目覚め
突然の傾眠期から目覚めた汀。
混乱しながらも、事態を把握していく。
目が覚めた。しかし、動けなかった。
記憶が錯乱していて、ここがどこかもわからなかった。
能登汀は、少しづつ記憶をたどった。
そうだ、僕は湯澤に会っていた。夢の世界にいたんだ。それ以降の記憶が曖昧だった。
この前に入ったばかりだったと思うけど…。
とりあえず、サイドボードに置いてあったスマホをつけた。何故か、画面に貼っている保護ガラスにひびが入っていた。いつ落としたかな。
日付は9月12日の日曜日。不在着信が…14件。11件は薫子からで、木森から2件。最後の1件は大東からだ。
状況を確認したいので、まず大東に掛けてみる。日曜なので繋がるはずだ。予想通り、大東はすぐに出た。
「大東さん、おはようございます」
「おお…お前、今昼の三時だぞ」
ああ、本当だ。部屋の掛け時計を見ると確かに三時過ぎであった。いつも傾眠期明けの最初の挨拶は薫子の「おはよう」なので、少し変な気分だった。
「僕、なんでここにいるんでしょうか?」
「お前覚えてねーの?えっと…四日前だな。お前、会社の非常階段の踊り場で倒れてたんだよ」
「踊り場…」
思い出した。僕はそこで電話していて…。誰に…そう、薫子だった。
一体どうして薫子に電話をしていたんだろう。
「仕事終わってから、お前を家に送ったんだよ。木森にも手伝ってもらってな。荷物やら鍵やらはまとめて置いておいた。あと、そばに落ちてた便箋みたいなやつも、お前の鞄に入れといたから」
「便箋?……あ」
湯澤からの手紙だ。それで僕は薫子に…。
「思い出したか?」
「はい、なんとか」
そう言いながらもまだ頭は混乱していた。
「あとな、お前が会社の休憩室にいたとき、薫子ちゃんが来たよ。汀と電話が通じなくなったって言って」
「え、会社に?」
「ああ。うちの課に来客っつうんで誰かと思ったら薫子ちゃんだった。お前が傾眠期に入ったらしいって説明したらすぐに帰って行ったよ」
それでこの不在着信の件数か。確かに、薫子なら講義中でも来そうだ。
「迷惑かけました。すいません」
「おう。まあいいんだけどよ。仕事のほうとか大丈夫か?これ以上続けるのが無理なら上に相談するって手もあるけど」
確かに、今週出勤できたのは三日だけだ。そのうち二日は早退。さすがに他に追いつくのは厳しくなってきた。しかし、頼る相手もいない。育ててくれた伯母にはもう、迷惑を掛けたくない。
「続けさせてください。お願いします。上に見放されるまでは…。遅れた分は家に持って帰って取り返します」
「そっか。わかった。あんま無理すんなよ。」
そこで電話は切れた。
大東の言っていた通り、荷物はひとまとめにして部屋の隅に置いてあった。
鞄の中には確かに湯澤の便箋も入っていた。
夢の世界で、湯澤はやはり、薫子を死なせないようにと言い続けていた。
―湯澤、どうして君は、そんなにも薫子を生かそうとするんだ?
薫子を、そしてあなたを救う為に。
夢の世界での最後の会話。あの返答には、どういう意味があったのだろう。
その時、スマホから着信音が聞こえた。木森からだった。
「能登!今大東さんから聞いたんだよ。お前が起きたって。大丈夫かよ?」
「うん、大丈夫。ごめん、いろいろ迷惑かけたらしいね」
「んなことどうでもいい。能登、ちょっと話せるか。今日、できれば今すぐ」
「…木森?」
汀はこの友人の焦った声を初めて聞いた。
「ともかく、そっちの都合が合うなら駅前のファミレスに即来てくれないか!渡すもんと話すことがいろいろある。あの手紙の送り主を、俺は知ってるんだ!」
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