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え、来ちゃった?

 二十一歳。職業、フリーター。

 わたくし向井サラは、今、ものすごい頭痛におそわれている。

 ぎゅっと目を閉じてこめかみを押さえ、そしてたっぷり時間をかけてゆっくりと開く。

 そこには、


 ――やっぱり、いる。


 ちょっと状況を整理してみよう。

 連日の猛暑、うだるような暑さで目覚めてしまった明け方四時半。寝そべったまま枕元に置いてあるエアコンのリモコンに手を伸ばそうとしたそのとき、すさまじい閃光に目がくらんだ。そして、体に鈍い衝撃を受けた。

 何かがのしかかってくるのを感じながら目を開けたら、自分のからだの上に人影があった。

 こんなとき、とっさに悲鳴なんて出ないものらしい。現状把握のために脳みそを総動員しているからかもしれない。

 閃光は一瞬で、すぐにまた明け方の薄暗さの中に連れ戻されていたので、のしかかっている人をどうにかこうにか体の上からどかし、あわてて電気をつけた。


 ――誰これ。


 そして、冒頭に戻る。

 ベッドの上に四肢を投げ出して伸びているその人は、何か変な服を着ている。ぴくりともしないところをみると、気絶でもしているのか、それとも他人の部屋でのうのうと寝ているのか。いずれにせよおかしい。なぜならここは私の部屋で、私だけの部屋で、私しかいない部屋だからだ。

 見た目からしてごわごわの、コーヒー染めみたいな色のワンピースがわたし専用のベッドの上に横たわっている。その生地ときたらとにかくあちこちに色むらがあって、素人が染めたとしか思えない代物だった。


 服の生地の分析を一通り終えたところで、頭痛が一段とひどくなった。


 この部屋には、これ(・・)以外には何の異常もない。一応カーテンの外も覗いてみたけど、そこはいつも通り明け方の静けさの中にあって、ムラだらけの変な服の人がわんさか集まってたりもしない。あと、壁に穴があいたりもしていない。天井も異常なし。窓は閉まっている。若い女の一人暮らしなので玄関にはチェーンロックが常識。ここからでも薄暗い玄関のドアにいつもどおりチェーンがぶら下がっていることは確認できる。


 えーっと、つまり、侵入口が、存在しない。


 頭が痛い。


 ついに超常現象に遭遇してしまったらしいということは、なんとなく掴めてきた。

 ただ、なぜかが分からない。

 きっかけがない。

 新種だかなんだかの蜘蛛に咬まれた覚えもない。


 そして私は、あの目も眩むほどの閃光のことを思い出す。


 そうだ、あれしかない。日常から異常へと転がり込んだのは、あの閃光がきっかけだった。超常現象にはつきものの、謎の光。


 何ひとつわからないけど、とりあえず、人が私の部屋に転がり込んできたのだけは確かだ。夢だと信じたいけど、全力でほっぺたをつねってみたら、顔がゆがむほど痛かった。残念ながら現実らしい。


 ――現実?


 エアコンのついていない部屋の中でじっとりと汗がにじむ。

 あー、もしかして、暑さのせいで頭がおかしくなったのかもしれない。

 それともあれかもね、ほら、ときどきあるじゃん。ファンタジーとかでさ、異世界にトリップしちゃうやつ。小さい頃その手の映画が大好きだった私としては、まぁ一度ならず憧れた、あの。テレビの画面に向かって「走れ! 跳べ! アトレイユ!」と何度叫んだことか。念のため付言しておくと、アトレイユの映画はリアルタイムではなく、すりきれたホームビデオで楽しんだ。実はお前三十路やろ、なんて言われたくないのでね。


 頭がおかしくなったという方がよほど信憑性があるというのに、どういうわけだかファンタジーな後者を信じたくなった私は、もしかするとちょっとピーターパンシンドローム気味なのかもしれない。

 あ、そういえばピーターパンだって、ある意味異世界の住人なんだ。

 つまり、あれってこと?

 来ちゃったと。

 で、何で私のところなの?

 それに、登場の瞬間から気失っちゃってるってどういうこと?

 あと、何でこれ、どう見ても女の人なの?


 異世界にトリップしたら、かっこいい男に拾われて恋に落ちるのがセオリーじゃないのか。


 まあ、この場合は私がトリップしたわけじゃないけど。そしてピーターパンは私にはちょっとガキんちょすぎるので大人きぼんぬだけども。



 でも、それにしたって……




 なにも、こんな小太りのおばさんを寄越さなくっても……!





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