忘れられていたもの
佐保がサーフェルセレスとして生まれ、サーフェルレーンと暮らし初めて三日が経過した。
食事はサーフェルレーンに頼んで木の実や果物を集めてもらって済ませている。
断っても毎回スライムを勧めるサーフェルレーンには困ったが、龍と人間は常識が異なるとわかっているので、仕方ないとセレスは早々に諦めた。
しかし、落ち着いてくると不思議に思うことがあった。
サーフェルレーンは龍である。セレスの知識によると、龍は人間のような生活をしていない。
龍は基本フリーダムで楽しい事が好きでめんどくさがり屋だ。
料理なんてしないし、そもそも大気中のマナを摂取しているので、食事なんてしない。サーフェルレーンみたいに、人の姿をとって服を着て食事をとるほうが、奇異だ。……スライムを食事と数えるならば、だが。
「レーン母さん。ちょっといいですか?」
「うむ? なんだ、我が子よ」
「この人間の服とかって、どこから持ってきたんですか? タンスとか、テーブルとか……食器まであるし」
セレスが不思議に思うのは当然だった。天然の洞窟らしき場所が彼女達の暮らす『家』なのだが、なぜか角の方にタンスやら服やら、人間の品物が置いてあるのだ。
「ああ、こちらにあるのがそなたのだよ、我が愛し子よ」
「あ、可愛いワンピース。……じゃなくて」
タンスの隣には白いクローゼットがあり、その中には小さな女の子が着るような服がたくさん並んでいた。
「これ、いったいどうやって手に入れたんですか? なんだか、オーダーメイドっぽいし……」
「おーだー?」
「ええっと、なんていうか、お手製……手縫い? あ、この世界だと手縫いが基本だったっけ。そうですねー……古着じゃなくて、高級品という感じです」
「ああ、なるほど」
四苦八苦しながらの説明だったが、サーフェルレーンはなんとなく理解したらしく、頷いた。
「これらは、我と、ダリオが買いそろえた物だ。ダリオが作った物もある」
「ダリオって誰ですか?」
「我の番い(つがい)だ。そなたの父にあたる人間とも言える」
「へー。サーフェルレーンの……って」
セレスは適当に相槌をうった後で眼を剥いた。
「私の、お父さん!? いたのっ!?」
「あ、知識に入れておくのを忘れておった」
驚くセレスを余所に、のほほん、と呟くサーフェルレーンであった。