料理をしよう!――準備編
――そうだ、料理をしよう。
サーフェルレーンがセレスのために人間の町へ行った翌日、セレスは決意した。
サーフェルレーンは人間の料理は作れない。セレスも、《佐保》も、料理は食べる専門だった。だが、美味しいご飯は食べたい。
サーフェルレーンが買ってきてくれた食事は、パンや干し肉など、持ち帰れるような簡易な物だったので、余計にその欲求は高まった。
――ないなら作ればいいじゃない?
と、とある世間知らずなお妃様なら口にしそうな言葉を呟いて、セレスは立ち上がったのである。
「ソーセージに、パン。干し肉に、チーズ」
袋の中から取り出したそれらを、セレスはテーブルに乗せてゆく。
「塩、砂糖、胡椒。調味料と、野菜。果物と、……干された果物? それと、小麦粉、かな? あ、卵もある!」
「ダリオがよく買っていたのを買ってきたのだが……食べられそうなのはあるかの?」
「全部大丈夫です! 本当にありがとう、レーン母さん!」
セレスは輝くような笑顔を浮かべて、買い出しに行ってくれたサーフェルレーンに感謝をのべた。
異世界、ということで、見慣れぬ食材もあるが、なんとかなりそうな感じである。
「よし、じゃあ後は包丁とまな板と……。レーン母さん、ダリオ父さんはどこに調理用具をしまっていましたか?」
「うむ? たいていは、腰に下げておったぞ?」
「……包丁を?」
「いや、ナイフだったが。ああ、これも使っておったな。ほれ、心して扱うのだぞ」
「……………」
そっと手渡されたのは、両刃の剣だった。剣にしてはこぶりなので、小剣と呼ぶほうが適切だろう。
セレスは無言で剣を棚に片付けると、サーフェルレーンに向けてにっこりと微笑んだ。
「……えっと、もう一度買い物に行ってくれますか? レーン母さん」
何もなかったかのようにサーフェルレーンに頼むセレス。スルースキルは順調に育っているようである。