの姿勢でそれを見上げていた。



 樹木を殴り倒した少年。その一撃を目撃した者は2名ある。



 規格外の喧嘩を眺める“少女”は「野蛮やばんだわ」とあきれた。


 尻もちの体勢から屈伸の反動で起き上がった“盗賊の頭領とうりょう”は――


「・・・木なんか殴り倒したって、オレサマに当たらなければ意味がないからな??」


 ――と、自身の無事をアピールした。もし、自分に当たっていたら……その考えが導き出す予測に身震いはある。


「んだなぁ……しても、次は当てたんべよ!!」


「当たってたまるか! そのようなすきだらけな攻撃など、当たらん!」


「ぬ、たすかに……らっけ今の外したんはしかったわなぁ」


「惜しくなどない、かすりもせん。フンっ、大した怪力だが――お前は直線的すぎて、技が単純なんだ」


「おぉ、そっか?? したら、今度はもちっと工夫さしてみっけよ……っと」


 おいっちに、おいっちに、とパウロは屈伸運動をした。身体をほぐして思考まで柔軟にしようと思ったのである。対峙する相手からの助言にさっそく応えようとする吸収性だ。


「――――ふん、やってみろ。どうせくだらん」


 弾むような屈伸運動を見たカイルはしぶ々に外套を脱いだ。それを丁寧ていねいたたんで、なるべくとげがないような枝に引っ掛ける。ほこりでかざることより動きやすさを優先したらしい。


「うっし!! おっしゃ、行くべさ!!」


 気合の入った声。パウロ少年は大きく息を吸い込んで考えた結果、とりあえずやっぱり……。


「――――おぉっ???」


 やっぱり突進しようとしたのだが、“視界に標的がいない”。視界の先で何か脱いでいたはずの男が視界から“消えた”。



―― まずは手本を見せてやろう。光栄に思うがよい ―― 



 不遜ふそんなその声は少年の右側から聞こえた。


 パウロ=スローデンの突進というものは勢いすさまじく、速度も尋常じんじょうならざるものである。その速度と同等かそれ以上の俊敏しゅんびん性をもって……カイル=ブローデンが距離を無くしていた。


 威圧感に気が付いたパウロは咄嗟とっさに顔を守る。「殴られる!」と予測したのでそうしたのだが……その予測は外れだ。


「おごッ――!!?」


 樹皮のように硬いパウロの腹部へと“膝蹴り”が突き刺さった。腹部にはしる雷撃のようなシビレ。瞬発的な痛みに思わず腹部を守ろうとパウロの腕が下がる。


 状況を確認しようと視線を落とした少年の顔に、拳が1つ2つと叩き込まれる。衝撃で視界がチカチカと混濁こんだくする中、体重を乗せた“肘鉄ひじうち”が胸部を襲う。あばら骨を貫通してショックを受けた肺が呼吸に乱れを生じさせる。


 呼吸と意識が乱れ、視界がまどう。フラリとよろけた巨体を前にして、身軽になった戦闘者が軸足で地面をけずっている。


「――――ゼァアッ!!!!!」


 強く息を吐き出しながら蹴り脚が天に突き上げられた。鋭く、的確なカイルの足先が少年のあごを目掛けて撃ち抜く。


「うぐっ……がっ……!!?」


 パウロの巨体が蹴りの一撃によって浮かび上がる。偶然にも彼の腕がはさまってクッションになったが……それでも意識が揺らいだ。


 少年は宙を舞い、その身はしばらく滞空。数秒後、巨大な落石でもあったかのように土砂がき上がった。その光景ははたから見ていても「やられた」感がある。


「特別、必要ないが……後学のために技を見せてやった。オレサマに感謝しろよ、未熟者め……」


 得意気とくいげなのはカイルである。振り抜いた足をブラブラとさせているのシビレをこらえているからだ。蹴った方もただでは済まない、そんな少年の肉体。


 ただ、それだけに手ごたえ――足ごたえはあったのであろう。カイルは枝に引っ掛けた外套を取りに行こうとしている。


 しかし、彼は思いとどまり、半歩動いただけで立ち止まった。


 実際、予想していなかった訳ではない。だが、予想よりも“脚力”に対する自負心プライドまさっていた。「これで立つことはない」と自身の健脚を信じたかった。


 その信頼は裏切られる。これは彼の脚が悪いのではない。問題なのは蹴った対象である。


「――さすがにな、ここまでくると怒りを通り越すよ。関心するぞ、パウロ=スローデン。このオレサマが威力不足などと……我が技に疑念を抱くことになろうとはな」


 振り返った視界にあるのは、えぐれた地面から立ち上がろうとする少年の姿。その男はうなだれているが、それでも確かに立っている。


 カイルは構えた。両拳を眼前に置き、肩を揺する。


 姿勢を低くし、そして――――


「気に入ったぞ、パウロ=スローデン!! しかし、ここは一度眠れ! 認めよう――お前はこのオレサマに、“ひれ伏す必要がある男”だッ!!!」


 狂喜したように咆哮ほうこうし、駆ける盗賊の頭領。あたかも翼があるかのように……飛行する巨竜のような圧力と疾走しっそう感がそこにある。


 傍から見ても「やられた」ように思われていた。それは闘争する2人とは別の「少女」から見てもである。


 ふらりと立ち上がってうなだれたままの少年。その姿を見て、戦いに息をのんで言葉を失っていた少女は……。


 少女、アルフィースは――――


「パウロっ……起きなさい、パウロぉぉぉぉ!!!」


 痛々しく立ち上がった少年に向けて少女は叫ぶ。


(逃げて/負けないで/無事でいて/・・・できれば勝って!!)


 そこに沢山の願いを込めて、少女は彼の名を呼んだ。


「…………へへっ、なんね。アルフィースつぁんったら……」


 少女に呼ばれたらそれに応える。それがこの少年が背負う役割である。


 ニヤリ、と。大柄な守護者が笑う。


「アルフィースつぁん……オラね、心配いらねっけよ?」


 項垂うなだれていたのは意識が朦朧もうろうとしていたから――それ“だけ”ではない。


「らって……らってオラまだ、“ピンッピンッ”してっけよぉ!!?」


 パウロは関心していたのである。てぇしたもんだと敵対者の技能について考え、学んでいたのである。つまりは考え込んでいた。


 胸を張って顔を上げた少年。大きく振りかぶるのは右の拳。


 疾走の中でこれも右の拳を構えていたカイルは、再び予想を上回られた事実に笑顔を惜しまない。


 振りぬかれる両者の右拳。拳は互いにめがけていた顔面と顔面の狭間はざま、空中にて激突した。


 人間の手と手がぶつかったことにより轟音ごうおんが生じ、風圧によって2人の足元にある腐葉土が舞き上がった。


 ほんの一瞬、伸びきった拳は拮抗きっこうしたらしい。しかし、刹那の間にその均衡きんこうは破れた。明暗を分けたのはわずかながらにも純粋な“力の差”である。


 吹き飛ぶような腕の勢いによって、大きく姿勢を崩されたのはカイル=ブローデン。ヨロリ、としたところに猛然とした気配が襲い掛かる。


 気配の正体はあらためて右の拳をにぎり固め、大きく振りかぶっている少年だ。


「……ほりぇ、今度は当たるろ? まだ、なんかあるんか??」


 今にも振り下ろされそうな拳。少年は「目の前の男が何をするのか」に興味きょうみしん々だ。


阿呆あほぅが。このオレサマを誰だと思っている? 身の程をわきまえよ……無礼者め」


 対する頭領はよろけながらも言葉を吐いた。そして弾かれた勢いのままに体を回し、身を屈める。


 今度は先ほどと状況が異なる。少年の拳は真っすぐではなく、下に向かって体重を乗せ、打ち下ろす形。一方の頭領はその勢いに対して体を回し、打ち上げるように脚元でめを作っている。


 どちらも“自分が最も得意とした攻撃”の体勢。つまりは、威力が単に拳を突き出したものとは違う。それらが相手の威力や速度を利用して、より強力に打ち出されようとしている。


(あっ――――――!?)


 どちらが当たるにせよ。それらは相手の頭部を直撃させようとしたものであり、まともに入れば重要な何かが砕ける可能性が高い。


「ダメっ――――ダメよ、パウロ!!!」


 ……と、そこまでを洞察したわけでもないだろう。それどころか何が繰り広げられているのか、しっかり理解できていたとも思われない。


 だが、傍観ぼうかん者であった少女は男たちの行為に危険を覚えた。咄嗟にさけんでしまったのは無意識からくるものであり、思わず駆け出そうと前のめりになったのもまた、直観からくる反射的行動である。


 そして……盛大につんのめって前回転。ぐるりと森林の腐葉土に転がり倒れたのもまた、やろうと思ってやったものではない。


 増してやドレスのすそを派手にふわり、広げて中身を見せつけるつもりなど……毛頭もうとうないものである。


「・・・んぉっ、アルフィースつぁん???」


 パウロ=スローデンの拳は止まることはなかった。止まらなかったのだが……。


 大柄おおがらな少年は第一として少女の声に反応。ひるがえるドレスの裾が収まる前に……優れた反射神経によって彼は見てはいけない物を3度目に視認してしまった。


 これによってパウロの拳はあらぬ方向へと行先ゆきさきを変える。


「え、うわ――――なにッ!?」


 少年が視覚情報から罪悪感を覚える間もない程、わずかな時の中。


 身体を回して構えていたカイルは予測を無視した少年の動きに動揺。気が抜けたような少年の横顔は思った位置になく、咄嗟に脚撃きゃくげきの標的をその胸部へと変更した。



 わけもわからず、純白の三角を眺める少年。気の抜けた意識に亀裂きれつはしった。


 胸部に痛烈な衝撃を受けた少年は再び飛翔。衝撃は丁度彼の心臓を貫通しており、圧力によって僅かながらそれは停止した。


 朦朧もうろうとする意識。にじみ浮かぶ罪悪感――無抵抗に落下を受け入れた身体から、感覚が途切れる。


 少年の意識は薄れていく。


「アルフィースつぁん、まぁた転んだんかにぃ……」と、少女の身を案じながら――――。






第39話 「オレサマはモンスターなんだよ(10)」END







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