テンプレ的状況説明
「勇者様、今度こそ私の話を聞いていただきますよ」
目覚めた俺の前には先ほどの神官風の女性がいた。無表情だが、何だか怒っているように見える。
「お、俺まだ一回しか気絶してませんよね・・・?」
そんな理不尽な・・・と言いかけたところで女性がさらに怒ったように見えたので、俺は慌てて口を閉じた。
「一回・・・?あれだけ気絶しておいておぼえていないというのですか!?神よ、貴方の愚かなる下僕に御啓示ください。この者は本当に貴方が遣わされた救世主なのですか?」
どうやら俺は気づいていなかっただけで相当繊細だったらしい。何回も気絶してしまうなんて・・・。っていうか目の前の人がいきなり寝転び出したんですけど。ギャグなのか?笑っていいのかこれ。
そもそも俺は・・・帰れるのか?
それからしばらく俺は寝転がったまま微動だにしない謎の女性を眺めたあと、ようやくこの世界について聞かせてもらった。
彼女の名前はシスティ。氏名は神官になったときに捨てて、これはこちらの世界でいう洗礼名みたいなものらしい。
で、システィが仕えている神様の名前が光の女神エリスとその子のエルーラ。現在地がその二神を祀る総本山である、ファウンディア王国の神殿らしい。勇者っていうのはその光の女神の尖兵らしく、人間の中で女神の武器に耐えうる力を持つ人間が託宣によって選ばれるそうだ。
「それって異世界人じゃないといけないのか?」
「いいえ、今まで異世界から勇者が選ばれたことは数百回の託宣の中でたった3回しかありません。」
「それならなんで!」
「神の御考えが私ごときに理解できるはずがございません」
そういうとシスティは口を閉ざしてしまった。つまり知らないってことなのか・・・嘘をついているのか・・・少なくとも現時点で取り乱すような真似をして評価を下げたくはない。ここは異世界で俺の味方は俺一人しかいないのだ。大人しく扱いやすい人間だと思わせておいたほうが安全だ。
「それで女神の尖兵っていうのはいったい何をすればいいんだ?」
「この世界には魔族と呼称される女神の御威光を受け入れない者たちがいるのですが、勇者様にはその魔族達と戦い、最終的にはその者達の王を倒して欲しいのです。できれば」
やっぱり異世界召喚ときたら魔王討伐しかないよなぁ。ってできれば?どういうことだ?
「魔族の王を倒すのは決して一筋縄ではいきません。過去に勇者が敗れ、人類が魔族支配の憂き目を見たこともあります。あちらは世襲制らしいので強さに波があるのです。」
えーっ魔族ってそんなに強いの!?
そんなん俺殺されるとかごめんだわ・・・。
「ご心配には及びません。今代の王はつい二年前に王位を継いだばかりの幼子です。難易度はそれほど高くありませんから。多分」
いちいち不安になることを無表情に告げてくるから困る。まあとりあえずやるしかないのかー。ここで断っても何されるかわからんし。
「当然帰れるんだよな?」
「勿論です。女神エリスの名に誓って尖兵の役目を果たした後は無事もとの世界にお送りすると約束いたしましょう」
「それじゃあ勇者、やってみようかな」
母さん父さん。お元気でしょうか。
俺は望んでいたとおり、自分の才覚だけを武器に渡っていける世界にこれたようです。