死者からの手紙
汀の下に届いた一通の手紙。
それは、高校時代に自殺したはずの友人、武富湯澤によって書かれたものだった。
息が止まるような、内臓を握りつぶされるような、背中に水が伝うような、そんな寒さだった。
思わず口を手で覆った。そうしていないと心臓がどこかへ飛んでいってしまうような気がした。
どうして、死んだはずの湯澤の手紙が、今?
どうみてもそれは湯澤の字だった。間違えるはずが無い。初めて、薫子以外で初めて自分を受け入れてくれた人の字を忘れるわけが無い。ほっそりして、整った、はねが控えめな湯澤の字だ。
「…能登?」
黙りこくった汀を見かねてか、木森が心配そうに顔を覗き込んだ。
これは間違いない。僕宛のものだ。
「木森、これやっぱり僕宛だ。ありがとう」
とりあえず、一人で読みたい。
席を立ち、非常階段への重いドアを開け、物陰に隠れ、再びそれを開いた。
汀へ
この手紙は無事にあなたの元へ届いたでしょうか?
あなたがこの手紙を読んでいるとき、薫子はちゃんと生きていますか?
私が生前に言っていた事、思い出して。
薫子が生きれば、あなた自身も救われる。
私はあなた達に生きていて欲しい。
まだ、こっちに来てはダメだよ。
湯澤
読み終えた後も、動悸が激しかった。
なんだこれ、これじゃまるで…薫子が死ぬ警告みたいじゃないか。
湯澤と僕は、傾眠期の度に会っている。この前だって会ったのに、どうしてこのタイミングで、しかも手紙で?
そもそも誰が、どうやってこれを送ったのだろうか。
まず、この手紙がいつ来たのかを木森に訊かなければ。
「それが来たのがいつか?んーと…そうそう、丁度お前が寝始めた日だ。その日の朝、出勤した時に見つけたんだ。でもお前に見せようとしたら、もう帰っちゃってた」
「じゃあ、七日前だね?」
「そうそう、間違いねえよ」
「そうか、ありがと木森」
七日前、傾眠期の前、ということは、この前あったとき、湯澤は手紙の事を知っていたのだろうか。
知っていたのならば、どうして教えてくれなかったんだろうか。
でも、あの時の湯澤の態度からも、この手紙は湯澤が出した物でないのだろう。しかし、この手紙を書いたのは紛れも無く湯澤本人だ。ということは、湯澤が生前に書いた手紙を、誰かが見つけ出して僕に?
そんな馬鹿な話があるだろうか。僕らの関係を知っていたのは極少数の人間だけのはずだ。
送り元の特定なんて後でいい。とりあえず、伝えなくては。
薫子に。
airfishです。読んでくださった方ありがとうございます。
引き続き投稿していくので、よろしくお願いします。




