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藤原ゴンザレス短編集

悪役令嬢の中の人は任侠ヤ○ザ。私、モブキャラなのに親分になりました。

 ええ。
 それはよくあるアクシデントでした。
 ダンプカーの突撃?
 もうちょっとレトロな感じですかね?
 それは登校中の出来事でした。

 私が歩いていると、怖いお兄さん仕様の車からオジサンたちが突然出てきました。
 わらわらとパンチパーマの集団が。
 パンチパーマ軍団が懐から抜き出すのは黒光りする拳銃。

「おどれ(タマ)獲ったらあ!!!」

 それはネイティブのヤク○語でした。
 あ、映画で見たことあるわ。
 こういうの。
 そう思った私をやたらガタイのいいお兄さんが強く抱きしめました。
 拳銃から私をかばったのです。
 でも、さすが文明の利器。
 銃弾はお兄さんの体を貫通。
 私まで蜂の巣に。
 あーこりゃ死んだ。
 そう他人事のように考える私。

「てめえ! カタギのお嬢さんになにしとんじゃ! こん外道が!」

 死にそうな私を見てお兄さんが怒鳴りました。
 やっぱりお前もヤクザかい!
 って、ちょっと待て。
 アンタも一緒に蜂の巣になったよな?
 お兄さんは私を優しく地面に置くと、銃弾なんぞ病気の内に入らんとばかりにオジサンの集団に突っ込んでいきました。
 うっわあ。
 リアルチートですよ!
 私、初めて見ましたよ。
 その時、私は完全に傍観者気分でした。
 そんなおバカは次の瞬間、現実に引き戻されました。

「しゅ、手榴弾使えええええええッ!」

 はい?
 ここどこの修羅の国よ?
 ちょっと待て責任者出てこい!
 署長と県警本部長は私に土下座して謝れ!!!

 そんな私の脳内ツッコミなど相手に届くはずもなく、オジサンたちがなにかを投げてきました。
 カラーボール。
 んな訳ありません。
 はい。ばっちり手榴弾でした。
 逃げようとするも全く手足が動かない私。

 お願い!
 手足動いてー!
 動いたら神保町で売ってるブルーベリーどら焼きあげるから!!!

 と、誰が得するのか全くわからない命乞いをしましたが、常に世の中は諸行無常でダンスエニシング。
 マッチョで頭スッカスカなラッパーのフロウみたいな力強い音。
 真っ黒になる私の視界。
 サンキュベイベ。
 ファッキューヤクザ。
 キムエムオール!
 ゴートゥヘル。

 ……いまテキトーに考えました。
 かくして、私の一生は幕を下ろしましたとさ。
 めでたしめでた……ってめでたくねえ!!!
 責任者出せ!
 なんだこのクソ人生!!!
 オイコラざっけんな!
 ツイッターで晒すぞ!
 ダーク○ンドル呼ぶぞ!
 つい……たー……



 目覚めたら中世風異世界。
 ゲームのモブキャラに。
 まあコレもよくあることでしょう。
 これはアレですね。
 主人公と悪役をニヤニヤしながら観察しろってことですね。
 うん頑張ろう。
 ……と、思っていた時代が私にもありました。
 人生とはうまくいかないものです。
 問題がありました。
 すげえ問題です。

「親分おはようございます!」

 朝っぱらから無駄に男前な縦ロールがヤクザお辞儀(少ししゃがんで頭を下げながら両手を膝の上に置くアレ)をしました。
 見た目と行動が完全に狂っています。

「ゴキゲンヨー」

 私は棒読みで返事しました。
 なんの変哲もない女子寮から校舎までの道。
 モブキャラの私の存在など数合わせにしか過ぎないこの世界は平和そのもののはずです。
 おかしな会話なんてあるはずが……
 ……縦ロールの中身が私を助けようとしたヤクザの人でなければ、ですが。

「それにしても親分。今日もいい天気ですねえ」

「親分って言うのやめてくれませんか」

 私はバッサリ切り捨てました。
 関わりたくなかったからです。
 だって縦ロールことフレイア・フェルディナント公爵令嬢はこのゲームの悪役です。
 エンディングでは見事に破滅するんですよ!

「俺はピコピコの世界で女に生まれ変わって困ってたところを親分に助けてもらいやした。このご恩は必ず返します」

 ピコピコ言うな。
 おじいちゃんかお前は。
 ちなみに困っていたのは具体的に言うとトイレのことです。
 助けてやったらそれ以来、親分と呼んでなついて来やがりました。

「親分。まかせてください。バッドエンドでしたっけ? そんなもの俺の力で……」

 ちなみにこの場合の『力』とは腕力のことです。
 つまり彼……今は彼女は「全員殴って黙らせてやるぜ」と言いたいのです。
 他の悪役令嬢の例に漏れず、悪事がバレて追放されるのに暴力に頼った解決法を選択すると。
 アホか!!!

 そもそも暴力は縦ロールに備わっている機能一覧にはないはずです。
 期待しないでおくのが賢明です。

「はあ。そうっすか」

 返事はこの程度でいいはずです。
 このように内容のない会話を繰り返すのが私たちの日課でした。



 さて、では乙女ゲーの男子はどうなったのでしょうか?
 私たちが教室目指して歩いていると、金髪のイケメン男子に声をかけられました。

「兄貴。おはようございます!!!」

 はい狂った。
 第一王子のアインさんです。
 少しやんちゃな性格だったせいか、フレイアにあっという間に洗脳されました。
 フレイア菌のアウトブレイクの被害者一号です。

「おうサブぅ。俺より先に親分に挨拶しろ」

 フレイアさんが適当すぎる名前でアインさんを呼びました。
 横文字苦手なんですね。
 アインの三文字が覚えられなかったんですね。
 よくわかります。

「すいやせん。親分おはようございますッ!」

 サブ……じゃなくてアインさんがヤク○お辞儀をしました。
 最近、フ○ーザ様の気持ちが少しだけわかるようになったのは、気のせいに違いありません。

「フレイアさんもアインさんも親分はやめにしません?」

 私はささやかな抵抗を試みました。

「めっそうもない! 親分は親分です」

 話が通じねえ!
 こうして、楽しそうな二人に対して、私は陰鬱な気分で教室に入るのでした。
 なぜなら……

「親分! 兄貴! おはようございます!」

 教室中の男子がヤク○お辞儀で挨拶しました。
 すでに縦ロールの魔の手はクラス全体にまで及んでいたのです。
 貴族の男子は生まれながらの騎士です。
 騎士道を極めんとする彼らを極道が洗脳したということでしょう。
 すでに男子は全員フレイアの子分です。
 お前、第一王子のアインさんまで子分にしてどうすんだよ!
 完全にフレイア菌が蔓延しました。
 ちなみに女子はドン引きです。
 モンスターを見るような視線を私たちに浴びせています。
 マジでごめんなさい。
 でも悪いのはフレイアさんです。
 ……まったく、ヤ○ザの組なんて作ってもこの恋愛脳の世界じゃ役に立たないのに……
 と、思っていた私が甘かったのです。



 それは突然のサイレンでした。
 アーッ!っていうヤツです。
 ホモォじゃない方。
 高校野球でも始まったのでしょうか?

「親分。出入りのニオイがしやす」

 縦ロールが不穏な台詞をつぶやきました。

「はい?」

 なにを言ってるこの悪役令嬢。
 フレイア菌の末期症状か?
 そんな悪態を心の中でついた私。
 ですが次の瞬間、縦ロールの正しさが証明されるのです。

「ゴブリンの軍団が街を包囲。城壁が破られました。生徒の皆さんは高位貴族優先で脱出してください」

 狂った校内放送が鳴り響きました。
 ……つか、いまなんつった?

「呉武林組の鉄砲玉ですね。ククククク」

 おい縦ロール、なんでムリヤリ漢字にしやがる。
 しかもなんでうれしそうなんだよ。

「あ、兄ぃ! どこまでもついて行きやす!!!」

 アインさんは危険人物についていかないように。

「おどれら! 親分と女性徒を守って避難せい!」

 ちょっと待て。
 今さりげなく私が女生徒の分類から除外されてなかったか?

「あ、兄貴ぃ! 兄貴はどうするんで?!」

「俺が殿(しんがり)を勤める! お前らはかわいい弟分じゃあ。はよ逃げい!」

 ヤ○ザ語(けっして広島弁ではない)でフレイアが叫びました。
 無茶言うな!
 お前公爵令嬢だからな。
 少しは立場をわきまえろ。

「あ、兄貴! ワシラ死ぬときは同じと誓った仲じゃないですか!!!」

 アインさんをはじめとする男子生徒が号泣しながら言いました。
 どこの三国志だお前ら。
 口調がもう少しまともだったら愛の告白です。
 なぜこうにも彼らは残念なのでしょうか?

「兄貴! ワシら、どう言われても兄貴について行きやす!!!」

「おう。だが、サブ。お前には重要な役目を与える。親分と女生徒を守れ」

「あ、兄貴。ワシが王族だからって遠慮なんていらん! ワシも死ぬ覚悟はできて……」

「のうサブ。ワシラが逝ったあと、この日の伝説を語り継ぐ人間が必要なんじゃあ。わかるな?」

「あ、兄貴いいいいいぃ!」

 号泣&ハグ。
 そこに漢と漢の友情が……って、もう勝手にやっててください。
 片方が女なのもツッコみませんからね!
 私は女生徒を連れてさっさと避難を開始しました。

「お、親分! 待ってくだせえ!」

 置いて行かれたことに気づいたアインさんが必死な顔で走ってきました。
 絶対に待たねえ。



「みなさん! 階段の先に砦へ抜ける通路がありますので、急いで避難してください」

 私は先頭に立って女生徒の避難を指示します。
 本来はモブキャラが目立つのはよくありません。
 ですが今回は非常事態です。
 私も前世では軍隊レベルで子どもの頃から避難訓練をしている日本人です。
 しかたないと言えるでしょう。
 実際、私はお嬢様たちに文句を言う暇も与えなかったので、避難はスムーズに進んでいました。
 ちなみに玄関の方から、フレイアの怒鳴り声とゴブリンの悲鳴が聞こえているのは気にしたら負けに違いありません。
 絶対にフレイアが無双しているに違いありません。

 お嬢様たちをあらかた避難させた私は残りがいないか確認していました。
 鈍くさいヤツってどこにもいますからねえ。

「親分! あ、あれ!」

 アインさんが変な声を上げまして指をさしました。
 指の先には低学年、7歳前後と思われる男の子がいます。
 ばっちり逃げ遅れてる!!!

「ちょっと! 早く逃げないと!!!」

「ご、ゴブリンが教室に入ってきたんだ! みんな隠れたんだけどみつかちゃって……」

 男の子がそう言うと、男の子の後方で悲鳴が上がりました。

「あ、アインさん!!!」

「合点承知!」

 私たちは子どもたちのいる教室になだれ込みました。
 すると今まさにゴブリンが女子生徒に剣を振り下ろそうと……

「おどりゃあああああッ!」

 それは無意識でした。
 気づいたら私、ゴブリンの後頭部に飛び蹴りをかましてました。
 ずっしゃーと床を転がるゴブリン。
 実は私、少しだけ力が強いんです。
 テヘペロ。
 そして私は流れるような動きでその辺に転がっていた椅子を拾うと、蹴り飛ばしたゴブリンを殴打しました。

「このシャバゾウが! ガキ狙ってんじゃねえぞボケェッ! カスッ! ゴミッ!」

 ゴブリンの悲鳴と、もので殴る低い音が響きました。
 時折椅子が壊れる音もします。
 椅子が原形を留めなくなったころに私はふと自分を取り戻しました。

「ふう……大丈夫?」

 私は取り繕った笑顔で女の子の方を見ました。
 媚びた顔で。
 目をキラキラさせながら。
 てへぺろ♪
 きゃるん♪

「ひいいいいいっ!」

 悲鳴ですかそうですか。

「親分。返り血がついてます」

 おっと。
 ふきふき。

「さすが親分……凄まじいまでの強さだぜ……兄貴が慕うのも無理はねえ……」

 そう言うアインさんはただ見てるだけでしたね。
 私は内心キレていました。
 まったく男っていうのは肝心なときに役に立たない……
 私はブツブツと文句を言いながら、教室に隠れていた子どもたちを救出し、砦への通路まで逃がしました。

「さて、あとはフレイアさんを助けなきゃ……」

「親分! ワシもついていきやす!!!」

 私はアインさんのこめかみを両手でグリグリしました。
 なに世迷い言をほざいてるんですかね。
 この兄ちゃんは。

「お前は王・族・だ・ろ・が!!!」

「ひぎゃああああああああ! お、親分! や、やめ!」

 このあと問答無用で王子を通路に蹴り込むと、私は食堂からフライパンを失敬しフレイアさんの救出に向かいました。



 正面玄関では戦いが繰り広げられていました。
 大量のゴブリンと勇敢に戦う男子たち。
 その中に混じって、縦ロールが「オドレ」とか「ボケェ」と言いながら正面でロングソードを振るっています。
 おっとホームラン。
 斬れていないところを見ると剣が刃引きなのかもしれません。
 それゆえか、フレイアさんだけが戦力になっていますが、他の男子はそれが不利に働いていて完全に猫の手状態になっています。
 やはりゴブリンはフレイアからは逃げ回っていますが、男子は攻撃を受けて、すっかりゴブリンに包囲されていました。
 やはり観賞用の男子は非常時に役に立ちませんね。
 大怪我する子が出るのも時間の問題でした。
 それをわかっているのかフレイアさんがキレて怒鳴っています。

「このダンピラ斬れやしねえ! クッソ! テメエらもうちょっと根性出せぇ!!!」

 それはけっしてダンピラじゃねえし、その根性出せるのはチート人間だけです。
 この脳筋が。
 もう仕方ありません。
 縦ロールを助けてやりましょう。
 もはや本性を隠すのが面倒になった私も喧嘩に飛び入り参加します。

「おどりゃあああああああ!」

 フライパンを片手にゴブリンの群れに突っ込んでいく私。
 そんな私に手斧が投げつけられますが、私はフライパンでそれを打ち落とします。
 イケメン目当ての元テニス部員なめんなよ!(あとテニヌ漫画の影響。いつか隕石落とします)
 そして一気に間合いを詰めてゴブリンの顔にフライパンの一撃。
 おっと、一発でフライパンがダメになってしまいました。
 もういいや素手で。
 私はそのままゴブリンたちに鉄拳を浴びせます。
 次々とひしゃげた兜が空を舞いました。
 そんな私を見てフレイアさんたちがひそひそ話をしています。

「あ、兄貴……お、親分は本当はお強いんで?」

「おう。親分は俺が勝てなかった唯一の人じゃあ」

 フレイアさん。
 それは人前で言わない約束でしょう。
 あとで体育館裏に来い。
 イラついた私は指をポキリポキリと鳴らしました。
 そんな私を見て恐怖に顔が歪むゴブリンたち。
 私がにっこり微笑みながらキレてると、不穏な空気を感じ取ったゴブリンたちは我先にと逃げ出していきました。
 どうやらゴブリンたちは野生の本能で自分たちよりヤバい存在が来たことを覚ったようです。

「うふふ♪ 逃がすかよ!!!」

 私はゴブリンの追撃を開始しました。
 ゴブリンの悲鳴があたりに響きました。
 こうして私たちはゴブリンを退治したのでした。



「親分。オハヨウゴザイマス!!!」

 美形たちが道の両側に並んで、○クザお辞儀で私を出迎えました。

「ご、ごきげんよう。やだなあ♪ 私、普通の女の子ですよ?」

 テヘペロ♪

「親分……あきらめておくんなせい。親分は正式に騎士団の組長になったんですから」

 組長言うな。
 そうなのです。
 調子に乗って武功を立ててしまった私。
 自動的に王族のアインさんとか、騎士団のイケメンの手柄になるとタカをくくっていました。
 ところが「仁義を通しやした」と子分どもはいい顔をしています。
 全部正しく報告しやがったのです。
 結局、全て私の手柄に。
 オマケに私たちの組の存在まで明るみに。
 と言ってもヤクザの存在は理解されませんでしたので、子どもの騎士団ごっことして理解されました。
 そして……

「実戦で使えるほどの統率力あるんだから正式に騎士団にしちゃえばいいんじゃね?」

 そうお偉いさんの誰かが言い出し、私は正式に騎士団長に任命されましたとさ。
 めでたしめでたし。
 めでたくねえええええええええええぇ!!!

 こうして我が組はその後も、乙女ゲーにあるまじき武功と伝説を次々と打ち立てて行くのですが、それはまた別のお話です。

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