第二話 きみの全然知らないあのこ
第二話目です。
よろしくお願いします。
これまでの中心人物
新谷チカゲ:絵に描いたような優等生だが、幼馴染ユヅルの部屋に盗聴器や隠しカメラ、また盗撮を繰り返すなど危険な性癖の持ち主である。またそんな犯罪スレスレの行為を「見守り」と合理化している。身長178cm。AB型。
泉岳寺ユヅル:チカゲが思いを寄せる超絶美少年。チカゲ以外の友達が一人もいない。身長174cm。AB型。
ネコ耳:チカゲとユヅルの前に突如現れた謎のコスプレ美少女。武器はバット。口が悪い。喫煙者。身長155cm、血液型不明。
第二話 きみの全然知らないあのこ
「最近泉岳寺と仲良しだね、ちかりん。」
頬杖をつき上目遣いでミモリが言った。
ミモリの瞳はくっきりと大きく、見つめられるだけで十分な迫力がある。
「仲良し?」
「小学生の頃から一緒だったんだってね。」
「ああ、まあね。」
「私知らなかったよ。紹介してくれてもいいのに。」
ミモリは口を尖らせた。
ミモリと話をしていると、チカゲはついユヅルと彼女を比較し評価する。
ミモリにはあり、ユヅルにない点、またその逆のことも。
「ごめん。」
「ねぇねぇ、今度私とちかりんと泉岳寺とその彼女で一緒にどっかいこうよ!」
チカゲは嬉しそうに言ったミモリの提案に、一瞬眉間にしわを寄せた。
「ミモリ、あいつ彼女とかいないから。」
「そうなの?ちかりんが知らないだけじゃないの?」
「それは絶対ない!」
気がつくと声が大きくなり、チカゲは必死になってミモリの言葉を否定していた。
ミモリだけではなく、周囲にいた人々もチカゲを見て驚いていた。
「そんな大声出さなくても。」
ミモリに指摘された途端、チカゲは顔が一気に熱くなるのを感じた。
学校が終わり、ひとりユヅルはコンビニでメロンパンとカフェオレを買うと、そのまま近くの
河川敷へ向かった。
河川敷にはあのネコ耳美少女が、釘バットで素振りを行っていた。
「柏木ちゃん。」
ユヅルは親しげにネコ耳をそう呼ぶと、小走りでその元へ向かった。
「よ。」
「なにしてたの?」
「特訓だ。次に備えてる。」
「じゃあ休憩にしようよ。メロンパン買ってきた。」
「コンビニかよ。」
「コンビニのメロンパンおいしいよ。」
「その前に、この前の対価。」
柏木にそう言われ、ユヅルは「ああ」と苦笑いをして河川敷にこしかけた。
柏木はユヅルの隣にすわり、にこにこしながらカッターナイフを差し出した。
そのカッターナイフでユヅルは自分の人差し指軽く切りもう片方の指で押さえながら血を絞り出した。
じんわりと流れてくる赤い血液。
柏木はユヅルの手首を両手で掴み、指から流れる血を無心に舐めとる。
柏木はその作業に夢中になってる間、ユヅルは空を見あげそれが終わるのを待った。
半年前、ユヅルは空に妙な亀裂が見えるようになっていた。
母親に聞いてもそんなものは見えないと呆れたり、ときには不機嫌にしてしまったりした。
しかし日を追うごとにその亀裂はどんどん深さをまし、ついにはバキっと音を立てて崩れ始めた。
空が崩壊したのだ。
ユヅルは目を疑った。
そして世界の終わりを疑ったが、自分以外の者は何も知らずに普段通りの生活を過ごしていた。
空が崩壊する恐怖にかられ、発狂しそうになったユヅルはそのとき自分がこの世で一番まともだと感じた。
割れた亀裂の間から出現したのは、一人の全裸の少女であった。
少女はずるりと一回転し亀裂から飛び出し、緑色の粘着性のある液体を身にまといユヅルの元へ近づいた。
少女の年齢はまだ十歳程度であり、体の発育も不十分であった。
それは真夜中の出来事、回りには人があらずその異常な状況を目撃するものはいなかった
「何?」
じっと自分の顔を無表情で見つめる少女に尋ねると少女の頭から二本の巨大な釘が飛び出したのだ。
ユヅルは逃げ出すこともできず、その場に立ち着くしていた。
ーまあ、いいか。
ユヅルは抵抗を止め、だらんと腕を下ろし少女が自分を殺すのを待った。
だがしかし。
「ホアター!」
掛け声とともに少女を蹴り飛ばしたのは一人のネコ耳コスプレ美少女、柏木であった。
柏木は蹴り飛ばした少女の胸倉をつかみ、彼女の目玉に自分がくわえた煙草の吸殻を押しつけた。
少女は耳を塞ぎたくなるようなおびただしい悲鳴をあげ、死んだ。
「今、諦めたろ。」
柏木は赤い目でユヅルをじっと見つめた。
ユヅルは何も言えなかった。
ただ黙って、ふりふりのコスプレメイド服を着た柏木を「妙な女」と認識していた。
それがユヅルと柏木の最初の接触であった。
柏木は人間離れした戦闘能力を身につけており、ユヅルを狙う謎の少女たちと対等に戦うことができた。
柏木が求めたのはユヅルの体液であった。
体液であるなら何でもかまわない、それが命をかけてユヅルを守る柏木が出した交換条件であった。
「宇宙人を惹きつける体質なんだよ、お前は。」
柏木は煙草の火を吐きながらそう言った。
柏木はあの少女たちを宇宙人と呼んでいた。
「うまそうな匂いしてんだよ。」
ユヅルが惹きつけるのは、宇宙人だけではなかった。
ユヅルは幼い頃から、人、それも大人の男をよく無意識にひきつけていた。
教師、塾講師、近所のコンビに店員、駅員にサラリーマン、クラスメイトの父親・・・
把握できているだけで十人はユヅルの魅力に骨抜きにされ、そして何やらの理由でユヅルの前から姿を消していた。
柏木にそのことを話すと、
「それなのにお前は友達がひとりもいないんだ。」
と声を上げて笑った。
あれからチカゲはあの事件について、ユヅルに聞くことができずにいた。
聞けば自分の知らないユヅルがもっと明らかになるのが、怖かったのだ。
「やだな。」
チカゲはがらがらの電車に揺られ、誰にも聞こえないような声でつぶやいた。
「超やだな。」
チカゲは眉をひそめ唇を噛んだ。
独り言ばかり話すチカゲを心配そうに見つめる正面の席に座るのOL。
かまわずチカゲは頭を抱えた。
そしてチカゲはばたんと横になった。
心配というよりも不信に思ったOLは、席を立ち車両を移動した。
車両の中はチカゲひとりになった。
「あー、お腹いたい。」
チカゲはそのまま終点の駅までそうしていた。
第二話 きみの全然知らないあのこ おわり
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