食事事情――サーフェルレーンの場合
サーフェルレーンの好物、それは何度もセレスに勧めたあの生物。スライムである。
「……また食べてる」
セレスはため息まじりに呟いた。表情はすでに諦めに近いものになっている。
サーフェルレーンにとってスライムとは、主食であると同時におやつでもあるらしく、気付けばもぐもぐとしている。
人型のサーフェルレーンは、とても美しい。
さらさらの長い翠の髪も、長い睫毛に縁取られた神秘的な黄金の瞳も、雪のように白くすべらかな肌も、セレス――『佐保』が画面越しに見たどんな女優よりも綺麗だ。
女性にしては長身だが、すらりとしているし、なによりも、そのプロポーションが素晴らしい。ぼん、きゅっ、ぼん! とはこういうことを指すのだろう。
豊かな二つの膨らみと、くびれた腰へのラインの妖艶さは、サーフェルレーンの神秘的な美しさに加え、女性らしい色気をも与えている。
龍の時は口調のせいで男性的な印象をうけたが、こうして人型をとっていると、近寄りがたいほどの美女である。
しかし、いや、だからこそ。
サーフェルレーンが幸せそうに青緑色の物体を手掴みで食べているのを見る度に、セレスはとても残念な気持ちになるのだった。
――数日後。セレスは違和感を覚えていた。
どこかおかしい。
しばらくその原因を探したセレスは、あることに気付いた。
「レーン母さん? 今日もスライムを食べてますけど、いったいいつ(,,)捕まえてきたんですか?」
そう。サーフェルレーンはセレスの為に新鮮な果実や木の実をとってくることはあっても、外へスライムを狩りに行くことはなかった。
なのに、サーフェルレーンは毎日スライムを食べている。不思議だった。
「ふむ? 今、そこから出したばかりだが」
「え? ここ? ……あ、蓋がついてる」
サーフェルレーンが指先で指し示したのは、洞窟の隅っこだった。セレスが近寄って見てみると、地面に木で作られた蓋らしき物がかぶさっていた。
どうやら、台所などによくある、地下貯蔵庫のような物らしい。
「これもダリオ父さんがですか? すごく器用なんですね」
感心しながらセレスは何気なく蓋を開けた。
「………………………」
そしてすぐに閉めた。むしろ永遠に閉めておきたい、と、その表情が物語っている。
「……レーン母さん」
「ふむ。わかっているよ、我が子よ。あまり食べ過ぎないようにな」
「違います! 三回転ぐらい違ってます! なんなんですか、ここは!?」
セレスが見た蓋のなか。そこは、岩場の窪みをうまく利用した、《スライム繁殖場》だったのだ。
スライムは、基本的に水があれば生息できる生物だ。しかも、単細胞ゆえに自己分裂で増えてゆく。
蓋を開けたセレスが目にしたもの。それは、狭い空間にみっちりとうごめく、青緑色のスライム達。ひとつひとつが手のひらサイズなだけに、鳥肌がたつような光景だった。
しかし、セレスの言葉を聞いたサーフェルレーンはにっこりと微笑みを浮かべて言った。
「みっしり詰まっていて、実にうまそうだろう?」
――セレスが絶句したのは言うまでもない。
そして、スライムの話はセレスにとって禁句となり、件の一角には決して立ち入ることも、目を向けることすらなくなった。
サーフェルレーンは相変わらず幸せそうにもぐもぐとしているが。
ちなみに、サーフェルレーンの説明によると、スライムはなめらかで弾力があり、自然な甘みとほろ苦さが絶妙なバランスで調和している味らしい。
もちろん、セレスは耳を塞いで明後日の方向を向いていた。




