千代精神科病院
眠りから覚めた汀は、千代精神科病院へと向かう。
そこで待っていたのは……。
僕は長い眠りから覚めた。
まだ意識が朦朧としている。どうやら傾眠期が終わったようだ。
上体だけを起こして、デスクボードの上に置きっぱなしだったスマホの電源を入れる。9月7日、火曜日の午前11時、眠り始めた時から、六日間と一時間が経っていた。食卓を見ると、買い置きしていた菓子パンの袋と、水が少し入ったままのコップがあった。傾眠期の間にとった食事の跡らしい。傾眠期の間は食事や排泄を行いはするが、ほぼ本能的に養分や水分を摂取し、それを出しているため、その記憶は残っていない。
とりあえず顔を洗おう。
ベッドから下りると、足元が少しふらついた。六日間もほとんど体を動かさなければ、筋力も衰える。ふらつく足でなんとか洗面所にたどり着き、水道水で顔を洗ってそのまま手から水を少し飲む。
さあ、またあそこに行かなければ。
毎度のことではあるが、一応病院に「今から行きます」と電話を入れる。
スマホと財布と鍵だけをボディバックに詰め、家を出る。向かうは千代精神科病院だ。
千代精神科病院は、僕の友人(と言うべきなのであろうか)である、千代薫子の父親、千代和富が経営する精神病院である。
僕は八歳の頃から千代先生に診てもらっている。
先生は僕に、傾眠期が終わったら毎回必ず病院に来なさいと言った。僕は毎回、その言いつけを守って病院へ通っている。
バスを乗り継いで20分弱。僕はいつものように定期健診に向かう。病院最寄のバス停を降りれば、千代精神科病院はすぐ目の前だ。
自動ドアを通り抜け、受付を済ませ、待合室の青くくすんだ病院特有の硬いソファに座る。
まだ眠気が完全に抜けてないな……。
頬杖を突いて少しまどろんでいると、自分の前に誰かが来たのが影でわかった。
なんだか僕は、その人の顔を見なくても誰だかわかるような気がしたが、礼儀として顔を上げた。
そこに立っていたのは、僕が畏怖に近い感情を抱いている僕の「友人」、言うまでもない、千代薫子である。
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