鯨の散歩
僕の目の前を大きな鯨が泳いでいた。確かあれはシロナガスクジラという種類だろうがあんなにも大きいものなのだろうか。それが水槽の中をまるで飛んでいるかのようにと言うには少々スローリーだが、その巨体が水を掻き進む様は圧巻であり思わず息を飲んだ。
そこでふと気づく。一体ここはどこなのか。なぜ自分はここにいるのか。目の前の鯨が水槽の中を泳ぐこの不思議な光景はなんなのだろう。あたりを見渡すとそこは僕の部屋だった。そして水槽は僕の衣装棚だった左側の壁をせしめてそれでも足らず、部屋からはみ出す形でそこにあった。前からそうであった気もするが違和感が拭えないながら目線を鯨に戻す。ふと鯨と目が合う。その思慮深さを感じるその目に僕は畏怖の念を抱き、ちょっとたじろぐ。
その瞬間、急に僕はこれが夢であることに気がついた。
一度夢だと気づいてしまうとこの幻想的な光景も少々興ざめしてしまったがまあ起きるまで楽しむかと目線をまた水槽へやると、下の方から象が登ってくるではないか。象は僕の方へ水を蹴って走りながら、そのまま水槽を突き破ってしまった。水が部屋へ流れ出しそれに象も飲み込まれ流される。そして鯨の方はと言うと、水の流れにのって水槽の外へ出るとそのまま天井を突き破り空へ飛びだってしまった。
鯨は空へ出ると霞を食いながらどこかへ飛んでゆく。鯨は霞を食う度にその体をより大きくさせていった。そして鯨はマンハッタン島へ辿り着く。そして来るまでに霞を食って空母ほどに大きくした体でマンハッタン島へ落ちていく。自由の女神をへし折り、ビルをなぎ倒しながら鯨は進み、中心ほどでやっと動きを止める。
僕はエンパイア・ステート・ビルディングからその様子を見ていた。後ちょっとでここも倒されそうな様子だったのでほっとしているとなにやら下が騒がしい。聞くと鯨から相当量の放射能が出ていると言う。そりゃまずいと思い僕も逃げようとするが、隣の男が叫ぶ。
「もうだめだ!爆発するぞ!」
鯨は既に神々しいまでに光っていてもう駄目だと思い目を瞑る。
そして目が覚めた。見渡すとそこは普段の僕の部屋であの異様な水槽はなくちゃんと衣装棚がそこにあった。
変な夢だったなあと惚けていると僕の胸に飛び込んでくるものがあった。飼い始めてから5年目。体の大きさも1mほどになったペットの鯨だった。
「鯨が空を飛ぶわけも、水中を泳ぐわけもないものな」
そう言いながら鯨を連れ僕は顔を洗いに洗面所へ向かった。
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