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「ワタシはモンスターだ(11)」

 シン……としたものである。本来、森の朝は静かなものだ。


 小動物達は気ままにえさを集め、小鳥は枝の上で毛づくろいにいそしむようなノンキさがある。森の王者たる熊も、早朝の一狩りを終えてくつろいでいた。


“すこぉぉ~~~~ン、すこぉぉ~~~~~ン……!”


 その本来静かな森の中。一定のリズムをきざむ不自然の音が木霊こだまして、森中に響いている。最初は誰もが「何の音か」と不思議そうにしていたが……今となってはリスの1匹も驚きはしない。


 1週間以上に渡って毎日継続されてきた音は森の彼らにとって自然の一環とされたのであろうか。それとも、「うるさいにはうるさいけど……怪しいニンゲン共が発生源なので無視している」のであろうか。


「――――っし! 第3セットはしまいだべ。んじゃ、今度こそ当ててやっけなぁ……ルイドぉぉぉ!!」


「……いいだろう、来たまえ」


 パウロ少年はグルグルと腕を大きく回した。そして強く土を踏み、「んんん!」とりきんで身を屈めた後、「はっ!」と気が付いて大きく深呼吸。


 パウロは手をぶらぶらと振り、身体を揺すって身体の硬直こうちょくやわらげる。そして心の中でつぶやくのだ。


(いいけ? リラァックスだべ。力さずっとみなぎるこたねんだ。丸太に斧さ振るみてぇに、へろへろとした心さ大事だっけ……んで直撃エンパクットん時にガッとなってフンッ……だべや)


 くにゃくにゃと、全身を海藻であるかのように揺らしてからゆるりと静止。そして、構える。


 対面する標的を「ぜってぇくだく!」と向き合うのではなく、やや斜めに「砕いちまおっかなぁ~」くらいの心持ちで。されど、気持ちのしんは熱く保つこと。


「いっくどぉ! ほりぇいっ!!」


「…………。」


 完璧でなくともよい。短い期間で完全など求めることもない……と、ルイド・カチースキーは考えている。加えてパウロの拳や足というものはその全力を発揮すると“やりすぎ”となる。


 相手が鎧を着こんでいたり、何らかの壁などであるなら話は異なるが……生身の人間を想定するならばパウロの全力はあまりに危険すぎる。


 必要な時に必要なだけの調節ちょうせつを行う……それができるようになってから、徐々に全開を追及ついきゅうしていけばよい……と。ルイドは少年を計画的に、自分の手を離れた後の成長も見据みずえて鍛錬たんれんほどこしていた。


「ほっ、ふんっ! うんに! くぬっ、ふぃぃぃー! っちょぁぁぁ!!!」


 パウロは必死で夢中に学んでいる。苦しそうな表情もあるが、喜びの表情もあり、喜怒哀楽きどあいらく目まぐるしい有様は“気落ちしていない”ことの証明となる。


 昨晩に落ち込んだ様子があったものの、ルイドが声を掛けるまでもなく「もっと強くさなって、アルフィースつぁんに頼ってもらえるようになっぺよ!」――と、風呂場でわしわし頭を洗いながら決意を新たにしていた。


「…………。」


 ルイドもまた、夢中になっている。彼は様々な戦闘技術をおさめており、それを伝授する機会もこれが初めてではない。


 優秀な生徒もあった。以前に拳法を中心に教授した女性など、それによって健康管理までこなしていた。たまにはルイドの身体に蹴りを当てるほどに立派な技術も修めたほどである。


「なぁぁぁんさぁっ! どっせぃ!!」


「…………。」


 だが…………こんなことは初めてだ。ルイドにとって、この少年は今までにない生徒である。


(パウロ、君という存在は……もしかしたら、ワタシはとんでもない“怪物”を育てているのかもしれない。そんな期待と不安が、これほどまで重厚じゅうこうにワタシの心を引きつけるとはな……。仮にもし、君が今のスローデンだとするならば……)


「せあっ! ふんっ――――おぁっ!?」


「!? …………おお!!!」


 金槌かなづちなべを叩くとそのような音が響くであろうか。“ガウウン”と、パウロの拳が師の肩をとらえ、重厚に命中音を鳴らした。


 左肩を打たれたルイドの身体は傾き、かろうじて踏みとどまる。彼は自分の左腕を動かしてダメージの度合いを診断した。


「……左腕に軽微のシビレ、関節部にわず亀裂きれつあり……やはり管部かんぶが損傷したか。想定内のことだが……うむ。改めて、凄まじい破壊力である!!」


 想定内ではあるが、それにしてもの破壊力と衝撃。ルイドの表情はうかがえないが……どうやらめずらしく興奮こうふんしているようだ。


「あ、当たった・・・あたったぁぁあ!?!?!?!? ぃやったぁぁぁぁあああ!!!!! あたったぁぁぁ…………らけんども???」


 想定していない。当たったことにも驚いたのだが……それと同時。パウロは拳の感触かんしょくが“妙に硬い”ことに違和感を覚えた。


「よくやった……目標はクリアだな。パウロ、今日はきっと食事が美味しいはずだ……!」


「うんだ。当たったべ、確かに当たったけんども……んでも、この感触? あんさ、ルイド。おめさ前からちぃっと気になってたんらけど――――」



“ゴォォォォ~~~~~ン、ゴォォォォ~~~~~ン……”



「おっ、鐘の音か……10時になったのだな。ではいつものように食事と回想、それにまきを置きに戻ろうか……休息としよう、パウロ」


「おお、んだな……いぁ、んでも……むぅぅ??」


「?? どうした、行くぞパウロよ……」


 重厚な金属の鞄をかつぐルイド。鎖のベルトが重みできしみ、彼は一度、左肩から右肩へと鞄を担ぎ直した。


「・・・・・ま、いっかぁ! まずは腹ごしらえだっぺよ!」


 しっかりと縄でまとめて薪の束を担ぐパウロ。気張って50本程度あるのだが、まるで問題ないようだ。


 どちらも軽い歩調で森の腐葉土を踏み歩く。パウロは何か引っかかりを覚えているものの、目標をした喜びと空腹への渇望かつぼうでそれどころではない。


 そしてルイドは……その目元でしか判断できない表情は目元だけでも十分に解るほど、喜んでいた。教え子の成長が頼もしく、左肩の痛みはむしろそのあかしとして喜ばしい。


 街へと戻るべく、歩き始める2人。


 「サク、サク…」と踏み鳴らされる腐葉土。鳴る足音は――――“3つ”。


「……!? 君は…………!」


 街へと戻ろうとする2人。そこに向かってきていた1つの足音。


 せまる足音のぬしは何も持たない身軽な様で自然体に歩いている。真っすぐに白衣の男を見据みすえながら……。


 “青い髪の青年”はブレザーを正すと、おだやかに微笑ほほえんだ。 


「――――お初にお目にかかります、ドクターとその友人様。当方とうほう、マグナリア聖教会所属、プライグ・シャダール……階層は“創輝階そうきかい”です。以後、お見知りおきを……」






|オレらはモンスター!!|






“ゴォォォォ~~~~~ン、ゴォォォォ~~~~~ン……”


「あら、もう10時なのですね!」


「・・・・・うん」


「今日のランチは何処どこで食べよっかなぁ~♪」


「・・・・・そうね」


「う~~~んと、このパンフレットによると……まぁ! ねね、見て見て! ほら、ここのお店って聖都で絶賛話題沸騰だという! あの、マロニーシェフがいとなんでいるレストランの……ほれ、ほれぇッ!!」


「・・・・・知ってる」


「わぁ、私ってば彼が駆け出しの頃に1度、お会いしたことあるのよぉ♪ 凄いわ、凄いわ! 聖圏の外にまでお店を出すようになったのね! 少し変な人だけど……やっぱりすごいわぁ!」


「・・・・・そうね、変な人ね」


「・・・・・ん?」


「・・・・・ふぅ」


「・・・・・。」


「・・・・・ん?」


「・・・・・。」


「・・・・・?? フェ――」


「アルちゃぁぁ~~~~~んんんんッ!!!!!」


「!?!?!?! おっぱ、うわわぁぁぁ!?!?」


 普段ほとんど黙らずペラペラと、独り言のように話し続けるフィナンシア。それがあまりに突然としてだまったので、思わずアルフィースは顔を上げた。


 顔を上げたらそこは大迫力だった。ベッドの上で体育座りに足の爪をいじっていたアルフィースは押し倒される形で横倒しとなる。黙っていたはずのフィナンシアが一転して声を張り上げ、何故か突進ダイブを試みてきたのだ。


「な、ななな何をするのフェイ! お退きなさい!!」


退かぬわ、小娘ぇぇぇ!!!」


「はいぃ!? ちょっと、いきなりどうしたのよ??」


 声色を低く、もがく少女の上にのしかかって動こうとしないフィナンシア。何が彼女を駆り立てているのか不明だが……ともかく少女が謎の勢いに圧倒されていることは確かだ。


 フィナンシアはグイグイとせまる。のしかかった姿勢で互いに互いの瞳くらいしか見えないほどに顔を近く寄せた。


「な、なんのつもり? こんな姿勢では話もままならないわ!」


「……綺麗ね、アルちゃんの瞳って……」


「んんん???」


「こんなに綺麗なのに、どうして“見えていない”のか……」


「ッ、何か解らないけど――フェイ、あなたってどうしてこうも行動が突発的なの!?」


「見えていない…………んはぁぁっ!?!? そうか、違うわ! 見えていない、ではなく……“見ていない”のだわっ!! ねね、そうでしょう!?」


「ちょっ、もう、それ以上迫れるスペースもないのに、迫らっ――」


「そうと解ったら…………“見る”しかないじゃない!!!」


 落差がすさまじい。押し倒してしっとりと見つめてきたかと思えば今度は鼻息強く、興奮した様子で跳び起きる。


 フィナンシアのころころと変化する態度に困惑こんわくしたまま、成されるがままに少女は立ち上がった。それは彼女が手を引かれたからであり、引き起こされた少女が流れに身を任せていると、いつの間にかそこはホテルの外だった。


「・・・・・あれっ!? い、いつの間に!!」


「ええっと、確かセンセイってば……あっちの方向の森の中でうにゃうにゃって……」


 ズンズンと歩くフィナンシア。つかまえている少女の手をしっかりと握り、強引・豪快・大胆の様相で穏やかな時間帯の街を行く。


 若干じゃっかんの駆け足でどうにかそれに付いていくアルフィースは転ばないように必死だ。


「ねぇ、どうしたっていうの!? どこに向かっているの……ちょっ、もうダメね! こうなっちゃうと止まらないんだから、フェイってば!!」


「そうよ! 実際に見て、頑張っている姿を知って……理由を理解すればきっと……きっと、彼を邪険じゃけんになんてできなくなるわ!!!」


 狼狽ろうばいする少女とは対照的にフィナンシアの瞳ときたら……キラキラが星空のごとし。


 止まる気が一切ない彼女の足は一路を行って補助門へと真っ直ぐ、真っ直ぐ。


 その先ではまさに今、3人の男達が集っている。



 そんなことは知らない女2人が、ズンズンと森の中へと踏み入っていく――――――。






|オレらはモンスター!!|







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